戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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岩陰の物の怪たち

……………………

 

 ──岩陰の物の怪たち

 

 

「椎葉殿」

 

「橘殿。物の怪たちは鍛えられているか?」

 

「そこそこだ。そちらは話は聞けたか?」

 

 椎葉は物の怪たちから聞いた話を纏めているようで筆を執っていた。

 

「ああ。誰が今の岩陰の物の怪たちを纏め、そして白姫の配下に置いているか。それについてよく分かった。説明しよう」

 

 椎葉は橘たちの方を向き直って語り始める。

 

「まず既に聞いているように岩陰の物の怪頭であった化け狸、七兵衛八太郎を背後から刺したのは大百足だ。大百足は白姫に付いた物の怪でもある」

 

 まず岩陰の物の怪たちに謀反を起こさせたのは大百足。

 

「大百足はこれまで実力のある物の怪であったが、その冷酷な性格から物の怪たちからの尊敬を得られなかった。それであるが増えに物の怪たちにとって尊敬された七兵衛八太郎が物の怪頭だったのだ」

 

「ふむ。今はどうなのだ? 大百足は今も人望がないのか?」

 

「仲間もおらずに謀反を起こすほど大百足も愚かではなかったようだ。大百足は白姫の与える不老不死を餌に野心的な物の怪たちを味方とした。一定の数の物の怪が大百足に付き、そして大百足が七兵衛八太郎を刺した」

 

「そのものたちはそれからどうしたのだ?」

 

「大百足は白姫と自分への恭順を物の怪たちに要求した。断れば殺すと言って。化け狸たちは大勢が抵抗したが、その抵抗は粉砕された。七兵衛八太郎亡き後に化け狸がお家騒動を起こしたからだと言っている」

 

「お家騒動か。今は又坐衛門が纏めておるようだが」

 

「又坐衛門は七兵衛八太郎の孫だ。そこに至るまで揉めたのだろう。七兵衛八太郎の子や兄弟と言ったものが打倒大百足を掲げててんでバラバラに戦ったようだからな」

 

「それは何ともしがたい」

 

 長を殺された化け狸たちは一致団結して戦えなかった。

 

 それぞれが正統な後継者を名乗る七兵衛八太郎の近親者たちの派閥に別れてしまい、それは大百足の軍勢によって各個撃破されてしまったのだ。

 

「これは大百足が意図したことなのだろう。化け狸は岩陰の物の怪における最大勢力。それを大百足が乗っ取るには分裂させる必要があったはずだ。いくつかの分裂は意図して大百足が引き起こした可能性もある」

 

「随分な知恵者のようだ。その大百足という物の怪は」

 

「ああ。この手の物の怪は悪知恵が働くものだ。大百足は特に歴史ある物の怪であり、尊敬こそ得られていなかったが力はあった。これまで今の地位を夢見て陰謀を企む時間はたっぷりとあっただろう」

 

「そして、今それを叶えたか」

 

 大百足は白姫が現れる以前から支配への渇望を抱いていたのだろう。

 

「晴れて大百足は権力の座に着き、敵対者の粛清を進めた。そして、分かったのは間違いなく大百足も死霊術を使うということだ。化け狸の死体を操っていたのは大百足だという証言がいくつもある」

 

「では、先の岩戸衆の里を襲撃したのも大百足なのか?」

 

「違う。これは密かに大百足の下に付きながら内通している物の怪の証言だ。大百足はあの首無し武士である藤堂邦孝と対抗関係にあるようだ」

 

「同じ白姫の配下だが、より功績を上げて認められようと争っているのか。どちらが今は白姫に重んじられているのだ?」

 

「どうやら大百足は一般的な配下の武将として扱われているのだが、藤堂邦孝は特別な立場にあるようだ。白姫直属の一騎当千の兵、というような立場と思われる。彼の出自と今の状況を考えれば当然かもしれないが」

 

「確かに。息子殿は父を殺した白姫に首を取られたのだ。忠誠を誓うはずがない。白姫に操られているのだろう」

 

「そうである可能性は高い」

 

 橘が言い切るのに椎葉が頷いた。

 

「大百足の他の物の怪たちはどうなのだろうか?」

 

「大百足には腹心の物の怪として牛鬼がいる。牛鬼の大太郎五右衛門というものだ。古くから大百足の配下であったそうで、大百足の謀反に真っ先に加担したという」

 

「他には?」

 

「他は不老不死目当てに七兵衛八太郎を裏切った不忠のものにして軽薄なものたちだと化け狸たちは言っているな。ただ、この大太郎五右衛門だけは大百足の古くからの忠実な配下のようだ」

 

「そうか」

 

 椎葉の話に物の怪にも忠義などがあるのかと橘は思った。

 

「また大百足は私を裏切った勅使河原宗人とも争っているらしい。部下を争わせ、自分へ反逆することを阻止するというわけだ。真に竜種らしい悪辣よ」

 

「またそれか。人とて同じことをやるだろうが。竜種だけではないわ、たわけが」

 

 椎葉が言うのに黒姫が露骨に不機嫌になる。

 

「人にはそういうものもいるということはあるだろうが、竜種はほぼ間違いなくそうであろう。石を投げれば簒奪者や暴君、圧政者に当たるが竜種の生来の性質」

 

「ふん。勝手に言っておるがいい。わしは他の竜種と比べられるまでもなく暴虐であるし、そのことを恥じてもおらん」

 

「竜種らしい」

 

 竜種云々の話になると椎葉と黒姫はとことん完結が悪化する。

 

「大百足はもう不老不死となったのか?」

 

「恐らくはまだだ。、不老不死は忠誠を誓わせるための餌としているだろう。与えたのは不老か不死のいずれかだけ」

 

「ふむ。“ねくろまんしい”を教えることも餌にしているのではないか?」

 

「それはありえるな。大百足たちにとっては死霊術を得ることが力になるのだから。だが、そうなると既に死霊術を得ている勅使河原は己の意志で……」

 

「裏切った友はそなたが斬るといい」

 

「そうしよう」

 

 橘に言われて椎葉は頷いたものの少しばかり躊躇いが見えた。

 

「ここまでのことが分かって考えたのだが、大百足は功績を求めるはずだ。そして、藤堂邦孝は岩戸衆の里を落とし損ねた。なれば次は自分が成功して見せれば、白姫が自分を重用するとそう考えるだろう」

 

「岩戸衆の里は次は問題なく守れる。なれば別の目標か」

 

「私はまさにこの化け狐の里こそが襲われるのではと思っている。大百足にとっては白姫の敵であるだけでなく、自分にとっての敵でもあるものたちを排除する機会だ」

 

「なるほど。一石二鳥、か」

 

 白姫から不老不死の技を伝授されるには功績が必要。

 

 そして、化け狐の里の物の怪たちは白姫の敵であり、大百足の敵である。これを討ち取れば大百足は得るものだけを得る。

 

「おい、やぶ医者よ。お前、白姫が不老不死の術を持っておるだろうと考えているようだが、お前自身はどうなのだ?」

 

 そこでふと思い出したように黒姫が尋ねた。

 

「私は完全な不老不死ではない。老いは定期的な術の掛け直しで防いでいるが、死ぬには死ぬ。普通の人間と比較して死にずらいという程度でしかない。橘殿に首を刎ねられれば死ぬだろう」

 

「それはよいことを聞いた。今度腹が立ったら首を刎ね飛ばしてやろう」

 

「ふん。お前にだけは殺されるつもりはない」

 

 黒姫は愉快そうに笑い、椎葉は実に苛立たし気に鼻を鳴らす。

 

「ここが攻撃されるかもしれないのにそんなことをやっている場合か。俺たちで防がねばならんのだぞ」

 

「わしは関係ない。物の怪どもが頭を下げん限りな」

 

「はあ。本当にお前は」

 

 ぷいとそっぽを向く黒姫に橘は深々とため息を吐いた。

 

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