戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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城での勝利の宴

……………………

 

 ──城での勝利の宴

 

 

「勝った……! 勝ったぞ!」

 

「俺たちの勝ちだ!」

 

 西川軍の兵士たち喝采を上げる。

 

「ざまあみろ、白姫の犬め! 裏切者の大百足と一種に吊るしてやる!」

 

「やった! 橘様、黒姫様、絹御前様、万歳!」

 

 誰もが勝利に酔いしれ、安堵の息を吐いていた。

 

 まだ血と硝煙、そして汗の臭いが生々しく漂っている物の、張りつめていた緊張は解けて、穏やかな空気が流れる。

 

「はあ。助かった……」

 

 百姓を兼ねている西川の兵たちは腰が抜けたように座り込むものもいた。

 

 一方の戦を商売にしている傭兵の火竜衆は戦闘が終わってもすぐには気を抜かず、鉄砲の手入れをしている。火薬で鉄砲内に生じた煤などを掃除し、いざというときに鉄砲が暴発などしないように掃除を行う。

 

 だが、それから再び白姫の軍勢が血塗れ渓谷から襲いに来ることはなかった。

 

「橘殿方。これから稲穂城で宴があるのだが来られるか?」

 

 そこで家老の菅沼が橘に尋ねて来た。

 

「お招きいただけるのであれば」

 

「もちろんだ。西川殿も是非とも橘殿に来てほしいとお望みだ」

 

「分かった」

 

 橘は菅沼の言葉に頷く。

 

「黒姫、椎葉殿、絹御前殿。勝利を祝って宴があるそうだ。行くか?」

 

「当然よ。わしをしっかりと持て成せい」

 

 黒姫は橘が尋ねるのににやりと笑った。

 

「今後のことも話し合いたい。私は今回火竜衆に死霊術の呪いをかけた弾を提供した。効果を見定めたが確かなものであった。私個人では不死の物の怪を相手にするのは難しい。今回のように連携しなければ」

 

「そうだな。不死の化け物を相手にするには椎葉殿の力が不可欠だ。その力が最大限発揮できるようにしてもらいたい」

 

「理解してくれて助かる」

 

 椎葉は宴や酒には興味はないが、火竜衆などの傭兵には用事があった。そして、当然ながら火竜衆も城での勝利鵜を祝う宴に参加することになっている。

 

「お誘いいただけるのは嬉しいのですが物の怪が宴に参加していいものでしょうか?」

 

「大丈夫であろう。俺が見る西川殿は物の怪は宴に来るなという狭量なお方ではない」

 

「では、参加させていただきます」

 

 戦いに加わった物の怪たちも城に招かれることとなった。

 

「紅葉はどこだ?」

 

「こちらに」

 

 橘が周囲を見渡すとすっと紅葉が姿を見せる。

 

「紅葉、お前はどうする?」

 

「私は岩戸衆としてこの勝利の知らせを届けるべきところに届ける必要があります。それから他に白姫に動きがないかを探る必要も」

 

「そうか。すまんな。いろいろ頼んでしまって」

 

「いえ。ですが、ひとついいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「稽古を付けていただけませんか? 刀でも槍でも戦うための術を」

 

 紅葉は橘にそう求めた。

 

「構わないがどういう理由だ?」

 

「この度は敵の別動隊に捕まり、任された椎葉殿と物の怪たちを連れてくるという任務に支障がでました。私も戦ったのですが及ばず……」

 

 紅葉が悔しそうに橘にそう語る。

 

「どのような戦いだった?」

 

「白姫の手のものは我々を奇襲しました。刀を持った化け狸の亡者たちが襲い掛かり、乱戦に。私も刀で応戦したのですが私の未熟な剣術では満足に戦えませんでした。もっと戦い方を学ばなければならないと」

 

「そうか。しかし、俺は忍びの戦い方は知らない。教えられるのは俺が知っている武士としての戦い方だけ。確かに俺も闇討ちなどはするが、それでいいか?」

 

「ええ。戦える技術が欲しいのです」

 

「分かった。必ず教えよう」

 

「ありがとうございます」

 

 橘は紅葉にそう約束し、紅葉はまた音もなく去った。

 

「橘殿。では、参ろう、稲穂城へ」

 

「ああ」

 

 橘たちは菅沼とその配下の兵とともに稲穂城を目指す。

 

 菅沼は武将として重い甲冑を纏っているため騎乗しているが、橘たちは多くの兵と同じく徒歩で城に向かった。

 

 血塗れ渓谷の戦いの中で夜が明け、朝焼けの空が見える中を橘たちは進む。

 

「戦には勝ちましたか!?」

 

「戦には勝ったぞ! 大勝利だ!」

 

 街道で百姓や商人が心配そうに尋ねるのに兵たちが笑顔で答える。

 

 そして、橘たちは民に祝福されながら稲穂城へと入城した。

 

「御屋形様がお帰りだ!」

 

 城のものたちが並んで無事に帰って来た西川たちを出迎える。

 

「宴の準備はできているか?」

 

「もちろんです。酒も料理もたくさんよういしております」

 

「よいぞ。この勝利を祝って次の戦いに備えて士気を高めなければな」

 

 西川もこれで白姫との戦いが終わったとは思っていなかった。そう、白姫との戦いは始まったばかりだ。

 

「今日はたらふく食ってたらふく飲むがいい!」

 

「おおっ!」

 

 普段は質素な食事をしている百姓がほとんどの西川軍の兵士たちが喜びに声を上げる。戦は恐ろしいがこのような褒美があるので士気が保たれていると言えるだろう。

 

「ちゃんとわしを持て成すのだぞ」

 

「はい、黒姫様。こちらへどうぞ」

 

 兵たちが城の外で料理と酒を味わい始めるのに黒姫と橘たちは城の中に通された。城の中で持て成されるのは武将たちだけだ。

 

「まずは武士として名誉ある最期を遂げた大平幸仁たちを弔って」

 

「立派な武士でありました」

 

 武将と橘たちが戦で散ったものたちを弔って杯を捧げる。

 

「戦はまだこれからだ。まだ白姫を打ち負かしたわけではない。これから大平たちの本当の仇を取らなければならん。この勝利に驕ることがないように」

 

 きっと表情を正して西川が武将たちに告げた。

 

「しかし、今は勝利を祝おうではないか! 我ら岩陽の人と物の怪がともに戦い、悪鬼と亡者の軍勢に打ち勝ったのだ!」

 

「おおっ!」

 

 そして今度は笑みを浮かべて西川が告げると武将と物の怪の長たちが声を上げる。

 

「今日は皆飲め。弔い酒であり祝い酒だ。さあ、杯を満たし、喉を潤せ」

 

 武将と物の怪の長たちの杯に酒が注がれ、宴が始まる。

 

「この戦国の世に天下統一を掲げた武将は多々おれど化け狐や化け狸と杯を交わしたものはそうはおるまい。いやはや、真に名誉なことである」

 

「こちらこそ名誉なことです、西川殿」

 

 西川が述べるのに絹御前が微笑んで返した。

 

 物の怪であり、化け狐と分かっていても絹御前ほどの絶世の美女に微笑まれて気分を悪くする男はいない。何人かの武将は絹御前を見て鼻の下など伸ばしていた。

 

「この度の戦、火竜衆は実に見事な戦働きを見せられた。杉山殿たちにはこれからも戦に加わっていただきたい」

 

「我らは傭兵。銭を払って雇われるならば主のために戦いましょう」

 

 武将のひとりにそう言われて杉山は杯を片手ににやりと笑った。

 

「おい。わしに言うことはないのか?」

 

「黒姫様も本当にご加勢ありがたく存じます。黒姫様は我が岩陽の守り神。黒姫様が我が方に立っていられるということは正義は我らにありと民に知らしめられましょうぞ」

 

「うむ。わしこそが正義よ」

 

 黒姫は西川におだてられて気持ちよく杯を傾けて酒をたらふく飲む。

 

「この戦、必ず勝利しましょうぞ!」

 

「もちろんだ、化け狸殿!」

 

 以前ならば人間を脅かす物の怪とそれを討つ武士という関係の両者であったが、今は一致団結していた。

 

 ただより邪悪な白姫に対抗するために。

 

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