戦国のジークフリート ~牢人と龍神~ 作:第616特別情報大隊
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──死霊術師、勅使河原宗人
橘たちは疫鬼のひとり堕落を討つために岩陰へと入った。
「戻って来たな……」
橘は岩陰の街道を歩きながらそう呟く。
「故郷というのは懐かしいものか?」
「ああ。そうだな。懐かしいものだ」
黒姫に言われて橘が頷く。
「しかし、ここはもう俺が知る岩陰ではない。白姫が支配する地獄だ」
橘はそう言いきり、紅葉に案内されて腐毛寺なる寺を目指す。
橘たちは物の怪たちと火竜衆を率いて岩陰の街道を進んだ。そして、その街道に面する村々を通過する。
「村は無人のようだな」
「まさか殺し尽くしたとでもいうのだろうか」
岩陰の村には人の姿はない。大した人口がいなかったとはいえ、殺し尽くされているのであれば大量虐殺だ。
「紅葉。腐毛寺は遠いのか?」
「半日ほどかかるかと」
「そうか。慎重に進もう」
橘たちは周囲に警戒をしながら慎重に街道を進む。何せ岩陰は白姫の拠点となっている。悪鬼と亡者が溢れる場所だ。油断はできない。
「待て、橘殿!」
そこで椎葉が声を上げた。
「どうした、椎葉殿?」
「敵だ。恐らくは亡者であろう。死霊術の気配がする。しかし、南蛮のものではない」
「白姫ではない……?」
橘たちは円陣を組んで布陣し、周囲に警戒し始める。
「この気配は私も知っている。明の仙術だ。間違いなく──」
椎葉がそう告げたとき、前方に僧が姿を見せた。
僧衣を纏い、錫杖を握っているが、頭は丸めておらず長身の男だ。
「やはりお前か、勅使河原宗人」
「久しいな、椎葉古仙」
その僧は勅使河原宗人と呼ばれた。
かつて椎葉とともに明で仙術を学んだ男であり、今は彼と袂を分かって白姫についた死霊術師だ。
「白姫は負けるぞ。白姫を当てにしているならば大きな間違いだ」
「どうであろうな。お前の側が勝つとまだ決まったわけではないぞ。こちらは戦えば戦うほど兵が増えるのだからな」
「だが、それらは私が無力化する。お前がいくら亡者を生み出そうと無意味だ」
勅使河原と椎葉が対峙してそう言い合う。
「椎葉。お前も方こそそのような牢人や物の怪などとつるんで何ができると思っているのだ? お前の持っている知識はそのような無学なものたちに説いても無駄なものだ。生かし方を間違えるな」
「何を言うか。私は正しきを成すだけだ。お前は相変わらず選ばれた人間だけが不老不死となり、世界を支配するという妄想に取り付かれているのか?」
勅使河原の言葉に椎葉は軽蔑しきった様子でそう告げる。
「私が間違っているとでも? 愚かしい者どもに不老不死など与えても無駄だ。そのことは実際に不死を与えられた大百足の配下どもの愚かしさから分かっただろう」
「連中が与えられたのは不死のみ。不老不死でもなければ、痛みを取り除く術もなかった。私は苦痛をなくしたいのだ。この世の全ての人間から、等しく」
「……救世主にでもなりたいのか? 学ぶことも知らず、他者を敬うことも知らない愚か者どもから崇拝されることが望みか?」
「違う。知識を持ったものとしてそれを正しく生かすためだ」
「そうか。やはりもうお前とは相容れぬな」
そう言って勅使河原が錫杖を振るった。
「橘殿! 来るぞ!」
「承知」
椎葉が瞬時に警告を発し、物の怪は槍と弓を、火竜衆は鉄砲を構える。
「行け、
勅使河原の号令とともに橘たちに襲い掛かったのは明の兵士の姿をした亡者たち。
「こやつら、ただの亡者ではないな?」
「そのようだな。身のこなしが違う」
黒姫が“怨熱”を片手にそう言い、橘は相手の動きを見ながら告げた。
「僵尸という大陸における死霊術で生み出された亡者だ。普通の亡者のようにはいかないが、倒せないことはない」
「では、叩きのめしてやろう!」
椎葉が告げ、橘が先陣を切って向かって来る僵尸と交戦。
「動きは速いがさほど洗練された動きでもない」
橘はそう言って僵尸の首を刎ね飛ばしたが──。
「油断するな、橘殿! その僵尸の弱点は首や心臓ではない!」
「何っ!」
首を刎ね飛ばされたはずの僵尸が橘に襲い掛かり、橘に刃を振るうも弾かれる。
「札だ。僵尸の弱点は札にある!」
「札だと」
橘が周囲を見渡すと僵尸の体のあちこちに札が貼られているのが分かった。
「奴は札を通じて死体を動かしている。札を斬れば制御はできぬはずだ」
「合点だ」
橘は素早く攻撃を仕掛けてくる僵尸を相手にその札を狙う。
「札させ壊せばいいのであれば」
そう言って橘は僵尸が振るう明の剣を払い、そして肉薄。
「こうだ」
そのまま格闘戦に挑み、頭の札を引き上がす。札が外れた僵尸は痙攣するとそのまま死体のように動かなくなった。
「ほう。札を破壊すればいいのか。ならば、燃えろ」
黒姫は“怨熱”を以てして僵尸たちを札ごと焼き払っていく。
「ふむ。竜の血を浴びた武士と龍神を相手に私単独では無理があるか」
「勅使河原。下れ。白姫に付いていても勝利はないぞ」
勅使河原が撃破されて行く僵尸を見て呟くのに椎葉がそう呼びかけた。
「そちらについても私の理想は果たされない。ならば、白姫を勝利させるのみだ。さらばだ、椎葉。私は私の利用を成し遂げる」
そして勅使河原が姿を消した。
「逃げおったか」
「だが、これで決まりだな。間違いなく堕落はこの近くにいる。そうでなければあの“ねくろまんさあ”は我々に襲い掛かってこなかったはずだ」
黒姫が残った僵尸を焼き払いながら言い、橘がそう返す。
「椎葉殿。そなたには辛い仕事ではないか。かつては友だったのであろう?」
「……ああ。かつては、だ。今は違う。あの男は道を誤った。友であるならばそれを正すべきであろう。それが友だったものの務め。どうしても道を正さぬというのであれば斬ることも覚悟している」
「そうか。だが、無理はせずともよいのだぞ」
椎葉の覚悟に橘はそういう。
「紅葉。引き続き腐毛寺へ案内を」
「はっ!」
橘たちは紅葉の案内で腐毛寺を目指す。
「この臭いは屍か」
その道中の村で腐肉の臭いが漂ってきた。人間の死体の臭いだ。
「これは……」
「間違いなく病で死んだものの死体だな。実験したのだろう、村人を使って。忌まわしき悪鬼どもめ」
橘たちは死体を見つけた。村人の死体で縛られている。
肉は腐り、ウジとハエが群がっていた。
「疫病を蔓延させているのはやはり堕落なる疫鬼か」
「病とは面倒なものだ。早く対応せねば軍に蔓延し始めれば戦に負けるぞ」
「ああ。堕落を早く討たなければ」
黒姫が言い、橘が頷いて再び腐毛寺を目指した。
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