“美少女ハレム団”の日常   作:ウサギの化身

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第3話 情報屋

 

 

 

 

茅場晶彦によりデスゲームの開始が告げられてから2日が経過した。未だにログアウトしていないとなれば、少なくとも俺は諦めが着いてくる。

街中を歩くプレイヤー達の雰囲気は重く、NPCの音楽隊が奏でる明るい曲調のBGMがどこか暗く感じるほどだ。

 

「わぁ……!素敵な場所ですね」

「そう言って貰えると嬉しいよシリカ。ここはボクのお気に入りの喫茶店でね」

「ここですかぁ。βテスト開始後はおいしいケーキとコーヒーもどきで有名でしたねぇ」

「……おい、緑茶は無いのか」

「洋風のカフェに、ましてやファンタジーな世界観に緑茶を求めないで」

「じゃあ……私コーヒーで!」

「へぇ、シリカちゃんはコーヒーが飲めるの?」

「……私も飲めないのに、すごいね」

「へへん」

「飲めないだろ、やめとけ」

「飲めますし!」

 

今日、俺とシリカ、アリア、そしてメガネの少女の4人で訪れているのは《はじまりの街》の一角にあるNPCの喫茶店。街道側に窓が広く設置され店の奥まで明るく照らされており、定員NPCの雰囲気も良く、視覚的にも精神的にも“明るい”印象の店となっている。

 

「よっ、久しぶりだナ、シー坊」

「うん、久しぶりだね。アルゴ」

「……そっちのおさん方さんは初めましてだナ」

 

定員に注文を済ませた俺たちは、少し遅れてやってきてアリアの横に腰掛けた少女を見る。

金褐色のクセのある髪を目深に被った茶色いフードで覆っており、多少はシリカより高いとはいえ、俺より頭2つ分ほど低い身長のせいで、座っていても顔はよく見えない。

 

「オレっちは“情報屋”のアルゴってんダ。よろしくナ」

「今朝も話した通り、彼女とはベータ時代からの友人だよ」

 

隣に座るシリカと目を見合せて数秒、再び正面でアリアの横に座り定員に注文をするアルゴと名乗った少女に視線を向ける。

 

「アリアさん、アミュさん以外にお友達いたんですね」

「まじでボッチじゃなかったのか」

「君たち、本当に失礼だね」

「アミュ……。アー坊はもうアイツと会ったのか?」

「え?」

 

アルゴがアミュという名前に反応を示す。それに左隣のメガネが変な声を出した。

そんな二人を見てアリアが頭を抱える。

 

「会った、というか今目の前にいるよ」

「そ、そっちのロリロリな女の子が……?」

「だれがロリロリですか。同じ穴のムジナにロリ呼ばわりは勘弁です。それと、私はシリカです」

「なら、この誠実そうなイケメンくんが……?あの、変態……?」

「あぁ、そっちはトウゴウくん。堅物系だよ」

「誰が変態だ。こんなのと一緒にすんな」

「……随分と容赦なく引っぱたくナ」

「あひんっ!もっとぉ!」

「─────その感じ、アミュなのカっ!?……シー坊、どこで会ったんダ」

「それは─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、名前は」

「……アミュって言います……」

「ここで何をしてる」

「……寝転んでます……」

「ここは誰の部屋だ」

「……皆さんの、借りたお部屋です……」

「だよなぁ」

「ソウデスネ」

 

頬を引き攣らせながら何故かカタコトで話す少女。逃げたり不振な行動を取れないよう、膝の上に伸びてきている腕を素早く捕まえた。その様子をベットの方からシリカが不審なものを見るような目でこちらを見つめている。

 

「あは、あはは、あはははは」

「ふふ、ふふふ、くはははは。……何笑ってんだよ、随分と余裕だな、おい」

「ひぃっ。ごめんなさい、ごめんなさい!」

「アヤさん、変にプレッシャー与えるのやめてあげてください。……でも、ほんといつの間に入ってきたんですか?」

「え、いや、皆さんと一緒に……ちょっと、ね?」

「疑問に疑問で返さないでよ不法侵入者。あーもう、なんでこうなるのかな」

「不法侵入者って、確かにそうだけど。さすがに扱いがひどいよアリアぁ!」

「……え?」

「おい待て、なんで名前を知ってんだ?」

 

視界の端でベットに顔を埋めていたアリアが、少女に名前を呼ばれた途端、驚いた様子で跳ね起きる。

俺は彼女の手のひらを迷うことなく胸へとぶつけた。目の前にハラスメント警告と相手を黒鉄宮……牢獄へぶち込むかどうかの選択肢を表すディスプレイが現れる。

……てか、ぶつけるだけのつもりがガッツリ揉んでくるじゃねぇか。

 

「わぁ、程よくかたぁい」

「今俺にはテメェを牢獄にぶち込む権利がある。……て、あんま揉むな」

「うへっ、ごめんなさい!……おぉ」

「……って言いながら揉むな!マジで通報されたいのか!」

「触らせたの、そっちじゃないですかぁ。理不尽ですー」

「ああぁぁ!なにアヤさんの胸揉んでるんですか!?ふざけやがってぇー!」

「うるさいぞシリカ。てかアヤさん言う、な!」

「くへぇ」

「あ、ちょっと……」

 

なおも胸を揉み続ける変態、アミュをソファから地面へと突き落とした。シリカがそれを見てフンと鼻を鳴らした。気の抜けた声を上げて床に転がったアミュのケツにクッションをなげつける。

 

「あひんっ」

「んでアリア、こいつのこと、心当たりあるのか?」

「……うん。その感じ、“変態野郎(シェイプシフター)”のアミュだ。中肉中背で中性的なアバターの男好きのクソ強変態オカマ」

「ひどい!?一緒にβテスト遊んだ中じゃないの!?」

「……こいつと、一緒に?」

「フレンドだったから……。その、実力は確かだったから、よくクエストとか素材集めにも付き合ってもらったんだ」

「さすがアリア!わたしのこと覚えててくれてうれしいよぅ」

「……βテスト後半、あんまりにもキモさが倍増したから関わってなかったけど」

「後半から連絡取れなかったのそれが理由!?」

 

乗っかったままのクッションを落として勢いよく立ち上がったアミュだが、ベットに胡座をかいたアリアの元へと抱きつこうとしたところで、膝から崩れ落ちた。

ずり落ちたメガネをかけ直したアミュが吠えた。

 

「ひどい!わたしアリアのこと好きだったのにぃ……!」

「キミなんかに好きって言われてもね……。てか、女の子だったんだ。信じらんないよ」

「ひどい!」

「そんなことより、“変態野郎(シェイプシフター)”ってのはなんですか?」

「そんなこと!?かわいい顔して人の扱いがぞんざい!」

「うるさいぞ。ちょっと黙れ」

「うげっ、ひどいっ、もっと!」

 

四つん這いになって嬌声のようなものを上げるアミュの背中に足を乗せて、ゴミを見るような目を向けておいた。

 

─────いや、喜んでるな、こいつ。

 

「ま、まぁとにかく、悪い奴ではないよ。……だからそんなに踏まないであげて」

「そんな事言わないでよアリアぁ。わたしにはご褒美だからこれ。痛くないのが残念なくらいなのよぉ」

「うん。シンプルに気持ち悪い」

「うへへぇ。んじゃあトウゴウくん。これから仲間としてよろしくぅ」

「……アリアが信頼できるって言うなら、ありかもな」

「βテスターですしね!」

「やたぁ〜」

「─────えぇっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────って感じだね」

「こいつはこんなんだが」

「うふんっ」

「……こんなんだが戦力にはなる」

 

疲れたようにため息をひとつ零して湯気を立てるコーヒーを口にするアリア。隣で腹を抱えて机に埋まるアルゴは無視の方向なのだろうか。

 

「そうかそうか。確かにアミュの実力は1級品だゼ。オレっちはあんまり関わらなかったけど、話にはよく聞くくらいにはナ」

「“情報屋”もそういうくらいなのか。一応、期待してるぞ」

「お姉さんに任せなさぁい。……あっそうだ。ちょっとトウゴウくん。今夜わたしの部屋に来てよ。倫理コードっての解除してあ、げ、る」

「ちょっ、さすがにそれはどうなの!?」

「なんだそれ。知っているなら教えてくれ」

「私も気になります!」

「うぇ、えっとぉ……」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるアミュを睨みつけながら顔を真っ赤にするアリア。そんな2人を不思議そうに俺とシリカが見ていると、アルゴが笑い始めた。

 

「ひ、久しぶりにこんな笑ったナァ……。いい仲間じゃないか、シー坊」

「アルゴの“いい仲間”の基準ってなに?これボクが延々と弄られ続けてるだけだよ?」

「シー坊だしな」

「アリアだからな」

「アリアさんですし」

「アリアだからねぇ」

「声を揃えて何を言うの、君たちが私の何を知ってるんだい!?」

「「「弄られキャラってこと」」」

「ま、そういうことだナ」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーもうっ!」

「βテストの頃からこんな扱いだっただロ。そういう星の元に生まれてんだナ」

 

荒れた息のままコーヒーのカップを机に叩きつける。空になった陶器のカップと木目の机に《Immortal Object》という表示が浮かび上がって消えた。

一通りアリアを弄った辺りで、今日の本題に入るとしよう。まずアルゴがしたり顔で。

 

「それじゃあ今日の本題、“アー坊を弄る会”を始めるカ」

「始めないで」

「始めます!」

「始めないって!」

「よろしくお願いします」

「しなくていいからっ!」

「うるさいぞー、初めらんないだろ。ちょっと黙れ」

「ひどくない!?」

 

少し遠慮がちに近寄ってきた店員がアルゴの頼んでいた紅茶を持ってくる。その紅茶に平然とした顔で砂糖を溶かしているアルゴを尻目に、アリアが咳払いをひとつ。腕を豊満な胸の下で組むようにして続けた。

それを見て、隣で目を光らせて唸り出すシリカを押さえつけながら聞く。

 

「君にはアルゴの“情報屋”の手伝いをして欲しいんだ」

「情報屋か」

「情報屋って言うのは、クエストとかエネミー、武器防具にプレイヤーと色んな情報をコルで売るっていうお仕事で、アルゴはβテストの頃から有名な情報屋だったんだ」

「ただ、オレっちはそこまで戦闘が得意じゃないんダ。βテストの時に依頼してたやつはログインしてない。それにもし、今後男性専用のクエストとか出てきたらオイラじゃ受けられないってのもあるんダ」

 

先程アルゴが“情報屋”と名乗っていることを思いだした。

ベータテスターのアリアとフレンドということはベータテストの頃から繋がりがあるのだろう、そんなシルバが口添えをする程なのだからそれなりに信頼は置けるのだろう。

 

「手伝い、ってのは構わないが“情報屋”ってのは何をするんだ。それと何かしらの見返りはあるのか?」

「情報を売る以上、きっちりと裏取りをしなきゃならない。主な仕事は迷宮区の探索やクエストの攻略ダ。もちろん、それに見合った見返り、コルや素材系を提供する」

「迷宮区の探索にクエストの攻略か……。つまり、死ぬかもしれないわけだ」

「それは─────」

 

雄弁に語っていたアルゴが止まる。

俺としては“情報屋”の仕事を手伝うのはいい。問題は死ぬ可能性が高いということだ。

昨日の昼間、開始時にログインしていたという、腕の経つベータ時代からのフレンドが灰色の表示になっているとアリアとアミュは言っていた。あまり考えたくはないが、そのフレンドは死亡したとみて間違いない。

つまり、ベータテストを経験したプレイヤーでさえ死んでしまう現状で、俺たちビギナーが死なずに済むのかということである。

口篭るアルゴの隣、アリアが助太刀する。

 

「死なないさ。いや、ボクが死なせない。元より、死ぬかもしれない危険な事を調査させる気は無いしね」

「わたしも協力するよ」

「そう……か」

 

ベータテスターであり、俺の所感だがかなり戦い慣れている身のこなしからアリアの「死なせない」はそれなりに説得力があった。

 

「……わかった。俺に出来ることなら手伝おう」

「スマナイナ、これからヨロシク頼むゼ、……うん、トーちゃん」

「トーちゃん……ふふっ」

「何笑ってるんだアリア」

「いやぁ、小さい子にトーちゃんって呼ばれてると、なんだかパパか……」

「それ以上言ったら殴るぞメガネ」

「ばっちこいっ!」

「なら私はアヤちゃんと」

「そっちで呼ぶな。いばくらさるぞ、こんチビ助」

「ごめんなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーちゃん……」

「とうしました?」

「トーちゃんって何者なんダ」

「逸般人ですよ」

「あんな一般人いてたまるカ!?」

「あっ、イントネーションが違いますから。逸般人です」

「いや普通に伝わらないからね……?」

 

青い空と陽の光を遮るように生い茂る深い緑の屋根の下で、四方八方から迫り触手を伸ばす《リトルペネント》。それを相手取るのは、槍をたずさえたトウゴウさん。

それを初めて見たアルゴさんがアリアとアミュを確認した。

 

「アー坊、アミュもソードスキルは教えたんだよナ」

「教えたよ」

「今日の午前中はずっとイノシシ倒してたしねぇ」

「なんで使わないんダ」

「さぁ、本人は「勝手に体が動くの気持ち悪い」って」

「そっか、じゃあなんであんなに戦い慣れてるんダ」

「アヤさんの家って戦国時代から続く武士の家系らしくて、幼い頃からお爺さんに修行付けられてましたから」

「それが原因カっ」

「まぁ、武器使うようになっただけマシですよ」

 

背後から風をきって走る触手の横殴りを視覚することなくしゃがんで回避。正面の敵に突き刺していた槍をくるりと回して職種を振り切ったまま硬直する《リトルペネント》の大きな口の中に穂先を突き込んだ。

後頭部から突き出た鋭い穂先を今度は口から引き抜かれる頃には、その体が青白いポリゴンになって消滅する。

 

「確実に弱点を貫く急所攻撃、通常攻撃の補正から来るプルスダメージ。大きなダメージを与えるソードスキルを使用しない彼が見つけたスタイルだよ」

「通常攻撃のダメージって、武器の性能以外に太刀筋とか振る速さとか、とにかくプレイヤーの技量を元に計算されるんですよね?」

「そうだよシリカ。まぁ、普通のプレイヤーからしたらそこまで関係ないかもしれないけどね」

「……確かに、あんな攻撃されればシステムもクリティカル補正を出さざるおえないだろうガ……」

 

頭を抱えるアルゴさんが唸るように言った。

 

「あんな戦い方してたら、いつか限界が来るゾ」

 

限界が来る。今でこそ敵の体力が低いから倒せているものの、急所攻撃とクリティカルだけでは倒せない敵も出てくるかもしれない。

ましてや今後のボス戦は巨大なヤツが多い。いくら彼が対人戦闘に優れていようと、自身の何倍もの大きさのモンスターを安定して倒せるのか?

 

「アー坊は気づいてたんじゃないのか?」

「……まぁ、ね」

「トウゴウくんも馬鹿じゃない。回避タンクとしてヘイトを集めるのをメインにするつもりなんじゃないかなぁ」

「回避タンク……。デスゲームでそれはリスクが高くないカ?」

「……トウゴウさん」

 

視界の先で、絶え間なく動き続ける銀の光が、押し寄せる敵を斬り捨てていく。

私はあの人が楽しそうにして、あの顔をしている姿が好きだった。それを見たくてこのゲームを薦めた。

─────普段は決して振るわない暴力を、私を虐めてたあいつらに振るった時の顔を、どうしても忘れられないから。

だから、今も踊るように、舞うように槍を振るいながら口端に微笑を浮かべる彼の姿を見ると、決して平和な光景ではないはずなのに嬉しくなってしまう。

だが。

 

「---さん」

 

思わず彼の本名を言ってしまった。焦って3人を見るが、話し込んでいる様子で気づいていないことに、ほっとする。

 

「私の、せいで………」

 

知らなかった。わかるはずもなかった。仕方がなかった。やっぱり私は運がなかったんだ。

あの時はまだこうしてこの世界が死と隣り合わせのデスゲームになってしまうなんて。

しかし、そんな世界に彼を引き入れてしまった事実が、わたしの心を強く縛り付けていた。

 

 

 

 

 

 

 




〇トウゴウ
リアルでは「生まれる時代が遅すぎた」と言われた天武の神童。やたらと手を出さないが、喧嘩は好き。

〇シリカ
トウゴウの凄みのある“笑み”が忘れられなくて、SAOならまた見れるかもと誘った。倫理コードはよくわかってない。

〇アリア
リアルでは武道経験ありで、トウゴウの動きに思うところアリ。倫理コードの説明は帰ってからする。きっとする。

〇アミュ
メガネ改めアミュ。160後半の身長の黒髪ロング美少女。βテスト時ではそれなりに有名なトッププレイヤーだった?夜に倫理コードの説明をするのが楽しみ。

〇アルゴ
みんな大好きロリ2号。本当に仕事を頼んでよかったのかと疑問視。倫理コードの情報を売ろうとしてやめた。


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