目が覚めたら黒服の娘だったんだが…   作:菱野 モチ

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前回、おじさんの一人称のせいでエロ小説の導入みたいになってしまいすみませんでした。
…フーコの官能小説、アリだな…


かえせ

「あんまし綺麗なところじゃないけどさ、ちょっとお話しする分には問題ないかな~って。こんなにあるんだし、好きな椅子座ってくれて良いよ~」

 

「は、はい…」

 

一番後ろの、出口が近い席に座る。少し間が空いて、一つ前の席に腰掛け身体をこちらに向けるおじさん。

 

「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ~…おじさんちょーっと聞きたいことがあるだけだからさ。さてと…」

 

「君、黒服の仲間だよね?」

 

「…うぇ……?」

 

 

 

「しらばっくれないでよッ!!」

 

 

バンと音を立て、机が凹む。

 

「聞いてたよ、トイレで通信してたよね?はっきり『黒服』って言ってたよね?黒服もよく考えるよねぇ…ユメ先輩の死体まで弄んでさ…」

 

「し、しらない…わたし、しりません…」

 

冷酷な表情を崩さないまま、引き金を引くホシノ。顔のすぐ横を弾丸が掠める。

 

「ひっ……や、やだ…」

 

「黙れよ!そうやってれば誤魔化せると思った!?皆は優しいからそれで騙し通せたかもしれないけど、私は騙されない!」

 

もう二度と、大事なものを失わないために。

 

「その目も、ヘイローも、身体も!!全部ユメ先輩の物だ!」

 

髪の毛をぐいっと引っ張り上げ、嫌がって背けようとする顔を無理やり近づける。

 

「返せ!今すぐ返せ!」

 

「う゛ぅ……うあ゛ぁ……い、や…いや!」

 

身体を縮こまらせたかと思いきや、勢いよく義足の踵を地面に叩きつけようとする少女。

 

何かを企んでいる。そう考えるよりも先に椅子から立ち、机ごと少女を蹴り飛ばす。

 

「あ゛ぐっ…!!」

 

その勢いで外れた義足は、カラカラと音を立てながら転がり、やがて壁にぶつかり、止まった。

 

「ひ、ひゅーっ…ひゅー…」

 

腹部を抑え過呼吸を起こしたふりをしている少女の髪をまたも掴みあげようとすると、命乞いをし始めた。

 

「……うぅ…ご、ごめんなさい…あやまりっます、から、もう、やめて…もう、いたいの、いやなんです…」

 

ほぼ土下座に近いような体勢で、必死に許しを乞う少女。

ここにきて、最悪の可能性が頭をよぎり始める。頭を振り、その可能性を吹き飛ばす。

もしそうだったら、私は…

 

「かえし、ます。おめめも、へいろー?も…」

 

そう言うと、止める間もなく自分の左目に指を突っ込む少女。

 

「待っ…!」

 

「あ゛あぁあ!!い゛っいぎっ!!や゛あ゛ぁああ!!!」

 

少女の絹を裂くような悲鳴に、自分が言ったことがどれほど重いことだったのかを痛感する。

もちろんユメ先輩の死体を弄んだことは許せないし、この怒りも本物だ。でも…

 

「何やってるの!!」

 

勢いよくドアが開き、先生が教室に飛び込んでくる。

 

「フーコ!?駄目!そんなことしたら何も見えなくなるよ!!」

 

「う゛っぐ…せん、せぇ…?」

 

「と、とにかくすぐに病院に…ホシノ?どいて!」

 

わざと出口を塞ぐように立つホシノに、苛立ちを隠すこともなく叫ぶ。

 

「…ごめんだけど、今はここから出してあげられないなぁ…話の途中だからね。」

 

「ふざけないで…ッ!」

 

お構いなしに伸ばした手を握られる。いや、握り潰される。

 

「痛かった?ごめんね~…これでも先生のことは信用してるんだけど、その子は…」

 

言葉の終わりを待つことなく、携帯を取り出す。

 

「分かった、病院に来て貰うことにするよ。もしもしセリナ?ごめんね急に電話して。目を怪我した子がいるから、アビドスまで…うん、急患。」

 

「……さてホシノ、なんでこんなことになってるのかな?先生に教えてくれる?」

 

穏やかな語気から放たれる圧に、冷や汗をかく。その気になれば簡単に捻り潰せる、自分よりはるかに弱い存在のはずなのに、なんだこの迫力は。

 

「…その子は、私の先輩の死に関わってる。悪い奴の仲間だってことも、今日はっきりした。だからお話してただけだよ。」

 

「っ…ちがう…ちがいます。せんせい、しんじてください!」

 

「大丈夫。分かってるよ、フーコはそんな子じゃないよね。」

 

「そんなこと言ってもねぇ…証拠があるんだよ?こっちは」

 

そう言うと、乱暴にフーコのポーチを奪い取る。

 

「ちょっ…ホシノ!返して!」

 

留め具を外し、中身を床に出す。しかし、通信機らしいものは見つからない。

ポケットティッシュ、ハンカチ、髪止め、櫛…

目薬のようなものと、熊のワッペン。

一番怪しい髪止めを手に取る。何の変哲もない、ただの髪止めだった。

 

ぶわっと嫌な汗が噴き出す。もはや敵意を隠そうともしない先生の責めるような目が、うずくまり何かを呻く少女の姿が。

自分のしたことの罪深さを物語っているようで、今すぐこの場から逃げ出したくなる。

先生と目を合わせるのが怖くて、地面に目線を戻すと、熊のワッペンと目が合った。

 

「これかぁ!」

 

すぐさまそれを拾い上げる。

そうだ。きっとこれに小型の通信機を隠していたんだ。もしかするとこれそのものが通信機なのかもしれない。

 

「こんなんで私を騙せると思った!?」

 

「ホシノ!」

 

一段と大きくなった先生の止める声も聞かず、ワッペンを引きちぎった。

自分の中に渦巻く感情を何かにぶつけたかった。逃げたかった。ただそれだけ。

しかし、私が許されることはなかった。

 

「あ…れ…?」

 

力任せに引き裂いたワッペンは、中から電子機器が出てくることも、バチバチと火花を出すこともなかった。

 

「あ…せん、せ…」

 

恐る恐る先生の方を見る前に、パシンと頬を叩かれる。

息を荒げ、こちらを睨み付ける先生。目からは涙が流れている。

叩かれた私よりも痛そうに、悲しそうにする先生に、ようやく私は自分の犯した罪の重さを思い知った。

 

「ただ今到着しました!先生、急患はここですか!?」

 

ドアの向こうで声が聞こえる。対策委員会の皆も集まってきているだろう。

 

「もう、いいよね?ホシノ。」

 

黙って首を縦に振る。

 

「セリナ、皆。しばらくフーコのことをお願いできるかな?私はちょっとホシノとお話があるから…」

 

「だっ!だれ…!?やめて!はなして!」

 

自分で抉り出そうとした方の片目を押さえ、足りない手足で抵抗する少女。

青い目はギョロギョロと慌ただしく動き回る。

 

「フーコ!この人は大丈夫だから…」

 

先生の声も、聞こえていないようだ。

鞄から布を取り出し、フーコの顔に押し当てるセリナ。

 

「うぁ……」

 

「申し訳ありません先生。麻酔を施しました」

 

「大丈夫、あとはお願い。」

 

「最善は尽くします。」

 

「ちょっ…ちょっと!?どういう状況?」

 

「ん。説明を求める!」

 

ずっと黙っていた皆だったが、セリカちゃんをきっかけに口々に騒ぎ出す。

 

「あとで説明するよ。さてホシノ、場所を変えようか。」

 

「………」

 

皆が何か言っているような気がするが、ぼんやりとして聞こえない。自ら断頭台に向かう罪人のように、黙って先生の後に付いていく。

あの子も、こんな気持ちだったんだろうか。




謎解説&没設定コーナー

磁気を伴う砂嵐
アビドスで時々発生する砂嵐。小規模なものの、吹く場所によっては電子機器が利かなくなったりするので不便。
とある場所でよく発生するが、人為的なものなのか偶然の産物なのかは不明。

フーコの義足
丈夫で動かしやすく、長時間着けていても脚が痛くならない優れもの。当然お値段は張る。
ロケットブースト的な機能が付いており、一回だけ危ない状況から逃げられるという設定があったものの、エンジニア部の倫理観とかフーコへの負担とか、そもそも片足で飛べるものなのか?とか色々あって没になった。
今回の踵落としはその名残。
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