“美少女ハレム団”の日常   作:ウサギの化身

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第2話 デスゲーム

 

 

 

 

“WARNING”と“System Announcement”の表示で赤く染る上空から、ドロリと粘り気のある巨大な雫がひとつ、空に波紋という余韻を残しながら降りてくる。

血液の雫のようにも見えるそれは、俺の全身に妙な不快感をよびおこす。己の全てが「危険だ」と囁きかけてくるような。全身の穴という穴から脂汗が染み出し毛が逆だっているような。なんとも言い表せない不快感だ。

やがて騒ぎ立てるプレイヤーのざわめきも聞こえなくなり、誰もが無言で上空をみあげる中、ある程度のところで落下を停止した巨大な雫がその姿を大きく変化させた。

 

「人影……?」

「なんだか、怖いです」

「……あれって、確か……」

 

それは、巨大な人影となったのだ。先程と同じ血液のように赤いローブに身を包む20mほどの巨体だ。下から見上げる俺たちからは本来顔のあるべき場所が空洞となっており、深い闇が嵌め込まれているように見える。

 

「アリア」

「βテストの時に見た事がある。GMのアバターが装備していたローブだ、けど……」

 

下を向いたアリアが再び上空を見上げて顎を撫でる。

 

「……ボクが見たことあるのは、あのローブの下に確かに人の姿があるものだ。白い髭の老人に、メガネの少女のどちらかのね」

「それじゃあ」

「うん。少なくともボクは、βテストであんなものは見たことがないよ」

 

ゆらり、と上空で巨大な人影が両腕を広げた。赤いローブとは真逆の純白の手袋が見えたが、その間に腕のようなものは存在していない。

そして、男性特有の低い声が広場へと木霊した。ログアウトできない現状には似つかない、酷く冷静で落ち着いた声色。ローブの人影と言うよりも、はるか上空から落とし込まれているような声だ。

 

『プレイヤーの諸君、ようこそ私の世界へ』

 

わからない。いや、わかりたくなかったのだ。あの人影が何を言っているのか、万に迫る大衆には理解することが出来なかった。皆、これが異常な事態であると漠然と思うことしか出来ないでいた。

 

『私の名は茅場晶彦。現在、この世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

困惑する俺たちを置いて滑らかに語りだす茅場晶彦の声は、どこか弾んで聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不気味な人影、改め茅場晶彦のこれまた酷く不気味な声が響き俺たちに現実を嫌でも叩きつけた。

ゲーム上で体力が無くなるとナーヴギアに脳を焼かれて死ぬ。さらに現実世界でナーヴギアを外されるか、長期間の接続切断でも同様。そして、既に213名のプレイヤーが死亡している。

奴の言っている事は、何となく理解できている。それでも俺は事実をうまく飲み込めないでいた。あの時の嫌な予感はこの事だったのか。

ガクガクと膝が笑っている。か細い悲鳴をあげたシリカが完全に脱力しこちらに体を預けている手前、男として倒れる訳には行かないと踏ん張った。

 

「そんな……やだよ……」

「ぁぁ……」

 

右を向けばこちらへとしなだれかかるシリカが、逆には感情の抜けた虚ろな顔をしたアリアの呻きのような声が、観衆の声に掻き消される中で微かに聞こえる。

しかしそんな俺たちの状況や、先程フィールドにいた黒い髪の男の叫びさえものともせず、茅場晶彦の言葉は続く。

 

『諸君がこのゲームから解放される条件はたった一つ。それはこのゲームのクリアだ。アインクラッド最上階、第100層まで辿り着き、最終ボスを打倒することによるね』

 

その瞬間、生き残ったプレイヤーの全てを解放しよう。そんな茅場晶彦の声がやけに遠く聞こえた。

第100層まで攻略、それはどれほどの苦行なのだろうか。ただでさえ1度死ねばアウトなのに。これでは何年かかるかわかったものでは無い。

もしかしたら、ゲームで死亡するよりもリアルの身体が持たなくなる方が早いかもしれない。

 

『それでは最後に、諸君らに私からのプレゼントを贈る。それはこの世界が現実であるという確かな証拠となるだろう。是非、確認してくれ給え。』

 

それを聞いている時には、何故かウィンドウを呼び出すアクションを無意識に行っていた。俺以外のプレイヤーも同様なのか、サウンドエフェクトが何度も何度も鳴って止まない。

アイテム欄のボタンを叩くと、持ち物のリストが出現し、これまで手に入れた大量の肉の1番上に《手鏡》という見覚えのないアイテムが存在している。

既にオブジェクト化させたのか四角い鏡を持っているアリアに習って俺も《手鏡》をオブジェクト化させた。

 

「《手鏡》ね……」

「これを一体どうしろってんだ」

 

アリアから再び《手鏡》へと視線を向けようとして突然、シリカの姿が白い光に包まれた。いや、シリカだけでは無い。アリアも周りにいるプレイヤーも、そして俺自身も同様に光に包まれ始めた。

光に包まれた視界は、ほんの数秒で元に戻った。

 

「なんだったんだ一体……」

 

いや待てよ、ふと気がついた。先程まであった長身のシリカのアバターが見えなくなっている。

逆に、シルバがいたはずの場所では長身の女性が、《手鏡》を覗き込んでいて……。

 

「……まさか、アリアか?」

「あ、あぁ……もし今僕が見ている《手鏡》に映る姿と同じものを見てそう言っているのなら正解だよ。……えっと、見た目の変わってないトウゴウさん」

「アヤさんっでば、リアルの顔をスキャンしてそのまま使ってたんですもん……」

「キャラメイクがめんどくさかった」

「そ、そうかい…」

 

こちらを振り返った顔つきはそこまで変わらない。タレ目のおっとりとした美人で、先程までのシリカよりも背が高い。高校生か大学生ぐらいだろうか。170cmはあるんじゃないだろうか。

しかし何故だろう、どこかで見覚えがある気がする。

 

「─────ところで、そこで絶望している少女は、シリカさんなのかい?」

「ん?」

 

スっとアリアが指さした先には何故か四つん這いになって絶望している妹分の姿があった。

そうか、アリアが知っているのは切れ目の長身グラマス美女のシリカだからな。指さしてるのはギリギリ中学生にいそうなぐらいのロリは初見だろう。

 

「どうした」

「トウゴウさん。私の胸が、なくなりました。身長も低くなってます」

「諦めろ。てか元がそんなんだろう。現実でも身長も胸もなかったんだ」

「いや胸はありますよっ!?」

 

ハイライトの消え去った瞳でシリカが吠えた。

さっきまでのシリアスな絶望はどこに行ってしまったのだ。彼女の中ではデスゲームよりも胸と身長が絶望の対象となっているのだろうか。

おいやめろ無い胸張るな。見てるこっちが哀しくなる。

 

「シ、シリカさんの胸はともかく」

「ともかく、ってなんですか!」

「ごめんよ……その、トウゴウさんもシリカさんも、それが現実の姿ってことでいいのかな」

「あぁ、さっきも言ったがアバターいじるの面倒くさがったからそのままにしてた。シリカは知らん」

「これは私じゃありません。私はこんなに小さくないですから。もっとボンキュッボンですから」

「なら、それもバグなのかい?」

「はい」

「嘘こけガキンチョ。お前は胸と背丈どころかプライドも小さいのかよ。」

「はぁぁ?こんなのでも需要あるんですよっ!」

「こ、こら。トウゴウさんもあんまりシリカをからかわないで…あとシリカ、それは1部の人だけだから。本来あってはいけない需要だから」

「その需要にロリアバターで供給してたのは誰だ」

「うぐっ」

 

さっきまでロリ体型のアバターだったアリアが言うと説得力がないな。

改めて周りを見渡すと、先程まで溢れかえるようにいた美男美女の姿はさっぱりと無くなっていた。俺たちだけではない、全てのアバターが現実の姿に変化しているのだ。

中には異性の衣装を着たもの達の姿を見える。女はいいが、男どもの女装は見るに堪えない。

 

「言ってませんが、去年より大きくなったんですよ」

「知るか。……おいやめろ、俺はまだ犯罪者になりたくない」

 

だからシリカ。とりあえず俺の右手を自分の胸に持っていくのをやめろ。多少はあるのはわかったから。アリアがゴミを見るような目でコッテを見てくるから。

 

「……ロリコンなのかい?」

「そんなわけないだろ。もし本気で言ってんならさすがに許さんぞ」

「一緒にお風呂入ってます」

「え……」

「お前が小五の頃の話だろうが。あと、俺はロリコンじゃねぇ」

「だ、だよね……ん。それでもお風呂は不味いんじゃ……?」

 

そんなシリアスをどこかに捨ててしまった俺たちのやり取りをしているうちにも、茅場晶彦の声は響き続けた。

 

『─────以上で、《ソードアート・オンライン》の本サービスのチュートリアルを終了する。諸君らの健闘を祈る』

 

言い切り、フードの男は空へと溶け込んでいくようにどんどんと消えていった。それと共に空をおおっていた赤色も、段々と青へと戻っていく。

一瞬の静寂。そしてNPCの演奏によるBGMの再開と共に、数千のプレイヤーが一斉に感情を爆発させた。

もう、現実には戻れないのかもしれない。それは家族や友人の元へ戻ることも叶わない。やり残したこともやりきれない。そして惨たらしく脳を焼かれて死んでしまうかもしれない。そんな思いをプレイヤー達に抱かせた。

 

「おい、2人とも1度ここを離れるぞ」

「そうだね」

「……はい」

 

荒れ狂う大衆の波から2人を庇って歩く。しばらく歩くとNPC以外に人気のない通りに出た。まだ初動を起こしているプレイヤーの数は少ないらしい。

そろそろ暗くなり始める頃合だ。場所の取り合いになる前に宿を探した方がいいかもしれない。

 

「アリア、どこかにいい宿はないか?他のプレイヤーが来る前に足を休められるところを見つけておきたいからな」

「……うん、それならここから少し歩いたところに安くてご飯とシャワー付きの宿があったはずだよ」

「なら今日はそこで休もう。シリカもそれでいいか?」

「大丈夫です」

「こっちだよ。早く行こう」

 

先程のやり取りがあったとはいえ、2人ともやはり表情が固く感じる。

こっちだよ、と先導するアリアの後ろを、シリカと共に歩いて彼女の言うご飯とシャワー付きの宿へと早足で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアの案内する先にあったのはそこそこ大きな建物だった。かけられた看板には“黄金の蜜蜂亭”と大きく書き出されているのが特徴で、その雰囲気は少し年季を感じさせるものがあった。

扉をくぐると、来店を知らせるベルの簡素な音が店内に響く。

 

「いらっしゃいませ、黄金の蜂蜜亭へようこそ!」

「こんばんは。宿を探していてね。部屋の空きはあるかな?」

 

その音を聞き付けてか、奥にある部屋から茶髪を三つ編みにした女性のNPCが出てきて、アリアが予約を取りに行っている。

待っている間に軽く店内を見渡してみる。店内は広い食堂のようになっており、すぐそこに階段があることから上の階に宿泊する部屋があるようだ。

人懐っこい笑みを浮かべた女性が、アリアを見上げるようにして近寄ってきた。

 

「空室はありますので皆様で泊まれますよ。ご飯はどうしましょうか?」

「今晩から頂けるかな?」

「了解しました!腕によりをかけて作らせてもらいますね!…あぁそうだ、3名様ですが、お部屋の方はどうなさいますか?」

「そうだね……1部屋で構わないよ」

「はい、かしこまりました」

「……うぇ!?」

 

落ち着いたNPCの女性の声に隠れて、食堂の奥で顔を伏せていた少女が顔を真っ赤にして跳ね上がった。

─────てか、待てアリア。こっちが構うわ。相談もなしに何を言い出すんだ。

そんな俺の心情をよそに、奥から足早に歩み寄った少女がメガネを輝かせながら話しかけてくる。

 

「少しいいですか?……お、男の人と一緒のお部屋……それも3人で泊まるんですか?」

「誰だおまえ……まぁいい。アリア、ふつうに2部屋取ればいいだろうに」

「宿代がもったいないよ。それに部屋にベットはふたつある上、ここのベッドは大きくてね。2人でも寝られるさ」

「そういう問題じゃねぇ」

「ふっ、ふたりで寝る!?」

「あっなら私がアヤさんと寝ますね」

「まさかの小さい子の方!?」

「いや、シリカはボクと一緒に寝ようね」

「おねロリだとぉ!?」

「アヤさん言うな。ベットはシリカとアリアで使え、俺はソファーか床で寝る。それとお前は少し落ち着け」

「あいたっ」

 

メガネを光らせ鼻息を荒らげている少女の頭に軽く手刀を下ろす。こういう手合いは放置しとくとさらに暴走するから厄介だ。

結局、お金はこれから何かと必要になる可能性があるため、今回は一部屋で宿泊することになった。というのもこの宿屋それなりにではあるが値が張ったのである。

店主の案内で2階に上がった俺たちは、部屋に入るなりソファーとベットに崩れ落ちた。シリカとアリアがベットで、俺はソファーに深く腰を下ろし、その隣にメガネの少女が礼儀良く座る。

ふと、布団に顔を埋めたアリアが呻いた。

 

「ふぅ……」

「あっ、失礼しますね」

「おぅ」

「つっかれましたぁ……」

「あ゛ぁ゛……疲れたぁ」

「あの、随分とオヤジ臭いですよ。その声」

「去年逝った爺さんが帰ってきたかと思ったわ」

「それオヤジ超えてジジになってるよね。2人して一端の乙女になんてこと言うのさ」

「アリアさんが乙女かどうかは置いといて」

「置いとかないで。それ、ボクの尊厳に関わるから」

 

先程の意趣返しだろうか、ベットに腰掛けたままほくそ笑んだシリカの顔が見えた。いじられキャラでしかないシリカの貴重な反撃シーンである。なんだか気に食わないな。

 

「……少し前まで一緒にお風呂に入ってたシリカが、他人に乙女云々で何を言える」

「それは、ほら!アヤさんが寂しいかなぁ、って思ったから一緒に入ってあげてたんですよ」

「君はトウゴウさんをなんだと思ってるんだい」

「なら、強がってホラー映画見て半泣きになった挙句、その後怖くて眠れないからって俺の布団に潜り込んだやつは誰だ。ましてや翌朝、人様の布団でおね」

「うわぁーーー!ダメです、その話はダメです!」

「おぉー。年の離れた妹もののあるあるですね。リアルで聞くのは初めてですけど」

「そうか?……朝になって、目が覚めたら俺の寝間着が濡れてて何かと思ったわ」

「だって、トイレ行きたくて起こそうとしてもアヤさんが起きてくれなかったんですもん!」

「シリカさん……。てか、そもそも一緒に寝るのもどうかと思うよトウゴウさん。やっぱりロリコンじゃないかい?」

「てかアヤさん言うな。それと俺はロリコンじゃねぇ」

 

笑みが一転して半泣きになったシリカの悲しい咆哮にアリアの視線が冷えきる。それと同時に俺のロリコン疑惑も深まったのは気に食わない。

一見すると元気に会話しているように見えるが、ソファーから見える3人の雰囲気はかなり重たかった。

 

「いやー、それにしても色々と衝撃すぎて疲れちゃいましたねー」

「まさかデスゲームが始まっちゃうとはね……。まだ夢なんじゃないかと疑ってるよ」

「ほんとに、死んじゃうのかなぁ」

「……茅場晶彦もわざわざこんなけったいな真似してんだ。嘘でしたーですませねぇだろうよ」

「ですよねー」

 

そう言ってメガネの少女はこちらへと体を倒して伸びをする。少女の後頭部が俺の膝に乗っかり、伸ばされた手が俺の股間の真上を通り過ぎた辺りで。

 

「てかちょっと待て。なんでお前がここにいる?」

「うぇ?」

「……あれ?」

「あ、あなたさっきの人!?」

 

 

 

 

 

 

 

 





〇トウゴウ
デスゲームの開始に困惑。黒髪の総髪ゴリラ。身長はシルバよりまだちょっと大きい。成長期。

〇シリカ
デスゲームの開始から現実逃避中。やっぱりロリである。シルバを睨んだ。多分成長期。

〇シルバ
デスゲームの開始を信じていない。実はロリではなく出るとこ出てるモデル体型(170cm)。シリカに睨まれた。

〇不法侵入メガネ
黒髪ロングの巨乳メガネ。誰だお前。
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