辺境の村で惰性的なスローライフを過ごす、かつて準廃だった闇魔法使い系の女の話 作:異界の土饅頭供養
■
あたしは暗い森の中を飛んでいた。
「こっちであってんのかな?」
「あたしも分かんないよぉ」
たいちょーがあたしに付いてきていた。たいちょーは松明を持っている。長く燃える魔法が掛かったやつを行商のおっちゃん達が貸してくれたみたい。
森に入ったけど、悪ガキ達の気配は中々引っかからなかった。もしかしたら、何処かへ隠れているのかも。
「ディルナの家はどのへんなんだ?」
「……」
「なぁ、教えてくれよ」
たいちょーは次々にあたしのことを質問してくる。
「教えな〜い」
「いや、なんでさ?」
「……んー結構奥の方だよ」
「黒き森は小国1つ分くらいあるのに……アバウトすぎるだろ」
「別にいいじゃん」
「子供達を探すのに使えるかも知れないだろ? ディルナの家に向かったんじゃないか?」
「子供の足じゃ無理だよ」
「そうなのか。なぁ、普段は一人でどうしてるんだ?」
「……」
〈村人とは余りベラベラ喋るなよ〈村人とは余りベラベラ喋るなよ〈村人とは余りベラベラ喋るなよ〉
う〜。質問やめてくれないかな。質問される度に、しっしょ〜の怖い顔が考えに浮かんでくる。冷や汗が止まらない。
「まぁ、言いたくないならいいけどさ。でも、森で一人だと大変だろ? もし、困ったことがあったら言ってくれよ?」
「今の所はないよぉ」
「そうか。なぁ――」
適当に誤魔化しながら進んで暫く経った頃。
「ディルナ!」
「あれ、エレナ?? おばばのおうちに行ったんじゃ?」
エレナがあたしたちを追いかけてきた。村からすると、結構深くまで来たんだけど。もしかして、エレナって足がすんごく速い?
「急いで追いかけてきたの!」
「あ、その長靴」
エレナの履いてる長靴からは、とても強い魔力を感じた。
「形見だよ。お母さんが昔に
「ふ〜ん」
使い古されたような長靴だ。昔おうちにあった気がする。
エレナのお母さんは偶にしっしょ〜のところにお茶をしに来ていた。その時に、しっしょ〜があげたのかもしれない。
「よく俺たちが見つけられたな?」
「えっと。説明するより、見てもらったほうが早いです」
たいちょーの質問にエレナは提げたポーチから銀の器を取り出した。たぶん、沢山の物が入るポーチだ。
『満たせ』
器を両手で持ったエレナが魔法を使うと、銀の器は不透明な液体で満たされた。
『示せ』
銀の器が凍りつく。中身も凍ったけど、パキッと音が響いてひび割れた。
「大体このひび割れた向きに、子供達が居るはずです」
「おぉ、すごいな。俺こんな魔法初めて見たよ」
「あれ? おばばが占ってくれたんじゃないの~?」
「こっちのほうが早いって言われたの。……あと、ばっちゃんが――」
「“何事も修行だよ”でしょ」
「あはは」
エレナと同時に言い、少し驚いたエレナと笑いあった。しっしょ〜の口癖が、おばばに移ったのかもしれない。いっつも言ってるもんね。
「ホントにレレリア様のところで修行してるんだな」
あ、不味い。たいちょーが居るのを忘れてた。
「あ〜、ホントにいたぁ!」
エレナの占いを何回か繰り返して、ようやく悪ガキ達を見つけた。皆木の上でちっちゃく纏まっている。
「お前ら、大丈夫か!?」
「隊長さんだ!?」
「た、助かったの?」
悪ガキ達は自分達でどこまで行けるか試そうとしたらしい。ところが、昼間の地鳴りと叫び声が聞こえて足が竦んでしまったとか。
「ヒデが怪我したんだ」
「見せてみろ」
木から子供たちを木から下ろしたたいちょーが、怪我をしたヒデの手当を始めた。
「なんだコレ……?」
「ん?」
ヒデの膝にできた切り傷は黒く膿んでいる。結構時間が経ってるかもしれない。
「アラン隊長、まずいです。早く治療しないと。ここの森で怪我すると化膿したり腐ったりするのが早いんです」
「じゃあ、急いで村に戻って――」
ちょっと不味いかもしれない。
「しっ!」
「ディルナ?」
「皆木にもう1回登って! はやく!!」
「わ、分かったわ」
たいちょーたちは自力で、子供たちはあたしが浮かして高い木の上に運んだ。木は大きくて、皆が乗ってもかなり余裕がある。
すぐ下の地面を影がわさわさと駆けていく。影はあっという間に駆け抜けて行った。
「ふぅ〜。骨喰ネズミだよ。危なかったねぇ」
「骨喰ネズミ?」
「地面にいる生き物を集団で骨も残さずに食べ尽くす鼠ですよ。牛とかでも1分掛からずに消えちゃいます」
「えっ、齧られるとかじゃなくて? 消えるって、えっ」
「腐肉に集まるんだけど……。腐った血の匂いに釣られたのかもねぇ」
夜に地面をものすごい勢いで走り回ってるネズミだ。目が悪いから上に逃げとけば、とりあえず大丈夫。
「うぅ……」
怪我をしたヒデが唸ってる。仕方がない。
「ちょっと見せて」
「ディルナ、なんとか出来るのか?」
「うん、えーと」
あたしが今使える魔法は、エレナみたいにすぐに役に立つもの自体は覚えていない。怪我を治したりとかはできない。
〈要は使い方だよ使い方。魔法に使われるな。魔法を使いこなせ〉
しっしょ〜の言う、魔法に使われるって言うのは良く分からないけど、たぶんしっしょ〜ならこうすると思うんだ。
ヒデの膝に手をかざす。
『アルケラルポイズン』
「毒魔法!? おい、なんで……!?」
しっしょ〜が言うには、怪我をすると見えないちっちゃい生き物たちがわちゃわちゃと集まってくるものらしい。この子の傷にいるちっちゃい生き物を何となく殺す。あ、なんか手応えがあった。
暫くして、ヒデの膝の傷が元の肌色と赤に戻った。
「ディルナすごい!」
「戻った……! こんな魔法の使い方見たこと無いぞ。はぁ……やはり、レレリア様は凄いんだなぁ。よし、あとは止血だ。ヒデ見せてみろ」
なんか、おばばが褒められた。だ、大丈夫かな……。話変えとこう。
「えーと。朝まで待とうよ。たぶん夜行性の獣が徘徊してる。人間の匂いが森に残ってるから、少しざわついてるよ」
人間には夜の森は無理だ。人間より小さいけど、人間じゃ敵わないやつに会ったら終わりだ。付いてくる小さい黒猫とかね。
「ざわついてる? 虫一匹鳴いてないけど……。さっきのネズミみたいなのが居るなら、早く戻ったほうが」
「アラン隊長。今はディルナに従ってください」
「……わ、分かった」
エレナが言ってくれたお陰で、このまま揉めずに待機できそうだ。今日はしっしょ〜が居ないから、あたし一人で頑張らないといけない。
夜が明けるまで待つことになった。
■
太い枝の上で皆で寄り集まって、眠れない夜を過ごした。この森は木がおっきくて助かる。
たいちょーが持ってきた松明も途中で燃え尽きた。魔法が掛かっていても、一晩中は無理だったみたい。
木々の間から見える空が明るくなってきたけど、雨が降り始めた。
「寒い……。おなかすいた……」
「くそ、外套を持ってくるんだった」
「これ、使ってください」
「エレナ。ありがとう」
悪ガキ達も震えていて、エレナがたいちょーへ身に着けていたケープを差し出した。たいちょーが子供たちに被せる。
「あと、ごめんなさい。このポーチ食べ物は入れられないんです。私も慌てて準備してて」
「いや、いい。ロープが入ってただけでも助かってる」
「たいちょーは剣と松明以外、何にも持ってきてないもんね」
「うぐっ」
たいちょーは流れ矢が刺さった兵士みたいに、がっくりと頭を下げた。ちょっと面白い。
「ディルナは大丈夫?」
「あたしは平気~。淫魔だから」
「そう、少し羨ましいわ」
「そうかな~?」
エレナ以外は皆軽装だった。普通、この森に長く入ろうとする人間なら、もっと装備を整えてから入る。人間は不便だ。
「もう少しだから耐えろ。村に帰れるからな」
「う、うん」
震える子達をたいちょーが励ます。
明るくなってきたから、そろそろ大丈夫だと思うんだけど。
「ディルナ。そろそろ移動しても良いんじゃないか?」
「うん。そろそろいいかも」
危ない気配はとりあえずない、かなぁ。
あたしは飛んで逃げられるからいいけど、子供たちは無理だ。
「よし、俺が先に下りて確かめる」
たいちょーは全然疲れてなさそうな動きで、地面に下りて行った。
「大丈夫みたいだ! 順番に下り」
下りて辺りを確認してるたいちょーがこっちを見上げた時、凄まじい地響きが森中に響いた。カマド虫が何匹も爆発して、地面が砕けるような音だった。
「な、なんだ!?」
「また、縄張り争いかしら……」
それはあっという間に収まったけど、隠れていた大勢の鳥たちが森から飛び立って行く。
魔力だけが高まった状態で、森が静かになった。少しだけ不安だ。
「いや、これはちょっと。俺この森を舐めてたかも……」
たいちょーの独り言が、静かになった森に消えていった。
あたし達は村の方へ歩き出した。子供たちを連れているせいで進みは遅かった。
浮べるあたしと違って、皆は木の根だらけで歩き辛そうにしている。
「ヒデ、頑張れ」
「……うん」
怪我をしたヒデをたいちょーが背負っていた。恐いだろうけど、わんわん泣く子はいない。皆一晩でこの森の恐ろしさが分かったみたい。
夜でもこの森を庭みたいに歩けるのはしっしょ〜だけだ。あたしも暗い夜に黒猫に会ったら逃げるしかない。
「もう少しです。そろそろ村との境界ですよ」
出発してから結構時間が経って、先導するエレナが振り返った。
「なんだ……!?」
森がざわめいて、進んでいる方向に大きな壁が現れた。
「いっ、怪鳥!?」
「あ」
村のどの建物よりも大きな体。
ギザギザ歯の生えたクチバシ。
黄色い目。
青と緑の混ざった鱗。
被膜の付いた飛べない羽に長い尾羽。
「ゼレバルス!?」
「こいつがラニードが言ってたやつか!? いやいやいや、デカすぎるだろ!!」
「グルアァァァツ!!」
あたしたちを見つけたゼレバルスの瞳が縦に割れた。
あたしは皆の前に飛び出す。
「ディルナ!」
「大丈夫!」
額に十字傷がある。多分だけど、いつもしっしょ〜が乗ってるやつだ。
「お〜い! あたしだよ! あたし!」
「グルアッ!!」
目が血走っていて息が荒い。
あ、駄目だ。この子、なんか普段と様子が全然違う。あたしのことが分かっていない。
「だ、駄目そうだぞ……?」
「う〜ん。不味いかもぉ」
「どうす――」
太い幹の木を破壊しながら、ゼレバルスが突っ込んできた。
「ガアッッッ!!」
「逃げろ!!」
「うわああ!」
皆散り散りに逃げ出した。
あの子にとって、森の木は何の障害にもならないみたい。
「エレナ! ヒデを頼む!」
「え!? あ、分かりました!」
エレナの方に回り込んだたいちょーが、子供たちを預けてゼレバルスの前に飛び出して行った。全然違う方向に逃げたはずなのに。本気を出したらすんごく速いのかも。
「アラン隊長、やっちゃえー!」
「がんばれ〜!」
「パンチだ!」
一人だけゼレバルスの前に立つたいちょーを、太い根っこに隠れながら皆で応援する。
「無茶言うな!! お前ら今のうちに逃」
「グルッ」
「クソ!」
ゼレバルスがたいちょーを啄こうとしただけで、地面が抉れて土が飛び散る。
飛び散った破片を鞘に入ったままの剣で、たいちょーが弾いていく。
「巨体のクセに速すぎる!」
「グルアッ」
何回目かで、クチバシとたいちょーが振りかぶった剣がぶつかった。
「ハッ!」
「ガッ!?」
たいちょーが吹き飛ぶかと思ったら、ゼレバルスが首を仰け反らせて頭を振ってる。
「これでもダメかよ……」
「クルルゥ!」
ゼレバルスは翼を広げて、たいちょーを威嚇するように笛のような声で吠え始めた。逆に怒らせてない?
もうこうなってしまったら。剣で倒してもらって、しっしょ〜の晩御飯にして許してもらうしか無い。さっきの見てる感じだったら、たいちょーが剣を抜けば勝てそうだった。
「たいちょー! もう、剣でズバズバやっちゃってぇ!」
「――んだよ……」
「?」
暴れまわる音で声が聞こえなかった。子供たちもあたしに便乗して叫び始めた。
「アラン隊長! 今の剣でやれば、絶対勝てるって!」
「抜けー! 抜けー!」
「がんばれー!」
「だから!! 呪いで抜けないんだよ!!!」
「えぇっ!?」
あたしたちに衝撃が走った。剣を持ってる意味ないじゃん!?
「クルァ!」
「い゛っ!?」
怒ったゼレバルスがたいちょーを啄くのをやめて、鋭い脚で飛び掛かった。避けたたいちょーの後ろにあった大木がへし折れ吹き飛ぶ。破片が飛んでいった先にあった木々をなぎ倒していく。
「じ、冗談だろ……」
「クルルル、カァッ!」
「く、はやっ!? ぐっ……!」
さっきよりも速くなったゼレバルスが、蹴りを避けて体勢を崩したたいちょーに後ろ回し蹴りを当てた。
「あぁ!?」
「たいちょー!?」
吹き飛んだたいちょーが木をへし折りながら、地面に転がった。
「不味いよ、ディルナ!」
うーん。
あたしが殺しちゃったら、かなりきつい折檻コースが待ってる。なんとか無力化しなくちゃ。
ただ、なんか忘れてる気がするけど。でも……よし、食べよう。
鳥の前に飛び出す。
「もう、どうなっても知らないからね!」
『摘み食い』じゃなくて本気の『食事』だ。しっしょ〜にしか今までしたことがない。両手を胸の前で合わせた後、ゼレバルスにそっと向けた。
『いただきます』
「ガアッ!?」
あたしの登場に驚いたゼレバルスは、立ったまま痙攣した後、あっさりと目を瞑って横向きに倒れる。
「ゲホッゲホ。嘘だろ。あんなに呆気なく……? ほ、ホントに倒したのか……?」
剣をついて立ち上がるたいちょーの声が聞こえた。
それよりも、全然美味しくなかった。
「おえ……」
立ってられなくて四つん這いになる。満腹になったけど、なんか気持ち悪い。
ほんとのほんとに美味しくなかった。しっしょ〜の精気に比べたら、どうしようもないくらいに美味しくなかった。満腹なのにゲッソリとする感覚だ。人間の料理じゃないけど、ゲロ吐きそう。
「グルォ……!」
「まだ、生きてる……! ディルナ逃げて!」
エレナの叫び声で顔を上げると、鱗の一部が赤色に変色して蒸気を吹き出しているゼレバルスと目が合った。あ、あれ? 吸い切れなかった……? そんなにお腹すいてなかったせいなの?
〈ああ、なるほど。お前の吸精でスタミナポイントがゼロになり、“衰弱”が付くと他にもデバフやバッドステータスが数個発生するのか。んー、エネミーの中にはデバフがトリガーで行動パターンが変わるやつが居るから気をつけた方がいい。まぁ、その辺にホイホイとはいないがな〉
「あ」
しっしょ〜の長い話を突然思い出した。
再びの突進。
まずい。
「待って。今、満腹で動けな――」
「あーくそ。今日はのんびりしようと思ってたのに。ホントにもう。あーイライラする」
ディルナのことを考えると無性にイライラした。
何と言うか。ディルナの事と言うよりは、自分の教え方が下手という事に対してな気もする。
「あー、駄目だ。別な事を考えよう。えーと、別な事別な事」
私の家から村までの道のりは、歩いて一時間ちょっとくらいだ。全力で走ればほぼ一瞬で着くけど……。それはそれで疲れるから嫌だ。
本来はもっと距離があるが、このアバターに宿っているパッシブスキルのお陰で7分の1に空間が捻じ曲がっている。ゲーム中は自身の移動速度が7倍に上がるスキルだったが、現実になって解釈するには若干複雑な魔法となってしまった。元ネタは、なんかのおとぎ話によく出てくる魔法だったみたいだけど、中々思い出せない。
「元ネタ何だったっけなぁ……」
歩きながら考え事を続けていると、ちょっと違う記憶が湧いてきた。
このパッシブスキルが実装された経緯だ。
いらんスキルが実装された根本的な問題としては、ゲーム初期にコンテンツ消化速度をなんとかコントロールしようとした運営による移動距離と移動速度の調整失敗が原因だ。
秀麗だがコピペしたような広大なフィールド、無駄に足の遅いプレイキャラクター。そのせいで、騎乗できる生き物は軒並み高値で取引されていた。
最終的にユーザーの移動に対するストレスと、無駄に広いと馬鹿にされがちな状態を何とかするため。新任のプロデューサーが、自身の存在感を出すために目玉イベントと称して移動速度上昇スキルを追加した。
しかし、突然のイベントスキル追加に騎乗できる生き物の市場価格は軒並み暴落し、逆にストレスが増加。
“めっちゃ速く移動できるからこのゲーム爽快でしょ?”と移動ごときで広告まで打ち出す始末。人様のストレスを逆撫でした結果、炎上。発言した当時の新任プロデューサーは偶々七つ運用されていたゲームタイトルのうち、最も過疎っているものへ敢え無く左遷された。
世に言う“めっちゃ速く左遷された事案”である。問題を解決しようとする努力は買うが、普通に移動速度を調整すれば良かっただけの話である。あとは、わざわざ煽るな。
ちなみに、その後の調整で乗り物も速くなったので市場の荒れは多少戻った。
「そういや、どっかにあった気がするなぁ」
スキルの習得イベントで使う長靴がロッジのどっかにあったかも知れない。見たら元ネタを思い出すかも。今度探してみよう。
「あ、そうだ。“手羽先”どうしてるかな?」
そうそう、“手羽先”だ。
乗り物用の生き物で思い出したけど、私も飼っている。王都に行くときのアッシー君だ。
移動短縮があるとは言え、自分の足で長距離を行くのはしんどい。そんな理由で、私は森のエネミーを
「しばらく、見てなかったなぁ。まだ生きてるかな」
なんせこの森に放し飼いだ。偶に湧く獣の最上位個体に食われて死んでいる事もある。トンビが鷹を生む現象で、そのへんの雑魚からゲーム時代に居たエリアボスみたいなのが誕生するからなぁ。
村へ馬鹿弟子を探しに行くついでに、ちょっと様子を見に行ってみよう。
◇
「なんか荒れてるなぁ……」
“手羽先”が普段いる方向に向かうと、何か周辺が荒れていた。巣の周りは無事だったから、ここに君臨するボスとしての威厳は保っているらしい。
「あー、春だからかなぁ」
春になると、繁殖のためか結構森が荒れることが多い。鳥ごときの習性なんて知ったこっちゃないが、年に2、3回くらい元の世界で食べたダチョウ卵くらいには美味しくない卵を生む。サイズはダチョウの卵の5〜6倍くらいあって食いでが――。いや量はあるけど……旨くはないな。ぶっちゃけ、サニーが料理したとしても食いたくはない。
偶に味を忘れてて拾ってきてしまうが。拾ってきたときはマジで嬉しいのだが。困惑したサニーが料理し始めたところで、違和感を何となく思い出す。ここ50年で4回くらい。
美味しくない記憶ってどうして残ってくれないのか……。
「“手羽先”ぃぃぃ!! ……あれ?」
呼んだらいつもすぐ来るんだけど。
何回呼んでも来なかった。……死んだか?
「ぴひゅ〜〜〜!!」
辛うじて鳴る指笛を吹く。ぶっちゃけ、あんまりしたく無い。最終手段だ。
あんまりしたくないのは、馬鹿弟子のディルナに下手くそって笑われるからだ。何年経っても上手くならない。
それでも“手羽先”は来なかった。
うーん。まじで死んでるかなぁこれ。
巣にはでかい足跡が残っていた。
「“手羽先”に勝ったやつが居るかもなぁ……」
ついに、
森の中は分かりやすく荒れていた。
「どうしてこう、破壊して歩くかなぁ。マーキングか?」
木々が折れ散らかされている。まぁ、この森は多少荒れてもワンシーズンで元に戻るくらい生命力に溢れてるから、大した影響はないんだろうけどさ。
「お?」
「グルルァ!」
あ、何か聞き覚えのある声がした。ああ、良かった。
「“手羽先”っ!」
死んでたと思ってたけど、無事だったのが嬉しくて駆け寄った。
「――動けない……」
すると、馬鹿弟子に襲い掛かる覚醒した“手羽先”が居た。
……は? 殺す。
「“手羽先”!!」
「クルゥッ!?」
“手羽先”はディルナにぶつかる直前で、空中に翻って私に向き直った。
「何してるんだ……?」
「しっしょ〜……」
いつも元気なディルナがどこかゲッソリとして萎れている。服も汚れている。
「クルルァッ!?」
「は?」
警戒するように、手羽先が私を威嚇した。おい。主を間違えるなよ、家畜。
眼の前が真っ赤になった。
「‘’手羽先‘’ッ、吠えるな!!」
「グルッァ!?」
自分で思った以上の声量が出た。調子に乗ってるボス鳥に吠えかける。
「ディルナはな! お前ぇの知らねぇとこで、毎日魔力トレーニングで過酷な修行してんだよッ!」
爆発したり、瀕死になったり、干からびたりしてるんだ!
「お前は毎日黒い森で、魔力ひり出して。……修行してんのかッ!?」
のうのうと、与えられる餌を喜んで食べる家畜ちゃん風情が!
「魔力出して、修行してねぇやつが吠えるなっ!?」
「グルッ!? クルルルゥ……」
“手羽先”が羽で頭を覆って伏せた。甘えた声を出す。今更甘えたってお前……。
しかし。あー、叫んだら、なんかすっげぇスッキリした。
言いたいことを言ってる途中で、なんか清々しい音楽が脳内で再生された。んー、なんか既視感がある。昔見た何かの作品だったかもしれないが、直ぐには思い出せなかった。……まぁいい。
「しっしょ〜……」
「おい……。ディルナ、おい!」
抱きかかえると、ディルナは満腹そうな顔でイビキをかき始めた。
「すぴー、すぴー」
「……」
え。心配して迎えに来たんだけど。何で寝てんのこいつ?
「あ、あのー。すみません。あなたは何方様ですか? ……あ、申し遅れました、俺はシュテロ村の警備隊長のア」
「ふん」
「ラ、くぁwせdrftgyふじこlp……」
警備隊長が近づいてきたが、デコピンで軽く脳を揺らせて気絶させる。隊長は3メートルくらい飛んだ後起き上がらなくなった。あー、ビックリして加害してしまった。
というか、ディルナは何で村人と一緒なんだ。頭巾はどうした。いや、サニーが知らないはずもないか。……まぁいい。
「アラン隊長!? なんくぁwせdrftgyふじこlp」
「どうしくぁwせdrftgyふじこlp」
「お前妖精せくぁwせdrftgyふじこlp」
なんか見覚えのあるガキ共もデコピンで沈める。たぶん明日の朝には忘れているだろう。
「グリムさん……。助かったんですけど。なんか……ちょっとあんまりです」
悲痛な顔のエレナが此方へ声をかけた。
何が??
◇おまけ
気絶した奴らは全員村へ送り届けてやった。とりあえず入口に積んでおいた。後はエレナが何とかするだろう。
しかし、なぜ手羽先に襲われていたのか、結局のところ謎だ。手羽先には村を襲うなと言い聞かせていたはずなんだけれど。まさか忘れたのか……? まぁ、また覚えさせればいいか。
ディルナの事もあって、少々気がそぞろだったかも知れない。
送り届けてやった奴らには、普段しないミスで顔を見られてる。覚えていてもらっても困るよなぁ。シュノーケル着けてたから顔自体は見られてないが……。是非とも忘れてくれ。人間の脳は意外とすぐ忘れるんだ。私が保証する。
「しっしょ〜……」
「よいしょっと」
寝言を言う背中の重さを確かめる。
ピンク頭の馬鹿弟子は、何をしても全く起きなかった。まるで冬の冬眠に戻ったようだった。
「はぁ。デカくなったよなぁ」
「すぴーすぴー」
頭は空っぽのくせに、図体だけデカくなりやがった。前は背中にすっぽりと収まるサイズだったのに。
背も追い抜かれてしまった。
アバターの私は成長しないからだ。いや、まぁ、できないんだけど。……むしろ退化してね?? そんなはずは……ないよね?
「はぁ……。そろそろ大きい服を買ってやるか。気に入るといいんだが」
何度か買い与えようとしているのだが、ディルナは昔に与えた服を無理やり着続けている。気に入ってくれているのは嬉しいのだが。そのせいで、パツンパツンのどすけべオーバーオールと化しているのは早くなんとかしないといけない。……かも知れない。
今度王都に行った時に買ってやるかね。まず、脱がせて試着をしてもらうところから。
「やれやれ……」
脱ぐのも嫌がるくらいだ。先が思いやられる。
しかしながら、最初に大きめのサイズを買ったあの時の私。英断だったよ。
「えへへ、もう食べられないよぉ……」
遠い目をしながら昔の自分に語りかけていると、ディルナが身動ぎした。
人間のスタミナ吸い放題のアホみたいな夢でも見てるんだろうな。
「うん。そうだな、夏には行こう」
今年の予定の算段をつけながら、私は帰路についた。
手羽先「すぴー、すぴー」
ドンッ! ドンッ! ドドドドッ!
手羽先「ビクッ!? キョロキョロ」
ズオォォォ……(強大な気配が怒りを纏って迫ってくる音)
手羽先「ゾクゾクゾク……」
バクバクバク(何故か止まらない汗と心臓の鼓動)
黒の森の一部を支配する手羽先は、余りに強大な気配を感じて逃げ出した。
手羽先「クワッ(何かを。何かをしないと殺される)」
村の方へ行けば主は機嫌を直すはずだ。
その途中で、森に居るはずのない矮小な人間に出会った。
手羽先「グルルァ!」
手羽先は、かつて人間の集落に行く途中にいた人間を蹴散らしたときのことを思い出した。
あのときは、主が褒めてくれた。
手羽先は人間を狩ることに決めた。
しかし、弱いと思った人間は中々強かった。
本気を出そうかと思った所で根こそぎ気力を奪われたかに思ったが、突如自分でも信じられないくらいの力が湧き出した。
手羽先「クワッ」
雑魚を食い殺して、主に供えようと思った。
襲いかかった途端、突然主がブチギレて出てきた。
手羽先「うそん……」