ウマ話短編集   作:cheese3

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むん!を極めるため、マチカネタンホイザは北斗の門を叩いた。


進撃のむん!

 マチカネタンホイザは自称普通のウマ娘だった。

 他と比べて優れているところはなく、それを補うための膨大な努力を駆使して戦う。

 だが届かない。

 他のウマ娘は自分よりも全て優れている。

 スピードも、スタミナも、パワーも、頭脳も。

 唯一他のウマ娘よりも優れている自信がある根性も他の不足分を補ってはくれない。

 一番に。

 ただ一番を目指して。

 狂おしいほどの渇望の果てに彼女はたどりついた。

 その存在は伝説だった。

 おとぎ話だった。

 一子相伝。

 2000年間負け知らず。

 常に進化を続け、地上最強とうたわれる暗殺拳。

 マチカネタンホイザは出会ったしまったのだ。

 

「ほう。このラオウの闘気に怯えぬウマ娘とは…。よほどの覚悟があるようだな」

「わ、私だってやれることを証明してあげるんだから!」

 

 マチカネタンホイザは鍛えた。

 己の肉体を。

 精神を。

 弱かった過去の自分を捨てるために、ただ北斗の拳を極めた。

「えい、えい、むん!」

 渾身の力で繰り出した拳から闘気が放たれ、遠くに立っていた兄弟子を吹き飛ばした。

「見事なり!北斗剛掌波をこの短期間で会得するとは。貴様には修羅が宿っておる!」

「や、やった!あのジャギ兄さまを倒せるなんて!」

「ぐう!ちくしょう…。なんでてめえはウマ娘としてじゃなく、こっちのほうが才能あるんだよ!」

 

 それからもマチカネタンホイザは鍛え続け、免許皆伝が言い渡されたころ、元の世界に変えることを決意した。

「ゆくのか」

「はい。私にはまだ勝たなければいけない人たちがいるんです。

 その人たちを越えない限り、私は先に行けません」

「そうか」

 ラオウの眼が闘気を帯びた。

 すさまじい圧がマチカネタンホイザを襲う。

 ラオウにとって、他者は全て自分が強くなるための踏み台に過ぎない。

 ここが限界ならラオウの養分として、マチカネタンホイザは戦いの果てに首をへし折られるだろう。

 そうならないために、持てる全ての闘気をもって抗う。

 私はまだ強くなる。

 今は戦うべき時ではない。

 そう全力を振り絞り対抗した。

 短くも濃密な時間が過ぎると、ふと、ラオウの圧力が消えた。

「好きにするがよい。貴様は北斗の業を背負った。

 いずれまた戻ってくるだろう」

 背を向けたラオウの呟きがどこか残念がっているように感じるのは気のせいだろうか?

 マチカネタンホイザは今までの感謝を込めて、精一杯頭を下げた。

 ラオウはそれを背で受け止め、決して振り返らなかった。

 一礼して修行場を立ち去ろうとしたマチカネタンホイザの耳に大声が聞こえた。

「マチカネタンホイザ!てめえ勝ち逃げしてんじゃねぇよ!」

 振り返った。

 すると、そこには修業を共にした同期や兄弟子たちがずらりと並んでいた。

「ここで身に着けたことを他のザコどもにぶつけてこい!」

「勝ってこい!それがお前の唯一の存在意義で答えだ!」

「しょうもないレースをしてたら、俺たちが全員で性根を叩きなおしに行ってやるよ!

 返り討ちにされるだろうけどな!俺らが!」

「み、皆…」

 マチカネタンホイザの脳裏に彼らと過ごした時間がよぎる。

 それは尊くて、かけがえのない時間だった。

「マチカネタンホイザ!」

「ジャギ兄さん…」

 一番戦い、一番親身に修業をつけてくれた兄弟子が声を張り上げていた。

「俺はお前よりも強くなってやる!だからそれまでずっと負けるんじゃねぇぞ!

 今度はお前が、俺の目標になりやがれ!」

「っ!

 はい!私負けません!みんなに勝って、私と北斗こそが最強だと証明して見せます!」

 マチカネタンホイザは走った。

 後ろの声援に振り向くことなく。

 次に会う時は、トゥインクルシリーズを全て制覇した後。

 そう心に誓ったから。

 

 

「シンボリルドルフさん。あなたはここでおしまいです!

 えい、えい、むん!」

「ぐあああ!」

「そんな…!カイチョ―が一撃でやられるなんて!」

「ここまでの闘気の高まり。

 エアグルーヴの眼をもってしても見抜けなかった…!」

 マチカネタンホイザは止まらない。全ての者を倒すまで。

 

「ぐぅ…。お医者さんがいなくて、気のドクター」

 会長の最後の言葉は全員に無視された。

 

 

 

「あの人は最初に最強を倒しました。

 私とエルでも倒せるとは限りませんよ」

「確かにそうかもしれません。でも、エルのハートは太陽のように燃えてマース!

 あの人を倒せと、メラメラに燃えているんデース!」

「ふふっ、そうですね。

 たとえ及ばずとも、挑むことでしか勝機は見出せません。

 であれば、グラスワンダーとエルコンドルパサーの二人で参りましょう」

 次々に散っていく挑戦者たち。

 しかし、敵わぬと知っていても、誰もが挑むことをやめない。

 それは勝算ゆえか。

 それとも本能ゆえか。

 答えは勝ったものだけが知っている。

 

 

 

「スぺ。

 お前にやつは倒せない」

 スピカのトレーナーがスペシャルウィークに告げる。

 スペシャルウィークの顔に浮かぶのは、諦めでも勝負への執着でもない。

 トレーナーはその顔に、まるで澄んだ青空のような純粋さを見た。

「はい。私はマチカネタンホイザさんに勝てないかもしれません」

 そういうのに、その顔は何だろうか。

 死闘を前に、恐怖も後悔も、闘士すら見えないスペシャルウィークの顔は、これからの自分の運命がわかっているかのように雑念がなかった。

「確かにあの人は強いです。

 スズカさんも、テイオーさんも、たづなさんですら敵いませんでしたから」

 目が、目だけが何よりも語り掛けていた。

 私が、私だけが勝てると。

 全ての強敵を倒してきたマチカネタンホイザにスペシャルウィークは立ち向かう。

 その心は哀しみを背負っている。

「私勝ちます。

 それは自分のためだけじゃなく、今まで倒れていった人のため。なにより、修羅に落ちてしまったマチカネタンホイザさんのためにも、私は負けません」

 その存在は空のよう。

 決してつかめず。だがそこに確かに存在している。

 北斗を極めしものはその状態をこういう。

 無想転生。

 奥義を極めしものがここにも一人いた。

「ああ、行ってこいスぺ。お前がなすままに、心のままに正面からぶち当たってこい!」

「はい!」

 トレーナーと拳を合わせて、スペシャルウィークはレース場へと向かった。

 強敵のために、何よりも自分自身のために。

 全身全霊をもって、戦うために。

 

 

 

 

 そして死闘の幕が開けた。

「ふふっ、スペシャルウィークさんが来てくれて、少しは楽しくなりそうだね。

 じゃあ行くよ。えい、えい、むん!剛掌波!」




 昔の物だけど、枯れ木も山の賑わいって話
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