戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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妖刀“怨熱”

……………………

 

 ──妖刀“怨熱”

 

 

「龍が司るのは何か」

 

 黒姫がそう言う。

 

「荒ぶる川。炎と毒を吹く山。龍が、わしが司るはそれだけか?」

 

 古来より河川の氾濫は龍神の祟りだと言われていた。川の氾濫を鎮める人身御供は龍神に向けて捧げられるものだ。

 

 荒れ狂う海や金属を生み出す山もまた龍神の形で崇拝の対象となった。

 

「いいや。鉄。そう、鉄だ。鉄もまた龍神のそれよ。故に──」

 

 黒姫がそう言うとその手のひらから刀が姿を見せる。

 

「わしの力はこのような形とすることができる」

 

 炎を帯びた刀が黒姫の手に。

 

「何だ、それは……」

 

「妖刀“怨熱”。こうでもしないとわしの力は下手に振るえば岩陽どころか日の本が滅ぶのでな。手加減という奴だ。感謝せい」

 

「舐め腐りおって」

 

 黒姫がにやりと笑い、大入道が大筒を向ける。

 

「くたばるがいい、時代遅れ!」

 

 そして、大筒が間違いなく黒姫を捉えて砲弾を叩き込んだ。

 

「これを振るうのも久しぶりだな」

 

 黒姫は無造作に“怨熱”を振るうと砲弾を切断。砲弾は割れ、さらに炎に包まれると溶けていった。どろどろと。

 

 先ほどの橘は砲弾よりも遥かに小さな銃弾で刀が砕けた。

 

 しかし、黒姫の“怨熱”は刃こぼれのひとつもせず、その刃を剣呑に輝かせている。

 

「命乞いをするなら今のうちだぞ、大入道。どうせ殺すがな」

 

「ぐ、ぐう……」

 

 抜かった。黒姫は龍神だ。衰えてなどいない。そう大入道が思う。

 

 神として祭られるのはそれなりの理由がある。

 

 そして、黒姫の理由はその強さだ。圧倒的な強者としての地位だ。

 

「さあ、裂いてくれよう。燃やしてくれよう。踊らせてくれよう」

 

 その黒姫が大入道に襲い掛かった。

 

「易々とは殺されぬぞ!」

 

「ははっ! ならば、抗え!」

 

 大入道が大筒を鈍器として振り回して黒姫を狙うが、黒姫は大筒を一閃。真っ二つに引き裂いて斬り捨て、大入道に肉薄。

 

 大入道の右手が飛び、左手が飛び、右足がもげ、左足がもげ、腹が裂かれる。

 

「どうした? 抗わぬか、物の怪」

 

 手足を失いはらわたを垂れ流すだけになった大入道を前に黒姫が嘲笑する。

 

「おのれえ、黒姫………ふひひひっ! だがなあ、俺様は白姫様より不死の力を賜っている! 死なんのだよ!」

 

 大入道の手足が瞬時に生え、腹の傷がふさがると黒姫に飛びかかった。

 

「なるほど。白姫も面倒なことを。しかし、お前は見ておらんのか? 不死人がどういう運命を辿ったかを、な」

 

 再び立ち上がった大入道を黒姫が再び八つ裂きに。

 

「この……まだまだっ!」

 

 八つ裂きに。

 

「うおおお! 覚悟──」

 

 八つ裂きに。

 

「ふぬんう……! 俺様の……!」

 

 八つ裂きに。

 

「まだやれるぞ! まだ……!」

 

 八つ裂きに。

 

「ああ……! これは……」

 

 八つ裂きに。

 

「やめ……!」

 

 八つ裂きに。

 

「もう死……」

 

 八つ裂きに。

 

「ぐえ……」

 

 八つ裂きに。

 

 八つ裂きに。

 

 八つ裂きに。

 

 八つ裂きに。

 

 八つ裂きに。

 

 八つ裂きに。

 

 八つ裂きに。

 

 八つ裂きに。

 

 八つ裂きに。

 

 八つ裂きに。

 

 ……。

 

 八つ裂きに。

 

 …………。

 

 八つ裂きに。

 

 …………………。

 

「どうした? もう戦わんのか?」

 

 黒姫が怪しげな笑みを浮かべてそう尋ねる。

 

 大入道は燃えていた。燃え上がっていた。ごうごうと燃える炎の中にいた。

 

「どうなったのだ、それは?」

 

「焼き鳥みたいになってしまった」

 

 のっぺらぼうの軍勢を殲滅した橘が戻ってきて黒姫に尋ねる。すると黒姫は肩をすくめてから焼き鳥を想像して舌なめずりして見せた。

 

「いくら生き返ろうと殺し続ければいいだけだ。愚かなものよ」

 

「しかし、このままこいつを放っておくわけにはいかないだろう。不死人は傷が癒えなかったものの、この物の怪は負った傷を癒してしまう。こいつを放っておけば、いずれここで暴れ始めるぞ」

 

「面倒だな」

 

 橘に指摘されて黒姫が眉を歪める。

 

 大入道は燃えて炭化しながらもまた肉体を再生されている。

 

「私が協力しよう」

 

 そこで声を上げたのは控えていた椎葉だった。

 

「この物の怪には死霊術が刻まれている。間違いない。白姫が与えた不死というものだろう。不死人よりも遥かに高度で実用的だ。その技術が白姫にはあるようだな」

 

 椎葉がそう言いながら燃え上がる大入道を見上げる。

 

「これだけの技術があるというのに不死人という欠陥の不死を演出した。やはり不死人は恐怖を広めるための竜種らしい悪辣な戦法であったか」

 

「竜種がどうこうはもう聞き飽きた。どうにかせい、このやぶ医者」

 

「待て」

 

 椎葉は文句を言う黒姫を制すると目を閉じて手を合わせた。

 

 そして、独特な手の動きで何かの印を刻み始めると大入道から紫色の混じった煙が抜けていくのが分かった。その煙は炎から生じるそれとは明確に違い、煙そのものが生きているかのようだった。

 

「眠れ、永遠に」

 

 そして大入道の体が炎で炭化していき、そのまま灰となって消滅する。

 

「ほお。やるものだな、やぶ医者」

 

「ふん。ようやく認めることができたか、竜種」

 

「けっ。可愛げがないな」

 

 椎葉と黒姫の仲は良くなりそうにない。

 

「椎葉殿。聞きたいことがある」

 

「何だろうか、橘殿?」

 

 そこで橘がそう声をかけた。

 

「俺は落葉城にて白姫に体を与えられたという怨霊と戦った。だが、その怨霊は斬っても死なず、結局は逃げられて倒せなかった。そなたならばどうにかすることができるのだろうか?」

 

「ふむ。その話を聞く限り死霊術によって純粋な霊体を物質化したものと考えられる。そのような場合、斬撃で裂くことなどは意味がないだろう。私であれば霊体にかけられた死霊術を解呪することで死を与えられるが」

 

「やはり“ねくろまんしい”が必要なのだな」

 

「そうなるだろう」

 

 橘が確認すると椎葉がそう言って頷く。

 

「聞いたな、黒姫。俺とお前では白姫の配下の者を殺すことすらもできない。椎葉殿の助力が必要だ。俺たちの側にも“ねくろまんさあ”が必要なのだ。だから、彼に協力してくれるように頼んでくれ」

 

「やだ」

 

「黒姫」

 

「むう……」

 

 橘が黒姫を睨むのに黒姫が唇を歪めて実に不満そうな顔する。

 

「いや。橘殿、私の方からお願いしよう。手を組ませてほしい」

 

「本当か?」

 

「ああ。この白姫の手先は私を探していた。つまり、間違いなく裏切った勅使河原が白姫に情報を流したことになる。そうであれば私も勅使河原を討たなければならない」

 

 椎葉はそう事情を説明した。

 

「では、よろしく頼む、椎葉殿」

 

「こちらこそ頼む、橘殿。そなたは手練れの侍のようだ」

 

 そう言って橘と椎葉が頭を下げた。

 

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