戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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黒鬼城の戦い

……………………

 

 ──黒鬼城の戦い

 

 

 黒鬼城の攻略戦が始まった。

 

「敵に兵糧責めは通じない」

 

 大事な点をまず西川が軍議の場で述べる。

 

「敵は亡者であるからにして、兵糧を必要としない。そのことは椎葉殿が述べた通りだ。なので黒鬼城を攻略するには力業しかない」

 

「赤鬼城のように搦め手を使うのは無理だと?」

 

「少なくとも城を良く知る橘殿はそう言っている」

 

 橘は赤鬼城のときのように抜け道などから城を攻略するのは無理だと西川に助言した。そのような穴は黒鬼城にはないのだと。

 

「であれば、どのように落としますか?」

 

「大手門を大筒で破壊。一気に兵を攻め入らせる。そのために黄金平原で敵を迎え撃ったのだ。敵の抵抗はそこまで強固ではなかろう」

 

「真正面から城の相手とは少しばかり」

 

「奇策にはリスクがある。勝てるならば正面から挑んだ方がいい。火竜衆がいくつもの大筒を準備しておいてくれておるからな。問題はない」

 

 武将のひとりが懸念を示すのに西川はそう言いきった。

 

「黒鬼城を落とせば後は青鹿城のみ。皆のもの、最後まで油断するな!」

 

「おう!」

 

 西川軍は黒鬼城の正面攻撃と正面突破を決定。

 

「大筒を運べ!」

 

 火竜衆が攻城用の大筒──大砲を黒鬼城の大手門を射程に収められる位置まで運ぶ。

 

 この時代の大砲は現代のそれと違い目標を直接見ずに行う間接砲撃が行えない。それほどの射程はないのだ。

 

 巨大な砲弾を直接ぶつけることで船や砦を破壊することがその目的であり、火竜衆も攻城戦のために大筒を装備していた。

 

「畜生! 敵の攻撃だ!」

 

「応戦しろ! 大筒を守れ!」

 

 射程が短いということは大筒そのものが敵の攻撃にさらされることを意味する。

 

 実際に黒鬼城から鉄砲や矢の攻撃が大筒を運用する火竜衆に浴びせられ、火竜衆は必死に応戦しながら大筒を守った。

 

 そして大筒が攻撃位置についた。

 

「撃てえ!」

 

 ついに大筒が杉山の合図で火を噴いた。巨大な鉄の砲弾が大手門に叩き込まれ、大手門が玩具のように吹き飛ばされる。それを守っていた屍兵たちも同様に吹き飛ばされ、黒鬼城の守りに大穴が開いた。

 

「今だ! 攻め入れ!」

 

「おおおっ!」

 

 西川が号令をかけ、一斉に兵たちが黒鬼城に攻め込む。

 

「城を落とすぞ! 進め、進め!」

 

「ああ!」

 

 先頭を進むのは橘と黒姫たちだ。

 

 彼らはここにいるだろう藤堂邦孝を死なせるためにここまで来たのだ。彼を白姫から解放して自由にするために。

 

「斬り結ぶのは適当でいいぞ! 城に攻め入れ!」

 

 橘はそう声を上げ、敵を蹴散らして城に突入。

 

「邦孝殿を探せ! 椎葉殿、ともに来てくれ!」

 

「ああ」

 

 椎葉がいなければ藤堂邦孝を眠らせることもできない。

 

 しかし、城内にも無数の屍兵がおり、橘たちの行く手を遮る。

 

「押し通る!」

 

「加勢してやる、橘!」

 

 そこを橘と黒姫が道を作り、突破。

 

「椎葉殿! お守りします!」

 

「助かるぞ、紅葉殿」

 

 紅葉は椎葉を守り、彼を橘たちの後に続かせた。

 

「退けい! わしの行く手を遮るでない!」

 

 黒姫が群がる屍兵に向けて炎を放ち、屍兵が一斉に焼き払われる。屍兵は燃えるとそのまま炭化して倒れていく。生きた死体であり、亡者であるが、不死ではないのだ。

 

 橘たちは進み続け、城を落としていった。

 

 残敵の掃討は西川軍とそれに属する火竜衆が行っており、橘たちは城の守りを攪乱させる役割を果たしていた。

 

 黒鬼城の白姫軍はちゃんとした対応を取ることができなくなり、堅牢な黒鬼城が瞬く間に陥落していく。そもそも初期の段階で黄金平原での戦いに誘われてしまい、それによって兵力を失ってしまったことが原因でもある。

 

「もう少しだ。もう少しで突破できる。そうすれば……!」

 

 橘が必死に刀を振るって亡者たちを斬り倒して突き進んだ。彼は時折、火竜衆から借りた鉄砲も使って亡者を打ち払う。

 

「おおおお……!」

 

 亡者たちは橘たちを食い止めようと槍や刀、そして鉄砲を持って橘たちを攻撃。

 

「ふん!」

 

 橘は白姫の血を浴びた部位をあたかも盾のように利用して、敵の攻撃を弾いて戦い続ける。攻撃を弾き、攻撃を叩き込み、亡者を退ける。

 

「橘殿に続け!」

 

「亡者を撃破して進め!」

 

 物の怪たちも橘たちに後に続いて黒鬼城を制圧していった。

 

 そして、ついに──。

 

「邦孝殿……!」

 

 橘は藤堂邦孝の姿を黒鬼城の中に見つけた。

 

 藤堂邦孝は“隼狩り”を握り、橘に前に立ち塞がる。

 

「橘殿。あの男の首は近くにある。我らで探してこよう」

 

「ああ。頼む、椎葉殿。俺は時間を稼ぐ」

 

「合点」

 

 椎葉たちは藤堂邦孝の首を探しに向かい、橘は藤堂邦孝の前で敵から奪った槍を構える。刀で槍に挑むのは得策ではないのだ。

 

「行くぞ、邦孝殿!」

 

 そして、橘が再び藤堂邦孝と交戦。

 

 槍が互いに突き出されては激しい金属音を響かせて激突し、ふたりの戦いは瞬く間に加熱していく。しかし、白姫の血を浴びている橘も、不死となっている藤堂邦孝も、この激しい戦闘でのそう簡単には死なない。

 

「こっちだ、紅葉殿」

 

 椎葉たちは藤堂邦孝の首を探して黒鬼城内を進み、そしてそれらしき反応を椎葉が捕らえた。彼が先導するのを紅葉が護衛する。

 

「ここだ!」

 

 椎葉が踏み込んだ先には亡者たちに守られた祭壇が存在した。

 

 そこにあったものこそ藤堂邦孝の首である。

 

「亡者を排除して首を手に入れるぞ」

 

「はい!」

 

 椎葉たちは亡者に挑む。椎葉と紅葉はともに刀を握ると亡者に斬りかかった。

 

 亡者たちを斬り伏せ、椎葉たちは進み、祭壇の前に立つ。

 

「解呪!」

 

 そして、椎葉が邦孝にかけられていた呪いを解呪した。

 

「邦孝殿」

 

 藤堂邦孝と相対していた橘は藤堂邦孝の動きが鈍ったことを察知する。

 

 藤堂邦孝は少しよろめくと橘の方をしっかりと向き、礼を述べるかのように橘に向けて頭を下げた。

 

「安らかに、邦孝殿」

 

 橘が頷くと、藤堂邦孝はそのままがくりと崩れ落ちる。

 

「やったか」

 

「ああ。これで黒鬼城は落ちた。後は──」

 

 そこで鋭い殺気を感じ取った橘がぐいとある方向を向く。

 

「橘」

 

「巴……!」

 

 そこには巴がいた。紅葉の首に刃を向けた巴が。

 

「一緒に来てもらおう。白姫様がお呼びだ」

 

「断ればどうする?」

 

「この女を殺す。そしてお前の四肢を斬ってでも白姫様の下へ連れて行く」

 

「そうか」

 

「どうする、橘玄?」

 

 巴が尋ねるのに橘は持っていた槍を捨てた。

 

「行こう。だが、紅葉は解放しろ」

 

「よかろう。さあ、来てもらうぞ」

 

 次の瞬間、黒鬼城の橘と巴が立つ廊下に魔法陣が広がったかと思うとふたりが一瞬でその姿を消した。

 

「橘!」

 

 黒姫が叫ぶが既に橘はいない。

 

「橘殿を連れて行かれた。しかし、何故白姫は橘殿を……」

 

「どうでもいい。やるべきことはひとつだ」

 

 椎葉が唸るのに黒姫がそう言う。

 

「青鹿城に乗り込んで白姫を殺す」

 

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