戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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忍びの報告と軍議

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 ──忍びの報告と軍議

 

 

 紅葉が附子砦から持ち帰った情報は橘と西川に報告された。

 

「縊鬼山?」

 

「はい。白姫は大百足に次に縊鬼山を落とすように命じておりました」

 

 西川が不可解だというように報告を繰り返すのに紅葉がそう報告。

 

「縊鬼山には特に取られて困るようなものはない。むしろ、それより南の首塚平原から至る無惨川に沿った村落と田畑の方が失う分には困るのだが」

 

 西川が言うように岩陽の北部にある縊鬼山という場所は戦略的な要衝ではない。

 

 鉱山があるわけでもないし、何かしらの重要な街道があるわけでも、それを守る城塞があるわけでもないのだ。

 

 西川が言ったように西川軍は北の冥府山から伸びる無惨川に沿った村落と田畑の防衛の準備を進めていた。そちらにも大百足配下の兵が進出しつつあるのだ。

 

「たわけ! 何をぬかしておるかっ!」

 

「く、黒姫様!?」

 

 しかし、そこで報告を聞いていた黒姫がいきなり怒鳴った。

 

「黒姫。どうかしたのか?」

 

「揃いも揃って頭に中身が入ったおらぬのか? 縊鬼山が連なる山脈の中でもっとも偉大な山の名を唱えてみよ」

 

「それは……まさか……」

 

「そう、わしの冥府山だ」

 

 縊鬼山は岩陽北部に連なる山岳地帯にある山のひとつ。

 

 その山の中には活火山であり、黒姫のものである冥府山があった。

 

「白姫の奴はわしの顔に泥を塗るつもりなのだろうな。わしのシマを荒らしまわって、わしの神としての権威を失墜させようというのだろう。だが、そうはいくものか」

 

 黒姫がドンと右足を立てて立ち上がる。

 

「冥府山を爆ぜさせる。大百足の軍も、岩陰も、何もかも焼き払ってくれるわ。このわしに喧嘩を売ったことをあの世で後悔するがいい、白姫!」

 

「やめよ!」

 

 黒姫が叫ぶのに橘も立ち上がった。

 

「それが白姫の狙いだ。人と龍神であるお前を切り離し、各個撃破するつもりだ。それに、だ。もし、冥府山が噴火すれば日の本が滅びかねんことは、他ならぬお前がよく知っているだろう?」

 

 橘が黒姫をそう説得する。

 

 冥府山の爆発は過去日の本の天を灰が覆い、大勢のが死者を出したものだ。この戦国の世に噴火すればもっと大勢が死ぬことになる。

 

「では、わしのシマを白姫なんぞ南蛮のよそ者に荒らさせよというか!」

 

「荒らさせはせん! 俺が守ってみせる!」

 

「お前が?」

 

 そこで少しばかり怒気が抜けたようになって黒姫が橘をまじまじと見る。・

 

「そうだ。俺が守ってみせる。俺を信じてくれ、黒姫。頼む」

 

「ふん。人間風情が偉そうになったものだ。だが──」

 

 黒姫が小さく笑う。

 

「任せてやる。お前を信じてやろうぞ。ありがたく思うがいい」

 

 そう言って黒姫はまた胡坐をかいて座った。

 

「ああ。では、西川殿。俺たちは縊鬼山を守らねばならん。兵を借りれるだろうか?」

 

「当然だ。だが、我らはまず民を守らねばならん。そこを分かってほしい」

 

「南部の防衛か」

 

「ああ。南部を失えば冬を越す食料も失われる。大勢が飢えて死んでしまう。それが分かった上で白姫は南部にも軍を向けているのだ」

 

 苦々しい表情で西川が語る。

 

 田畑と村落を失えば食料が失われる。食料が失われれば民が失われる。民が失われれば国が失われる。そういうことだ。

 

「しかし、守り神である黒姫様の聖域を守ることも必要。よって火竜衆をそちらに派遣しよう。それでよいか?」

 

「物の怪たちはこちらで指揮しても構わないだろうか?」

 

「ああ。任せる。武具と馬については絹御前との約束通りこちらで準備した」

 

「ありがたい。こちらはこちらで任務を果たそう」

 

「頼んだぞ」

 

 西川からそう託され橘たちは火竜衆及び物の怪と軍議を開くことになった。

 

「皆、聞け。白姫の軍勢は次に縊鬼山を、そしてその先にある冥府山を狙っておる」

 

 火竜衆の頭である杉山、そして物の怪たちの頭たち絹御前、又坐衛門、小市太郎たち、また黒姫、椎葉が地図を囲んで橘の語るを聞く。

 

「縊鬼山には砦などはない。そして、街道などもまともに走っておらん。よって、ここに大軍を集結させることは我らにも、そして敵にもできぬ。それが重要だ」

 

「砦がないとは。どうやって山を守るのですか?」

 

「砦がないならば作ればよいのだ」

 

「砦を作ると? しかし、もう既に白姫の軍勢が……」

 

 小市太郎が橘の言葉に困惑する。

 

「なるほど。長篠の信長を再現ってわけだろう?」

 

「ああ。城を作り、そこで白姫の軍を迎え撃つ」

 

「合点だ」

 

 橘が頷き、杉山も頷いた。

 

「橘殿。ちゃんと説明してくれ。城が一晩で建つというのか?」

 

「難しいことではない。心配するな、又坐衛門殿。しかし、そなたらの力が必要だ。何分こちらに与えられた兵力は火竜衆とそなたたち物の怪たちだけだからな」

 

「うむ。分かった。そなたを信じよう」

 

 又坐衛門はまだ分からないながらも同意する。

 

「城か。それならば作るにいい場所をわしがしっておる。教えてやろう」

 

「頼む、黒姫」

 

 黒姫は現地の地形に詳しいようだ。

 

「今回の戦いにも亡者と不死者がいるのであれば私も必要だろう。だが、南部も脅かされていると聞いた。私はどちらに参加すべきだろうか?」

 

「そうか。南部もまた白姫に脅かされているのであり、不死がいる可能性が……」

 

「両方は無理だ。優先順位を頼む、橘殿」

 

 不死に対抗できる椎葉はひとりしかいない。

 

 北部の縊鬼山で戦うか、南部の田畑を守るか、だ。

 

「ふん。やぶ医者などおらんでもどうにかなる」

 

「それは無理だと知っているだろう、黒姫。お前が意地になっても不死の物の怪は殺せぬと。以前のように袋叩きにできればいいだろうが、今回のような厳しい戦いでそれが可能であるとは思えん」

 

「腹が立つ話だな」

 

 橘が冷静に説くのに黒姫が心底嫌そうな顔をした。

 

「医者先生。この前俺たちの鉄砲隊にくれた、あの呪いは離れると無理なのか?」

 

 そこで声を上げたのは杉山だった。

 

「いや。そうではないが、あれは当たった部位の不死を解除するだけだ。確実な致命傷を与えなければ殺し損ねる」

 

「先生。俺たちを侮ってもらっちゃあ、困るぜ? 当てろいうなら当てるさ。その戦働きに相応しい銭は貰っているからな」

 

 椎葉が心配そうに尋ね、杉山がそう請け負った。

 

「では、杉山殿と火竜衆を信頼しよう。私は南部へ向かう。それでいいか、橘殿?」

 

「分かった。向かう前に十分な呪いをお願いする」

 

「無論だ。すぐにとりかかろう」

 

 椎葉は南部へ向かうが不死を殺せる銃弾を準備してからだ。

 

「よし。縊鬼山までは急ぐがそこからに慎重に進む。紅葉、岩戸衆を率いて斥候を頼みたい。どこで敵と合戦になるかある程度決めて進みたいが、そのためには敵の動きを知る必要がある」

 

「畏まりました、橘殿。すぐに発ちます」

 

「ああ。頼むぞ」

 

 橘は紅葉に斥候を任せ、まず敵の情報を得ることとした。

 

「合戦をする場所を定めたらすぐに城を作るぞ。そこで白姫のものどもを退ける」

 

「おうっ!」

 

 一行は橘の指揮下で一致団結した。

 

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