戦国のジークフリート ~牢人と龍神~   作:第616特別情報大隊

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青鹿城にて

……………………

 

 ──青鹿城にて

 

 

 橘は自分が青鹿城の城内にいることに気づいた。

 

「ついに来ていただけましたね」

 

「白姫……!」

 

 橘の前で白姫が座っていた。

 

「どうして俺を連れて来させた? 何が目的だ?」

 

 橘は刀を抜いて白姫に向ける。巴がすかさず橘と白姫の間に立ち、同時に彼女も刀を抜いて橘に向けた。

 

「家族が欲しかったのです」

 

「家族、だと」

 

「ええ」

 

 白姫はそのような緊迫した空気など無視した穏やかな口調でそう語る。

 

「我々南蛮の竜種は人の狩られ続けて来た。王や騎士、あるいは聖人にとって竜種とは獲物。自分の頭を飾る王冠でしかなかった。我々がずっと数を減らし続け、迫害を受け続けて来た」

 

 白姫がそうゆっくりと語る。

 

「そんな中でともに歩んでくれる伴侶がほしかったのです。今一度数を減らした竜種を復活させ、竜種の偉大さを人間たちに知らしめるためにも。そして、死ぬまで続くこの孤独を癒すためにも……」

 

「俺は貴様などと家族になるつもりはない」

 

「ですが、あなたにはその権利がある。あなたに流れる血には南蛮の竜種のそれが流れているのですから」

 

「なんだと……!?」

 

 白姫の言葉に橘が目を見開く。

 

「ご存じなかったでしょう。ですが、私はずっと探して来たのです。どこに我々の同胞たちがいるかをずっと。そしてついに見つけたのです。あなたという同胞を」

 

 橘に向けて白姫tが穏やかに語る。

 

「さあ、ひとつになりましょう。そして子を成し、再び竜種の手で世界を統べましょう。私たちにはそれができるのですよ」

 

「断る。誰が貴様などに協力するものか。殺せ」

 

 白姫の提案に橘がそう返した。

 

「本当にそのようなことを言ってもいいのですか?」

 

 不気味に白姫が笑うと襖が開き、そこから姿を見せたのは──。

 

「梅……! まさか……」

 

「不死者として生き返らせたのです。あなたが私とひとつになることを拒むというのであれば、このものは苦しみ続けることになります」

 

 現れた梅は橘に斬られた傷を縫合され、その上で亡者として苦しんでいた。

 

「貴様……!」

 

「どうしますか? 私とひとつになればこのものは解放しましょう。もう死霊術を使う必要もなくなるのですから。純粋な竜種の力だけで世界を屈服させることができるのです。まずはこの島国を、次は大陸を」

 

 私たちと我が子たちで全てを支配しましょうと白姫が言う。

 

 橘は迷った。葛藤した。

 

 白姫に力を当たるようなことがあってはならない。この南蛮の竜種は倒されるべきである。この残酷な存在を生かしておくわけにはいかない。

 

 しかし、そうなると梅が苦しみ続けることになってしまう。

 

「……ダメだ。受け入れられぬ」

 

 橘はそう言って刀を構えた。

 

「考え直してください。私たちが世界を統べるのですよ。全てが手に入る。あなたの偽りの家族の安楽すらも」

 

「断る。そこにあるのは腐肉だけだ。俺の家族ではない」

 

 白姫の言葉に橘がそう言い切る。

 

「……そうですか。残念です。であるならば四肢をもいででも無理やり交わりましょう。巴、やってください」

 

「承知」

 

 そして、巴が前に出たときだ。

 

「橘!」

 

「黒姫!?」

 

 青鹿城の壁が砕け、そこから黒姫が飛び込んできた。

 

「あなたが黒姫ですね。私の邪魔をしようというのですか?」

 

「当たり前だ。こいつはわしの神社の神主となるのでな。貴様には渡さん」

 

「愚かなことを。ならば死んでもらいましょう。私もあなたと同じ竜種だということを思い出させてあげますよ」

 

 白姫が立ち上がるとその体の周囲に炎が立ち上った。

 

「おうおう。やってやろうではないか。橘、お前は退いておれ。お前を焼かずにこやつと戦える自信は流石にないからな!」

 

「ああ。俺は巴の相手をする」

 

 黒姫は白姫を、橘は巴を、それぞれ相手に見据えた。

 

「行くぞ、南蛮の!」

 

「覚悟しなさい。日の本などという田舎でいい気になっている井の中の蛙が」

 

 黒姫は“怨熱”で、白姫は自在に操ることのできる炎で戦う。

 

 周囲に硫黄の臭いが立ち込め、炎の熱気が迫る。

 

「巴。お前を殺せないのは分かっている」

 

「ならばどうする、橘?」

 

「死にたいと思わせてやる」

 

 橘は我流の構えで刀を握り、巴もまた我流の構えを取る。

 

「いざ尋常に──」

 

「──勝負!」

 

 そして、ふたりが激突した。

 

 橘は最初から巴の体は狙わずにその刀に攻撃を集中させた江。まずは武器を奪って無力化することがその狙いだ。

 

「そのような及び腰では私には勝てないぞ、橘!」

 

「白姫の力がなけれえば姿すら保てぬお前に言われたくはない!」

 

 橘が強力な一撃を繰り出し、巴がよろめくが刀は手放さない。

 

「貴様を白姫様に献上して、白姫様に恩を返す!」

 

「やれるものならば!」

 

 巴と橘が剣戟を繰り広げた。

 

 同時に黒姫と白姫の戦いも激化していた。

 

「焼けろ。この地に竜種は2体もいらない」

 

「お前が焼けるがいい。人の庭に土足で上がり込んできた害獣風情が」

 

 白姫があらゆる方法で黒姫を攻撃するが黒姫は“怨熱”で応戦するのみ。

 

 それも仕方のないことなのだ。ここで黒姫が全力を出してしまえば橘が死ぬことになってしまう。さらにはこの日の本が滅ぶほどの災害が同時に発生するだろう。

 

 日の本ごと白姫を滅ぼすのであれば遠慮はいらないのだろうが、今の黒姫にその気がないのは明白だった。

 

「なるほど。お前は全力が出せないようですね。力の加減もできない獣ですか。では、私が力の振るい方を教えてあげましょう」

 

 そこで白姫の着物が引き裂かれたかと思うとその肉体が膨張し、そして──。

 

「これが白姫の正体……。南蛮の竜種か……」

 

 黒姫の前に現れたのは西洋のドラゴンだ。真っ白な鱗をした赤い瞳の化け物。その巨体は青鹿城すらも凌ぐ大きさだ。

 

「おうおう。本性を現したか、あばずれ。叩き殺してくれるわ」

 

 黒姫は余裕の様子でそう言い、白姫に挑む。

 

「そのような小刀で私が殺せると思いましたか?」

 

 巨大な竜種となっても穏やかな少女の声で白姫は喋り、黒姫を迎え撃つ。

 

「くうっ……!」

 

「黒姫!」

 

 黒姫が白姫に寄って薙ぎ波られるのに橘が声を上げる。

 

「よそ見をしている場合か!」

 

「クソ!」

 

 橘が黒姫の加勢に向かいたくても巴によってそれは防がれていた。

 

 巴は怨霊であるが故に橘には殺せない。助けが必要だ。

 

 そう──。

 

「橘殿!」

 

「椎葉殿!」

 

 白姫の暴れまわる青鹿城に西川軍の騎馬隊とともに椎葉たちが姿を見せた。

 

「椎葉殿! この怨霊を倒すのに手を課してくれ!」

 

「もちろんだ。任せてくれ」

 

 そして椎葉が巴の方を向いた。

 

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