辺境の村で惰性的なスローライフを過ごす、かつて準廃だった闇魔法使い系の女の話   作:異界の土饅頭供養

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春_1021年目③

 山中にあるロッジ。

 私たちはいつもの朝食の卓についていた。

 

「サニー。しばらくは、村に出入りすることにするよ」

「(くねくね?)」

「今年は大きな街に行かないの!?」

「今のところ、取り立てて用事もないからね」

「えー!」

 

 普段、春先にはアーティファクト(プレイヤーの遺産)の情報をコソコソと集めに国を回るのだが、今の村は変化があって(いささ)かながら興味をそそられる。野次馬の心境みたいなもんかな。

 アーティファクト集めは、積極的にやっているかと問われると首を傾げてしまう。隠れながらやってるし……。しかしながら、私が生きている目的を補強してくれているものでもあって。うーん、惰性的なライフワーク。この言葉が1番しっくり来るかもしれない。

 

「んー。ならあたしも村に行く!」

「お前は修行だ」

「oh……。いつもは連れて行ってくれるのにぃ!」

 

 ディルナは両手でピンク頭を抱えて天を仰いだ。外人かよ。いや、人間よりの人外だったわ。

 

「ふん。ま、ちょっと思うところがあってな」

 

 一見した感じ、あの新しい警備隊長。えーっと、アラン=ド……いや、アロン=アルフ。いや、アロン=ドル……ドルマゲス?

 ……。

 …………。

 新しい警備隊長のアなんとかは、超人枠に片足突っ込んでいる気がする。それなりに鍛えているとはいえ、弟子が捕まればひとたまりもないだろう。

 

「……なにそれぇ。むー……。あの新しい隊長のせいでしょ? しっしょ〜、あたしなら心配しなくても大丈夫だよ!」

 

 浮き上がったディルナは、私に人差し指を突きつけた。無駄に鋭い上に、何だその根拠のない自信は。

 ここ数年、ディルナを修行がてら彼方此方(あちこち)に連れ回したりしていたのだが、いい加減本腰を入れて鍛えた方が良さそうだ。

 

「長い年月この世界を眺めているが、超人化する人間は同じ時代にある程度固まって生まれてくる。あの青年を兆しとするなら、これから激動の時代がやってくるだろう」

 

 ディルナを諭すべく言葉を発したが……。口にするとなんだか詩的になった。別に記録を取ってるわけでもないがな。感覚的なサムシングというやつだ。

 

「……えー? こんな田舎に??」

「……」

 

 えーっと、田舎というか、国単位というか……。こまけぇ事はいいんだよ。

 

「ふん! 『バインド』『アポート』」

「あぁ!? 飛べないじゃん!!」

 

 被膜の付いたハネを紫色の光の輪で縛られたディルナが椅子の上に墜落し、テーブルにこぶし大の影が鈍い音を立てて幾つも落ちた。

 森に仕掛けたトラップに掛かっていた獲物だ。

 

「それを終わらせておくんだ」

「げぇ!? びりびり虫!」

 

 ダイニングテーブルの上に落ちてきた課題兼本日の晩ごはんを見たディルナは、カエルの鳴いたような声を上げた。

 

 課題はエクスロミュールという食用カタツムリ……陸上サザエの殻剥きだ。ちなみに、フルーティなセセリみたいな味がする。この世界では食用昆虫はわりと多い。というのも、この世界の普通の人達がジビエを狩りに山へ行くと、そこを縄張りとする魔獣に恨まれ、世知辛いことにブチ切れた魔獣達によってコミュニティごと秒で破壊される。

 あえて言うのであれば、亜神>>魔神>>魔獣=英雄>>>>獣>>人間=魔法を使う虫という図式だ。

 食物連鎖のヒエラルキー的に、人間は魔法を使う虫と同じレベルである。悲しいね。

 

「ビリビリ虫を触るとお腹が空くのよ!」

「文句言ってないで剥け。触っても空かないようにするんだよ。何事も修行だ」

「わーんっ」

 

 課題のエクスロミュールは、殻に触る者の魔力を喰らい電撃で反撃してくる。それに打ち勝つような繊細な魔力操作能力がなければ、魔力を吸い取られて半日もしないうちに力尽きてしまうだろう。力尽きた者に待っている末路は、からだを這い回るヌメヌメと電撃地獄だ。まぁ、死にはしないが。

 

「(くねくね!?)」

「サニー。気持ちはわかるが、スプラッタな料理は勘弁してくれよ」

 

 俎上の虫を見て、狂喜乱舞するサニーをたしなめた。彼女は食用の虫系食材を触る時に、親の敵のようにミンチにする悪癖があった。蜂とか蝶は好きなのにな……。彼女の中で、この食用ビリビリカタツムリは害虫枠らしい。できれば、ツマミになる壺焼きとかにしてくれよな。

 

 

 

 

 弟子がヌメヌメになるかどうかの境界を攻めた個数を置いてきた後。

 私は洗濯済みでフローラルな匂いの香るフードを被って村に赴いた。

 

 今年村の変化のあった場所は、兵舎に限らなかった。

 

「ここか……」

 

 村の西側。

 真新しいこぢんまりとした白亜の建物が、私の目の前に建っていた。

 去年の春先から隣村の大工が出入りしていた建物は、冬前に完成したらしい。

 

 建物のシンボルは、十字マークに丸がいっぱい付いたセンスの悪いデザインをしている。魔力視ができる人間からすると、暗くなるにつれてゲーミングカラーに光り出す狂ったシンボルだ。

 いや、魔物避けとか色々バフしているのは分かるんだけど、やり過ぎでゲーミングカラーになるのはホント意味わからん。てんこ盛り過ぎて、ところどころ打ち消し合ってるしねぇ。

 

「……やるか」

 

 そんな教会兼傭兵団協会へのカチコミ。ではなく、幸運の呪印刻みだ。

 

 傭兵ってのは戦争がなくなれば、盗賊に身をやつすやつも少なくはない。そこに目をつけた宗教団体が取り込んで、相互扶助会のようなものを立ち上げたらしい。ここ何十年かそこらで、そいつ等はあっという間に勢力を拡大していった。

 その教団は少なからず私と因縁のあるもので。私ら亜神を狩り殺すことを教義の一つに上げている団体だったんだけど。まぁ、大分昔の話だ。今生きている人間には関係のない話かもしれない。村に入ってきたのなら仲間の一員として考えてやってもいい。

 

「……ふん」

 

 かつて、この世界でも当たり前のように人間同士の戦争があった。プレイヤー同士の戦いが殆ど終わって、人間の全盛期が始まった頃だ。その頃合いに私達亜神と呼ばれ始めたプレイヤーの多くは、元々人間だったくせに人間嫌いになった。

 

「……そういや、そんなこともあったね」

 

 思い出したのは、前世でも仲の良かったプレイヤーのヒーラー系最上位職(セイクリッド)の笑顔。

 十年に一度位の頻度で連絡を取り合う知己だった。居場所をぼかした手紙でだったけれど。

 それで当時50年くらい連絡が途絶えた。気になって調べてみれば、とある国で頭に電極をぶっ刺されて劣化した回復魔法と蘇生魔法を垂れ流す肉塊になっていた。

 ……本当に恐ろしいのは悪辣な思考を持つ人間だ。

 そのことに怒り狂った私は他の亜神にも垂れ込んで、その国をぺんぺん草の一本すら生えない不毛の地に変えてやったんだが。

 そんな大分昔の気分の悪くなるエピソードを思い出した。

 

「チッ。忘れたい記憶ほど、こびり付いてるもんだね」

 

 このシンボルを掲げる教団は、あの国で流行っていた宗教が源流のようで。この世界でも宗教団体は結構な数が湧いては消えていく。

 私とその宗教団体との確執は、その国が消えた後さらに200年後くらいまで続いた。何とか存在を消せないもんかと躍起になっていたが、途中で諦めた。なんせ消しても消してもゴキブリみたいに湧いてくる。

 

「まぁ、でも。今となってはどうでもいい、かな?」

 

 人間長くは怒っていられない。なぜなら忘れるからだ。ふと思い出すことはあっても、昔ほどの怒りは湧かなかった。500年は昔の話だ。

 

 

 

 

 

 

 回想の後。

 気分を取り直して作業を進めていく。

 

「一つ刻んでは友の為っと」

 

 教会周りに例によって呪印を刻んでいると、違和感を察した教会関係者が血相を変えて飛び出してきた。

 

「きょ、きょ教会になにようか!?」

「えーっと、特に用があった訳では無いが……。何なんだその格好は」

 

 飛び出してきたのは、太い木の杭2本を両脇に挟んで手に持ち、ニンニクを爆薬のように巻いたランボースタイルの少女シスターだ。頭には火の付いた蝋燭がきつく結ばれ、口は耳まで紅が差されていた。いや世界観が迷子なんだが?

 話しかけられたので反応したが、翡翠色の眼は私をしっかりと捉えていた。捉えているというか、私を認識している?

 

「お、おおお前が悪神の王!」

「落ち着きなさい、ルウト」

「セラお姉様!」

 

 杭を突きつけてきたルウトと呼ばれた少女をたしなめる声が響いた。

 

「妹が申し訳ありません。貴方は……。亜神様ですね」

「亜神ね……まぁ、そう呼ぶやつもいるよ」

 

 建屋から出てきたのは背の高い女。長い髪が毛先で緩くカールしている。うーん、どうするかな。何故か隠蔽が効いてないな、こいつ等。

 

「お前、目はどうした?」

「生まれてから、まともに見えたことはありません。ふふ、真っすぐに聞くんですね」

 

 長い紫色の髪を生やした女は、目に何重にも白い呪布を巻いていた。隠蔽を看破しているのはあれか。何らかのアーティファクト。

 んで、こっちのシスター小娘は翡翠色の眼が特殊と。

 

「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。この度シュテロ村へ」

「いや、いい。今は聞きたくはない。建屋を作ったということは、おばばとも話は済んでいるんだろう?」

 

 私は女の紹介を遮った。

 どうせ直ぐには覚えられないし。

 

「……畏まりました」

 

 一見して質素な衣装を身につけているが、装飾具は様々な効果があるだろうことがわかった。古い宮廷魔術師が好みそうな格好だった。

 

「傭兵団協会側の人間ね」

「我々は冒険者組合(ギルド)と自称していますよ」

「それで妹は、教会側と」

「血は繋がっておりません」

「……そうか」

 

 努めて表情を笑顔で固めている女の頬に汗が一筋。何となくだけれど2人は似ている。いや、似ていると思ったんだがな。

 

「セラお姉様は、セラお姉様だ!!」

「ルウト、今はお黙りなさい」

「……」

 

 会話の応酬を理解していないのか、奇天烈な格好の少女が叫んだ。会話に割り込むのは良いんだが、何が言いたいのかさっぱりだ。

 

「ふ。それで、どうする?」

 

 まぁいい。出会ってしまったんだ。殺るのか、殺らないのか?

 結局この宗教団体と私とでは、平和に穏便にとは行かないらしい。穏便にというのなら、初めから無視しておけばいい話だし。私からすれば、こいつ等くらいはどうとでも料理出来る訳だけども。

 

「……。いえ、我々は亜神様方と事を荒立てる気はございません」

「?」

 

 マジで。

 昔は亜神征伐とか言って、定期的に一月三十日晩追いかけ回して来た挙げ句全滅してた奴らがそんな事言う?

 臨戦態勢に入る一歩手前の私は、肩透かしを食らった気分になった。

 

「お姉様!? 悪神は滅ぼさなければなりません! あいた!??」

 

 朗らかな口元からは想像もできないスピードで移動し、セラと呼ばれた女は妹分をぶん殴った。

 

「今の教皇様は、教義の解釈を改めました。亜神様方と争っていたのは昔の話です」

「……そうなのか。今の教主の名は?」

「セルゲリエッティ=モンキネグロイ=ダモンゲ様です」

「ん!?」

「なにか?」

「いや」

 

 ダモンゲ……その名前は。縁の深い相手だ。まぁ、プレイヤー関連なのだが。

 遊び人(プレイヤー)祈る人(プライヤー)になるのは一体なんのギャグだろうか。ガチャやってる時しか聞いたこと無いぞ。なんで私の次に怒っていたお前がそこのポジションにいるのよ。というか、いろんな名前がめっちゃ混ざっとる。

 

「亜神様……。用がなくとも、是非に立ち寄ってくださいませ。我々はいつでも門戸を開いておりますよ」

「お姉様!? だめですよ! モゲっ」

「我、々、はいつでも、門戸を開いております、よ」

「はぎぃ。ちょのどおり、れず」

 

 食い下がったシスター娘の顔面が、青筋の浮いた包帯女のアイアンクローで歪んだ。非常に力関係がわかりやすい。

 

「ま、まぁ気が向いたらね。そのうち」

「はい。お待ちしております」

 

 私のどっちつかずの返事に対して女は朗らかに笑ったが、私は次に来るときはもう一つ上の隠密装備を引っ張り出してこようと決めた。

 何となくだけれども、なんかもう関わりたくねぇよ……。

 

 

 

 

 教会から離れ。

 村の春の様子を伺うことにした。

 この村の特産品は、黒き森から取れる菌糸類を干したものだったり、森に住む大鳥類の羽根で織った織物だ。

 村人が食べるに困らないだけ作る穀物の農作業風景は、普段ほとんど変化がない。長閑なものだった。

 村と畑のエリアを分断するように流れている小川は、村人達にとっての生命線だ。取水の為に少し深めに掘った用水路には、年季の入った木製の橋がかかっている。

 そこをコツコツと跨いで通ると、声が聞こえてきた。

 

「いち、にー!」

「「「ハラマッスォッソセイヤッ!!」」」

 

 この村伝統の何言ってるかわからない掛け声で木製のクワを振るっている集団がいた。村の自警団だ。まるで元の世界で見たクセ強野球部員の挨拶の仕方のような発音をしている。

 

「いやぁ、ありがたいことですじゃ」

 

 それを監督するように眺める白髪の爺が、広めのあぜ道から畑の作業風景に何故か感謝を溢していた。背が低く杖をついている。名前は何だったか。確かおばばの幼馴染で……。うん、思い出せん。

 

「精が出るな」

「ん!? ブホッ、ゴホッホッホッ」

 

 話し掛けると、背の低い小さな爺は噎せたまま誤魔化すように笑った。

 

「ホッホッ。野畑ゆえに茶の一つも出せませんが、どうぞお寛ぎくだされ」

 

 小さい爺は私とは逆方向を向いたまま語り始めた。

 

「背中側だ。逆向きに今いる」

「ホッ? これは失礼をば」

 

 私の存在を知っている普通の人間の反応はこんなものだ。先程の件もあって、装備が壊れたのかと思ったがそうでもないらしい。

 

「新しい隊長殿を見ていたのか」

「ええ、全く頼もしい限りですじゃ。何でもあの鎧を着て倒れたガンドウ殿を一人で抱え上げたとか。いやぁ実に頼もしい」

「……」

 

 小さい爺の物言いで、鎧ジジイを重量挙げのように持ち上げたあの隊長のイメージが湧いた。

 なんかすまん。私はそっと目を逸らした。

 

 自警団は比較的若い衆で構成された組織だ。比較的若いと言っても辺境の村だ。一番若いやつでも子が2人はいるらしい。いや3人だったか? 駄目だ曖昧だ……まぁいい。

 それに、自警団と自称しているが、実態としてはただの労働力だ。実際の戦いでは、烏合の衆みたいなもんだろう。そもそも村人では何かから人間を守れるほど強くなかった。

 そんな中に一人、文字通り毛色の違う人間がいた。明るい髪色は村ではおばばの一族だけだったが、紛らわしい色が増えてしまったな。

 

「良いですか、隊長殿。大地とはうら若き乙女。どれだけ耕したかで作物の具合が決まるのですぞ!」

「いち、にー、はらまっするそえいや(棒)」

「ちいさい!! 隊長殿! 腹から声を出すのですぞ!!」

「あんた達、言ってて恥ずかしくないのか? というか、なんて言っているんだ?」

「え、どこが恥ずかしいんです? ハラマッスォッソセイヤッ!! です。良いからやってください。そのうち気持ち良くなりますから」

「……えぇ??」

「祈りです。大地に感謝を捧げてください」

「えぇ??」

 

 半裸の男たちが穀物の種を蒔く前の畑を耕す中に、件の新しい隊長殿が混ざっていた。良く分からない掛け声も含めて村の風物詩なのだが、半ばハラスメントじみた強要には同情を禁じえない。

 若い隊長は村の労働力としても期待されているのだろう。

 

「む?」

 

 そこへ小川を挟んだ道の向こうから身重の女がゆっくりと歩いてくる。自警団の伴侶のうちの誰か。腕にバスケットを提げているところを見ると、休憩用の差し入れか何かだろうか。少し重そうだ。魔法で少しばかり身体を強化してやるか。

 

「ん?」

「えっ? きぁッー!!」

 

 魔法を掛けようとした瞬間。用水路に架かっている橋の柱が何本か抜けた。

 

「ホ!? いかん!」

 

 爺が叫ぶよりも早く私は駆け出した。普段は意味を成さない翼が空気を掴む。

 

時之瑕(――サプラス)

 

 反射的に、何枚かの内の切り札の1つが出てしまった。

 まぁいい。

 生きている。いや、今後生まれてくる無垢の命よりも大事なものはない。

 橋が斜めに崩れ、宙に投げ出されて用水路に落ちそうになっていた妊婦の元に一息に辿り着いた。妊婦の背中を掴み魔法で浮かせて陸地に導く。

 視界の隅で、件の新しい隊長がクワを投げ捨てて必死に走り寄る姿が見えた。半里程あっただろうに、叫び声を聞いただけで既に100m圏内まで迫っていた。前任者よりも優秀だな。

 

「ハァっ!? はぁはぁ……」

 

 腹を庇う妊婦の顎から汗が滴る。ほとんど駄目だと思っていたのかもしれない。

 私は、そっと地面に降ろして気配を絶った。元の場所へと踵を返す。

 

「あっ!? 妖精様、ありがとうございます」

 

 声に振り向くと、身重の女は明後日の方向に頭を下げていた。……少しだけ滑稽だ。

 

「えぇッ、何で!?? うあぁっ!?」

 

 無事だった妊婦を見た若い隊長が橋の残骸に突っ込んで水柱を上げた。妊婦の無事を見て急制動をかけたようだったがあの速度だ。止まるのは間に合わなかったようだった。

 

「隊長殿! ご無事ですか!!」

 

 遅れて、ビシャビシャになった隊長を心配し駆け寄る自警団。その中の誰かの話し声を拾った。

 

「なぁ、去年あたりに補修したばかりじゃなかったっけ?」

「……やっぱ、ババ様に内緒で補修したの不味かったんじゃないか?」

「あー! 交換したとこだけ腐ってる!」

 

 新しい隊長を助け起こす村人達の話を盗み聞くと、去年橋の一部を以前の骨組みから交換していたらしい。若い衆がおばばに内緒で。普段、村の外までは私も見てはいない。

 

「おばばに言っておけ」

 

 爺の元に戻りそう声を掛けると、私がいる方向とは逆の方向に小さな爺が直角に腰を折った。逆の方向……いや元いた場所か。

 

「いつも助かりますのぉ。ああやって助けていただいて。シュテロ村皆が、魔女様に感謝しておるのですじゃ」

「ふん」

 

 声には信頼のようなものが籠もっていた。ただ勝手に期待してるだけ。しかし、期待を裏切れば容易く手の平を返す。線引きはしなければならない。

 

「気まぐれだ。感謝されるようなことじゃない」

「ホッホッホッ。それでも、ですじゃ。ありがとうございますのぉ」

 

 そんな私の考えを見透かしたように、小さい爺はもう一度腰を深く折った。……思い出した。おばばがまだ幼い頃に似たようなことがあった。その時にくっついていたコイツは、私が返事を返すまで道端で腰を折っていた。……また、答えるまで顔を上げないつもりだろうか。

 

「……そうか」

「はいな。ホッホッ」

 

 機嫌良さそうに笑う爺には私が見えていない。

 

「……」

 

 しかし、爺は良さげなことを言いながら左手を空中に彷徨わせている。高さから言えば、私の尻あたりを的確に。私はその間抜けな姿を爺の背中側から眺めているわけだけども。

 なんか締まらないなぁ。

 

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