【本編完結】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!   作:O.T.I

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第一幕 6 『スオージの大森林』

 魔物に襲われたところから道なりに進むことしばし。

 遠目には深く広大な森林が見えるようになり、やがて多数のテントが設営されている開けた場所に辿り着いた。

 ここが領軍の野営地なんだろう。

 

 何人かの兵士がいるが、テントの数の割には人数が少ない。

 もう寝てる時間でもないだろうし、おそらく巡回に出ているのだろう。

 こちらに気がついた兵士の中から一人やって来た。

 

「お前たちは…冒険者か。ここはブレーゼン領軍の野営地だが、何か用だろうか?」

 

「ああ、俺たちは『エーデルワイス』ってパーティーなんだが、ここの責任者はいるだろうか?」

 

「それなら、私がこの部隊の隊長のランドルだ」

 

「そうか、ちょうど良かった。これを」

 

「この手紙は?…ブレーゼン侯爵閣下の紋章!…拝見しても?」

 

「ああ、確認してくれ」

 

 父さんから手紙を受け取り、隊長はしばらく目を通していたが、読み終えるとこちらに向きなおり、さっと敬礼すると

 

「お努めご苦労さまです。閣下の指令確かに承りました。指令の通り調査の間はこちらで馬を預かります。また、できるだけ便宜を図るようにとのことですので、もし調査が長期に渡る場合はテントを一つ空けるのでご自由にお使い下さい。水や食料も補給して頂いて構いません」

 

「あ、ああ、助かる。何か随分至れり尽くせりだな…?」

 

 本当に。

 軍の人って、あまり冒険者に良い感情もってないと勝手に思ってたんだけど。

 なんか、手紙を読んだあとの隊長さんの目がキラキラしてるような…

 

「なんといっても、Aランク冒険者『剛刃』のダードレイといえば、戦いを生業とする者にとっては憧れの存在ですから!皆さんのお力になれるのはとても光栄です!」

 

「お、おぅ、そうか…」

 

 あ~、父さんのファンなんだ…

 二つ名があまり好きじゃないから戸惑ってるね。

 

「それに…そちらはダードレイ一座の歌姫、カティアさんですよね!」

 

 えっ、こっち来た!?

 

「え、ええ…」

 

「やっぱり!私も含めて、うちの連中皆あなたのファンなんですよ!…あの、すみません、握手してもらえますか?」

 

「あ、ハイ。…いつも応援ありがとうございます…?」

 

 勢いに飲まれて思わず了承したが、ちょっと怖いわ。

 今まで街で声をかけられたことはあったけど、ここまで熱心なのは初めてだ。

 

 すると、遠巻きに様子をうかがっていた他の兵士から非難の声が挙がって…

 

「あ、隊長!ずるいですよ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「おれも!おれも握手お願いします!」

 

 ひぃ~っ!?

 皆すごい勢いで集まって来た!?

 

 結局、野営地に残っていた兵士全員と即席の握手会となってしまった…

 巡回中でほとんど出払っていて良かったよ…

 

 

「…大丈夫か?」

 

「…これからが本番なのに何だか疲れちゃったよ」

 

 ティダ兄が気遣って声をかけてくれる。

 最初は父さんのファンだって言ってたのに…ミーハーか。

 

「災難だったな。俺ぁ助かったが。だがファンは大切にしないといかんぞ」

 

 そりゃあね、ありがたいんだろうけど。

 だいたい、あんたら今任務中でしょーが。

 侯爵さまに言いつけるぞ。

 そんなんだから練度を心配されるんだよ。

 それから、何が「俺、一生手を洗わない」だよ。

 リアルに言う奴初めて見たわ。

 

「それにしても、ティダ兄だって父さんと同じくらい有名な冒険者なんじゃないの?」

 

「俺は目立たないからな」

 

 …そうかな~?

 

「ティダはね~、女の子からの人気が凄いからね~。群がる虫けらどもを追い払うのはそれはそれは大変なのよ~」

 

 あー、男からは嫉妬を買いそうだね。

 そして、姉さんはサラッと毒を吐いたね…

 ほんわか口調と発言内容がかけ離れてるよ…

 

「俺はアネッサ一筋だ」

 

「ティダ…」

 

「はいはい!お熱いのは結構ですけど、もう行こうよ!」

 

 この、バカップルが!

 

 

 さて、いろいろあったが野営地を後にして森に向かって進む。

 森はまだ先だが、徐々に道の周辺にも背の高い木が見られるようになり、緑の匂いが濃くなってきた。

 

 やがて、木々の間隔が狭まり天上は枝葉に覆われて、僅かな光が差し込むだけの薄暗く鬱蒼とした雰囲気となった。

 どうやら森林地帯に入ったようだ。

 

 

 スオージの大森林。

 

 ブレゼンタムの街の北東に広がるこの森は、スオージ山を中心とした直径300kmにも及ぶ円形に広がっており、その広大な面積のうち、僅かにある林道の周辺を除いて殆どが人跡未踏の地となっている。

 

 当然、この中の全てを調査する訳でもなく、ブレゼンタムにほど近い、森林全体から見ればごく僅かな範囲が調査対象となる。

 森の中心に近いほど人外魔境の様相を呈しており、そこから高位の魔物が時折やって来るのは何ら不思議な事ではなく、今回の件もそういう事なのではないか、と考えられている。

 

 

「大将」

 

「ああ、こりゃあ俺でも分かる。この凄まじい圧迫感、いるな」

 

 森に入って早々に、ロウエンさんが警告するまでもなく、まるで空気が重たくなったかのような圧迫感によって強大な力を持った何者かが存在する事をいやでも感じることができた。

 

「こうなると、行方不明のパーティーってのは不意打ちでやられた訳じゃなさそうだな?」

 

「ああ。恐らくこの段階で撤退すべきかどうか検討したはずだ。だが、調査のプロとしてはこのプレッシャーの出どころを確認しなければ、というのもあったかもしれん。確認するだけなら問題ないと言う自信もあったかもな。推測ではあるが」

 

「いや、的を射ているとは思う。どうする?この感じだと確実にAランクはあると思うが」

 

「…このメンバーなら十分対処可能だとは思うが。リーダーの判断に任せる」

 

 でも、この感じ。

 少し気持ち悪いと言うか、禍々しいと言うか…

 どこかで…?

 

「ロウエン、どれくらいの距離があるか分かるか?」

 

「そうッスね…ちょっと気配が強すぎて正確には分からないッスけど…少なくともあと1km以上はありそうッス。特に動いてる感じはしないので、多分こっちには気づいてないッス」

 

 何だろう…凄く不安に感じる。

 こいつに近づいてはいけない…

 そんな気がする…

 

「こう視界が悪いんじゃあ、どのみち近づかんと正体は探れんな。もう少し行ってみるか。方角はこっちで良いか?」

 

「多分もうちょっと東寄り…この方角ッスね」

 

「よし、行こう…どうした、カティア?顔色が悪いぞ、大丈夫か?」

 

「え?…ううん、大丈夫。ちょっとこの森に入ってから肌寒かったから…」

 

「カティアちゃん~、無理しちゃ駄目よ~?」

 

「ああ、体調悪いなら一旦野営地に引き返して待ってても良いんだぞ」

 

「ありがとう、大丈夫だよ。行こう」

 

 確かに嫌な予感がするのだが…

 それよりも、皆だけで行かせるのはもっとマズい、と私の中の何かが警告を出している気がしてならない。

 不安を押し殺して、重たくなった足を無理やり動かして何とか歩みを進める。

 

 

 そうして先に進むことしばし、プレッシャーは益々強くなり、ほとんど物理的な威力を伴ってるように感じる程だ。

 

「ダード、こいつは想像以上だぞ。事によるとSもありえる」

 

「あぁ、目視できたら即時撤退も考えねえとな…」

 

(しっ!大将、もうすぐそこッス。あの繁みの奥の方。なるべく姿勢を低くして…)

 

 ほとんど這うようにして繁みに近づき、そっと顔を出してその向こうを見ると…

 

 

(ロウエン、ありゃあ何だ?)

 

(…何スかね?オーガ…に見えましたけど。アレはヤバいッスね)

 

(あの黒い靄のようなものは何だ?ただのオーガじゃないだろう?)

 

(アンデッドの纏う瘴気みたいな感じがするけど~、それとも違うような~?)

 

 繁みから覗いて見えたのは、皆が言うとおり一匹のオーガだ。

 見た目は人間に近いが、下半身は獣毛に覆われ、額には尖った瘤状の角が生えている…いわゆる『鬼』だ。

 身の丈3メートルを超える巨躯とそれに見合った怪力を誇る魔物であり、驚異度はCランク相当だ。

 この森では決して珍しい存在ではない。

 

 しかし、ただのオーガではない事はその身に纏う禍々しい黒い靄を見れば一目瞭然だった。

 間違いなくアレが今回の異変の原因だろう。

 そして、あの黒い靄は【私】の記憶に微かにひっかかる。

 あれは恐らく…

 

 と、その時、ただでさえ強大なプレッシャーが更に膨れ上がった!

 

「ヤバい!気付かれたッス!」

 

「チッ!散開!!」

 

 ドゴォッ!!!

 

 一斉に皆が跳び退った直後、潜んでいた繁みごと地面を粉砕するような一撃が見舞われた!

 先程までいたところの地面が大きく抉れている…

 とんでもないスピードとパワーだ!

 

「うおっ、早いッス!」

 

「っ!なんてパワーだ…!」

 

「撤退するぞ!」

 

 即座に撤退の判断を下し、来た道を駆け戻る。

 

『ぐるるあっー!!!』

 

 しかし、相手は雄叫びをあげながらその巨体に似つかわしくないスピードで地響きをたてながら追ってくる。

 こっちの足のほうが若干早いようだが、木々を避けながらになるので真っ直ぐ進めないのに対して、むこうはパワーに物を言わせて木をなぎ倒しながら最短距離で迫ってきており、なかなか引き離すことができない…!

 

「くそっ!引離せねぇ!迎え撃つか!?」

 

「そうするにしても、場所が悪い!あのパワーだと木が何の障害にもならん!逆にこちらの方が動きが制限されて不利になる!」

 

「みんな~目くらましを撃つわ~!注意してね~、[閃光・留]!」

 

 カッ!

 

 攻撃力は皆無だが、強烈な光を放つ魔法だ。

 本来は一瞬で消えてしまうが、少しの間持続するようにアレンジされている。

 

 よし、私も一つ!

 

「[土壁石壁・重]!」

 

 周辺の土と石を集めて幅5メートル、高さ3メートル程の壁を作る魔法だ。

 アレンジして、それを三枚重ねる。

 木々をものともしないあのパワーだと大した足止めにはならないと思うけど、閃光と合わせればそこそこ時間が稼げるだろう。

 

 …そうして何とか魔物を引き離し、撤退に成功した。

 

 

「ふう、ヤバかったッスねぇ…」

 

「アネッサ、カティア、助かったぞ」

 

「圧はまだ感じるが…どうだ?」

 

「1~2km程は引き離したッスね。もう動いていないのでこちらを見失ったと見て大丈夫そうッス」

 

「魔物は確認できたな。アレが一連の異変の原因と見て間違いないだろう。…アレが結局何だったかは分からないが、調査の目的は最低限果たせたと言っても良いか?」

 

「ああ…そうだな。できればもう少し情報が欲しいところだが…無理して情報を持ち帰れないのが一番まずい。少なくとも原因と思しき魔物の特徴、居場所、能力の一端は確認できた。この情報はすぐに持ち帰ったほうが良いだろう。討伐するにしても、この人数でアレの相手をするのは少々骨だ。もっと大規模な討伐隊を組まないと」

 

「ねぇ、姉さん、あの黒い靄って何だったのかな?姉さんはアンデッドの瘴気に似てるって言ってたけど」

 

 あの黒い靄は、恐らく【私】の身に起こったことと何か関係がある。

 失われた記憶が刺激されている気がするんだ。

 

「そうね~、私[退魔]系統の魔法も使えるから~アンデッドの討伐依頼を頼まれることがあるんだけど~、高位のアンデッド、『レイス』とか『スペクター』とかになるとああ言う黒い靄みたいなのを纏ってるのよね~。さっきのオーガ?のやつは、それよりももっとうんと濃くしたような感じだったけど~」

 

「じゃあ、アレはアンデッドなのか?」

 

「ん~、ちょっと違う感じなのよね~。でも~、かなり近い感じはするかな~」

 

「すると、[退魔]系が効くかもしれん、てことか?」

 

「そうかもしれないけど~、わたしアレに効きそうな[退魔]系は無詠唱できないのよね~。そうじゃなければ試してたわ~」

 

「そうか、アレ相手に後衛を守りつつタゲ取って時間稼ぎはキツいな…せめて、もう何人かいねえとな」

 

 アンデッド…霊体…魂…やはり関連がありそうだ。

 街に戻ったら神殿に行ってエメリール様に報告すれば何か分かるかも。

 

「街に戻れば詳しいことを知ってるやつがいるかも知れん。ともかく、撤収だ」

 

 一応、調査の目的は果たせたので一旦撤収する事にする。

 ある意味依頼自体はスムーズにいったと言えなくもない。

 

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