この話を読まなかった人用にあらすじは次話の前置きに書いておくので。
俺は屋上へ続く階段を上っていく。昼は食事用に開放されているが、放課後は施錠されていて出られない。
…自分の不満を曝け出すのにはもってこいの場所だ。
ここなら仮面を外しても普通はバレないだろう。そう、普通ならな。
俺は気配を殺して屋上へ通じる階段の中ほどで立ち止まる。上には人の気配。床に何かを置く音が聞こえた。
「あーウザい」
ビンゴだ。あの櫛田が発したとは思えないほど低く重い声だ。俺は腕時計型録音機のスイッチを押して録音を開始する。
「マジでウザい、ムカつく。死ねばいいのに…」
呪詛の言葉を唱えるように、ぶつぶつと暴言を呟く。恐らく今の櫛田の感情は憤怒に塗れている。
「自分が可愛いと思ってお高くとまりやがって。どうせアバズレに決まってんのよ。あんたみたいな性格の女が、勉強なんて教えられるわけないっつーの」
堀北を罵倒する櫛田
「あー最悪。ほんっと、最悪最悪最悪。堀北ウザい堀北ウザい、ほんっとウザいっ」
あれがDクラス1の人気者…ね。学校1醜いの間違いじゃないか?
ガンッ!
櫛田が扉を蹴る。夕暮れ時の学校では嫌なほど音が響き渡る。
もういいか。俺は録音をオフにして姿を現す。
「やぁ、櫛田さん。そんなに取り乱してどうした?」
俺はいつもの笑顔で堂々と姿を見せる。
「ッ!?」
櫛田は俺のことを見て心底驚いたかのような、呆けているかのような顔をする。
「…ここで…何してるの」
僅かな沈黙の後、櫛田が冷ややかな声で話す。
「原作主人公の代理さ。」
何いってんだ?コイツって目をしてるな。
「聞いたの…」
「聞いた。」
「そう…」
櫛田が階段を降りてくる。そして、自ら左の前腕を俺の首元にあてがい、壁に押しつける。いつもの櫛田とは比べ物にならないほど恐ろしい形相をしている。
「今聞いたこと…誰かに話したら容赦しないから」
とても脅しとは思えないほど、冷たい感情の籠もった言葉。
「もし話したら?」
「今ここであんたにレイプされそうになったって言いふらしてやる」
「酷い冤罪だ。」
「大丈夫よ、冤罪じゃないから」
そう言って俺の手首を掴もうとする。そこで俺は一切の容赦なく櫛田の腹に拳をいれる。
「ガハッ!?」
本気ではない。本気でやったら少なくとも3日は苦痛が生じるだろうからな。せいぜい6割位の力だ。
それでも格闘技を習得している俺からの突きだ。筆舌に尽くしがたい痛みが腹を中心に駆け巡っているだろう。櫛田も殴られるとは思っていなかったろうしな。予測していない痛みは予想以上に肉体にも精神にもダメージを与える。まぁ、これだけではすまないが。
更に俺は櫛田の髪の毛を強く握り、俺と櫛田の位置を変えて壁に叩きつける。櫛田が壁を背にして蹲る。
「ぐっ!?」
櫛田がうめき声を上げる。
「何…すんのよ!?」
櫛田は辛うじて四つん這いになりつつ俺を怒鳴ってくる。
「一つだけ疑問があるんだが…なぜお前はそんなに余裕でいられるんだ?」
今の俺に笑みはない。無表情。能面のような表情だろうな。
「はぁ!?」
櫛田が訳が分からないといった声を上げてくる。
「お前は俺に生殺与奪の権を握られているんだぞ?学級崩壊少女。」
…初めて櫛田が俺という存在を本当の意味で認識した。コイツ危機管理能力とかないのか?
「なんっで!あんたが!それを知ってんのよ!!!」
もう平常心じゃいられないようだ。
「そんなことどうでもいい。今大事なのは俺がお前の弱味を握っているということだ。」
俺は腕時計型録音機で録った音声を流す。
『あーウザい』
「!?」
『マジでウザい、ムカつく。死ねばいいのに…』
「…セ」
『自分が可愛いと思ってお高くとまりやがって。どうせアバズレに決まってんのよ。あんたみたいな性格の女が、勉強なんて教えられるわけないっつーの』
「消せよ!」
「何で?」
なぜ俺が櫛田の要求にはい、分かりましたと従わなければならないのか?
「…どうしたらその録音消してくれんの?」
どうやら冷静になってきたようだ。自分の立場をよく理解したようだな。
「2000万ポイントで消してやる。」
「そんなの持ってる訳ないでしょ!?」
櫛田が鬼の形相で睨んでくる。
「そうだな、じゃあDクラスの情報を毎週俺に渡せ。どんな情報でもいい。それと今知ってる他人の秘密も俺に話せ。誰かの秘密を知ったら随時俺にも知らせろ。何か情報を隠してたらこの録音は…どうなると思う?」
俺はあえて櫛田に疑問形で投げかける。こういうとき、明言はしない。相手が勝手に最悪の想定をしてくれるし、もしもの時はその時櫛田が1番やって欲しくないであろう形で暴露してやればいい。
「分かった…分かったからそれ消して」
「俺がこの録音を消した瞬間お前が約束を反故にするかも知れない。しばらくは消せないな。」
「じゃあ、いつ消してくれんだよ!」
「それはお前の態度と成果次第だな。」
「…」
今の櫛田は腸が煮えくりかえるほど激怒しているだろうな。俺に逆らえないということは実質奴隷みたいなものだ。
「あんたも本性を隠してたわけ?」
「別に隠してない。ただ周りが気づいていないだけだ。俺は役を演じているつもりはない。普段の俺も本性で、今の俺も俺の本性。」
…まぁ、姉さんだけは
「…」
「別によくあることだろ?友人と居るときの自分、家族と居るときの自分、恋人と居るときの自分、一人で居るときの自分、それらは全部同じ『自分』だが性格も態度も多少は変わっていく。
要は一緒にいる相手と合わせて相手が知ってる自分を魅せているだけだ。そこに本性なんてのは存在しない。」
「……」
この様子だと心当たりはあるようだな。
「とりあえず今日俺が見たことは
櫛田が腹をおさえながら歩く。櫛田が階段を降りる前に一声かけてくる。
「今はあんたの言うこと聴く…だけどいつか絶対にあんたのこと退学にさせてやるから。」
その目は憎悪と怒りに満ち溢れていた。
「出来るといいな。」
櫛田は舌打ちしながら階段を降りていく。
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櫛田が俺の視界から消えた後俺は俺の計画が成功したことに安堵した。
「何とか…なったな。」
俺は櫛田を駒にするためにまず加藤先輩たちを利用した。先輩たちは図書館で勉強しているので図書館で何か揉め事が起こったら俺に伝えてくれ、といっておいた。後は綾小路が櫛田の本性に気づく前に俺が虚偽メールをして櫛田との接触を阻止するだけだ。俺が綾小路の後を尾行するのはリスクが高いとしてこのような回りくどい計画にせざるを得なかった。
加えて今回の計画は得た物と失った物では圧倒的に後者の方が比率が大きい。というのも今回俺が失ったのはまずはポイント。先輩方から情報提供してもらったためポイントは全員に5万ポイント払った。二つ目は綾小路からの信頼。正直これが一番キツイ。虚偽情報を綾小路に伝えたため、綾小路は俺に不信感を抱き以後警戒するだろう。後は時間それと大きなリスクも背負った。このリスクはこれからも背負い続ける必要がある。これだけの犠牲を払って得た物とはこちらを憎む駒ただ1つ。
…んー、しんどい。それでも俺がこの計画を決行した理由は大きく分けて2つだ。
1つはDクラスの内情に詳しいかつ、ある程度賢い駒が欲しかったから。当然だが俺がこの学校で最も警戒しているのは綾小路清隆だ。綾小路の動向を探るのはAクラスの俺では難しい。だからDクラスの人間を引き込みたかった。だが、ただDクラスってだけではダメだ。
2つ目は容易に俺を裏切らない人物を駒にしたかったから。櫛田から見る俺の好感度はマイナス8000万とかだろうな。それでも櫛田は俺を裏切れない。俺を裏切ったら櫛田が最も隠したい秘密を周囲にバラされてしまうから。だがもしも俺を退学出来るような状況に出来たら喜々として裏切って来るだろうな。それと、櫛田を追い込み過ぎてもダメだ。櫛田を危機に晒してしまうと自暴自棄になって俺が櫛田にしてきたことやこれからするであろうことを言いかねない。ある程度櫛田の不信感は取り除いておきたい。それに櫛田って見た目は可愛いしな。男子的に可愛い子に嫌われるのは傷つくのだ。
…今さらとか言うなよ。
いや、櫛田に対して申し訳ないことはしたと思う。それでも今後を考えるとこれがベストな選択なんだよ。
すまない、櫛田。俺と姉さんのために犠牲になってくれ…
俺は憂鬱な気持ちを抱えながらも自分の部屋へ帰る。
※※※
櫛田を駒にした翌日、真嶋先生が教室に入ってくるなり、
「今から大事な話をする。注意して聞くんだ。中間テストの範囲が大幅に変更された。詳細はこの紙に書いてある。黒板に貼っておくからよく見ておけ。」
真嶋先生はそう言うなり、紙を黒板に貼って教室を出た。教育が多少ザワつくが今は無視だ。
「やっぱりテスト範囲変わったね。」
俺は姉さんに話しかける。
「そうですね、流貴の予想通りになりましたね。とりあえずは当初の予定通り変更された範囲を勉強し、テスト数日前には過去問を渡しておきましょう。」
「そうだね。」
その後は特に変わったこともなく、1日が過ぎていく。
俺はこの日、原作のあるイベントを見るため、ロビーに置かれた自販機から離れた場所で留まっていた。
しばらくすると綾小路がやってきてジュースを購入した。部屋に帰ろうとしたのかエレベーターの前に戻るとまた自販機の方に戻り自販機の陰に身を潜める。
…やはり今日だったか。
するとエレベーターからDクラスの
綾小路が堀北生徒会長の腕を放すなり、鋭い裏拳が飛んでくる。それを綾小路は半身をのけぞるようにして避ける。更に、急所を狙った蹴りが飛んでくるが綾小路は難なく避ける。…堀北生徒会長、当たり前だが小学生の頃に試合した時より格段に動きが良くなっているな。そしてあの攻撃を避ける綾小路はやはり化け物だな。不意打ちだぞ?少しは反応が鈍るだろうが…まあ、俺が綾小路の立場ならわざと攻撃を食らい口止め料として莫大なポイントを請求するがな。500万ポイントは支払わせてみせる。その後は綾小路と堀北生徒会長が会話をして堀北生徒会長が立ち去っていく。ここで俺はスマホの動画をとめて、気配を殺してこの場を去る。
俺が今回このイベントを撮影した理由は堀北鈴音と堀北生徒会長に対しての切り札を用意しておくためだ。先程撮った動画には綾小路と堀北生徒会長の戦闘シーンが映っている。普通に考えてこんな動画を学校に提出すれば学校は必ず然るべき措置をとる。なんせ学校の代表である生徒会長が暴力を用いているからな。これで姉さんに何かあったとき堀北生徒会長を脅せばこちら側にたってくれるだろう。そして堀北鈴音は兄である堀北生徒会長を尊敬し慕っている。堀北鈴音にとって堀北生徒会長が不利益を被ることは避けたいはず。堀北鈴音に対してはこの動画をチラつかせるだけである程度行動を制限出来るのた。勿論これだけを信じて何らかの行動は移さないが保険になってくれるだけでも俺の精神衛生上、余裕を持つことができる。
…それともう一つ分かったことは俺では綾小路に格闘戦では勝てないということ。反応速度が違い過ぎる。頭では分かっていたことだがやはり心にくるな…
今日はもう寝よう…
オリ主は別に二重人格とかって訳じゃないです。
言うならば『切り替え』てるだけです。人並みに感情もあるので櫛田には申し訳ない感情もあります。
オリ主が前半に思っていたことも後半に思っていたことも等しく本音です。
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