プリキュアとおじさん    作:キュアオットセイ

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休日出勤反対

 

 

「良くやった!我が手下1号。そのままプリンセス・エルをこっちに持ってくるのネン!」

 

「いや勘弁して下さい、俺今日は一週間でたった一日のオフですよ?!納期が迫る作品製作に、毎度秒殺されるプリキュアへの襲撃。オフの日までプリキュアとランボーグが戦ったらそれはもういつも通りなんですよ!」

 

 ガキ共にねだられて無理矢理連れてこられた出掛け先で上司とばったり出くわすなどというおおよそ社会人として考えられる最悪の出来事が俺の身に起こっていた。

 

 何とか登山道を登り切り、鳥とあげはさんとエルと合流した矢先にこれである。一回お祓い行ってこようかな。

 

「いや、普通に融通が効かなすぎなのネン!お前が今サラッっと抱いてる赤子がこっちの最優先目標なのは分かり切ってる筈なのネン!」

 

「えるぅ」

 

 カバトン氏の指摘と共にエルが胸板に頬擦りした。悲しい事に俺だったらコイツを盗む事自体は楽勝なんだよな、多分この子妙に懐いてるから抵抗しないし。プリキュアを倒してからとなると途端に成功率0%だが。

 

「いや、俺契約社員なので組織への忠誠とか特に無いです。貴方個人にはそこそこ恩もあるので助けたい気持ちもあるんですが、今はオフなので……すいません」

 

「くっ、こうなったら無理矢理にでも奪うのネン!カモン、アンダークエナジー!」

 

 ロープウェイの車両を元にした、ランボーグが顕現する。その敵意はこちらにむいて───

 

「おや、捕まってしまった。カバトンさん、山登りさせられたせいで筋肉痛なんで丁重に扱って下さい。ほら、エル。新手のアトラクションだ」

 

 怪物に鷲掴みにされるという貴重な体験をしながら、俺はエルをあやす。……しかしコイツ、捕まり慣れてるな。普通だったら泣き叫ぶところをちょっと不安そうになるだけで済んでる。

 

「おじさん!?あげはちゃんにエルちゃんまで!……みんな、行くよ!」

 

「おー、じゃあ一度は言ってみたかった事言うか。プリキュア、助けてくれ」

 

 例の如くガキ共が発光しだす。……というか鷲掴みされてるせいで気づかなかったが、もう一人分体の感触がする。あっ、あげはさんも捕まってらっしゃるのか。

 

「カバトン氏〜、今はコンプラ厳しいですからおっさんと女子大生を一緒に捕まえちゃダメでしょ」

 

「いやいや、私は気にしてないよ。っていうか気にするところソコなの?捕まってピンチなんだよ!」

 

 まぁ、これくらいなら何とかなるだろ。というか俺は別に攫われたところでアトリエはこっちの世界にあるから返されるだけだろうし。

 

「くっ、人質なんて卑劣です」

 

 ランボーグはプリキュアが接近すると俺たちを盾にするような動きをし、毎度の如くプリキュアが苦戦しはじめる。まぁ、お約束だな。

 

「お前、この前俺にスカイパンチ打ったじゃん。何を躊躇してんねん」

 

「あれは……つい反射で。というか今はエルちゃんもあげはさんもいるんです。打てる訳無いじゃないですか」

 

「暗に俺だけなら打つみたいなこと言うのヤメロ。老い先短い無能低所得者おじさんと未来溢れるVIP血筋赤ちゃんだとしてもヒーローなら人命は平等にあつかえ!」

 

「おじさん、捻れすぎだよ。それより、自力で脱出出来たりしないの?普段は手を抜いてるだけでおじさん多分強いよね」

 

 ピンクいのが身も蓋もない事を言い出した。

 

「いや、本当に無理だ。今日はオフだから手ぶらなんだ。頑張って救助してくれたまえ」

 

 まぁ本当に非常事への備えが無い程間抜けでは無いが、カバトンvsプリキュアは非常時でも何でもないので俺が取れる行動は何も無い。雑魚相手にもシメには大技の必殺技を使うプリキュアとは違い俺は手札に余裕が無いのだ。

 

「くっ、どうすれば……」

 

 鳥人間が物凄く真面目に追い詰められている。……所詮は手で握ってるだけだし、図体との割合的に気を引いたりなんなりして陽動すればそこまで難しい相手では無いと思うのだがな。陽動自体は俺とのガチバトルでかなり高度なものをやったのだし。

 

 ……観察の結果、プリキュアの能力出力は変身してから後になればなるほど上がるとは考えていたが、知性にも現れるのだな。思えば、鮫竜巻はカバトンのランボーグとの連戦の上、かなりの長期戦になったから最後の方のスペックはバトル漫画顔負けのスペックだった。

 

「カバトン氏、片手塞がった上でコイツらの相手は無理です。一旦引いてからではないと互いに千日手でしょう。コイツはロープウェイの性質を有していますから、引く事自体は容易い筈です。お前らはとっとと陽動なり多方向から攻めるなりしてコイツを破壊しろ。ピンクいのが威嚇射撃しつつ、青いのが陽動して一番機動力のある鳥が止めを当てればそれで終わる」

 

「なっ、おじさんはどっちの味方なんです?!」

 

「そうなのネン!」

 

「早く俺を解放してくれる方。正味、疲れた」

 

 俺がこの手の戦いで一番嫌いなのはグダった戦闘である。人質なんかもう最悪で、取った方も取られた方もその後の展望が無いのでひたすら睨み合い続けるだけになる。

 

「……このランボーグにジャンケンさせるって言う手は?ほら、グーを出すって宣言すればさ」

 

「いやいやあげはさん、コロコロ漫画じゃないんですし……カバトンさんのノリの良さを考慮してよしんば成功したとしても我々を捕まえている手ではなくワイヤー握ってる手を話したら三人揃ってお陀仏です。俺は賭け事は場合によりますが基本的にはあまり好みません」

 

 このランボーグはロープウェイのゴンドラに手と足が生えたような雑な構造をしており元となった物の性質に引っ張られて基本的にワイヤーにぶら下がっている。ので、人質をもう片方の手で取るとほぼ足で跳ねたり蹴ったりするだけの役立たずに成り果てるのだ。

 

 もう多少誤射してもこっそり俺が庇うからとっとと突っ込んできて欲しい、俺は人質には二度とならないと決めながらそう思ったのだ。

 

 

 ▲

 

 

「……あれから二時間かけるとか、お前ら色々大丈夫か?まぁ、二時間グダって勝てないカバトン氏もアレだけど。」

 

「「「すいません……」」」

 

 すっかり日が暮れた駐車場にて俺はクソガキ共にそう愚痴った。

 

「まぁまぁ、助けてもらったんだし文句言わないよ、おじさん」

 

「えるぅ」

 

 あげはさんとエルのフォローが入るも俺のネチネチとしたくだらない怒りは簡単には収まらない。イライラという言葉が近いだろうか。怒りとは時に粘性を持つ者なのだ。

 

 やはり、何というかプリキュアはお約束には弱いようで我々人質を何とかしない限り出力がショボいままだった。プリキュアは空気感や状況によっても割と出力が左右されがちという新たな発見があったのは良い事だったが、どうにも時間が長すぎたな。最後は結局、あげはさんによる生存率50%の命懸けのじゃんけんにより我々は解放されたのだ。

 

「だから、俺は別にどっちが勝っても変わらんつうの」

 

「それ毎回言ってるけど、おじさんはエルちゃんがどうなってもいいの?」

 

 ピンクいのが怪訝な目付きでこちらを見つめてくる。

 

「まぁな。大人には"色々"あるんだ。まぁ、君たちが一回くらい負けてもエルちゃんがどうにかなる事は無いから安心してくれ」

 

 彼ら彼女らが一敗した程度で事態が急転しないよう保険は色々張ってある。プリキュアとは言えまだ子供、一度の失敗も敗北も許されないのは些か社会が狭量が過ぎるというものだ。

 

 それにこちらが"勝たなければならない"事態は恐らくそう遠くない内に起こるだろう。

 

 俺はなんやかんや信頼してるし恩もある上司の豚顔を浮かべながら、ガキどもを傷つける覚悟を決めた。

 

 ある意味、今日のハイキングはコイツらとの関係の終わりとしていい思い出になったな。いつも通りのカバトン氏謹製のランボーグが暴れ回り、プリキュアが苦戦しながらも倒す。俺もヘンテコ雑魚ランボーグ作って参戦したかったのが心残りではあるが、まぁ人生悔いのない事の方が珍しいものだ。

 

 次はきっと、決闘や勝負ではなく殺し合いになる。諸事情というか上が短気過ぎるせいで文字通りウチの上司が死に物狂いにならざるを得ないからな。だが、彼単品で行ったら最後にはきっと負けてしまうだろう。プリキュアとは"そういう物"だと俺は観察の結果、結論付けたのだ。

 

 まぁ、行き過ぎれば一周回ってプリキュアによって助かるという可能性もあるが、命を賭けるには些か危険過ぎる。

 

 本当に嫌だけどやらざるを得ない、というのはこういう時なのだ。

 

 世の中は等価交換、何かを手に入れる為には何かを捨てざるを得ない。

 

 何も選択出来ない奴は無様に全てを失うし、全てを救おうとする大馬鹿者は自分を失う。

 

 プリキュアが自分を打ち負かした者まで助ける事が出来る事を夢見ながら、俺は夜道を走った。 

 

 

 

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