受験前の投稿はこれで最後になります。どうしても曇らせで締めたかったもので…
「なんだお前達揃いも揃って。出迎えか?」
フーコを捜そうと階段を駆け下りたところで、ちょうど買い物から帰ってきたマコト達と遭遇する。大量のパーティーグッズでパンパンになった紙袋を抱えるマコトは、一瞬誰だか分らなかった。
「みんないる!」
「何事も無かったのね…良かった…」
嫌な緊張感は無くなり、胸を撫で下ろす面々。
「というかマコトちゃん、どうして電話に出なかったの?」
「あー…まぁ、色々あってだな…携帯ショップに寄ってから来たから遅くなってしまった」
「マコト先輩、お尻で画面割っちゃったんだよね!」
「こらイブキ、シーッ!シーッ!」
「それじゃ、みんな揃ったことだし。そろそろ始めない?」
「そうだな、よし…ほらフーコ、なんかこう…音頭を取れ」
『本日の主役』と書かれたたすきを掛けたフーコが、恐る恐る前に出る。
「え、えと…みんな、きてくれてありがとう。かんぱい…?」
「「「かんぱーい!」」」
そこかしこでグラスが響き合う。総勢20人を越えるパーティーの幕開けだ。
「ところでだがゲヘナの生徒会長殿、随分たくさん買い物をしていたようだが…クラッカーは無いのかい?」ソワソワ
そのパーティーグッズの一つである鼻眼鏡を装備して、テンション高めに話しかけるウタハ。
「何もこんな時まで爆発にロマンを求めなくても…」
少しあきれた様子のコトリ。
「あぁ…すまないがその類いのものは買ってない。フーコが驚くといかんからな。」
「そうかい…それは残念だ。」
「ん、ホシノ先輩の分も取ってきた。食べるべき。」
「バイキングだからって取りすぎちゃダメだよシロコちゃん、というかおじさんこんなに食べられないよ~…」
「だから成長しない。」
「シロコちゃん?どこ見て言ってるのかな~?」
「うおぉー!!ポテトサラダ全部食うぞ~!!」
「アリスも手伝います!」
「またお姉ちゃんがバカなことしてる…」
「みんな楽しそうだね、フーコ。」
「うん…」
やや引きつった笑みを浮かべながら、私の席の隣に腰掛けるフーコに話しかける。彼女のお皿にはまだ何の具も乗っていなかった。
「フーコも何か食べなよ?あ、私が何か取ってきてあげよっか」
「じゃ、じゃあそれちょうだい。ちゃいろいやつ…」
私のお皿に盛られた焼きそばを指差す。
「他のも食べて良いからね。ほい、あーん」
「あーん…っ!?おいしい!!」
珍しく、大きな声を出すフーコ。しかし、そんなことよりも遥かに珍しい光景に、私は一瞬言葉を失ってしまった。
「フ、フーコ?それ…」
「先生?さっきから騒がしいけ、ど…?」
騒ぎに寄ってきたアル達も、私と同じような表情を作る。
幸せそうに食事を頬張るフーコの頭上には、円形の、真っ黒なヘイローが浮かんでいた。
「フーコちゃん、ヘイロー、戻ったの?」
少し涙目になるムツキ。
「おっ…おぉ?」
手を伸ばし、自分の頭上を確認するフーコ。しかしヘイローに実体は無いため、すかすかとすり抜けてしまっている。
「良かった、本当に良かったわ…」
フーコの頭を撫でつつ、もう片方の手で目元を拭うアル。
やがてほかの連中も異変に気付いた。
驚くもの、安堵するもの、祝うもの…その反応は様々だった。
「でも、なんで急に戻ったんだろう?」
首をかしげるモモイ。それは私も気になっていたところだ。
「フーコ、何か変わったこと無かった?今日か、最近か…」
「うーんとね、ごちそう、おいしい!」
「流石フウカの料理だね…」
「いやそんな大層なものは作ってないですよ?凄く嬉しいですけど…」
「きょうのはね、あじ?があった!」
フーコの一言に、凍り付く空気。
「今日はって…今まで、ずっと味が無かったの?」
なるほど、それなら色々納得がいく。便利屋の子達に拾われる前はゴミを食べていたとか、私が失敗した料理を嫌な顔一つせず食べたとか。
この子は、これまで大事なものを、子供が持っているべきものを、どれほど失ってきたのだろう。
普通なら親の愛に包まれるはずが、身を包むための、まともな服すら持ってなかった。
普通なら大事な恋人に捧げるはずのそれは、汚い大人への商品になった。
普通なら一生身体から離れるはずのないそれらは、理不尽に奪われた。
「せんせー…?」
心配そうな顔でこちらを覗き込むフーコ。どうやら泣いてしまっていたらしい。
フウカやカヨコ、イブキ辺りも涙を隠せていなかった。
「ごめんねフーコ、ずっと気づいてあげられなくて。辛かったでしょ?」
「ううん?せんせーと、みんなとたべるの、たのしいよ?」
「…っよし!イロハ、サツキにその他諸々!テーブルを繋げるぞ、手伝え!」
マコトの鶴の一声で、いくつかあった食事用のテーブルは、一つの大きなテーブルになった。さながら最後の晩餐のそれのように、随分横長になってしまったが。
皆が皆「これも食べて!」と自分の好物をフーコのお皿に乗せるもんだから、決して大きくないお皿はすぐにいっぱいになってしまった。
(モモイだけ、やけに盛ってたな…食べきれなかったんだろうなあ…)
「みんなのかおみれるの、うれしい。マコトさま、ありがとう…」
「そうだろうそうだろう。どうだフーコ、ゲヘナに住まんか?料理人もいることだし…それに、万魔殿に入りたいだろう?」
「ちょっと!そんなことは認めませんよ!やがてフーコは連邦生徒会長になる器なんですから!」
皆で同じテーブルを囲み、騒ぎながら食事を楽しむ。
お行儀はあまり良くないかもしれないが、これでいい。こんな『普通』を、日常を。
これから知っていって欲しいと、切に願う。
食事も大方片付き、皆のお腹が膨れ始めた頃に、これまた大きな誕生日ケーキが運ばれてきた。
「ロウソク、どうしよう…」
「1本で良いんじゃない?一回目のお誕生日、大きな一歩ってことで!」
「アリス、電気を消します!」
「ああ待て待て。ならば遮光カーテンを閉めようじゃないか。その方が雰囲気が出るだろう?」
遮光カーテンが閉まり、細いロウソク一本だけが部屋をぼんやりと照らす。
ハッピーバースデーも歌い終わり、本日の主役が直々にロウソクの火を吹き消す。
「ふっ…ふぅーっ!」
弱々しい火が消え、部屋は沈黙と暗闇に包まれる。
……
おかしい。少し沈黙が長すぎる。
火が消えると明かりがついて、皆で拍手をして、ケーキを切り分ける。そのためにアリスは電気のスイッチの近くに残っていたはずだ。
「アリスー?そろそろ電気つけてもいいんじゃない?…アリス?」
「…何かおかしい!近くの…誰でもいいから早く、電気をつけろ!」
珍しく取り乱すマコト。
「こっちの方が早い!」
窓側の席に座っていたホシノとシロコが、カーテンを全開にする。
と同時に映し出された人影に、ホシノだけがいち早く、絶望したような声を漏らした。
「黒…服……?」
黒いスーツに身を包んだ、無機質な影が人間の形を模したようなそれは、その手にフーコを抱えていた。
「気づかれる前にと思っていましたが…そううまくは行きませんね…」
「その子を離しなさいッ!」
誰よりも早く銃を抜いたカヤの弾丸は、確かにその黒スーツの男の足に命中するはずだった。
しかし、弾丸は空中で止まり、力なく床に落ちた。
男の背後の空間の歪みから、頭が二つある人間大の大きさの人形が現れる。
「良い腕ですね、流石は連邦生徒会所属…まさに『超人』と言ったところでしょうか?」
クックッと顔(?)を歪ませて笑う男に、歯ぎしりするカヤ。
「感心している場合か。ほら、また来たぞ。」
続いて誰かが放った弾丸も、これまたバリアのようなものによって弾かれてしまう。
「行かせるか!」
「近接戦闘…良い判断です。」
単身切り込むマコト。しかし、突然床から植物の蔓…にしては毒々しい色のものが飛び出し、そのままマコトを吹き飛ばす。
「非常に不本意ですが、貴方を連れてきて正解でしたよ。マダム。」
「こんな麗しの婦人をつかまえて、言うに事欠いてそれですか。これだから男は…」
「そういうこった!」
長身の、凡そ人間の姿からはかけ離れた女、首の無い男が、次々に歪みから出てくる。
しかしそれ以上に、その声に聞き覚えがあった。
『誰もあなたを必要としていない。眼を抉られようが、脚を切り落とされようが知ったことでは無いのでしょうね。』
あの忌々しい動画の、耳障りな女の声。
その主が、目の前に立っていた。
「殺す!!」
それに気づいたらしいアルと、ダウンしていたマコトが女に食らいつく。それにサツキ、便利屋メンバーも加勢する。
「先生!早く指示を!」
そんな姿をただぼうっと見つめていると、カヤに肩を掴まれ、正気に戻る。
「戦いが苦手な子達は私の後ろに!ゲヘナ組はそのまま女を攻撃、アビドス組は他の奴の相手をお願い!無茶はしないで、いのちだいじに!」
「「「了解!!!」」」
次第に連携が取れるようになり、戦いは激化していく。が、女を除く三人は平然としている。
「いくら攻撃したところで無駄ですよ。それに、この子が傷ついたらどうするんです?」
黒服の言葉に、一瞬皆の動きが止まりかける。
「攻撃を続けるんだ!」
後方で待機していたウタハが声を上げる。
「でも…!」
「大丈夫だ。わざわざ迎えに来るほど大事なものをみすみす傷つけるほど、連中はバカじゃない。それに、無駄というなら何故さっさと退散しない?」
「ほう…」
「おそらくだが、そのワープとバリアは併用できないのだろう?」
「ご明察。まあ、しかし…そろそろじゃないかね?」
ギシギシと音を立てながら身体を捻る人形。それと皆が次々に倒れたのは、ほぼ同時の出来事だった。
「何、だ…?」
「から、だ、が…」
「やっと効き目が出ましたか…流石は出来の悪い者が作っただけありますねぇ、木偶?」
「殺すぞ」
「神経ガス、か…?しかし、いつから…」
「パーティーが始まる前からですよ。徐々に濃度を上げてゆき、その中で動き回れば…」
「いかにキヴォトスの人間といえど、と言ったところですか?なんとも三下の考えそうなことですね。」
「あなたには言われたくありませんねぇ、不知火カヤさん。」
バリアを解除し、この場を後にしようとする一行。その一瞬の隙を付き、マコトが発砲する。
「くそ…」
弾丸は外れ、壁に跡を残すだけだった。
「おお、危ない危ない。やはり帰るのは全員眠ってからにするか。」
再びバリアを展開する人形。
「なんで!?なんでフーコばっかり酷い目に遭わないといけないの!?あなた達はなんなの!?」
声を上げるモモイ。
「そうですね、気分も良い。あなた方が眠るまで、話すとしましょうか。私達は『ゲマトリア』。神秘を研究し、崇高に至るまでの道を開拓する探究者です…この子は…神秘が…」
モモイの質問に答えているものの、ペラペラと訳の分からないことを話し続ける黒服。
「しめたぞ。先生、先生は動けるね?」
隣に倒れ伏したまま、小声で話しかけてくるウタハ。
「うん。シッテムのおかげでね。」
「やはり素晴らしい技術だ。奴らが帰る直前、バリアを解除したタイミングでこの『超短距離限定空間移動可能装置くん(試作品)』を使い、フーコ君を取り戻すんだ。ただ…」
「ありがとう、ウタハ。ただ…?」
「準備に時間がかかるんだ。それまで足止めできるかは分からない、緑のランプが光ったらボタンを押してくれ。」
「ぜんぜん分かんない!!フーコを返してよ!!!フーコは幸せになんなきゃいけないの!!」
「ぴいぴいとうるさい餓鬼ですわね…返すも何も、フーコはもともと私達のものなのですが?」
『私達の』という部分を強調し、女が言い放つ。
「どういうこと…?」
「申し遅れましたね。この子は、フーコは私の娘です。」
「は…?なに、言って…」
困惑する皆を無視し、話を続ける黒服。
「皆様方には感謝していますよ?私達ではあの子に愛情を注げなかったものですから…ククッ」
「待って…待って?噓でしょ?だって…そんな…」
「皆様の『ご協力』があって、この子は遂に完成したのですわよ?…ほら先生?生徒の成長を祝ってあげてくださいな」
嫌味ったらしくそう言って、歪な笑顔をこちらに向ける女。
私達の、せい…?
その疑問が、絶望が。思考を吞み込んでいく。
倒れ伏した皆のヘイローは次々に消えた。心身ともに限界を迎えてしまったのだろう。
それとは対照的に、手元のランプが点く。
まだだ。まだ希望は残ってる。私が動けばまだ間に合う。
「では、これにてお暇しましょうか…マダム、落ちたケーキを見つめないでください。」
「だってこれ、絶対美味しいやつですよ?一口くらい食べても…」
「なんと意地汚い!こいつはここに置いていくか。なあ黒服よ。」
「そういうこったよ(便乗)」
「それでは先生、私達は…ッ!?」
「フーコっ!」
こちらに気付いたフーコが手を伸ばす。手と手が触れたと思った瞬間、腹部に鋭い痛みが走る。
「かはっ…!」
そのまま天井に打ち上げられ、固い床に叩きつけられる。
「まったく、油断もスキもない…」
「先生に暴力を振るうな猿。しかし…よくやった。」
「心配はいらないかと思いますが…念のために処置しておきましょうかね。では我々はこれで。この子を育てていただいたことに、再三の感謝を。ククッ…」
「フー…コ…」
大人たちに連れられ、歪みに消えていくフーコの姿を見届けきらないうちに、私の意識は闇に沈んでいった。
「先ほどから何もしゃべっていませんが、考え事ですか?それとも、やはり怖くなりましたか?…フーコ?」
『大丈夫です。フーコをいじめる悪い奴なんか、みんなアリスがこの勇者の剣でやっつけてやります!!』
うそつき
『もちろんっ!…もちろんです。次など起こさせるものですか!』
うそつき
『フーコちゃん。おじさんが絶対守るから、フーコちゃんはそのまま進んでね。』
うそつき
「フーコ?気分が優れませんか?」
『フーコを一人になんて、絶対させない。』
『もちろんだよ。フーコが嫌って言っても離さないから。』
うそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつき
「フーコ?大丈夫ですか?」
『お゛っれぇ…ヴっヴヴあヴぁあ゛っわた、わたしっ!しッギぎぎぃ!!、そんんあ、なまえじゃ、な゛い!!!」
「…まずいですね。マエストロ、早く制御を。」
「とっくにやっているが?その目は飾りか?」
このひとたちも、せんせいも、しゃちょうも、ちょーじんも、マコトさまも、おじさんも、イブキちゃんも、ユウカおねえちゃんも、アリスおねえちゃんも、ユズおねえちゃんも、モモイおねえちゃんも、ミドリおねえちゃんも、カヨコさんも、ムツキさんも、ハルカさんも、フウカちゃんも、あびどすのみんなも、へんたいのひとも、おかあさんも、いたいのも、つめたいのも、こわいのも、ひとりなのも、くるしいも、うれしいも、たのしいも、おいしいも、あったかいも、ふわふわも、ぽかぽかも、みんな、みんな。
「何事ですか!!」
「制御装置のレベルを上げましょう。人格に影響が強すぎるかも知れませんが…」
「やっていると言っているだろう?第一、マスクも着いたままなのに何故暴走が起きる?」
「崩壊が始まっていないということは、『彼』はまだ残っている筈ですが…これは…少々まずいですね…」
―――――こわれちゃえばいいんだ。
「う~ん…あれ…?なんで私、ここにいるんだっけ…?」
「あっ!先生が目を覚ましました!」
「アリス?これ、どうなってるの?皆、生きてるよね?」
「センサーで確認しましたが、みんな生きてます!寝てるだけでした!」
「良かった…というかアリス、これって何の集まりだったっけ?」
「アリスもよく覚えていません…ケーキが落ちてるということは、何かのお祝いだったのでは?」
「う~ん…にしては物騒だよねぇ…ほら、壁とか床とか穴だらけ。」
「起きた人から順に、話を聞いてみましょう!アリス知ってます!これ、NPCと会話しないと次の村に行けないやつです!」
「言い得て妙だね…う~ん…な~んか引っかかってるんだけどねぇ…」