戦国のジークフリート ~牢人と龍神~ 作:第616特別情報大隊
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──西川友三と物の怪
「そこに火竜衆の鉄砲隊を置く。射線が味方に向かわぬよう注意して陣地を配置せよ。それから急ぐのだ。すぐにでも追手は来るぞ」
西川は血塗れ渓谷の出口にて陣地構築の指揮を執っていた。
兵たちが周囲の木を伐採して作った阻塞なdpを設置し、傭兵の火竜衆たちもそれを手伝っている。急ごしらえにしては立派な陣地ができつつあった。
これを見るとやはり西川の工兵としての能力は高いように思われる。
「西川殿!」
「菅沼。無事であったか。何よりだ。して、何用か?」
菅沼が声を上げるのに西川がそう返す。
西川は兜を脱ぎ、そして面頬を外していた。そのおかげでようやく西川がどういう人間なのか分かるようになっている。
その顔立ちは柔和で人が良さそうなそれである。一国の主君、戦国武将と言われて想像するそれとは少しばかり違っていた。
「紹介したい方がおりまして参りました」
「そのふたりか? 牢人と……どなただ?」
菅沼が告げるのに西川が怪訝そうな顔をし橘と黒姫を見る。
「橘玄と申す。元は岩陰の北右近殿に仕えていました」
「黒姫だ」
橘と黒姫がそれぞれ自己紹介。
「ああ。橘殿か。菅沼から話は聞いておるぞ。とても腕が立つ牢人だと。しかし、そちらの黒姫という方は一体……?」
「御屋形様。忘却神社で祭られております龍神の黒姫様です」
「なんと!?」
菅沼が紹介するのに西川が目を見開いて驚愕する。
「あの龍神の黒姫様が私などに何用で?」
「うむ。聞け。このままではお前たちは敗れる。そのことは分かったであろう。あの数だ。こうして陣地を作ったところでいずれは突破される。これから逃げる先である稲穂城も長くはもつまい」
「それでも我々は最後まで戦いますぞ。民を守らねば」
「それはどうでもよい。岩陽はわしのシマだ。それがよそ者に踏みにじられるのは気に入らん。だから、わしが加勢してやる」
「おお。それはありがたい限りです」
「そうであろう。存分に感謝するがいい」
西川が頭を下げるのに黒姫が満足そうにうなずく。
「西川殿。黒姫ももちろん力を貸すが、他に手を貸すというものたちがいる。そのものたちとともに戦ってもらいたいのだ」
「どのようなものたちだ? 傭兵か?」
「いや。物の怪だ」
「物の怪だと?」
橘が言うのに西川は渋い表情を浮かべた。
物の怪とは先ほど殺し合ったばかりだ。既に物の怪は全て白姫に付き、岩陽の敵になったという考えが西川の中にはあった。
「敵ではない。物の怪たちの中にも白姫を外道と思い、それに抗っているものたちがいる。そのものたちがこの戦に加勢したいと言っているのだ。どうだろうか? ともに手を結んではくれまいか?」
「むう。確かに味方はひとりでも欲しい。だが、ともに戦うためには信頼できるものでなければならない。その点は問題ないのか?」
「無論だ。人を襲わぬと約束した。もし、俺が紹介した物の怪どもが裏切るのであれば俺が腹を斬ろう」
「そこまで申すか。そうであるならばその言葉を信じよう」
橘の説得に西川は応じた。彼は頷き、菅沼の方を見る。
「まずは物の怪たちの頭に会いたい。菅沼、橘殿とともに言って連れてまいれ」
「はい、御屋形様。直ちに」
西川の命を受けて菅沼が頷いた。
「橘殿。参ろう。案内を頼む」
「ああ。こちらだ」
橘たちは血塗れ渓谷の傍に潜んでいる絹御前たち物の怪たちの下に向かった。渓谷を昇り、そして茂みと森の中を進んだ。
「絹御前殿! おるな!」
橘がそう叫ぶと森の中から絹御前が姿を見せた。今はまだ武装していない彼女がゆっくりと森の中から出てくる。その背後からは狐面を被った化け狐たちが数名続く。
「橘様。お待ちしておりました。交渉はどうなりましたか?」
「西川殿は前向きだ。まずは西川殿に物の怪の頭として会ってほしい。これから同盟を結ぶとなればそれは必要であろう?」
「確かにその通りですね。お会いしましょう」
橘の言葉に絹御前が頷く。
「菅沼殿、紹介が遅くなった。こちらは化け狐の頭である絹御前殿だ」
「九尾の狐とは。岩戸衆から話には聞いていたものの出会うのは初めてだ。よろしくお願いし致す。では、御屋形様の下へ参ろう」
菅沼が絹御前に頭を下げて敬意を示し、それから全員で西川の下へと向かう。
「あれは……」
「物の怪ではないのか?」
道中で絹御前と化け狐たちを見た西川の兵たちが驚き、ひそひそと言葉を交わす。先ほどまで同じ異形のものたちと戦っていた彼らに落ち着けという方が無理だろう。
「まるで見世物です」
西川の兵たちが絹御前たちに好奇心と恐怖が入り混じった視線を向けてくるのに化け狐の1匹がそう憤慨した。
「あなたたちも人間を面白そうに見ているでしょう。今はお互いに協力しなければなりません。いいですね?」
「申し訳ありません、絹御前様」
その化け狐を絹井御前がたしなめる。
それから橘たちは再び西川の下へと戻って来た。
「西川殿。物の怪の頭をお連れした。こちらは絹御前殿だ」
「初めまして、西川様」
橘が紹介し、絹御前が洗練された仕草で西川に頭を下げる。
「私は西川友三。岩陽の大名だ。丁寧なご挨拶痛み入る。物の怪の頭とお聞きしたが、白姫と戦う物の怪は多いのだろうか?」
「残念ながら岩陰の化け狸たちは大勢が殺されてしまいました。ですが、それでも1000を超える様々な物の怪たちが白姫と戦うために化け狐の里に集いました」
「それは心強い。戦に加勢してくださるならば喜んで受け入れよう。しかし、いろいろと考えなけれえばならないこともある。戦の後の恩賞はもちろん、物の怪たちの食する兵糧など考えることは多い」
ここで既に西川の人の好さが出ていた。
彼は物の怪相手にもちゃんと恩賞のことを考えいたし、物の怪たちが飢えることも考えていたのだ。これで絹御前たちにも西川が物の怪を体のいい使い捨ての駒とする気がないのが分かった。
「恩賞を望むものは少ないでしょう。もし、物の怪でよい戦働きをしたものがいれば私たち物の怪で物の怪に報います。兵量についてもこちらで持参したします。心配は御無用。ただ、武具が足りません」
「武具か。どのようなものをご所望だろうか?」
「槍、弓矢、それからよければ馬をいただきたく思います」
「準備させよう。これまで我々人間は物の怪を恐れるだけだった。だが、今だけはともに手取り暴虐なる白姫の軍勢と戦おうではないか!」
「ええ。ともに戦いましょう」
こうして人間と物の怪たちが手を結んだ。
ともに邪悪な竜たる白姫に立ち向かうために。
「西川殿、絹御前殿。早速だが敵を防がねばならん。羅城門は追撃してくるはずだ。既に敵は川を渡り、首塚平原を制した。首塚平原からは他の地へも道が伸びる。少しも多くの敵を引き付け、撃破しなければ」
「ああ。その通りだ、橘殿。敵をここで粉砕する」
「俺も微力ならが助太刀いたす。ともに勝利を」
そして、血塗れ渓谷での戦闘が始まろうとする。
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