戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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縊鬼山での戦い

……………………

 

 ──縊鬼山での戦い

 

 

 いよいよ縊鬼山の橘たちの陣地に山姥の鬼ヶ夫人が率いる兵が接触した。

 

「来たぞ。敵だ!」

 

「構え! それから大筒を準備しろ!」

 

 縊鬼山に築かれた陣地で火竜衆の頭、杉山が手早く指示を出す。

 

 鉄砲が構えられ、さらには海戦で使用することを目的とした大筒に火薬と砲弾が装填され、その狙いを斜面を登ってくる屍兵と物の怪に向けた。

 

「引き寄せろ。十分にな。無駄玉を撃つんじゃあない」

 

 今回の戦いには大筒も動員されている。これは珍しいことだ。

 

 大筒は海戦や攻城戦に使われるもの。野戦に使われることはあまりない。

 

 というのも大筒というものはそれそのものに重量があり、さらには砲弾にも重量がある。ということで兵站における大きな負担になるのだ。このようなものを持ち出して準備できるほど野戦は悠長なものではない。

 

 しかし、今回は物の怪たちが手を貸した。彼らの中でも力あるものたちが大筒を運び、砲弾を運んだ。そして、ここに備え付けられたのである。

 

 そうとは知らずに鬼ヶ夫人の兵は山を登って来た。

 

「よおし。撃て!」

 

 一斉に鉄砲を大筒が火を噴く。

 

 鉄砲の弾が屍兵たちを薙ぎ倒し、さらには大筒の砲撃が纏めて屍兵を屠り、その死体で土砂崩れのような現象を引き起こした。

 

「な、なんだっ!?」

 

「屍兵が纏めてやられたぞ!」

 

 鬼ヶ夫人配下のものたちが目の前の光景に目を見開いた。

 

「何が起きている?」

 

「はっ! て、敵は強力な陣地を構築しており、突破は困難となっております!」

 

「数で押せばいけるだろう。進ませなさい!」

 

「承知」

 

 また鬼ヶ夫人の兵たちは列を密集させて前進。陣地に迫る。

 

「おうおう。また来たな。丁重に出迎えてやれえ!」

 

「合点!」

 

 物の怪たちは矢を放ち、石を投げ、火竜衆は鉄砲と大筒で密集している兵たちを薙ぎ倒していく。ばたばたと屍兵が倒れ、斜面を転がり落ちていた。

 

「ま、まるで進めないぞ……」

 

「砦を攻めているかのようだ。ただの陣地とは思えない!」

 

 鬼ヶ夫人配下の物の怪たちが悲鳴染みた声を上げて砦を見つめる。

 

「何をしている! どうして進めていないのだ!」

 

「敵の陣地は強固です! 数だけでは突破できない可能性も!」

 

「では、迂回して進め!」

 

「は、はっ!」

 

 別の斜面から別動隊が兵たちが迂回突破を目指す。これは屍兵には難しい任務であり、物の怪たちが担当していた。

 

 しかし、これは読まれていた。

 

「ぎゃっ!」

 

「矢だ! 化け狐たちが狙っているぞ!」

 

 化け狐たちが陣地に陣取りそこから矢を浴びせてくる。斜面を登るのに精いっぱいな物の怪たちにはどうしようもできない。ひたすらに矢を浴びるばかりだ。

 

「退け、退け! ここは無理だ!」

 

 結局のところ、鬼ヶ夫人の兵は斜面を登ることを諦めて逃げた。

 

「何故落ちない! たった500程度の兵がいるようなしょぼくれた陣地が1万に上る私の兵で落とせないのだ!」

 

 鬼ヶ夫人が武将たちにそう叫ぶ。

 

「こうなれば犠牲を恐れず正面に大規模な攻撃を仕掛けて突破するしかありません」

 

「それしかないのであればそうせよ! 次が私が兵を率いる!」

 

「ご英断です」

 

 そして、ついに大将自らの出陣となった。

 

「杉山殿。まだ弾と火薬は持ちそうか?」

 

「ああ。問題はない。まだ不死は来ておらぬようでな」

 

「だが、敵には間違いなく不死がいる。俺ならば不死を混ぜる」

 

 杉山が答えるのに橘がそう言った。

 

「不死が来れば狙いをそちらに向けなければならない。他の雑兵はこちらで引き受けよう。黒姫、お前も頼むぞ」

 

「全く、守ってみせるなどと抜かしながら、わしを頼るのだな。まあよいが」

 

 橘が求めるのに黒姫が肩をすくめながらそう言う。

 

「次が来るぞ!」

 

 そこで物見の兵が声を上げた。

 

 次の屍兵と物の怪の軍勢が橘たちの陣地に押し寄せてくる。

 

「我こそが鬼ヶ夫人! 大百足様の配下が武将のひとり! 腕に覚えのあるものあらば出よ!」

 

 そして、その中から鬼ヶ夫人が前に出て名乗りを上げた。

 

「我は橘玄! 牢人だ! あいにくだが一騎打ちを受けるつもりはない!」

 

「臆病者め! ならば纏めて死ねい!」

 

 鬼ヶ夫人と屍兵たちが一斉に前に出て攻撃を開始。

 

「間違いなくあの不細工が不死だろう。白姫の連中は大将を不死にしている。杉山殿、任せたぞ!」

 

「ああ。構え!」

 

 杉山たち火竜衆が鬼ヶ夫人を狙う。

 

「黒姫。俺たちは雑兵を蹴散らすぞ。よいな!」

 

「大いに暴れてやろうぞ」

 

 そして、橘と黒姫が鬼ヶ夫人と同時に前方に出て屍兵と物の怪を相手にし始めた。

 

「ふん! たったふたりで何ができる! 囲んで叩け!」

 

「おう!」

 

 鬼ヶ夫人が指示を出し、物の怪と屍兵たちが橘と黒姫を囲もうとする。

 

「そう簡単にはいかんぞ」

 

 橘はにやりと笑うと懐から何かを取り出し地面に投げつた。

 

 次の瞬間煙が周囲を覆った。煙玉だ。

 

「くっ! 小癪な! どこだ!?」

 

「ここだ」

 

 鬼ヶ夫人配下の武将が橘たちを探すのに橘が煙の中から現れ襲い掛かった。

 

「しま──」

 

「その首貰った」

 

 橘が武将の首を刎ね飛ばし、異形のそれが宙を舞った。そして、橘が地に落ちたそれを手に握る。

 

「見ろ! 貴様らの大将のひとりの首を取ったぞ! 退け、雑兵ども!」

 

 物の怪にも負けぬ鬼のような形相で橘が叫ぶのに敵の兵がおののいた。

 

「臆したな? 臆すれば死ぬぞ」

 

 そこで黒姫が前に出て士気が決壊しかかっている物の怪たちに“怨熱”で斬りかかる。物の怪たちは次々に斬られ、炎に包まれ、悲鳴を上げた。

 

「ひいっ!」

 

「た、助けて!」

 

 今回の戦いが以前の羅城門との戦いと違うのは彼らはまだ一度も勝利を手にしていなかったということ。

 

 縊鬼山を攻め始めてからずっと鬼ヶ夫人の兵は負け続けており、犠牲を出し続けていた。そのせいで鬼ヶ夫人本人の出撃で上がるはずの士気もさして上がらない。

 

 ここに来て鬼神のごとき強さを誇ってみせた橘と黒姫の出現によって、その士気はさらに崩壊へと向かった。

 

「逃げろ!」

 

 その結果、屍兵こそ残ったものの他の物の怪たちは逃げだした。

 

「逃げるな、馬鹿者ども! 逃げるでない!」

 

「お前の相手はこっちだ! 撃てえ!」

 

 鬼ヶ夫人の注意が後方の友軍に逸れたとき、杉山が火竜衆に号令を下す。

 

 一斉に鉄砲が火を噴き、鬼ヶ夫人を八つ裂きにする。

 

「なっ! 体が、回復しない……!」

 

「流石は医者先生のかけてくれた呪い付きの弾だ。化け物をよく殺せる! 構え!」

 

 さらに火竜衆が鬼ヶ夫人を狙う。

 

「や、やめろ! やめてくれ!」

 

「撃てえっ!」

 

 盛大な銃声とともに鬼ヶ夫人が八つ裂きと相成った。

 

 大口径の銃弾に抉られて、肉が削がれ、鬼ヶ夫人が地に倒れる。

 

「あばよ、悪鬼」

 

 そして倒れた鬼ヶ夫人に杉山が近づくと鬼ヶ夫人の頭に馬上筒から銃弾を叩き込んだ。鬼ヶ夫人の頭が爆ぜ、そのまま鬼ヶ夫人は死した。

 

「残りの亡者どもを片づけるぞ!」

 

「おお!」

 

 そして、橘たちは縊鬼山防衛線において勝利を収めた。

 

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