戦国のジークフリート ~牢人と龍神~ 作:第616特別情報大隊
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──物の怪の戦支度
橘たちは岩陽国の化け狐の里に身を寄せる物の怪たちの戦支度を始めた。
「まずは槍だ。兵の主力は槍を持て」
橘は物の怪たちに槍を持たせた。
「俺は刀を持っているぞ。刀で戦いたい!」
「俺も刀がある!」
どこで手に入れたのか幾名かの物の怪たちは刀を持っていた。その刀を示し、物の怪たちはそれを振るうことを望んだ。
「ならん。刀は玄人の武器。それに数もそろっていない」
だが、橘はそれを否定。
「槍は極めんとすれば難しい武器だが素人でも扱えないことはない。それに数を揃えるのも刀より易い。今は全ての物の怪を兵にする必要がある。刀は今後の戦いに備えて大事にしておくがよいだろう」
「ううむ。残念だ」
最悪、竹を斬れば準備できる槍と違い刀は数を揃えるのが面倒である。そして、刀や槍を混ぜて編成するよりも単一の武装でまとめた方が指揮統制は行いやすい。
「それから射手を揃える。戦いは距離だ。相手より遠い場所から相手を撃てば犠牲を出さずに勝てる。弓を揃えるんだ」
鉄砲が戦場に姿を現したのちも弓は未だに現役の武器だ。
鉄砲は強力な武器だが調達が難しい。特に火薬を使用する度に消耗するため運用のために必要な資産を多く求められる。
その点弓は運用にかかる負担は少ない。だが、鉄砲よりも長い訓練が必要になる。
「紅葉。菅沼殿から鉄砲を調達できぬか尋ねてきてくれぬか? 鉄砲があれば戦いは有利になるのだが」
「尋ねてまいります。もし、菅沼殿から手に入れられなければ私たち岩戸衆の伝手で手に入れて見せましょう」
「頼むぞ」
橘に頼まれ紅葉は鉄砲の調達に向かった。
「絹御前殿、又坐衛門殿、小市太郎殿。この付近の地形を把握したい。誰が人を貸してもらえるか? 恐らく白姫はこの隠れ里も狙ってくるだろう。迎え撃つための計画を立てておくべきだ」
「分かりました。地形に詳しいものを準備しましょう」
絹御前が化け狐の中から地形に詳しいものを探してくる。
「菊と申します。里の周りをご案内せよと仰せつかりました」
それから化け狐がひとり送られてきた。狐面を付けた女だ。
「では、里を案内してもらおう」
「わしも行くぞ。暇だ」
そこで黒姫もやってくる。何もすることがなくて相当暇をしていたらしく、酒の入ったひょうたんを抱えて橘たちのところへと歩いてきた。
「分かった。それでは頼むぞ、菊」
「はっ」
橘は菊に案内されて化け狐の里の周りを見ていく。
分かったのは里は深い森と山に囲まれた盆地にあるということ。盆地から外に抜けるることのできる道は限られている。
「平野に出る道は限られるな」
そこを塞げば山地と森が天然の要害となってあたかも城のような堅牢さを発揮できると橘は見た。つまり、守りやすいというわけだ。
しかし、弱点もある。
「いくつかの平野への道は守りにくいな。攻める方が兵を配置しやすい。守りやすい位置まで退くと里への道がさらに広がってしまい兵力がもっと必要になる」
「そのようだな」
敵の進軍経路は限られるも、その進軍経路は実に外から内に攻めるに向いている。これは大きな弱点だ。
「里は守れないのでしょうか?」
「いや。ある程度は陣地を作ればどうにかなる。準備を進めさせておくが実際に陣地を作るのは敵に動きがあってからだ。どこで敵が見ているが分からん」
菊が心配するのに橘がそう言った。
野戦築城は野戦で有利に戦うためのものだ。それは不利な地形を改造して有利に戦うためのものでもある。
地形は不動のものではない。塹壕を始めとして有意な地形へと変えられる。
しかし、それを敵に察知されるわけにはいかない。敵に知られれば対応される。
「知られても攻められないと見れば敵は攻めてこないのでは?」
「いいや。それはない。これまでいろいろな城や砦を見てきたが攻め方次第では落とせるものだ。事前に準備すればなおのこと。陣地も地形も、可能であればこちらの兵力も知られることがないのがいい」
菊が疑問に思うのに橘がこれまでの戦の経験からそう言った。
彼の仕えた武将たちは地形を知り、敵の兵を知り、そして勝利してきたのだ。
「しかし、陣地を準備しておかなければ不利だと……」
「人手があればすぐに陣地は作れる。安心しろ。ただ、相手の兵力によっては厳しい戦いになるかもしれない」
橘は開けた平原から山に続く道を辿り、それから山を下って盆地に降りる道を見て頭を回転させたが犠牲は避けられそうにない。
犠牲を出せば里は守れるだろう。
だが、物の怪たちが求めているのは勝利だ。又坐衛門が言っていたように勝利がなければ士気が底を突き、物の怪たちはそれこそ白姫は大百足に跪くだろう。
それは橘たちが貴重な同盟者を失うことを意味する。
橘たちは勝利しなければならないし、それは士気を鼓舞する大勝利でなければならない。それが今は重要だ。
「どうしたものか。敢えて盆地の中に引き寄せて、それから伏兵で後方を落とすという手もあるが……」
「ふん。やりようはあるだろう。いろいろとな」
「何か考えがあるのか、黒姫?」
「わしはお前と違って物の怪どもに加勢を頼まれておらんから、手を貸す義理はない」
「はあ。まだ根に持っているのか」
「神とは嫉妬深いものだ」
黒姫は橘に指摘されてけらけらと笑った。
「ともあれ、陣地の準備をしながらそれぞれの道に物見を配置しなければな」
物見の兵は重要だ。敵について知らねば勝てる戦争にも勝てない。
逆に敵がどこからどれほどの規模で攻め込んで来るかを知れば、よほど絶望的な戦力差でなければ相手のしようがある。そして、打ち勝つこともできるだろう。
「案内ご苦労だった、菊。戻ろう」
「はっ」
橘は菊をそう礼を述べ、里へと戻った。
「突け!」
「せいっ!」
里では物の怪たちが槍と弓の訓練を続けている。
「橘殿! 言われていたものはこれでよいのだろうか?」
「ああ。それでいい。十分だ」
用意されたのは騎兵突撃を防ぐための馬防柵だ。
まだ完成ではない。これはしっかりと据え付けなければ馬の突撃を阻止するほどには至らないからだ。
ただ、事前に組み立てておくことで据え付けるだけで陣地が作れる。
「橘様、黒姫様。お食事を準備しております。どうぞ」
「助かる」
昼飯に握り飯を食いながら橘は紙に描いた里を取り巻く地形を睨む。
「戦力を集中させたいが里の中は交通の便がいいとは言えん。もし、陽動になどかかれば遊兵が生まれてしまうな……」
橘は唸りながら握り飯を食い終えた。
「橘様。何か我々にできることは?」
「今はよい。戦いに備えよ。して、椎葉殿は?」
白湯を運んできた絹御前が尋ねるのに橘がそう尋ね返した。
「岩陰から逃れて来た物の怪たちから話を聞いておられます」
「そうか。俺も聞いておくとしよう」
「ご案内します」
そして、絹御前が橘を椎葉のところへ案内する。
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