辺境の村で惰性的なスローライフを過ごす、かつて準廃だった闇魔法使い系の女の話   作:異界の土饅頭供養

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春_1021年目④ディルナ 上

 私はロッジのテラスにある愛用の椅子に腰掛けて、山間に春雨が緩く降り注ぐ景色を眺めていた。

 サニーが淹れてくれたお茶に、瓶から取り出した白い塊を屋根から垂れる雨滴の音に合わせてリズム良く入れていく。

 

「はぁ……」

 

 ……7個目を過ぎた辺りで、サニーに取っておきの砂糖を入れた瓶を取り上げられた。特に何も考えずに目で追いかける。

 

「(くねくね!?)」

 

 それを物欲しい様子と感じたのか、サニーがバツ印を作った。

 

「はぁ……」

 

 もう3日目になる。流石に腹が減って帰ってくると思ったが……。粘りやがって。少し心配になってきた。

 

「はぁ……」

「(くねくね?)」

「なぁ、サニー。私が悪かったのだろうか?」

「(くね……クネ……?)」

 

 蔦の魔物であるサニーに話し掛けると、サニーは困った様に曖昧に揺れた後にねじ曲がった。ごめん、サニー。何言ってるのかさっぱりわからない。

 

 あの新しい辺境警備隊長を一目見た私は、これから世界の何処かに()()()()()湧いてくるだろう超人達に備えるべく、弟子である淫魔のディルナを鍛えていた。

 ここ暫く――。電撃ヌメヌメ地獄にしたり、浮かび上がって移動できないようにペイロードオーバーの超重量足輪を着けて走り込みをさせたり、ディルナの周りの空気だけ薄くしたり、魔力を超過させて上手く発散させないと爆発する淫魔爆弾にしたりしていた。

 まぁ、結論を言ってしまえばディルナが逃げ出した。……家出だ。

 

 手元にある上等な紙を眺める。

 

『さか″さなレヽτ″<ナニ″さレヽ。 τ″レヽろな』

 

 そこには汚い書体で一文が書かれていた。言いたい事は判る。しかし、何回教えても何か絶妙に惜しいのは何でなんだ……。

 というか、フィジカル面を鍛える修行は絶対に音を上げないくせに、書き取りとか読書で逃げ出すとかどうなってんだ。

 逃げ出したディルナに課していたのは、この王国の史実の要約。ここから出る時に備えて常識を学んで欲しかった。建国してそんなに長い王国じゃないから、2日掛からずに終わると思っていたのだけれど。1日目……いや、手付かずな様子からすると四半刻で逃げ出した。

 

「(くねくねっ!)」

「あぁ、分かっている。探しに行くよ。分かってるって」

 

 そんなに心配なら探しに行けと言わんばかりに、サニーに何度も肩を叩かれた。

 

 

 

 

 村に向かう下り道。

 

「あー。まったく、世話の焼ける」

 

 私は悪態をつきながら、ぬかるんだ道を装備の力で無理やり乾かしつつ歩いていた。

 十中八九、ディルナはおばばのもとに居るだろう。仮に居なかったとしても、おばばは探し物が得意だ。今回も頼らせてもらおう。

 

 私は何時もの装備に加え、場違いにも陸上でシュノーケルセットを身に着けている。

 奇っ怪な格好と思うことなかれ。

『アクアラング』

 元の世界風に言えば呼吸用潜水装置だったっけ。それの魔法版。

 このエンチャントが施された装備を身に着けると、必要以外の水分を身体の近くから一定距離に追いやってしまえる。雨ならば身体に近づいてきた後に変な軌道を描いて逸れていく。今くらいの雨なら、咥えずとも十分に効果を発揮してくれる。

 人の名前とか大事な事は忘れるのに。こういう記憶ばかり保持されているのは、何でなんだろう。……まぁいい。

 

 海イベントとか梅雨イベントの様な、水にまつわるイベントで事あるごとにバラ撒かれていた装備だった。できれば傘が欲しいところだったが、生憎と私が持っているのはシュノーケルセットだけだった。

 見てくれはともかく。水の中で探し物をする時と、雨の日には濡れずにいられる超便利な装備であり魔法だ。

 

 そう言えば、ディルナとの出会いは……雨の日だったな。

 そう、あの日は……ん?

 あの日は。

 ……。

 出会いは……。

 

「スゥー……。あれ??」

 

 立ち止まって見上げた灰色の視界を、若干グチャグチャ気味な茶色の地面に戻す。

 ち、ちょっと待って。

 今。ちょっと、思い出すから。

 出会いは。

 

 ……。

 …………。

 頭を抱えた私は()()()地団駄を踏んだ。

 

「あぁァァァッ。出ろって!! 出ろ!! く、いっそ……。あ、出た」

 

 

 

 

 ディルナと出会ったのは、王都の衛星都市にあたる比較的裕福な街での事だ。

 当時、私はおばばに占ってもらって、この上なく迷惑で呪われたアーティファクトを探していた。

 元々はサブイベント用のアイテムで、そのイベントをよりハードなものにするために作られた、耐性すら貫通してくる困った装飾品だった。確かイベントクリア後には、良エンチャントが約束されていたけれど。……そのエンチャントが何だったかは忘れた。

 

 記憶が逸れた。

 ……端的に説明すると、ディルナの事は可哀想だったから、ただ拾っただけという様なエピソードになる。

 本当にありふれた話だ。

 

 今日よりも土砂降りで酷い雨の日だった。生きてきた間でも稀有な豪雨の日。……忘れているだけかもしれないけども。

 私は今日と同じ様にシュノーケルセットを身に着けていた。

 

 現実となった世界で、ゲームでは元々エネミーだった淫魔は人間社会で割と居場所を確保している。種族全体としては賢いと思えるタイプの人外だ。腕っぷしの強さも、生まれた瞬間からある程度保証されている。

 餌のスタミナポイントを確保するために、積極的に人間に関わる種族だった。

 夜の酒場で働いているのをよく見かける。

 淫魔の話ですぐに話題に上がるのは、“淫魔に抜かれると朝までぐっすり”だ。尚、抜かれるのはスタミナという、抽象的だが確実に存在する概念なので卑猥な事は一切起きない。何だったら夜用(決戦)に残すべきスタミナも、勿体ないという理由ですっぽ抜かれて爆睡させられる。

 

 ディルナはそんな淫魔の中で、食べる量が桁違いに多いせいで爪弾きにされていた。多分、親を吸い殺しても足りないくらいだったんじゃないかな。それを恐れて、育児放棄みたいになってしまったとでも言えばいいのだろうか。明るい気質の淫魔も、自己の消滅が関わると話は別らしい。

 下位種族の親から上位種族として産まれてきたせいで、他にも何らかのイザコザがあったのだろう。別に私は下位とか上位とか分ける気はないが、説明するにはこう言ったほうが分かり易い。この世界では、トンビが鷹を生むような現象が本当に起きる。

 

 まぁ、結果として親の庇護を十分に得られなかった幼いディルナは、街の角の辛うじて雨を防げる軒先に縮こまって居た。困った様に腹を鳴らしながら。

 

 初めて彼女の様子を見た私は、何となくだけれど郷愁の念が湧いてしまった。電柱の側に捨てられたダンボールや木箱に取り残された子猫の様だったのだ。

 その時は、ほんの気まぐれで声をかけることにしたんだ。

 

〈……よう、風邪引くぞ〉

 

 私の第一声はそれだった。確か、他に思いつかなかった。

 ディルナの第一声も覚えている。

 

〈誰……ひえっ!? 来ないで!!〉

 

 ディルナは雨の中、全力で逃走を開始。取り残された私は、右手を突き出したまま暫く茫然としていた。

 後で話を聞けば、息苦しそうなシュノーケルセットを着けた変態だと思ったそうだ。

 ……見たことなけりゃ、そりゃそうだ。

 

 その後の追いかけっこは、特にドラマも何もない。

 ファーストコンタクトに失敗した私が、少し躍起になって追いかけて。そのせいでずぶ濡れになり、高熱を出して倒れたディルナを助ける事になった。

 それだけだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 昔から、しっしょ~はちょっとおバカだ。

 アルコールは克服したっていう嘘しか言わない。お酒を手に入れた週末には、いっつも泥酔している。しかも、あたしよりもお酒に弱い。

 

 しっしょ〜は、いっつもなんか自信がない。

 酔ったときの話では、アジンの中でもしっしょ〜に勝てるやつは、剣とか槍を極めたやつしかいないハズらしい。短剣使うディーピーエス? は嫌いなんだって。しっしょ〜は絡め手の魔法を使うくせに、短剣使いはなんか卑怯らしい。意味わかんない。

 ……聞いてていつも思うんだけど、どうしてか一歩引くのよね。比べる相手も魔法使いじゃないし。別に一番でもいいじゃん。

 

 繰り返しになるけれど、しっしょ〜はおバカだ。

 雪に埋もれて行方不明になったと思ったら寝てたり、サニーが注意しないとお茶とサトーの量が逆になったり。寝言もうるさいし、お風呂は長い。

 忘れっぽいし、人を見る目があんまりない。大きな町で、目を離すと商人にすぐに騙される。

 まだまだいっぱいあるけど、言い出したらキリがない。

 

 でも、あたしを冷たい灰色の世界から、助け出してくれたことには感謝している。これは、ほんとにほんと。

 

 

 

 

「ふん。これっぽっちの量だし……。まぁ、2日もあれば十分だろ。私はちょっと、森のやつらを間引いてくるよ。若い個体がサニーの家畜に手を出したらしい」

「しっしょ~! これ、いつもよりも多いよぉ!」

「多くない多くない。何事も修行だ」

 

 いつものように魔法で本を呼び寄せたしっしょ~は、玄関からのんびり歩いて出ていった。

 最近の修行はちょっと楽しい。しっしょ~がすっごく構ってくれるから。でも、本読むのはヤダ。

 

 ……。

 …………。

 

「あー! 終わり! 閉廷! 終了ぉ! 満点!! 優勝!!」

「(くねくね!?)」

 

 イーって来てしまって、本を投げ捨てた。

 ちょっと頑張ってみたけど、王国史は全然意味がわかんない。どうして剣をひっこ抜いたら王様になるの?

 そして、この絵の剣。この家の床に転がってるのに……。意味がわからない。

 

「(クネクネ!)」

 

 サニーのツタが、椅子をひっくり返して立ち上がったあたしの腕を掴んだ。脱走を阻止する気だ!

 

「サニー止めないでぇ! なんでうちに転がってる剣とか盾で王様になれるのぉ!? 全然意味わかんない!!  あたしこのままじゃぁおかしくなっちゃう!」

「(クネ……)」

「あ、どうも」

 

 サニーはあっさり手を放してくれた。じゃあ、何で止めたのよぉ。

 

「(くね、くね)」

「ん、待てばいいのぉ?」

 

 おうちを出ようとしたらサニーに止められた。強く止められてないから、いくなっていう感じじゃないんだろうけど。

 待っていると。そんなに時間を空けずに、サニーが何かを何か運んで来た。

 

「(くね)」

「何このカバン。あ、着替え? それと、しっしょ〜のめも? 買うものリスト? あ、そっかっ! そろそろ行商さんが来るんだったっけ!」

 

 あたしも、しっしょ〜みたいにすっかり忘れてた。サニーだけがいつもしっかり覚えていてくれる。

 サニーはあたしよりもおねぇちゃんだけど、何言ってるかは全然分からない。でも、掃除洗濯料理がうまい。お裁縫も上手だし、家畜小屋も建ててたから、きっと私と違って何でもできる。

 

 だから。

 ちょっとだけ羨ましい。

 

「あ、書いとかないと。心配して探しに来ちゃうね」

「(くねくね!)」

 

 おうちの中に一旦戻り、書き置きを残す。

 

「えーと、“探さなくても大丈夫”だから……。これでよし」

 

 

 

 

 サニーにお使いを頼まれた。

 

 行商から買うのは、しっしょ〜のサトーとかだ。昔から言い値で全部買い占めてたらしいから、この村を古くから知ってる行商からは良いカモだと思われてる。サニーから何とか値切って来てとお願いされたんだ。

 

 そんな考え事をしながらのんびり進んでいく。

 めんどくさいから近道しよ。

 少し高めに浮かんだ私は、地面が割れた後にできたような沢とか、おっきな木々の生えた暗い森を飛び越えていく。

 

 突然森が騒がしくなった。

 

「ゲェーッ」

「ん、ひえっ!」

 

 向かう先の森から翼に皮膜の付いた鳥がたくさん飛んで来る。それを全部、なんとか躱していく。

 

「うわぁ、びっくりした。もう! おまえ達のお肉はないぞぉ」

 

 全部の鳥が私を一口で飲み込めそうな大きさだ。

 偶にしっしょ〜がお肉をあげている鳥たち。あたしが来たことで、お肉がもらえると勘違いしたらしい。

 冬眠が終わって、お腹が空いてるのかもしれない。もうちょっと大きくなると、あんまり飛べなくなって大人しくなるんだけど。

 

「もうちょっと寝ててね」

 

 あんまりお腹は空いてないけど、あたしは手を向けて()()()()することにした。

 

「オェー……」

 

 吸い取ると、たくさんいた鳥たちが舌を出してバタバタと落ちていく。

 

「っぷ……まっず。ふぅ、久々に八分目〜」

 

 しばらく、食べなくてもいいかな。あんまり美味しくなかった。

 

 

 

 

 いつもよりも移動にすんごく時間が掛かった。しっしょ〜と歩いて来るときはすぐ着くのに、一人で飛んで向かうとなかなか辿り着かないのは不思議だ。

 昼前にサニーに見送られたのに、もう夕暮れになってしまった。

 村に差し掛かると、肝試しをしている村の悪ガキ達がいた。

 

「あぁ!? ディルナ姉ちゃんだ!」

「あー! ほんとだ!?」

「おーい」

「あ、いけない。着けるの忘れてた。まいっか。お〜、おまえ達元気にしてたかぁ?」

 

 サニーに渡された黒い頭巾を被り忘れてた。しっしょ〜と居るとき以外は、あれを被らないと村人に見つかっちゃう。

 三バカのトシとヨシとヒデが、あたしに駆け寄って来た。ぴょんぴょん飛び跳ねているけれど、飛んでいるあたしには届かない。その様子に、ちょっとだけヒヤってしてた心が軽くなった。

 それはそうと、子供達だけで森に近づくのは良くない。

 

「あんた達、何してるの〜。森に近づくと怖い魔女が来るぞ〜。家に帰んなさい」

「はん? 魔女なんていねぇし」

「妖精様のことだろ? ディルナもジィチャンみてぇな事言うんだなぁ」

「魔女などいない。妖精もいない」

「うわっ、生意気だなぁ……」

 

 悪ガキ達は全然あたしの言うことを聞かなかった。

 

「ディルナ姉ちゃんも変わってるよなぁ」

「また修行付けてもらいに来たんだろ?」

「きつそう」

 

 偶に見つかってしまうあたしは、おばばに弟子入りした森に住む変わり者の淫魔だと思われている。あんまり間違ってはいないんだけどさ。

 

〈村人とは余りベラベラ喋るなよ〉

 

 しっしょ〜の怖い顔が浮かんできた。

 そろそろ、おばばのところへいこう。

 

「あんた達はやく帰りなよぉ。じゃあね〜」

「もう行くのかよ。あ、もう一番星でてる」

「やべ、母ちゃんに叱られる」

「ばいばい」

 

 村に来るとき、しっしょ〜はかくれる魔法を使う。何年かに1回だけは変身する魔法を使って何かしている。何してるか知らないけど。

 あたしがいなかった頃は、変身する魔法を使って行商から買い物してたらしい。本人はバレてないって思ってるけど、ほぼ全ての村人達は何かが居るのをなんとなく察している。

 

〈は? 全員にはバレてないが??〉

 

 しっしょ〜に1回だけ言ってみたことがあるけど、絶対に認めなかった。すんごい頑固。

 

 

 おばばの家に着く頃には、日が落ちてしまった。あたしは夜でも目が見えるからいいけど。夜に目の見えない人間達は、おうちに引っ込んでしまう。

 サニーは正確だ。行商が来るのはたぶん明日の昼前くらいだと思う。それまでおばばのおうちに泊めてもらおう。

 

「お〜い、おばばぁ〜」

 

 ココココココココココココココココン――。

 しっしょ〜がよくやるドアの合図を真似てやる。啄木鳥みたいなやつ。

 すると、おうちの中にいるエレナの足音がやって来た。

 

「こんな時間に……一体どうしたんですか? ……あれ、ディルナだけ? お、……グリムさんは?」

 

 扉を少しだけ開けた後、エレナは頭を扉から出して見回した。エレナは、いっつもしっしょ〜を目で追っている。

 

「しっしょ〜は留守番だよ。今日泊めて!」

「えぇっ!?」

「エレナ、いつもの事だよ。入ってもらいな」

「あ、うん」

 

 驚くエレナの後ろから、おばばの小さいけれど不思議とよく聞こえる声が聞こえた。

 

「ばっちゃん。お茶はいる?」

「ディルナにだけ出しておやり。よく来たね。さぁ、ばばの話し相手になっておくれ」

 

 中に入ると、暖炉の前におばばがいた。いつもと違い、おばばはゆったりとした格好をしている。ゆらゆら揺れる椅子に座って本を読んでいた。

 

「あ! えへへ〜!」

 

 おばばを見てなんだか嬉しくなった私は、側へ飛んでいって同じような格好で空中に座ってゆらゆら揺れた。

 

「見て見て。おそろいだね」

「そうさね」

 

 

 

 

 話をしていると、いつの間にかおばばは少し笑いながら眠ってしまった。

 

「ばっちゃん、笑ってる」

「いつも笑ってるよぉ?」

 

 エレナと顔を見合わせた。

 そのままにしておくと風邪を引くので、一緒にベッドのある部屋まで運んだ。

 

「ディルナはどこで眠るの? あのベッド?」

「ううん。あたしはあれ。向こうのはしっしょ〜のだって」

「……それで、あのベッドが空いてるのね。……ディルナが眠るやつはベッドなの? 危なくない、あれ?」

「だいじょーぶ!」

 

 おばばのおうちには、あたし用のハンモックがある。居間の天井に吊り下げられるようになっていて、寝転がるとゆらゆら揺れて楽しい。

 このおうちには、しっしょ〜用のベッドも置いてある。だけど、一度も使われたことはないんだって。

 おばば達も本当は泊まっていってほしいみたい。

 もし寝言のうるさいしっしょ〜が泊まったら、皆眠れなくて迷惑しそう。

 

「ふふふ」

 

 でも、それはすっごく楽しそうだ。

 

「ディルナ、朝は麦粥だけど食べられる?」

「あ、う〜ん。お茶だけでいいよ」

「え、ほんとに? どこか具合が悪いの?」

「え、と。あはは、くすぐったい! やめて! あはは」

 

 エレナがお腹をペタペタ触ってくる。年が近いせいで、エレナとは結構仲良くなれて嬉しい。

 エレナはあたしが人間のご飯をあんまり食べられないのを知らないみたい。村へ来る途中にいっぱい『摘み食い』しちゃったから、あんまりお腹が空いてないのよね。

 

「淫魔は人間の食事を取れないんだ。消化できないんだよ」

「え、そうなの?」

「うん、吐いちゃう」

 

 液体くらいは飲めるけど、固形物をたくさん食べると吐いちゃう。

 

「えぇ!? じゃあ何を食べるの?」

「せーき♡」

「……なにそれ」

 

 急にエレナが冷たくなった。なんで??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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