戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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隠れ里の戦い

……………………

 

 ──隠れ里の戦い

 

 

「おう。橘、朝飯だぞ」

 

「黒姫。まさか一晩中飲んでおったのか?」

 

 黒姫がけらけら笑うながら館で橘を出迎えるのに橘は渋い顔をした。

 

「別にいいだろう。わしがおればどうにでもなる」

 

「そう簡単にいくとは思えん」

 

 橘はそう言って用意された握り飯に食らいついた。

 

「紅葉。筆と紙はあるか?」

 

「ご用意します」

 

 橘はすぐに朝食を終えて求めるのに紅葉が筆と紙を準備した。

 

「里の守りを見て回って来た。その上でここでの戦いがどういうものになるかを説明する。よく聞いてくれ」

 

 橘は五位鷺などの岩戸衆の男たちと黒姫を前に説明を始める。

 

「まず敵が破ってくるのはこことここの防壁だ。この位置の防壁が面する斜面は緩やかであり、戦力を集中させやすい。他が破られる可能性もないわけではないが、突破した後の後詰が遅れれば撃退できる」

 

 橘は陣地を設営するに当たって地形を見て回っていた。

 

「よってこの位置に鉄砲を据える。鉄砲は射線が交差するように配置し、突破口に火力を集中する。鉄砲はあるだけ動員するが足りなければ矢でも石でも投げ込め」

 

 突破が予想される位置に十字砲火が浴びせられるように陣地が作られている。

 

「厄介な狸爆弾だがあれには弱点がある。火矢を浴びせれば誘爆することよ。狸爆弾は見つけ次第火を放て。よいな」

 

 化け狸の死体を利用した狸爆弾の爆薬は黒色火薬だ。火や衝撃で簡単に爆発する。敵が複数の狸爆弾を使うなら一発の火矢で全滅させられる可能性もあった。

 

「しかし、ここまでやっても敵の規模によっては陣地を放棄することとなる。すぐさま予備の陣地に入り交戦を続けよ。鉄砲の弾と火薬が尽きたら槍を持て。槍衾は農民であろうと武士を殺す」

 

 障害物はただ単なる壁ではなく、敵の鉄砲や矢の狙いを定められぬ目隠しの意味があり、かつ敵からの攻撃を防ぎながら槍などで攻撃するための陣地である。

 

「陣地を次々に抜かれようと恐れることがあってはならん。最後まで戦え。落ち着いて陣地から陣地に移動し、最後はこの館へと逃げ込むのだ。そして、ここで敵を粉砕する」

 

 どんと橘が館の門にバツ印を描く。

 

「ここに火薬と油を置け。最初と違って敵が館に攻め入るとなればこの門に限定される。ここで火薬と油に火を付けて敵に大損害を与えてくれよう」

 

 橘はそこまで説明して岩戸衆の忍びたちを見た。

 

「戦えるのは幾人ほどだ?」

 

「男が20人と女が8人」

 

「敵はそれよりも間違いなく多いだろうが野戦でない防衛戦は防衛側が有利。士気を落とさぬようにせよ。酒でも何でも振る舞ってやれ」

 

「はっ」

 

 橘の指示を受けて忍びたちが動き始める。

 

「お前、一端の兵法者のようであったな」

 

「俺とて無意味に戦場にいたわけではない。それなりに学べることは学んだつもりだ。恐れぬといいうだけでは戦には勝てぬからな」

 

「分かっておるではないか」

 

 橘は牢人となってから各地に戦場で兵法を学んだ。

 

 生き残るために。勝利するために。そして、白姫を討つために。

 

「お前はどう動く、黒姫」

 

「忘れたか? 敵にはあの首無しがおる。あれは鉄砲でも油でも止まるまい」

 

「そうだな。あれは不味い」

 

「わしはあれが現れることに備える。それでよいな?」

 

「頼む」

 

 黒姫ならば不死身の首無し武士となった藤堂邦孝を止められる。

 

「敵は暗くなってから仕掛けてくるだろう。それまで待つぞ。椎葉殿は?」

 

「知らん。やぶ医者のことなどわしが知るか」

 

「椎葉殿の協力も必要だ。また大入道のような不死が出れば“ねくろまんしい”が必要になるからな」

 

「気に入らんがその通りだ」

 

 そこで黒姫がふと橘の方を向き、ずいと顔を寄せた。

 

「お前、やけに真面目腐った顔をしておるが、また馬鹿なことをしようと思ってはおらんだろうな?」

 

「安心しろ。もうあのような真似はしない。だが、いずれ藤堂殿の息子は助ける」

 

「本当であろうな? 勝手に死のうとすれば許さぬからな」

 

「心配してくれているのか?」

 

 そこでにやりと橘が笑って黒姫に尋ねた。

 

「ふん。調子に乗りおって。お前など気にもしとらんわ」

 

「そうか」

 

 黒姫はそっぽを向いてそう言い、橘は苦笑いを浮かべる。

 

「では、俺は椎葉殿と話してくる」

 

 橘は館から出て椎葉が向かった負傷者を収容してある建物に向かった。

 

「椎葉殿」

 

「橘殿。守りは固められそうか?」

 

 椎葉はこれまでの物の怪たちの攻撃によって傷ついた負傷者たちの手当てをしていた。特性の煎じ薬を飲ませて痛みを取り、傷口が早く癒えるように清潔にしている。

 

「ああ。だが、守り抜けるという保証はない」

 

「そうか。ここにいる負傷者たちは動かせない。戦うことはできないだろう」

 

「期待はしていなかった。だが、椎葉殿には不死が現れた場合に備えてほしい」

 

「分かった。どこにおればよいだろうか?」

 

「館に黒姫と」

 

「竜種とか。あれは後詰というところだろうか?」

 

「黒姫は藤堂邦孝が現れた場合に備えている」

 

「なるほど」

 

 橘の言葉に椎葉が頷き、立ち上がる。

 

「傷から見てここの敵は鉄砲は持っていない。槍と矢だ。役に立つ情報となるか?」

 

「大いに。鉄砲がないのはいい知らせだ」

 

 鉄砲はまだまだ精度も低く速射性においても優れていないが、その威力は間違いなくあらゆる武器に勝る。

 

「橘様。陣地を再確認していただきたいと里のものが」

 

「分かった」

 

 紅葉がやってきて求めるのに橘が陣地の点検を行う。

 

「そこに鉄砲を」

 

「あそこに兵を配置せずともよいので、橘殿?」

 

「ああ。どうせ突破されるなら最初から守りを薄くし、こちらが望む位置に釣り出す」

 

 橘は次々に指示を出し、忍びたちを配置していく。

 

 とは言え戦えるのは30人に満たない人間だけだ。かなり苦しい戦いになる。

 

 橘は最後まで陣地と兵の配置を練り、そして夜が訪れた。

 

 篝火が焚かれ周囲に物見の兵が置かれ、白姫の軍勢の襲撃に備える。

 

 夜も十分に更けたころほら貝が音を響かせた。

 

「来たか」

 

 橘は陣地近くにあった小屋から飛び出し、櫓に上る。

 

「紅葉、敵は?」

 

「あそこです!」

 

「あれか」

 

 化け狸の死体を利用した屍の兵士──屍兵が次々に斜面をよじ登り、里の防壁に迫ってきていた。爆弾を装備した狸爆弾も複数存在するが、主力は槍を構えた屍兵たちだ。

 

「弓兵は火矢で狸爆弾を可能な限り潰せ。だが、無駄玉は撃つな」

 

 橘が前線で指揮を執り、忍びたちは火矢で狸爆弾を誘爆させる。

 

「思った以上に数が多いな。少しばかり苦戦しそうだ」

 

 そう言う橘の額からは汗が滲み、汗の玉が滑り落ちてきていた。

 

「防壁に取り付かれるぞ!」

 

「下がれ! 全員、内部の陣地に移れ!」

 

 橘は紅葉を連れて櫓から飛び降り、陣地に向けて駆ける。

 

 橘が予想した位置の防壁が狸爆弾の連続した爆発を受けて崩れた。

 

「来るぞ! 構えろ!」

 

 鉄砲を構える男たちに緊張が走った。

 

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