プリキュアとおじさん    作:キュアオットセイ

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上司は豚

 

 

 

 

「あ"あ"〜そろそろ次のランボーグでも作るかぁ。テーマは何にしようか。」

 

 ソラシド市にある建築途中で放棄されたとある廃ビルの2階が俺の全てである。

 

 無駄に積み上がった本や資料、埃が溜まりカビ臭い空気、中身がいつも空っぽな冷蔵庫、粗大ゴミを拝借して作ったソファベッド。

 

 この生活に対して思う所は無い訳では無いが、なんやかんや大枚叩いて買い取った自分の城にはそれなりに愛着が湧くものである。

 

「邪魔するのネン。今週分のアンダークエナジーを渡しに来たのネン」

 

 そんな俺の領域にノックも無しに入ってくる異形が一体。不健康そうな紫色の肌をした二足歩行の豚である。頭のモヒカンを見るに今日はあまり調子が良くなさそうだ。

 

「ああ、カバトンさん。いつもありがとうございます。……この前のキノコを素体にしたランボーグは結構強かったですね、なんていうキノコを使ったんです?」

 

 適当にインスタントコーヒーを出しつつ、ソファへ案内する。こんなナリでもこの人?は今の上司なのだ。

 

「そんなこと一々知らないのネン、……それにしても相変わらず辛気臭い所なのネン、訳の分からない本ばっかりで見ているだけで頭が痛くなって来るのネン」

 

 超大雑把に作ってるカバトンのランボーグより遥かに弱い俺のランボーグの存在価値って……。

 

「すいません、そういう性分なもんで。本来、俺は石の裏で静かに暮らしているような日陰者なんですよ。ほら、ダンゴムシみたいなものなんです」

 

「いつも自分を下げるお前は本当によく分からんのネン。……それよりも、お前も今日の襲撃を手伝うのネン。最近カロリー消費が激しすぎて、ランボーグ作るのがキツいのネン」

 

 あー、遂に言い逃れ出来ない時がやってきたか。現時点では誘拐の成否がどうでもいい俺としてはもうちょいぬくぬくしてたかったな。

 

「分かりました。じゃあこっちも何体か繕っておきますね」

 

「ちゃんとツエぇヤツらを選ぶのネン。俺様との仕事にヨエエやつらは不要なのネン」

 

「善処します」

 

 ……ううむ、流石に一体くらいは完成品持ってくか。最悪エナジー不足とか何とか言えばちゃんと作ってあり持ってきたという体裁だけは整う。

 

 カバトンさんが去った後のアトリエにて、俺は尖兵として出す実験体の雑魚2体が瞬殺されないように調整しつつ(どうせ正拳突きでワンパンなので多分無駄)、最初から調整が完了している一体を鞄の底に丁寧に入れた。

 

 

 ▲

 

 

「さっきファミレスで無銭飲食したからカロリーで一杯なのネン!今日という今日こそはプリンセスエルを奪うのネン!」

 

「無銭飲食するなんて、許せな「あっ、俺が払いました」……兎に角、エルちゃんは渡しません!」

 

 無論、財布は死んだ。

 

 ……さて、カバトンさんとの初の共闘戦線だ。相手は青いのとピンクいのの2人。

 

 俺のランボーグは死ぬ程弱いので、カバトンさんのランボーグの援護をしつつ、必殺技の発動を妨害するのがメインになるだろう。

 

「守れるかな?カモン!アンダークエナジー!」

 

 カバトンさんがそう恥ずかしい口上を述べる。アレを俺が言う為には35年分ほど若返らないと無理である。

 

 生成されたのは正体不明キノコのランボーグ。さっき俺に強いと褒められたのが嬉しかったのだろう。分かりやすい人?である。

 

 まぁ、テーマが揃うのでこっちとしても見栄えが良くなり助かる。

 

「ボサっとしてないでお前もとっととランボーグを出すのネン」

 

「あっ、はい。……シメジと椎茸、程々に戦って散ってこい」

 

 材料はスーパーのセール品である。あるキノコの怪物を作る為の試金石としての意味がある彼らは、残念ながら死ぬ程弱い。キノコをランボーグ化した時の挙動や菌糸内におけるアンダークエネルギーの指針性を調べる為には十分過ぎる役割を果たしているので決して無駄な存在では無いとだけ明言しておく。

 

「ましろさん!行きますよ!」

 

「うん、ソラちゃん!」

 

 ミラージュペンとやらを取り出して青いのとピンクいのが発光し始めた。最近は変身すらされずに敗北していたため、変身を見るのは久方ぶりな気がする。

 

 まぁ、ボサっと眺めていても何だかアレなので椎茸のほうに技の準備だけさせておく。傘のバッテンの部分からビームが撃てるのだ。無論、変身中はなんかキラキラとしたエネルギーが周りを覆っているので攻撃出来ないし、そうじゃなかったとしても中学生女子の着替えを妨害するのはただの事案なのであるタイミングを待つ。

 

「無限にひろがr、ちょ、何するんですか!」

 

 決めポーズ寸前に、青いの目掛けてぶっ放したら大成功。ただまぁ威力は女の子を泣かせるドッチボールの弾くらいの強さなので真の意味で嫌がらせ以外の何物でもない。

 

 案の定、青いのがキレて椎茸に殴りかかったのでシメジに指示を出して間に入らせる。傘が多いシメジは打撃による一撃死を免れることが出来るので盾としての役割を果たさせるのだ。

 

「なんの、これしき!」

 

 ただ青いのの高速ラッシュの前では3秒程しか持たなかったので、無事2体揃ってあの世に召された。まぁ、浄化される前にアンダークエナジーだけ回収したがな。転ばぬ先の杖、保険は大事なのだ。

 

「うっ、ソラちゃん……」

 

 一方、カバトン作の謎キノコランボーグはピンクいのを触手で縛りあげていた、事案である。しかし強いな、どうやったら適当に作っても強い敵になるのだろうか甚だ疑問だ。

 

 取り敢えず彼女の尊厳の為と俺の豚箱エンド回避の為に努めて青いのの方しか見ないようにする。……流石に助けに入ったら失業するため、これが今の俺に出来る最大の譲歩なのだ。まぁあとは青いのがスカイランド拳法だか殺法だかで何とかするだろう。

 

「プリズム!ぐっ、ヒーローガール・スカイパンチ!」

 

 おお、必殺技初めて見たな。そしてその技を食らったキノコのランボーグがぐらついきピンクいのが解放される。あぁ、あとはピンクいのが必殺技打って終わりだな。

 

「カバトンさん、引きましょう。我々の負けです」

 

「ま、まだ、お前もう一体持ってるのネン、とっととそれを使うのネン」

 

「……エナジー切れです。それにプリズムとやらが必殺技をいつでも打てる状態なのでどうせ出し損になりますし」

 

「ヒーローガール・プリズムショット!」

 

 俺がそう口に出した瞬間、巨大な光弾がキノコのランボーグ目掛けてぶっ放される。

 

 ……よりにもよって遠距離範囲技かよ!マジで雑魚にはどうしようもないな。

 

 案の定、キノコのランボーグは浄化されて……青いのが体力を減らしたせいだろうか、浄化を完了してもなお勢いが落ちることはなく此方に飛んできた。

 

 ……まぁ、多分そんな悪いもんじゃないしここらで一回浄化されとくか!荒んだ社会人の心にはきっといい清涼剤になるだろう。

 

「あっ、おじさん!危ない!」

 

「逃げて!」

 

 えっ、危ないの?そんな馬鹿な、魔法少女モノの必殺技がパンピーに効果ある訳……熱っつ!あっ、これ無理矢理貯蔵してるアンダークエナジーに反応してますね。カバトン氏やランボーグは元々エナジーをうまく制御する機構が備わってるからきちんと浄化されるけど、一般人の身体の俺の場合アボンだわ。

 

 因みにカバトンさんはキノコが浄化された段階で不貞腐れて早上がりしてしまった。助けは絶望的だが、まぁ多分今なら位置的にもタイミング的にもプリキュアとアンダーク陣営どちらにも見られてないし「作品」を使えるだろ。……コイツが弱かったらまぁ潔く死ぬとしよう。これでも創作者としてのプライドがあるしな。一応、それなりの自信作なのだ。

 

 俺は数瞬だけ、ソイツを顕現させてすぐに引っ込めた。

 

「いやぁ、やっぱり心が綺麗なおじさんには効かないみたいだね」

 

 後は何食わぬ顔をして奴らに嘘をつけばオッケーである。大人はズルいのだ。

 

「よ、良かったぁ。……ごめんなさい、技を上手く制御出来なくて。その、心が綺麗なおじさんだったから良かったけど、もしかしたらと思うと……」

 

 ピンクいのが慌てて駆け寄ってきた。心の綺麗さ云々の戯言を本気で信じている事に微笑ましさを感じながらこの上無く汚い心を持つ俺はベラベラと嘘をつき続ける。

 

「まぁ、死刑囚レベルじゃないと即死はしないだろうから安心しとけ、知らんけど」

 

「ですってよ、ましろさん。それにおじさんも浄化されて心なしか顔がスッキリした気がしますし、結果オーライです!」

 

「でも、これからは技の制御もちゃんと意識するね」

 

「……うん、そうしてくれたまえ」

 

 まぁ、知らぬが仏である。こんな感じに子供に上手く嘘を吐くのもまた、大人の義務の一つなのだ。

 

 

 

 

 





 追記・サブタイトルを挿入し忘れていたみたいなので修正しました。
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