辺境の村で惰性的なスローライフを過ごす、かつて準廃だった闇魔法使い系の女の話 作:異界の土饅頭供養
主人公は次回。
昨日は、おばばのおうちに泊まった。
エレナ達が朝ごはんを済ませた後、あたし達は行商がいつも市を広げる広場へ向かうことになった。
おばばはお留守番だ。
「若い子達で行っておいで」
「ばっちゃんが優しい……」
「なにか言ったかい?」
「なんでもない! 行ってきます!」
「あ、待ってよ〜」
エレナに続いて扉を出た。
いつもよりも村を吹き抜ける風が強い。空に浮かんだけれど、上手く前に進めなくて降りた。歩くとエレナとの間が離れていくので、偶に走って追いかける。
キビキビと歩く、あたしと似た背丈のエレナの背中を眺めた。
「(ツーン)」
「……」
昨日からエレナがなんか冷たい。せっかく仲良くなったと思ったのになぁ。
このままじゃ嫌なので、聞いてみることにした。
「ねぇねぇねぇ。なんでツンツンしてるの?」
「してないわ。ツンツンしてないから。背中を指でツンツンしないで。……ツーってしないで!」
「は〜い」
「もうっ」
結局教えてもらえなかった。昨日まで一緒にニコニコ笑ってたのに。
謎だ。
「ディルナは。……ばっちゃんに弟子入りしていることになってるんだよね?」
「そうだよぉ」
「じゃあ、隠れなくてもいいんだね?」
振り返ったエレナは、少し迷ってそう言った。しっしょ〜を気にしてのことなんだろうけど……。
今日もあたしは頭巾を被ってない。
なんか村で、あたしが来たって噂になっているらしい。朝はやく訪ねて来た話好きのおばちゃんが言ってた。だから今更被ってもねぇ。
昨日来たばっかりなのに、もう皆が知ってるのは謎だ。
■
村の広場では、幌車に人集りができていた。今回はいつもよりもやけに商人の数が多い。
馬車で来た行商達は、幌車の中に品物を並べている。
大きなリュックを背負って来た行商達は、ロウを塗ってあるテカテカしたシートを道端に広げていた。
「よぉ、どうだい! 強くて若い隊長さんが来たんだろ? ホラホラ、アピールしなきゃ! これなんかどうだい? 綺星石の髪飾りだよ」
「きゃー!」
一角の幌車から高い声がしていた。村の若い子たちが集まってる。なになに〜?
「……」
あたしがそこに混ざろうとすると、エレナは付いて来なかった。振り返ると、皆を無言で眺めるエレナがいた。
エレナは村の若い女の子たちから、なんかちょっと浮いてる。皆あたしたちをチラチラ見てるけど、話しかけて来ない。嫌われてるわけじゃないんだろうけど。
「何売ってるんだろう。ね、ね。エレナも見に行こうよぉ?」
「行かない」
「??」
物欲しそうに見ていたエレナに聞いたけど、素っ気無く返された。もー。
「ディルナ。グリムさんからお使い頼まれてるんじゃないの?」
「え、う〜ん。そうだけど」
エレナがヒソヒソとした小声で怒ってきた。
「じゃあ、ちゃんとしなくちゃ!」
「う、うん」
見回すと、サトーを売ってくれるおじちゃんが今年も来ていた。サトーの行商おじちゃんは歩きでやって来る。
エレナはちゃんとしなくちゃと言うけれど。たぶんしっしょ〜は、サトーか蜂蜜が入った蜜瓶を買っとけば何も言わないと思うんだ。いつものおじちゃんが売ってるやつ。……の横の、ちっちゃい子たちが集ってるグルグル巻きの棒付き飴玉でもいいかもしれない。
「う〜ん」
腕組みして、グルグル飴を食べるしっしょ〜を思い浮かべた。
〈これは……いいぞ!!(血走った目)〉
すんごい似合ってるから、たぶん大丈夫。いつもの瓶と一緒に後で買おう。中に果物の入った一番安いやつも買っとこう。
しっしょ〜は物欲がないというか、
あたしの無駄遣いを怒るのはいつもサニーだけだ。
最近じゃあ、怒られないように値切って浮いた分で買い物するようにしている。サニーには目がないから、たぶんバレてないと思うんだ。
「お嬢ちゃん達。どうだい!」
「え、なになに〜?」
「あぁ!? ディルナ、今言ったばかりでしょ!?」
あたしたちに声を掛けた行商さんは、髭のおっちゃんだった。ガッシリとした身体つきをしていて、声も大きい。
「お、聞いてくれるか! ハッハッハ。じゃあ、こっちからいくか。これなんかどうだ? 王国南部の工匠街で作られた手鏡だ。魔法が掛かっていてな。映り込む顔をそれはもう美しく見せる効果があるんだ!!」
すごいっ! 鏡に映ったあたしから光が出てる!
「すんごい〜! エレナ見て見て〜!」
「ちょっと。いや、これ鏡の意味が全然ないじゃない……」
「あ、そっか」
「ハッハッハ、参ったなぁ。じゃあ、次はこっちはどうだい? 便利な髪飾りだ。自動でいろんな髪型にしてくれるんだ! おい、アイビー! 見せてやってくれ」
「はいはーい。お嬢ちゃん達、見ててね。こうやって――」
おっちゃんが勧めてきたのは、蛇みたいな形の髪飾りだった。奥さんが実演してくれるみたい。
「ほら!」
奥さんの紫色の長い髪の毛が、あっという間に頭の上ででっかいアイスクリームみたいになった。
「おお〜!?」
「これなら、まぁ……」
すごいけど。しっしょ〜から、この手の道具は買うなって言われてる。
「エレナ! これダメだよ。しっしょ〜が、勝手に身体を操るやつはよくないっていってたもん。危ないって」
「!? そう言われたらそうね」
「おいおい! そんな事言わずに何か買っていってくれよぉ」
おっちゃん達は悲しそうに背を縮めた。
「あ、いや、何も買わないとは……」
「ねぇ、おっちゃん可哀想だから買ってあげよ。これとかどう?」
「お金足りるの?」
「大丈夫、大丈夫」
並んでいる品から取り出したは、なんの効果もない銀色の髪留めだ。同じのが2つあったから、エレナとお揃いにしよう。
「はい」
「え?」
「これでお揃いだよ〜」
「……あ、ありがと」
「く、友達に買ってやるなんて、なんて優しい子なんだ。おっちゃんまけちゃうよ。お代は1個分でいい!」
「ちょっと! あんた!!」
おっちゃんが奥さんに怒られてる。なんか可愛そう。
そんな感じで、エレナと色々見て回った後。
最後にサトーのおじちゃんから買って、しっしょ〜のお買い物リストは埋まった。
「沢山買えたね〜」
なんかいつもよりも沢山買い物できた。おばばが貸してくれた大きな買い物かごが一杯になってしまった。持って帰るのが大変だ。
「ディルナ、あなた中々強かね……」
「そう?」
話し込むと皆なんかおまけしてくれるんだよね。
「あ、たいちょーだ」
たいちょーも市に来たみたい。隣には、偶に村で見るモジャモジャメガネが居る。
たいちょーは鎖だらけの剣をいつも持ってる。戦うときは、鎖が伸びるのかもしれない。こう、びょーんって。
「ディルナは、アラン隊長みたいなのが良いの?」
「なにが〜?」
「そ、その……。せ」
「せ?」
「言わせないで!」
あたしの心臓あたりを見たエレナが、急に顔を真っ赤にした。いや、なんの話??
「おっ? エレナじゃないか」
「ラニードさん」
たいちょーとお話ししていた片目だけメガネを掛けたモジャモジャ頭が、エレナの声に反応してあたしたちに近付いて来た。
「あー、君がレレリア様のお孫さんか。はじめまして、シュテロ村の警備隊長になったアラン=ドルオウルです。よろしく」
「あ、はい。エレナ、です」
「何回か挨拶に行ったんだけど。何時も用事でいないって聞いていて……。んで、君は?」
「う? あたし?」
モジャモジャメガネに付いて来たたいちょーが、あたしの方に手を差し出した。なにこれ? あぁ、握手か。
「こ、この子は! ばっ、おばぁちゃんの弟子のディルナです!」
「え、淫魔なのに?」
髪色を見たたいちょーがそう言った。たしかに、淫魔が人間の弟子になるのは珍しいかもしれない。
「この村じゃ普通です」
「……そうなのか。えーっと、まぁよろしく」
なんか、エレナが庇ってくれた。
「あは〜。よろしくねー」
促されるままにたいちょーの手を握る。
「あ」
「ん?」
エレナがなんか変な声を出した。けど、皆気づかなかったみたい。
「もう、ここに来て一月になるんだけど。中々会えない人もいるもんだな」
「そりゃそうさ。辺境の村って言っても200〜300人くらいはいるからね。僕ら貴族の感覚からしても、ここの人口自体は多い方さ。去年の冬の流行り病で見なくなったやつも居るけど。ま、この黒き森の近くにしては不思議と平和なところだよ」
「へー」
たいちょーとモジャモジャメガネが話し込み始めた。なぁんだ、挨拶したかっただけかぁ。
「ちょっと、ディルナ」
「ん、なに?」
2人を眺めていると、顔の赤いエレナが顔を近付けて来てヒソヒソ話を始めた。
「昼間から手を握ったりしたらダメよ! せ、精気を食べる気なんでしょうけど、大胆すぎるわ! せめて宿とかで……」
「精気を? なんで???」
別にお腹空いてないけど。
「ははーん。ゴホン。エレナくん、人外マスターのこの僕が。君の間違いを正してあげよう!」
「えっ!?」
エレナの声は、全然ひそめられていなかった。あたしたちの話が聞こえたのか、モジャモジャメガネが腰に手を当ててエレナを指さした。
「間違いって、何をですか……?」
「君は上級淫魔のディルナ嬢が精気を食べることを知っている」
「!!?」
「田舎には、よく勘違いしている人が居るのだが……。淫魔が精気を食べるって言うのは」
「言うのは……(ごくっ)」
「断じて、エッチな事ではない!!!!」
モジャモジャメガネの大声に負けて、ビクッとしたエレナが二歩下がった。
「そも、精気とはなにか。精気とは生き物が持つ何らかの活力と言われている。簡単に言えば、走ったりしたときに消費される何かさ。彼女達淫魔はかつて魔神と亜神の戦いが起こった頃に現れたのが起源とされていて、これはグリゴリア記の第16章536項8行目にその存在が記載されている。この辺りから彼女達が歴史の舞台にも現れ始めるんだ。しかも、精気を食べるという習性から最も効率良く増えた人間達に取り入るのは種として当然の選択だったんだろう。精気の味を聞けば、人毎に味も香りも違うとか。そんな選り取り見取りの美味しい種族に寄り添うのは至極自然な事だったんだ。例えば、酔って判断が付かなくなった人間ほど、狩りやすいものはない。もっと言うならば、人間に姿形が近いせいか、およそ排他的な人間であっても嫌悪感は抱きにくい。見目麗しいと言い換えても良い。いや、いっそドスケベだ!! しかも、確率は低いが淫魔と人間との間には子を成す事ができるんだ!! 尤も吸精に耐えられるような強靭な肉体を持っている事が大前提だがね。普通ならあっという間に衰弱死するだろう。そんな事もあって、淫魔の吸精と言うやつは色欲方向に考えられる事が多い。実際はそんな事はないのにな。だが!! 僕はそんな種族に敬意を評している。いやむしろ愛していると言っていい。そう。それも、そもそも――」
「あ、はい。そうなんですね」
モジャモジャメガネの止まらない早口を黙って聞いてるエレナを横目で窺う。
なんか目が死んでる……!?
モジャモジャメガネの一方的な話を聞き続けてしばらく経った頃。
村人達が騒ぎ出した。
「隊長殿ォ! カマド虫が出ました!!」
「なんですって!? どこですか!?」
「こっちです! こっちの家!!」
たいちょーが走っていく。
あー、カマド虫かぁ。おうちで出て来ると、サニーが急に慌て出すやつだ。
エレナとモジャモジャメガネはまだ話ししてるから、あたしも付いていこーっと。
「慎重にお願いします!! ほんとに! マジで頼みます!!」
「わ、分かっています! 離れててください!!」
たいちょーが慌てて駆け込んだおうちの中から、そんなやり取りが聞こえる。
その家の村人が怯えた顔をしながら、玄関から出て来た。
こっそり付いて来たあたしは、キッチン用の小窓からおうちを覗き込んだ。
丁度隊長がカマド虫を捕まえるところだった。いつも着けているメットを外すと、竈の中にそ~っと突っ込む。おぉ、サニーより上手い。
「入った!!」
「こっちです、こっち!!」
たいちょーはソロリソロリと早足で、おうちの中から出てきた。器用だ。
「転ぶなよ転ぶなよ」
「急げ!」
「わ、分かってます! 静かに!! 皆さん静かに!!!」
一番うるさいのはたいちょーだと思うんだ。
冷や汗をかいたたいちょーは、おうちから少し離れたところにある畑に入っていった。さっきまで村人達が大慌てで穴を掘ってたところだ。
「く……!」
村人たちが掘った穴にメットを落とした隊長は、必死な表情で元の家の方に走り寄って来る。
村を西と東で分ける目印の岩をジャンプして飛び越えて、頭からスライディング。
「くぅ……ッ!」
瞬間。
地響き、空白――。
爆風が吹き荒れた。
耳が馬鹿になったんじゃないかってくらい大きな音がして、穴から火柱が上がった。
「ひぇー!」
何回見ても慣れない。大きな音でおまたがヒュンってなる。
あれがおうちの竈に湧くと、普通のおうちは爆発して消えちゃう。サニーも年に何回か失敗してる。しっしょ〜が家を魔法で強化してなかったら、何回も建て直すハメになってるよね……。しっしょ〜が居るときは握り潰して終わりなんだけど。
「やったぞ! やったー! さすが隊長殿! ありがとうございます! ありがとうございます!」
村人達が歓声を上げる。
「は、はは。……次からちゃんと煤を落としてくださいね。掃除を、掃除をしてください……ちゃんと」
たいちょーの仕事は大変だ。
「ディルナ! 大丈夫だった!?」
「え? うん! たいちょーが頑張ってたよ」
エレナのところに戻ると、かなり心配された。しっしょ〜の修行で爆発したときよりは余裕だよ。
「あー、えらい目にあった」
「お疲れだな」
「他人事みたいに……」
「家じゃ絶対起きないからな。あれ」
「まぁ、貴族の家で起きたら一大事だよな……」
体についた土埃を落としたたいちょーが戻ってきたとき、あたりから地響きと聞き慣れた叫び声が響き渡った。
「今度は何だ?」
ビクッと身構えたたいちょーに対して、村人達はのほほんとしている。春には良くあるもんねぇ。
「あー。シュテロ村の辺りで、偶に大型の鳥獣が暴れる事があるんだよ。春だし、縄張り争いかな」
「えっ!? 鳥獣ってコカトラスとか? コカトラスなら、一人でもまだなんとか……」
「コカトラスってどんなやつだっけ?」
「ほら、白くて人の背丈よりも大きい鳥のさ」
「ん、肉食の白いやつか。いや、もっと大型のやつで鱗が青光りするやつだよ。なんて言ったかなぁ。ゼレバルスだったっけ? まぁ、何でかアイツラは村には手を出さないんだけど。縄張り争いかなんかで、騒ぐ事があるよ」
「そ、そうなんだ……。え、コカトラスよりでかいの……?」
「そうそう、3倍くらいあるかな。いざやって来たら、我らが隊長殿にお願いするしか無いな! はっはっはっ!」
「ははは。3倍……嘘だろ」
たぶんモジャモジャメガネが言ってるのは、しっしょ〜が偶に肉をあげてるアホの鳥が成長した飛べない鳥だ。しっしょ〜の匂いを覚えてるから、あたしたちには手を出してこなくて賢いんだよねぇ。
王都にいくときに乗っていくんだ。走るのがすっごく速いから、しっしょ〜が便利扱いしている。
しっしょ〜が乗ったときだけは、ご飯にされる前のサニーが飼ってる鶏みたいな顔になる。ちょっと面白いやつだ。
「おーい! 炊き出しだ!」
「この村は飯もくれるからいいよなぁ」
「おい、早く行こうぜ!」
きのこの匂いがあたりに漂っている。
黒き森の鍋を食べれば、行商たちの疲れも吹き飛んじゃうらしい。
■
皆がご飯食べてるとこ見たり、おばばにお土産を持っていったりしているうちに、あっという間に日が暮れた。
幌車の行商たちも夜は店を片付けて、広場には篝火が焚かれている。村の偉い人たちと行商の人たちがお酒を飲むんだ。
しっしょ〜が隠れたまま輪に入っていって、酒瓶をくすねて帰って来ることが偶にあるやつだ。皆酔ってて気づいてないみたいだけど。
楽しそうなあたりを浮んで眺めていると、エレナが話しかけてきた。
「ねぇ、ディルナ。あの、えっと。もう一日泊まっていく?」
「え! いいの!?」
もう時間も遅かったから、自分から聞こうとしてた。手間が省けてラッキー。
「う、うん。なんか私、勘違いしちゃってたみたいで。ごめんなさい」
「う? いいよぉいいよぉ」
なんかエレナが謝ってきた。昨日からなんかおかしかったやつかな。でも、それってなんのこと? 今まで何回も聞いたけど教えてくれなかった。謎だ。
「泊まる……? ディルナは、どこに住んでいるんだ?」
「え? 森の奥の方だけど。……!?」
質問されたのでとりあえず答えた。振り返ると、質問してきたのは見回りで丁度あたしたちの後ろに居たたいちょーだった。
〈村人とは余りベラベラ喋るなよ。特に家の場所なんかはな。ちゃんと誤魔化しておけよ〉
「ひえっ」
「おい、急にどうしたんだ? 大丈夫か?」
しっしょ〜の怖い顔が浮んできて、汗がダラダラ流れた。
「隊長さん! 大変です! セレニアの家の子達が帰ってこないんです! 見ていませんか!?」
深く聞かれる前に、男衆の人がたいちょーに迷子探しを依頼してくれた。た、助かった〜。
「えぇ!? 村の中を見回ってましたけど。見なかったな。俺も探しましょう」
セレニアさんの子どもと言えば、昨日村の入口で会ったトシ達だ。一応教えとこう。
「昨日あたしが来たとき、アイツラは森の入口で遊んでたよ〜。肝試しだって」
「子供達だけで森の中に!?」
「何ですって!?」
「なんで止めなかったの!!」
一緒に来たおばちゃんがすごい形相で掴みかかってきた。
「うわぁっ、止めた。昨日は、止めたってば!」
「ちょっと。ちょっと、落ち着いてくれ! ディルナは関係無いでしょう!」
たいちょーが、すごい力で掴みかかってきたおばちゃんを止めてくれた。
「余所者には、森の怖さが分からないんだ……」
「いや、余所者って……」
「余所者だ」
「あの淫魔も森の魔物だ……」
たいちょーやあたしを取り巻いている雰囲気が急に変わった。
「ちょっと、皆待って!」
「「余所者だ」」
エレナがあたしたちを庇ってくれたけど、声は止まらなかった。でも、そんな変な空気を一掃する声が響いた。
「止めないか!!」
篝火を焚いている広場から出てきたのは、白い髭を生やした杖を突く小さなおじいちゃんだった。
「長老様」
「村の皆がそのような様子では。村を見守って下さる『英霊様方、始祖様方』に、儂は申し訳がたたん!」
「……」
「誰かのせいにするよりは。まず、子等の無事を確かめるのが先じゃ。まだ、何かあった訳では無いしのぉ。隊長殿も協力してくださるか?」
「え、ええ。もちろん!」
「よし、ほら。はよぅ行かないか! ほれほれ、行け行け」
集まっていた村人達はおじいちゃんに追い立てられて、村のアチコチに散っていった。
「……エレナはレレリアの所へ行って、場所を占ってもらえんかのぅ」
「は、はい! すぐに!」
エレナもおばばのところへ走っていった。
「それと、お嬢ちゃんは夜目が利くじゃろう。道も詳しかろう。すまないが、森を見てもらえんかの。隊長殿も危険じゃが、森について行ってはもらえんか?」
「……うん」
「分かりました。行こう」
小さいおじいちゃんに促されて、たいちょーと子どもたちを探すことになった。
■
【tips】
カマド虫:竈に湧くからカマド虫。火を食べる蛾の幼虫が稀に変異する姿。壁等にこびり付いた煤を食べ、体内でマジカルニトロ化合物を生成する。黄緑色に異常発光する虫。ちょっとの衝撃ですぐ死ぬ。ちゃんと煤を落として掃除しましょう。成長した希少個体から抽出した薬は強心薬として取引される。