プリキュアとおじさん 作:キュアオットセイ
殺されかけた哀れな駒鳥はつばさと名乗った。
曰く、青いのに捕まえた彼はプニバードとかいうスカイランドの原生生物らしい。空を飛べない代償に人間の姿に変じる能力を持つ種とのこと。……古今東西、神話や童話において人外が人の身体を得ると大概不幸になるのはお約束なのだが、種族単位で残っているのならまぁ実際は大丈夫なのだろう。
何らかの理由でこちらの世界に迷い込み、ヨヨさんの保護を受けて今に至るらしい。加えてピンクいのの前ではスカイランドの情報保持の為に唯の鳥のふりをしていたとの事。
ただ、そのスカイランドから青いのが来た後だったら自白しない理由はない筈である。青いのは妙な勘の良さでその矛盾を鳥人間(曰く、驚くと人間態になるらしい。聞いた逸話的には元は鳥なのに素の身体は人間なのだろうか?大変興味深い)に突き詰めた。因みに人間態は中性的な美少年である。
青いのは一回彼に向ける疑いの10分の1でもいいからこちらに向けてみよう。喋れる鳥なんかよりもよっぽど怪しいおじさんが家に侵入してますよ。
で、詰められた鳥人間ツバサは黙秘権を行使。黙秘なんかするもんだから青いのは猜疑心を膨れ上がらせてしまった。
まぁ、ガキの喧嘩に親でも何でも無い大人がしゃしゃり出る程野暮な事は無い。プニバード族という種族にこそ興味はあるがヨヨさんとの商談もあるのでスルーしておく。
余談だがもし俺があのガキ共だったらまず家にこっそり男性態に変身できる珍生物を住ませていた事にキレるな。諸々の事情を抜きにしたって単純に怖いだろ。
「その、おじさんはつばさくんについてどう思うかな?」
青いのも鳥人間も去った部屋にて、ピンクいのがそう尋ねてきた。
「ふむ、それは今のこの状況についてか?それとも俺個人の所感か?」
「うーん、仲直りしてほしいから前者と言いたいところだけどそれはきっと自分たちで考えないといけない事だから。所感のほうで」
「まぁ、まず知性はかなりあるな。種族的に頭の出来が一般人より良いのだろう。一年という時間があった事を考えても異世界の知性体特有の"ズレ"が少ないように感じる。……あぁ、ズレというのは青いのが頻繁に機械に驚いたりするアレのミニマム版だ」
「確かにソラちゃんは出会った当初はかなり右往左往してたけど、つばさくんからは似たような事をあまり感じなかったかな」
「まぁ、あの青いのは少しオーバーすぎるがな。後はやはり……人外と人間の境界線に立つ者というのは彼らにしか分からない孤独を背負うのが創作の世界では鉄板だ。大体、動物なんかの人外から人間に成った存在なんてのは動物的な純粋さ故に人間社会の悍ましさに耐えられないし、変に人間的な思考を有するから動物側からは排斥される。で、だいたい最期は……この辺でやめとくか?」
少し不安そうで悲しそうな顔をしたピンクいのにそう訊ねる。
「ううん、きっと悲しい話なんだろうけど、つばさくんの事をもっと知りたいから。それにおじさんのことも……」
「そっちに関しては特に話す気は無いから勝手に推し量っといてくれ。自分語りなんてするもんじゃ無い、俺みたいなおじさんのは特にな。絶対クソつまらんし。……そう意識してもついしてしまうのが人の性なんだがね」
「ふふっ、じゃあそっちはいつか口を滑らせるまで待つね。それで、つばさくんは……」
「あぁ、あの鳥人間か。うーむ、後言える事は動物としての側面が良い方向で出ている事だな。人間には無い清廉さとでも言おうか。捻れ、薄汚れた俺のような存在とはある種対照的だな。彼の秘密については自分達で探ってくれたまえ。怪しい珍生物として処断したいんだったらまぁ協力しないでもないが、そういう訳じゃないんだろう?ならば通すべき筋がある」
「ありがとう、ソラちゃんと2人で頑張ってみるよ」
「それじゃ、ガキはもう寝る時間だ。あっ、青いのは今多分軽いパラノイアに陥ってるだろうから引っ張ってでも寝かしつける事を推奨する」
「……やっぱり、おじさんは優しいね。うん、おやすみなさい、おじさん」
ピンクいのはそう言い残して部屋を去った。……相変わらずコイツらは人物評価の基準が甘すぎてびっくりである。俺が女子中学生だったらおじさんというだけでー100点なのに。いや、それは偏見がすぎるか。
俺は今どきの女の子の価値基準がどの辺にあるのかを考えながら、商談の開始を待った。
▲
「俺TUEEE!」
「眠い……」
さて、徹夜明けの仕事である。今回のランボーグはカバトン氏謹製のドローン型のそれであり、飛行性能、搭載兵器、レーダー、装甲、どれを取っても一級品である。この手の悪役ってやたらメカに対する造詣が深いのだ。一瞬でこれだけのものを想像出来る能力があるのならカバトン氏は職に困る事は無いだろう。キチンと操縦も出来てるしマジで俺なんかより100兆倍有能である。
俺は車の免許すら持ってない無能なので操縦しようなんて馬鹿な事は考えずに大人しく客席でカバトン氏が破壊の限りを尽くすのを鑑賞している。コイツら異界の規定かなんかで殺人や一般人への積極的傷害は控えてるからマジで安心して見てられる。街がド派手にぶっ壊れていく様はさながらアクション映画であるな。
あっ、青いのとピンクいのが来た。ジャンプでこっちに突っ込んでくる。……この飛行物体、落下傘ってある?
そんな撃墜の幻想はカバトン氏の操縦技術の前に砕け散った。少しも焦る事なく高度を取るその技術は素直に尊敬する。あっ、青いのが落ちてった。いい気味である。
そこから暫く戦闘を眺めていたが、正直言ってかなりこちらが優勢な状態だ。プリキュア共もロケット発射時の多段階ブーストの原理っぽい作戦を持ち出して対抗していたが搭載武装による弾幕のせいで近づく事が叶わない。その上、奴らには飛ぶたびに落下のダメージが蓄積しているので、敗北は時間の問題である。……まぁ、ほんとにヤバそうだったら命くらいは助けよう。タダ飯の恩義である。ぶんどられてる分を考えると収支的にプラスかどうかは定かでは無いが。
彼女らにとって悪い事は更に続く。こちらの陣営の最優先目標であるエルとかいう赤子が空飛ぶ揺籠に乗って自らこっちに接近してきたのだ。案外冷静だったカバトン氏の判断によりエルの捕縛を優先する事を決定。掃除機光線とかいう超技術によりサクッと捕縛されてしまったのだ。
どーしよ、マジでアイツら詰んだっぽいな、コレ。
個人的にはカバトンさんには良くして貰ってるし裏切りたくはないのだが、彼の雇い先がエルを使って何をしようとしているかまだ分からない以上あんまり彼女を渡したく無いのが本音である。でも、アンダーク帝国はパトロンとしてはこれ以上無いんだよなぁ。
ひとしきり悩んだ末、俺は道化を演じる事にした。
「カバトンさん!俺にも戦わせてください!俺、"カバトンさんみたいに"もっと強くなりたいんです!」
我ながらクソみたいな言い分である。だが、俺がでしゃばって勝手に負ける分には雇い先を裏切った事にはならないし、カバトンさんの評価が下がる事もないだろう。いつの世も真の敵は無能な味方なのだ。
「その心意気買ったのネン!まぁ負けても良いから思いっきりやってくるのネン!」
そう言ってカバトンさんは飛行型ランボーグを消した。……思い切りが良くて助かる。
まぁ、カバトンさんは強さへの肯定感に飢えているのでこんな気の狂った言い分でもサラッと通せる。……今度昼飯奢るのでどうかご赦しを。
そう心で謝罪を重ねながら、エルと何故か一緒にいた逆鳥人間コンテスト野郎を回収する。地面への着地はご都合パワー(もしくはあの消した飛行物体の機能)で穏やかに降りる事が叶った。
「……カバトンさん、ここからは一人でやらせてください」
「分かったのネン。じゃあ、健闘を祈るのネン」
死ぬ程それっぽい事を言ったら、カバトン氏はエルの回収も忘れて帰っていった。……良かった、これ以上間抜けなふりをし続けたら流石にボロが出るところだった。
「おい、プリキュア共。一回こっきりの特別サービスだ、"条件付きで"ガキを返しに来た。あのランボーグはお前らだけじゃ普通に危なそうだしな。というか結構何回も背中から落下してたがそれは大丈夫なのか?目測100mはあったぞ」
ビルの屋上でプリキュア二人と相対する。
「おじさん!ありがとうございます!エルちゃんを助けてくれて!」
そう言って青いのが駆け寄ってくるのを目線一つで止める。青いのも普段と様子が違う俺の様子を見て、少しの恐怖を顔に滲ませた。
「"条件付き"と言っただろう。一定の慈悲をかけた以上、いつもと違ってここからは容赦無しだ。難易度はさっきの4分の1といったところか。少し呼吸を整えたら言ってくれ。……あっ、あげはさん久しぶりです。少し荒ごとなので離れた方が良いですよ」
「わ、分かった!あと、エルちゃんを助けてくれて本当にありがとう!」
物陰にいた彼女にもそう声をかけると、お礼で返された。純度100%自分の為にやった事がこうも感謝されるとなんだかむず痒いな。
彼女こと、聖あげはさんとの関係についても色々考えたい事はあるが一先ず、決闘擬きが優先だ。
あっ、鳥は返すか。約束には関係ないしな。
「わぁっ!……か、解放された?どうして?」
「なんか頑張りたそうな顔してたしな。そこのガキ二人と一緒にお前もちょっと付き合え。おあつらえ向きの試練も用意してある」
それっぽい事をつらつらと並べ立てる。まぁ、コイツの事情なんてちょっと考えればなんとなく分かるものである。古今東西、飛べなくなった鳥の願いの定番は"やっぱ飛びたい"というものなのだ。……間違ってたらあげはさんに回収してもらお。
「おじさん、戦う前にやっぱり一言言わせてほしいな。……本当にありがとうね」
「バーカ。勝ってから言え。いつもの雑魚だと思ってるとマジで痛い目見るからな」
ピンクいのはちょっと舐めすぎだな。半分煽ってると思うのは俺の心が汚れ切っているからだろう。
「エル、少し大人しくしていろ。暴れて手元が狂ったら食われるからな。───じゃあ、やろうか」
俺は鞄からあるアクアリウムを取り出した。
『"怪物" "B級" "海の王者" "食われるのは水着のバカ女"』
それは理不尽の象徴であり、その能力の代償にシリアスさを奪われた悲劇の怪物。
「いってこい、
空飛ぶ安っぽい鮫の渦が、プリキュア共に牙を剥く!
「───鮫だって、空を飛べるんだ。鳥が飛べない道理は無いだろ?少年」
結構有名なネタだと思うのですが、分からない方の為に念のため書いておくと「サメ映画」で検索すれば主人公がどういった類いのものを繰り出したのかは分かると思います。