俺と姉さんは父さんに連れられて、車に乗る。坂柳家が雇っている運転手がこちらを見て尋ねる。
「どちらへ向かえばいいのですか?」
「×××市の----バス停に向かってくれ」
父さんが答える
「高速道路を使って3時間程かかりますが…よろしいですか?」
「構わないよ」
「承知しました。」
運転手がそう言って車を発車させる。
想像していたよりも近いな…っと俺は思った。ホワイトルームなんて子供の人権を無視している施設が町中や都会にあるとは思えない。それにこの運転手にホワイトルームの場所を伝えるとは思えないから、どこかでホワイトルーム側からの人間が案内もしくは誘導をするのだと思う。
「そろそろどこに行くのか聞いてもいいですか?」
姉さんがこちらに質問をしてくる。
しまったな。姉さんからすれば、どこに行くのか全く分からない上に時間も結構かかってしまうのだから疑問が出てくるのも当然だ。だが、ここで俺がホワイトルームの概要について説明してしまえば、なぜ流貴がホワイトルームについて知っているのだと父さんに問われてしまう。俺からは何も伝えることができない。すまない…姉さん。父さんホワイトルームについて説明を頼む!なんて心の中で考えていると
「まぁ、ちょっと僕が支援している施設に見学しに行くだけだよ…実際に施設に着いたら説明するよ。」
父さんがどこか遠くを見つめながら話す。
「そうですか。」
姉さんもどこか父さんの様子がおかしいことに気づいたのか詮索はしなかった。
車内に沈黙が流れるが俺からは何も言わない。ホワイトルームに着けば姉さんもだいたいのことはすぐ分かるだろうし、今この場で俺が話を続けても事態が好転するとは思えないからな。
※※※
しばらくして目的の場所に着いたのか車が停まる。
「----バス停に着きましたよ。」
そう運転手がいう。
「あぁ、ありがとう。青木さんはここで待機してくれるかい?」
父さんが返事をする。
「分かりました。あそこの木に停めておきますね。」
どうやらこの運転手は青木さんと言うらしい。ありがとう青木さん。さて、周りを見てみると大きな森や古びた公園、広大な田んぼが広がっており、いわゆる 田舎 という感じの場所に着いた。
「こんな場所に施設があるのですか?」
姉さんが聞いてくる。
「いや、ここからは別の人が案内してくれるよ。」
父さんがそう言う。
やはり、施設側からの人間が案内してくれるようだ。
すると前方から黒いヴォクシーの車がこちらに近づいてくる。恐らくあの車の中にいる人が案内役だろう。黒い車は俺たちの近くで停まり、ドアを開く。白衣に黒色の作業用ズボンを着て眼鏡をかけた50代ほどの男性がこちらに話かけてくる。
「坂柳様ですね?」
低い男性的な声だった。
「はい、そうです。」
「では、こちらの車にお乗り下さい。ここからは私が施設まで案内しますので。あーそれと私は野村と申します。何かありましたら気軽に声をかけて下さい。」
「分かりました、野村さん。よろしくお願いします」
父さんと野村さんの会話が終わり俺と姉さん、父さんは野村さんの車に乗る。
野村さんの車が発車して大きい森の方へ方向転換をする。どうやらあの森にホワイトルームがあるようだ。30分ほどして外装が真っ白の施設が見えてくる。汚れは一切なくただ真っ白い。正直不気味だ。しかし、かなり施設の大きさは小さい、普通の一軒家よりやや大きい位か。どういうことだ?
ここで車が停止して野村さんが話かけてくる。
「ここで降りて下さい。あちらの施設が我々の研究機関です。」
淡々とした声で喋る。
俺たちは車を降りて野村さんと一緒に施設へいく。因みに姉さんは今父さんに抱えられている。姉さんは疾患があるからな。ただでさえ大人と子供では大人の方が歩幅が大きいのだ。姉さんと比べたらさらにその差は広がってしまう。俺は健康体だから少し早めに歩けば問題ない。
施設に着くと野村さんがポケットから電子カードのような物をだしてカードを通す。ドアが開いたので俺たちは施設へ入る。当然のように真っ白だ。どこか冷たい印象を受ける。すると野村さんが前を歩きエレベーターに乗る。
「ここの地下に研究所があります。」
なるほど…考えたな。地下ならば地上に施設を建てるよりもかなり安全だし、防衛的観点からみても理にかなっている。後考えられるのは脱走を防ぐため…か?
そこで父さんが俺と姉さんに話かける。いや、話かけるというよりは独り言に近いな。
「この施設の名称はホワイトルーム。…人工的に天才を作るという実験だよ。」
父さんが少し悲哀を込めた声でいう。
ホワイトルーム。綾小路清隆の父親が約20年間稼働しており、学問学術だけでなく武術や護身術、処世術など様々な科目が存在する。外部と隔離して乳幼児の段階から英才教育を施し、世代ごとで子供を教育・競争させ天才を作るというふざけた実験だ。
ホワイトルームの概要について思考していると、エレベーターのドアが開かれる。
ついにホワイトルームをこの目で見れるわけか、綾小路…最高傑作をこの目で見させて貰おう。
※※※
透き通ったガラスに両手を当てて、俺と姉さんは食い入るように室内を見る。向こう側からはマジックミラーになっていてこちらは見えないようだ。
「どうしたんだい有栖。流貴ならともかく君がそんなに興味を持つなんて珍しいね。」
「人工的に天才を作るという実験。興味が湧かないはずがありません」
「…相変わらず子供らしくない発言だね」
そう言って父さんは少し戸惑いながら笑う。
「ねぇ、父さんこの実験、問題も多いんじゃないの?」
俺も少し会話にまざる。
「そうですね、流貴のいう通りです。人道的な面でも各方面から叩かれそうですし」
「は、はは…」
父さんは苦笑する。
「何より人工的に天才を作り出すなんて、私には出来ると思えないのです。」
姉さんはそう答える。まあ、姉さんの言い分もわかる。人間は、いや、生物は刻まれたDNA以上のことをすることは難しい。天才が1時間勉強するのと凡人が1時間勉強するのとですら、差は生まれるのだ。増してこれが年単位、どれだけ凡人が勉強しようと天才には敵わないという結論は当然の帰着だ。俺と姉さんは数多の英才教育を施された同級生を見てきた。だからこそ姉さんは才能こそが全てだと考えた。
才能がある子供も才能がない子供も、皆等しくこの中で教育を受ける。そして脱落した者から順に消えていくシステム。
「結局、カリキュラムを生き残る子供がいても、親の才能に恵まれているだけです。」
姉さんはやはりそう思うか
「さあ。そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。僕にも分からないよ。でも、ここにいる子供たちが未来を背負う運命にある、そんな可能性は捨てきれない。」
「ーあの子、先ほどから全ての課題に対し、冷静かつ難なくこなしていますね。」
姉さんが向ける視線を俺も追う。そして見る、観る、視る、覧る。誰もが課題に必死に食らいついている中、唯一異彩を放つ存在。
原作主人公 綾小路清隆を。
今行われているチェスでも、対戦相手を次々と圧倒する少年。
父さんはどこか嬉しそうに、どこか寂しそうに頷いた。
「あぁ、彼は先生の御子息だね。確か名前は…綾小路…清隆くん、だったか」
「先生の子なら、やっぱりDNAが優秀なんじゃない?」
俺はそう父さんに尋ねる。姉さんも俺の発言に頷く。
「どうかな。少なくとも、先生は立派な大学を出たわけでも、ずば抜けて運動神経が良い訳でもないよ。奥さんも本当に普通の人さ。どちらかの祖父母が秀でた才能を持たれていたわけでもない。ただ、先生は本当に誰よりも野心が強くて、諦めない不屈の闘志だけは持っていた。だから、とても偉くなったんだよ。一時は国を動かそうとするほどね」
「ならーこの実験の被験者としては最適ということでしょうか?」
姉さんの質問に対し、父さんは複雑そうに頷く。
「そうだね…あの人にとっては理想の子供だろうね。だけど…僕からして見ればあの子が可哀想に思えて仕方ないんだ」
「どうしてですか?」
「彼は生まれた瞬間からこの施設の中で過ごしている。彼にとって初めて見たものは母親でも父親でもなく、この施設の白い天井だったんだからね。早い段階で脱落していれば、先生とも暮らせただろうに。いや、こうして残り続けているからこそ、先生の寵愛を受けられ続けているのかも……そうだとしたら、それはとても…」
綾小路は愛をしらない。孤独で寂しい人生だ。可哀想だとは思う。同情もする。だが、それだけだ。俺からすれば綾小路を助ける義理は無いし、救う理由もない。テレビでよく見るドキュメンタリー番組と同じ感覚。アフリカなどの発展途上国では毎日多くの人間が死に、飢え、悲嘆している。よほど人の心が無いかぎり誰もが可哀想…と思うはずだ。でも何か行動しようとはしない。10分もすればさっき見た番組も物語も記憶から消えている。結局は俺には関係ない、これに尽きる。それに藪をつついて蛇がでたら姉さんや父さん、母さんなどの家族に迷惑をかけてしまうかも知れないしな。すると、父さんが屈んで俺と姉さんを強く抱きしめる。姉さんも父さんと俺を抱きしめてくれる。俺はそれに応えるように姉さんと父さんを力強く抱きしめた。
「施設の最終目標は教育した子供全員を天才として育てあげることにある。でも、今はまだ実験段階だ。それは50年先100年先を見据えた戦い。ここにいる子たちは、自分が大人になった時に才能を発揮するためじゃなく、未来の子供たちのために生きる存在。生き残りも脱落者も、全てはそのサンプルに過ぎないんだ。」
データを抽出するだけの生涯。父さんの顔は見ていて少し辛かった。
「お父様は、この施設がお嫌いなのですか?」
「ん?…どうだろうね……素直には応援出来ないかも知れない。もし、本当にここで育った子たちが、誰よりも優秀な子に育ってしまったら。この施設が当たり前になってしまったら僕はそれは、不幸の始まりでしか無いと思っているんだ。」
「ご安心下さい。私が、いや、私と流貴がそれを打ち砕いて見せます。天才とは教育で決まるものではなく、生まれた瞬間に決まっているものだと、証明して見せます。」
「そうだね、俺と姉さんがいれば証明できない理由が見当たらない。」
俺は強い意志をもって頷く
「うん、期待しているよ。有栖、流貴」
「ところでお父様。私、チェスを覚えてみようと思うんですー」
因みに私は綾小路清隆が作品内で一番好きです。正直綾小路には誰にも負けて欲しくありません。常に勝って欲しいですね笑
坂柳は2番目に好きです。3番目は軽井沢ですね。ヒロイン争いはどっちが勝つのか気になります。
皆さんは誰が一番好きですか?