朝……太陽が顔を出して、暖かい日差しを向けてくる。俺はその光で目が覚める。カーテンを開けてみたら、それはもう素晴らしい快晴で晴れ晴れとしていた。
横を見れば、デッキケースとあのおっさんから渡されたデッキがあり…今までのは夢ではないと分からせられる。
「(目が覚めたら現実…なんて都合よく行かないよな…)」
そんな事を考えながらベッドから降りて、下のリビングへと向かう。替えの服なんて持って居なかった為に昨日とおんなじ服装で寝ていたから、凄い皺が出来ていた。
パジャマとか服とか…兎に角、色々と必要なものがある以上はここでの生活に慣れないといけない。
「……お腹減った。」
キッチンに向かっていき、冷蔵庫を開けてみたが何もない。見事に何もない。
……考えてみれば何もないのは当たり前という話で、流石に食料まで用意されてると考えるのは可笑しいだろう。どうしようかと考えていると、インターホンが鳴る。玄関を空けてみれば、そこに居たのは深雪さんであった。
両手にはビニール袋があり、その中にはうっすらとおにぎりのようなものが見える。
「深雪さん…」
「ごめんね、シン君。本当はもうちょっと早く行こうと思ってたんだけど道が混んじゃってて。
コンビニで朝ごはん買ってきたし、一緒に食べよ!」
…わざわざ買ってきてくれたのか。本当に何から何まで世話になる。
ここまで来たら何だか自分がヒモに思えて情けなくなってくるが、今は買ってきてくれたおにぎりを食べよう。
リビングで朝御飯を食べ終えた後、片付けを行ってからゆっくりしてると……深雪さんから話しかけてきた。
「ねぇ、シン君。君のデッキってどんな感じか見せて欲しいなぁ…なんて。」
「え?デッキですか?」
「うん、あの時のデュエマ見てなかったし…それに何か私からアドバイス出来れば良いなって思って…」
その言葉を聞いて少し考え始めた。このデッキに入ってるカードが絶妙に古いのばかりで、あまり強いとは思えない。それにこの世界のカード事情は多少なりとも知っているとは言え、詳しい人に聞くことは何も間違ってはいないだろう。
「……それじゃあ、見てもらっていいですか?」
「うん!任せて!」
そうして深雪さんにデッキを見てもらったが……段々と顔から笑顔が失われていく様子をリアルタイムで見ることになる。
最後は殆ど真顔だ。そうして最後までデッキを確認し終えた深雪さんは何を考えてるのかと思うと、突然俺の手を掴んで…
「今すぐにデッキ、変えに行こう。」
ただ、短くそう言うと俺を外に出して車に乗せると、そのままかっ飛ばしてカードショップへと向かった。
カードショップには僅か10分で到着した。家から結構離れて居たはずなのに、気付けばもう既に付いていたのだ。どんだけスピードが出ていたのだろうと呑気に思いながらも、深雪さんと一緒に店の中へと入った。
中は人がぼちぼち居て、お客さんも店員も皆女性だった。いやそれが当たり前なのかもしれないのだが…視線が凄い。なんだか凄いギラついてるようにも見えてちょっと怖い。
「あの、深雪さん。なんで急にデッキを変えようって……」
俺は隣にいた深雪さんにそう聞くと、深雪さんは少し言い淀んで……ゆっくりと口を開く。
「えっとね…シン君、君の今使ってるデッキは多分あの病院で渡されたんだよね…?」
「?……えぇ、まぁ…」
「デッキの内容を見せてもらった時に…私、寒気がしたよ。あんな紙束みたいなデッキ握らせて世に出そうだなんて。
あれじゃあ襲われたりしたら勝ち目なんか無いに決まってるよ…」
……やっぱり紙束なんだあれ。いや、ヤケに古いカード多いなとは思ってたけど紙束って言われてるなら相当だったのだろう。深雪さんは、そんな俺に自衛手段として新しいデッキを買おうとしていたようだ。
でも個人的に、自分もデッキを変えたいと思っていたからこの提案に同意を示した。だけど次からは自分のお金で買おうと決めた。何でもかんでも与えられるのは違うから。
深雪さんに連れられて、やって来たのはデッキ売り場。そこには様々なデッキが売られており、アビスやメカ、ジャイアントにアーマード…果てにはティラノドレイクやデビルドレイク等のマイナーどころまで、多種多様なデッキがある。
元いた所だと、こんなに構築済みデッキの種類が豊富な店は無かったからちょっとワクワクしてしまってる自分がいる。
「この中から好きなの選んで!今日は私がお金を出しますから!」
俺はそう言われて、申し訳ない気持ちになりながらもお言葉に甘えることにした。どの構築済みデッキを買おうか悩む中……値段の付いてないデッキを見つけた。
それを手に取って箱を確認するも、特に何も書いてない。変なデッキだ。
「あれ?それ値段ついてないね?」
「はい……それで気になって…」
「おっけー!じゃあ店員さんに聞いてみようよ!」
深雪さんと共に店員の居るレジまで向かう。やはりと言うか、店員も女性だった。俺を見た瞬間に跳ね上がってワタワタしていたが、俺の持つデッキに目が行くと直ぐに平静さを取り戻した。
「あぁ、そのデッキですか。」
「これを買いたいんですけど……」
「お金は取りません。」
「え?」
俺は耳を疑った。いくらなんでもお金を取らないなんてことあるのか?流石に常識を疑うが…店員はとても怪訝そうな顔を浮かべながら説明した。
「そのデッキ、呪われてるので……」
「呪われてる?」
「それを買ったお客さん、全員亡くなっちゃったのよ……捨ててもいつの間にか戻ってきてるし私達も気味が悪くて…」
「そんなものお店に置かないでよ……」
……呪われてるなんて、そんな事あるのか?手に取っても特に何にも感じなかったけど……
俺は不思議に思ったが、何故かこれを手放したくないと思ってしまう。
「シン君、別のデッキにしよ?そんな話聞いたら…」
「これ、買います。」
「シン君!?何言っているの!?」
「……お金はいらないよ。寧ろ、引き取ってほしい。」
そんなこんなでゲットした。深雪さんから凄く反対されてるけど…でも、なんでかこのデッキは自分を待ち続けてくれたような…そんな感じがする。カードショップで深雪さんにやっぱり別のデッキにしよう!そう提案されていると…後ろから女性の声が聞こえてきた。
「はははっ!こんなところに男が居るのか?」
その女性は見た目からしてかなりガサツな印象を受ける。でもその女性を見た深雪さんは、警戒心を剥き出しにして俺を後ろに隠すようにして守る体制に出た。
「お前、乱冷(みだれ)だな?数々の男性にデュエマを仕掛けて無理矢理犯してきた重罪人。」
いや、そんな奴さっさと牢にぶちこめよ…。
「お前あれか?男性保護官だよな?アタシに勝てない雑魚集団が前に出てくんなよ。アタシはその男に話かけてんだ。」
その乱冷と言う女性は値踏みするかのように俺をジロジロ見始める。そしてニヤリと笑みを浮かべると…
「丁度良い、アタシとデュエマしな。アタシが勝ったらお前を100人目の婿に迎え入れてやるよ。」
……これあれか?男性が少ない理由の大半こいつか?てか、それ聞いて首を縦に振るわけがない。
「悪いけど、それは嫌だな。でも良いよ、デュエマしよう。」
「デュエマは受けるか、その心意気は気に入ったよ。でもアンタはアタシの婿になることは確定だ。」
「ちょ、ちょっと待ってよシン君!」
深雪さんが止めてきた。俺はこの人がどれだけ強いのか知らないが、深雪さんが慌てて止めるなら恐らく相当強いんだろうな…でも俺は何だかんだ言ってあまり怖い思いはしてない。
「大丈夫です、深雪さん。何かあったらお願いしますよ?俺、信じてるので。」
「……っ!わ、分かったわ…何かあったら直ぐに助けに入るから!」
俺はその言葉を聞いてから乱冷のもとに向かう。乱冷は俺の顔を見て、下卑た笑みを浮かべた。
「いい顔してるじゃねぇか…それもアタシの物にするのが、楽しみでしょうがねぇ!」
乱冷はデッキをセット、俺もそれに続いてデッキをセットした。このデッキが何なのかは俺は知らない。そもそも俺の知識も止まってるから、何か知らないカードが来たらとにかくテキスト確認が先だ。
「行くぜ?」
「来い!」
「「デュエマ、スタート!」」
「俺のターン!ドロー!マナチャージ!」
台に置けばカードが光り、マナとなる。まるでアニメさながらの演出に今更ながら驚く。
「(今考えてたらとんでもない技術だなこれ!?)俺はこれでターンエンド!」(2マナ)
「アタシのターン!ドロー!マナチャージからの3マナで《ディザスター・チューン》発動!山札の上から4枚見て、手札、マナ、墓地、ボトムにそれぞれ置く。
これでターンエンド!」
「呪文版のデドダム…?いや、デドダムより強いのか…?」
相手の使った呪文に不安が生じながらも自身のターンを進める。しかし、手札に来るカードはまるで見たことのないカードばかり。
「(どうやれば良いんだ…これ!?今は何とかなるようにやるしかない…か。)俺は《星増樹〈飽きない遊びだぜ!〉》を召喚!効果で一マナブースト!」
置かれたカード
サーヴァ・K・ゼオス
「(ゼオス…?)そして自分のマナにjack-potカードが3枚以上あればもう一枚マナブースト出来る…けど、マナには1枚もない。俺はこれでターンエンド!」
「なんだ…?見たことねぇカードだな…お前を手に入れればその珍しいカードも手に入るって訳だなぁ!アタシのターン!ドロー!マナチャージし、4マナで《深淵の逆転撃》を機動!そいつのパワーをマイナス無限で破壊だ!これでターンエンド!」
「っ!最近のカードパワーはどうなってんだよ!俺のターン!ドロー!」
また、見たことのないカード。だが書いていることはそれ相応に強い。どのみち、やってみなきゃどうなるかなんて分かりはしない。
「マナチャージで《江戸素・Q・真理〈計算通り!〉》を召喚!出た時に2ドローし、1枚手札から墓地へ!これでターンエンド!」
「それだけか!アタシのターン!ドロー!」
カードを引いた乱冷は笑った。それは獰猛な笑み、獲物を刈り取らんとする笑みだ。
「さぁ、行くぜ?マナチャージからの5マナで墓地からアビスラッシュ!《邪幽 ジャヴェール》!」
墓地から現れるはアビスの名を持つドラゴン。そしてそのドラゴンはつんざくような笑い声を上げると、それは先ほど出した真理に狙いを定める。
「ジャヴェールで江戸素・Q・真理に攻撃する時!革命チェンジ!」
ジャヴェールの姿が変わる。それはかつては禁断から世界を救ったドラゴンの王のパラレル…世界を支配し、暴君へと成り果てた最悪の存在。
「世界を塗りつぶせ!《烈しき切札 ドギラゴン逆》!」
ドギラゴン逆が降臨した。