ウマ話短編集   作:cheese3

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将来的にはたぶんちゃんと買いに来るんじゃないかって話


ヒシミラクルと過ごすなら

「ふっふふーんふっふふーん。今日はトレーナーさんとお買い物ー」

「ご機嫌だなヒシミラクル」

「そりゃそうですよ!この間なんて、山に行ってまで水泳トレーニングをやらされましたからね。こうして息抜きでもしないと、やってられませんよ」

「悪かったって。その代わり、今日はヒシミラクルの行きたいお店に付き合うし、お昼は俺がおごるよ」

「やったー!何たのもっかなー。お寿司にステーキ、パフェにパンケーキ―」

「お手柔らかにな」

 はたから見てもわかるくらい、はしゃいでいるヒシミラクルに、トレーナーは連れてきてよかったなと思った。

 そんな時、鼻歌を歌っていたヒシミラクルが家具屋の前で足を止めた。

「ト、トレーナーさん…!」

「どうしたんだヒシミラクル?」

「あれ見てください。すっごくおっきくてふかふかのベッドですよ!」

 ヒシミラクルは小さく歓声を上げながら、いそいそと展示品であるベッドに寝ころんだ。

「わたしこういう家具屋で一日過ごすの、すっごく好きなんですよ。特にこんなでっかいベッドには目がないんですよねー」

「そうなんだ。なんだか休みの日も、ヒシミラクルらしい過ごし方をしてるんだね」

「あー。トレーナーさん、こういう過ごし方の良さがわかってないなー。

 トレーナーさんも横で寝てみたらわかりますよ」

「えっ?」

 トレーナーは思わず耳を疑った。

 ズブいズブいとは思っていたが、まさか異性を隣に来させるほどズブかっただろうか。

 逡巡しているトレーナーに、ヒシミラクルは少しだけ恥じらうような視線を向けた。

「えーっと、もちろんこんなことトレーナーさんじゃなきゃ言ったりはしませんけど、気が進まなければ別にいいですよ…」

「…それじゃあ、お邪魔します」

 トレーナーは遠慮がちに、ヒシミラクルの隣に寝転がった。

 ベッドの匂いに混じって、トレーナーの匂いをかぎとってしまったヒシミラクルが、なぜか急に恥ずかしい気分になり、その気持ちをごまかすようにまくし立てた。

「ほ、ほらほらどうですか、トレーナーさん?ふかふかで、腕だってこんなに伸ばせちゃって、すごくいいベッドでしょ」

「これは…、たしかに気持ちいい」

「そうでしょうそうでしょう。きっとこんなベットで眠れたら、どんな厳しいトレーニングをされても、次の日には気分爽快!完全リフレッシュ!しているはずなのにな〜」

 わざとらしくチラチラ見てくるヒシミラクルに、トレーナーは苦笑した。

「まぁそうなってくれたら、俺ももっと容赦なくミラ子をトレーニングできるから、いつか買ってもいいのかもな」

「ひどっ!トレーナーさんは、本当に鬼トレーナーですね!そんな人の言うことを聞くのなんて、わたしぐらいしかいないんですから、いつか絶対に買ってくださいよ!」

「はいはい」

「むぅ。わたしはこの約束、絶対に忘れませんからね」

 2人の視線が、ベッドの上でふいに重なり合った。

 確かに、こうして目線が合うのは悪くないのかもしれないと、どちらかあるいはどちらもがそう思い、2人は遠い未来でも、お互いが一緒にいることを疑わず、楽しそうに笑いあった。

 

「ご来店ありがとうございました」

 家具屋で働く、さやか(24歳彼氏なし)は、死んだ目で、去ってゆくウマ娘とトレーナーとおぼしき男性を見送った。

 眩いほどの青春の紫外線のせいで、一気に老け込んだ気がする。

 私にも、あんな時期が、あった?あったよね?

 どんなクレーム客よりも、1番きつい精神的ダメージを負った気がするさやかだった。

「君ちょっといいかね?」

「はーい。どうなされました…か…」

 さやかが振り向いた先に、燕尾服を着た男性が、なぜだか下半身だけブーメランパンツを履いた状態で立っていた。

「…お客様、その格好はどうしたんでしょうか?」

「なに。そのベッドを見ていたら、ズボンが勝手にはじけてしまってね」

 ひと目見た瞬間から、歴代ぶっちぎりでやばい客だった。

 さやかの警戒レベルがマックスに振り切れる。

「それよりも、そのベッドを売ってくれ」

「お客様。このベッドは展示品でありまして、お売りしているわけではないんです」

「そんな事はどうでもいいから売ってくれ。何なら言い値で買おう」

「そういう問題ではないのです」

「言い値で買うっつってんだろ!早くワシにそのベッドの感触を堪能させろ!」

「もしもしポリスメン?」

「あっ!こいつ警備員まで呼びやがったな!止めろ!ワシは紳士じゃ!見てわからんのか!?」

「うるせえ!とっとと歩け変態!」

 引きずられていく変態を見ながら、さやかはポツリと呟いた。

「…彼氏作ろう」

 できれば、さっきのウマ娘の子みたいに、うんと幸せそうな顔にしてくれる男性がいい。

 そう高望みをして、さやかは自分の仕事に戻っていった。

 

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