戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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次なる目標、赤鬼城

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 ──次なる目標、赤鬼城

 

 

 橘たちは溺死沼の戦いで大百足を討ち取った。

 

 そのことによって物の怪たちは白姫から離れ、暫定的に物の怪頭になった小市太郎の下に下った。これによって岩陰の物の怪たちは完全に味方となったのだった。

 

「大百足が討ち取られてしまいましたか」

 

 青鹿城で白姫は大して気にした様子もなくそう言った。

 

「危惧してはおられぬのか?」

 

「残念には思いますが、私はこれで負けると決まったわけではないと思っていますよ」

 

 勅使河原が尋ねるのに白姫は小さく微笑んだ。

 

「ならば、次の戦いが赤鬼城で戦われることもご承知か?」

 

「ええ。赤鬼城の守りはお願いしますね、勅使河原殿。頼りにしていますよ」

 

「ああ。しかし、その引き換えに不老不死の技を確かに伝えてもらうぞ」

 

「構いませんよ。お約束します」

 

「分かった。では、私は戦の準備をする」

 

 勅使河原は白姫にそう言って別れを告げて赤鬼城へと向かった。

 

「これだけの兵があればそう簡単には負けはしまい」

 

 勅使河原は1万を超える僵尸の軍勢を見渡してそう言う。僵尸たちは明の刀剣や鉄砲で武装しており、無数の隊列を組んでいる。

 

「これで敵を押し返せるであろう。しかし、白姫は一体何を考えている……?」

 

 大百足が討たれたことで岩陰の物の怪たちは離反した。今や戦力は限られている。それでも白姫は全く気にした様子もなく、勝利できると信じているようだった。

 

「何か奇策でもあるのか。それとも何も考えていないのか。いずれにせよ私が勝利しなければ厳しい戦いになることだろう」

 

 勅使河原はそう言って赤鬼城に籠った。

 

 

 その頃、橘たちは赤鬼城に向けて進軍していた。

 

「次は赤鬼城か。あそこならば俺も土地勘がある」

 

 橘は次の目標である赤鬼城に向かう道中にそう語った。

 

「攻めにくい城なのか?」

 

「この世に攻めやすい城などないだろうが、赤鬼城はことさら攻めにくい。それでいて青鹿城に続く主要な街道が通っているため、落とさなけば進めないのだ」

 

「いやらしい城だな」

 

 橘が説明するのに黒姫がうんざりしたように言った。

 

「これで赤鬼城を落とし、次に黒鬼城を落とせば青鹿城までは一直線だ。もう少しだぞ。踏ん張るとしよう」

 

「わしもそれまでは付き合ってやるか」

 

「頼むぞ」

 

 橘は黒姫にそう言って馬を進める。

 

 既に先行して斥候が放たれており、赤鬼城を落とすための準備が進められていた。

 

「斥候が戻りました!」

 

 偵察に出ていた兵が戻ってきて西川に報告する。

 

「敵は赤鬼城に続く街道に布陣しております。その兵力は1万であり、敵は亡者たちです。鉄砲も少なくなく装備しており、現地には既に陣地が」

 

「城ではなく、あえて街道で戦うか。数を生かすためだろうか。1万というのは無視できない数であるからにして。これはどう攻めたものか」

 

 斥候の報告に西川が唸る。

 

「赤鬼城は守りに才のある北家のものたちが作った城です。そこに続くまでの道も守りに向いておりましょう。正面から攻める愚策かと」

 

「そうだな。城を作るのには我が西川家も協力している。考え尽くされた城だろう。しかし、この地図を見る限り街道を通らなければ城には到達できない。ここは土地勘のあるものを頼ってみるか」

 

 西川はそこで橘を戦陣に招いた。

 

「橘殿。聞きたいことがある。赤鬼城を落とすにはどうするべきかだ。敵は街道に陣を布いて待ち伏せている。いい案はないか?」

 

「ふむ。それでしたらここにある山道を抜けて直接敵の背後にある赤鬼城を奇襲しましょう。ここが落ちれば街道の兵は遊兵となります」

 

「ここに道があるのか?」

 

 橘が西川に示したのは何も書かれていない地図の場所だった。

 

「ええ。少数の兵であれば移動可能です。ですので、自分が物の怪と火竜衆を率いて奇襲してきましょう。背後の赤鬼城を落としたところで合図を出します」

 

「任せていいのだな?」

 

「お任せを」

 

「分かった。一任しよう。やってくれ」

 

「承知」

 

 橘が任を受け、黒姫たちの下へと戻る。

 

「赤鬼城を俺たちの手で落とすぞ」

 

「城を落とすのですか?」

 

 橘が開口一番に述べた言葉に絹御前たちもののけが困惑する。

 

「その通りだ。昔、北右近殿自身から赤鬼城の弱点を聞かされている。不可能ではない。説明しよう」

 

 橘がそう言って地面に城の地図を描く。

 

「大手門からの道は当然険しく、そう簡単には落ちぬようになっている。ここから攻め入るのは愚策。相手もそう理解しているだろう」

 

「では、どうするのだ?」

 

「ここの城の斜面は腕力のあるものたちならば登ることができる。故に俺と黒姫が大手門から攻め入り敵を引き付けるので、その隙に物の怪たちと火竜衆には斜面を登り、城を奇襲してほしい」

 

 杉山が怪訝そうに尋ねるのに橘がそう言った。

 

「ふたりで陽動をやるのか? いくら竜種を連れて行くとは言えど、それは無謀ではないか、橘殿」

 

「大丈夫だ、椎葉殿。ここは岩陰の土地である。であるならば岩陰のものが血を流さねばならないだろう」

 

「ふむ。そうか。ならば否定はしまい。だが、死ぬなよ」

 

「ああ。決して死なぬ」

 

 椎葉が橘の覚悟を見て頷くのに橘がそう返した。

 

「では、まずは赤鬼城まで向かおう。山道を使えば敵に気づかれず移動できる」

 

 橘たちは陣を出て赤鬼城へと向かう。

 

「この道だ。赤鬼城の裏手にある山まで続いている」

 

「念のためにここは私が斥候を」

 

「ああ。任せたぞ、紅葉」

 

 紅葉が斥候として先行して進み、橘たちが山道を徒歩で進んだ。

 

 鬱蒼とした森に僅かに道があり、その道を使って橘たちは移動していく。馬でも通れるだろうが、馬の嘶く音などで気づかれないように敢えて徒歩を選んだ。

 

「慎重に進むぞ。慎重にな。奇襲が重要だ」

 

「退屈な話だ」

 

 黒姫が長々と歩かなければならないことにうんざりしているようである。

 

「橘様。前方に敵はおらず。警戒されておりません」

 

「よし。このまま進むぞ」

 

 橘たちは引き続き赤鬼城を目指した。

 

「見えて来た。あれが赤鬼城だ」

 

 見えたのは美しさなどは二の次にされた堅牢な山城。

 

 聳える丘の上に立つのが赤鬼城だ。

 

「夜を待とう。それから仕掛ける」

 

「分かった」

 

 橘たちは奇襲に向いた夜を待った。

 

「まだ明るいうちに地形を説明しておく。上る丘の部位はここだ。ここ以外からは侵入は難しい。間違わぬようにしておいてくれ」

 

「おう」

 

 杉山や又坐衛門たちが集まり、赤鬼城の地形を良く把握する。

 

 彼らに赤鬼城の攻略のために必要な情報を授け、橘たちは火を起こさぬように食事をして日が落ちるのを待った。

 

 太陽がゆっくりと沈んでいき、そして月がうっすらと輝く。

 

「時間だ」

 

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