戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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病の脅威

……………………

 

 ──病の脅威

 

 

 堕落なる疫鬼はそうの格好をして寺に住み着いていた。

 

「恐ろしい、恐ろしい。戦とは真に恐ろしい」

 

 堕落はそう言いながら人間の肉を貪っている。

 

「堕落」

 

「勅使河原殿。あの、岩陽の物の怪たちは追い払えましたかな?」

 

「いいや。奴らはここに来るぞ」

 

「おお。恐ろしい、恐ろしい」

 

 ここで同じく僧の姿をした勅使河原が言い、堕落がそう言いながら笑う。

 

「敵には竜の血を浴びた武士と龍神がいる。事前の情報通りだ。やれるか?」

 

「やりましょう。そうして、白姫様から不老不死を授かります」

 

「私の加勢は必要ないな」

 

「おや。加勢はしてくださらないと?」

 

「私は不老不死は必要ない。少なくとも与えてもらう必要はない。必要ならば自ら得るつもりだ。ただ、私は白姫殿のような軍勢を作ることはできん」

 

「軍が必要だと」

 

「ああ。この日の本を制する軍がな」

 

 堕落が尋ねるのに勅使河原がそう答える。

 

「そのような軍が必要なこととはなんでしょうな。恐ろしい、恐ろしい」

 

 堕落はそう言って笑いながら人間を貪る。

 

「お前はお前で義務を果たせ、堕落。私は次に備える。お前が倒れた次にな」

 

「倒れぬよう努力いたしましょう」

 

「気張るがいい」

 

 勅使河原はそう言って腐毛寺を去る。

 

「巴も、藤堂邦孝も、大百足も、勅使河原も、当てにはできない。頼りになるのは自分だけだ。私はずっと嫌われていた。私を認めてくださったのは白姫様だけよ」

 

 骨から肉を削ぎながら堕落が呟く。

 

「白姫様のために尽くし、白姫様の寵愛を得よう。ああ。白姫様は真に素晴らしきお方。あの方のためにならば尽くす意味もあるというもの……」

 

 腐毛寺に怪しい悪鬼の笑いがこだまする。

 

 

 その頃、橘たちは引き続き腐毛寺を目指して行軍していた。

 

「思ったより敵の抵抗がないな。もっと屍兵や物の怪に襲われると思っていたが」

 

「確かにな。敵のシマにしては静かなものよ」

 

 橘たちは街道を進んでいるが襲撃があったのは勅使河原の僵尸に襲われたのが最後で、それ以降は敵に襲われることはなかった。

 

 それが逆に異様な感じであった。

 

「白姫の軍勢はどこにいるのだろうか。西川殿の軍勢が集結するのに対抗しているのだとばかり思っていたが」

 

 白姫の軍勢が国境には集まっているのだとばかり思っていたが、国境を歩いていても白姫の軍勢らしきものは見当たらない。

 

「白姫はやはり誘い込むつもりなのかもしれんな。白姫の軍は亡者どもで組織されておる。今のままでは死体が足りぬと判断したのやもしれん」

 

「そうであるならば罠を事前に探し出す必要があるな」

 

「基本的に戦とは攻め入る方が苦労するものだからの」

 

 橘と黒姫がそう言葉を交わして進む。

 

「一先ずここで野営としましょう。腐毛寺まではまだあります。先ほどの襲撃を考えるならば慎重に進むべきかと」

 

「そうだな。そうしよう」

 

 紅葉がそう提案し、橘が頷いた。

 

 橘たちは腐毛寺に進むまでに一度野営を早むことに。陣を敷いて警戒しながら火竜衆や物の怪たちが食事をし、足を休ませる。

 

「橘様。お食事を」

 

「助かる、絹御前殿」

 

 絹御前たち化け狐たちが飯の支度をし、橘たちは食事を済ませた。

 

 そして、その日の夜は野営で眠り、休んだのだが──。

 

「橘殿! 大変だ!」

 

「どうした、杉山殿?」

 

 早朝になって杉山が声を上げ、橘たちが向かう。

 

「これは病か?」

 

「そのようだ。我ら火竜衆のかなりの数の兵が同じ病を患っている。これも物の怪の仕業なのか?」

 

「椎葉殿。どうだろうか?」

 

 早速患者を診はじめた椎葉に橘が尋ねる。

 

「そのようだな。まだ大丈夫だがいずれ死に至るだろう。疫鬼を見つけねば」

 

「ああ。急ごう。ここからは軍勢ではなく、小勢で行く。疫鬼を捕らえるだけならば軍勢は不要。我らのみで行こう。その方が早く進める」

 

「承知。急ごう」

 

 橘たちは火竜衆と物の怪の多数を残し、橘、黒姫、椎葉、絹御前、紅葉、そして杉山だけで腐毛寺を目指して急いだ。

 

「こちらです! 急ぎましょう!」

 

 紅葉が先頭を進んで駆け、街道を6騎の騎馬が進んでいく。

 

「椎葉殿! どれほどまで疫病にかかったものは持つだろうか!?」

 

「物の怪たちに熱さましの煎じ薬は渡しておいた! 4、5日は持つであろう!」

 

「そうか。あいつらは俺にとって家族も同然。死なせたくはない」

 

「安心せよ。疫鬼さえ捕らえればどうにかなる!」

 

 椎葉はそう答え、橘の後ろを駆ける。

 

「そろそろです!」

 

 紅葉が告げると仁王像が見えて来た。腐毛寺の仁王像だ。

 

「いつ堕落が襲い掛かってくるか分からないぞ。気を付けろ」

 

 橘はそう言って馬を降りると寺に向かった。

 

 腐毛寺はあまりにも古い寺でほとんど廃墟である。

 

 屋根の崩れた建物や苔むした石造が並び、水が腐ったような異臭が漂う。

 

「ここに堕落がいるのか。探すぞ」

 

「承知」

 

 橘たちはそこそこの広さがある腐毛寺の中を捜索し始めた。

 

「おっと。この臭いは死体だぞ。それもかなりの数だ」

 

「堕落もまた“ねくろまんしい”を使うのだろうか」

 

「“ねくろまんしい”は外法だ。道なら誰でも使えるのだろうさ」

 

 橘が唸るのに黒姫がそう言う。

 

「気を付けろ、皆。死霊術の気配がする。仕掛けてくるぞ」

 

「合点」

 

 椎葉が警告を発し、橘たちが武器を構える。

 

「──来た!」

 

 寺の建物の名から無数の亡者たちが溢れかえってきた。

 

「やるぞ! 黒姫と絹御前殿は俺と来い! 紅葉と杉山殿は椎葉殿の援護だ!」

 

「合点!」

 

 そして、橘たちが襲い来る亡者たちと交戦を開始。

 

「ふむ? こやつら、まさか……」

 

「疫病に感染している亡者か。不味いな」

 

 襲い掛かってくる亡者たちの皮膚の色は赤く、これまで疫病に感染したものたちと同じ姿をしていた。

 

 そう、疫病に感染した亡者を使うことによって相手を疫病に感染させようというわけだ。一種の生物化学戦である。

 

「椎葉殿! 感染した場合、治療は可能か!?」

 

「疫鬼を捕らえればどうにでもなる。臆する必要ない! 私も協力しよう!」

 

 椎葉はそういうと迫りくる亡者に向けて手を向ける。

 

「術を解かせてもらう」

 

 椎葉がそう言うと亡者たちが動きを停止し、ただの死体に戻った。

 

「いいぞ。このまま殲滅する」

 

 橘と黒姫たちが亡者たちを次々に屠っていく。

 

「橘様! 疫鬼を探さないといけません!」

 

「任せていいか、紅葉!」

 

「はい! お任せを!」

 

 紅葉は寺の中に駆けて行き、堕落を探しに向かう。

 

「黒姫! 絹御前殿! 紅葉が堕落を探し出すまで亡者どもを蹴散らし続けるぞ!」

 

「ああ! わしに任せておけ!」

 

 橘たちは腐臭を漂わせながら襲い来る亡者たちをひたすらに相手にする。

 

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