戦国のジークフリート ~牢人と龍神~ 作:第616特別情報大隊
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──かつての友
巨大な僵尸と交戦する椎葉たち。
「札を狙うのだぞ。それ以外はあまり意味がない。意味のある銃弾は火竜衆に渡してしまったからな」
「合点!」
椎葉たちは巨大な僵尸に向けて刃を向ける。
「おおおおおお!」
僵尸が槌を振るって椎葉たちを粉砕しようとする。それを椎葉たちは巧みに回避し、そして反撃を叩き込む。
「まずは一枚」
椎葉の刀が僵尸の札を一枚叩き切る。それによって僵尸の動きが鈍った。
「このまま叩くぞ」
「おう!」
物の怪たちも僵尸に立ち向かう。
「うわっ!」
「構え! 突け!」
槌で物の怪が殴り飛ばされながらも、物の怪たちは必死に槍を繰り出して僵尸の札を突く。札は僵尸の体中に貼られており、そこから道教由来の力が注がれ、僵尸が動かされている。
札を一枚ずつ破壊していくことで僵尸を動かす力がなくなり、動きが鈍るのだ。
「あの槌の威力は半端ではないぞ。用心しろ!」
「おうとも! それでも我らが屈しはせぬ!」
僵尸の振るう槌は一撃で化け狸を吹き飛ばしてしまう。それにも怯まず無数の化け狸たちが僵尸に襲い掛かっていく。槍と握って強大な僵尸に立ち向かう。
「岩陰の物の怪の意地を見せろ! 我々は勝利する!」
「うおおお!」
そして化け狸と化け狐たちが槍で僵尸をめった刺しにした。
それによって僵尸の札が残らず破壊され、僵尸はただの死体のつぎはぎに戻ると崩れ落ちた。その滅多刺しにされた死体は脆くも崩れ落ちる。
「よし。では、勅使河原を探すぞ。この近くにいるはずだ。これが最後の守りであったに違いないからな」
「承知」
椎葉たちは赤鬼城内で勅使河原を探す。
「勅使河原!」
「椎葉」
椎葉が襖を上げて踏み込むと勅使河原がいた。
「ついに捕らえたぞ。もう諦めろ」
「そうだな。私はお前と直接戦って勝てるような技量はない」
「では、大人しく斬られるがいい」
椎葉はそう言って刀を抜く。
「待て。白姫が何を目的としているが知りたくはないか?」
「何だと?」
「私はようやく理解したのだ。白姫が何を求めているのかを。それは日の本を征服することなどではない。もっと恐ろしいことだ」
椎葉が眉を歪めるのに勅使河原がそう語る。
「それを教えるから見逃せというのか。今さら痴れたことを。橘殿も、西川殿も、他のものも決して白姫に与したお前を許しはせぬだろう。私自身お前が考えを改めるとは思っていない」
「愚かな。より巨大な脅威と戦わねばならぬのに細事に気を取られているとは。そのような愚かな男ではなかったはずだ、お前は」
「白姫の狙いは私が自分で突き止める。貴様の助力は不要」
「いいから聞くのだ。白姫が考えているのは──」
そこで勅使河原の首が飛んだ。
「なっ……!」
椎葉たちが驚愕する中、現れたのは巴だ。
「余計なことを喋るな、勅使河原。死ね」
巴はそう吐き捨て勅使河原の死体は血を吹き上げながら畳に倒れた。
「お前が橘殿が話していた怨霊か」
「そうだ。ここでお前も殺しておくべきかもしれないな、医者。お前の話は聞いている。白姫様の術を妨害するものだと」
「怨霊が体を与えてもらって恩義でも感じているのか? 愚かな。その恨みに縛られた身で何がなせるというのだ。白姫も愚かなことを」
「白姫様を愚弄するか!」
巴が椎葉に刀を向けて叫ぶ。
「愚弄されるだけの愚かしさだからだ。お前はその恨みに満ちた身で何を成すつもりだ。恨みに任せて殺しまわる以外できることがあるとでもいうのか?」
「私は白姫様に仕えている。それこそが名誉」
「ふん。南蛮の邪竜などに仕えて何の意味がある」
椎葉はそう言いながら隙を見て巴の体を維持している死霊術を解こうとしていた。そのために敢えて挑発していたのだ。
「貴様、わざと私を挑発しているな?」
しかし、そこで巴が気づいた。
「挑発には乗らぬ。私の役割は橘を白姫様の下へ連れて行くこと。しかし、ここに橘はいないようだな。ならば、用はない」
巴はそういうとその姿がゆらりと揺れ、そのまま姿を消した。
「終わったな」
椎葉はそう呟くと首を落とされたかつての友、勅使河原の死体を見る。
「椎葉殿!」
「橘殿。これで赤鬼城は落ちたぞ。西川殿に連絡を」
「ああ。よくやってくれたな」
「友として成すべきことを成したのみ。本当ならば私が斬るべきであったが……」
橘の言葉に椎葉はそう言って首を横に振った。
「ともあれ勝利だ。これで進むことができる。犠牲も少ない。大きな勝利だ」
それから西川に赤鬼城陥落の知らせが届けられ、前進が始まった。
「これよりこの赤鬼城を拠点として利用しつつ、黒鬼城を落とし、そして青鹿城を落とす。そろそろ兵量なども考えておかねば。予想以上に長い戦いとなったからな」
「ですな。長い戦いとなりました。まだ周辺の国々が動く様子はないですが」
「今周りに攻められたら我が岩陽は落ちる。気を付けねば」
赤鬼城に戦陣を布いた西川がこれからの方針を話し合った。
「しかし、大百足が討ち取られ、疫鬼も討ち取られ、岩陰の物の怪たちはもはや我々の敵ではない。脅威となるのは白姫が操る亡者たちのみか?」
「岩戸衆の隠れ里を襲った首無し武士がいるとか」
「首無し武士と? 詳細について知っているものはおるか?」
「橘殿たちが戦ったはずです」
「では、橘殿たちを呼んでくれ」
西川の求めで橘たちが呼ばれる。
「橘殿。まずは赤鬼城での戦い、見事であった。礼を言う」
「いえ。椎葉殿と物の怪たち、そして火竜衆のおかげです」
西川が礼を述べるのに橘がそう返した。
「そこで尋ねるのだが、岩戸衆の隠れ里で首のない武士と戦ったそうだが仔細を聞かせてはくれぬだろうか?」
「首無し武士の正体は恐らくかつて岩陰の家老であった藤堂邦彦殿の息子である藤堂邦孝だと思われます。特徴的な槍と甲冑から推測されます」
「なるほど。それは岩陰の武士であたそなには辛いことだな。だが、その藤堂邦孝殿は自らの意志で白姫に下ったのではないことは確かか?」
「藤堂邦孝殿は白姫などに下ったりしません。まして彼の父は白姫に殺されておるのですから。仇に下るものがいるでしょうか?」
「うむ。それならば白姫の外法によって操られているものを解放せねばな」
「必ずや」
西川に言われ橘がそう頷く。
「今は英気を養い、次の戦いの備えてくれ。酒も食事も準備した」
「ありがたく存じます」
そして、橘たちは物の怪と火竜衆とともに酒と食事を楽しんだ。
「橘。何を考えておる?」
黒姫がひとりで酒を飲んでいる橘のところに来てそう尋ねた。
「いや。そろそろ戦も終わるのだなと思ってな」
「そうだな。戦は終わり、世はこともなしだ」
橘が夜空を見ながら言うのに黒姫がそっと隣で盃を傾けた。
「本当に戦が終わる」
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