夏の合宿場で、薄暗い部屋の一室に三人のウマ娘が集まっていた。
「というわけで、アグネスタキオンを協力者に連れてきた」
「おやおや。水着に発光物質をつけてほしいとオグリキャップに頼まれてきてみれば、スぺ君もいるじゃないかい。これは一体どういう用件なんだい?」
「タキオンさん。知っての通り、合宿で来ている海の近くには、幻の『クロアワビ』があります。私たちは、どうしてもそれを食べたいんです!」
「…おやおや。なにやらきな臭い話に巻き込まれようとしているねぇ。そんなに食べたいなら、漁師の方から直接買えばいいんじゃないかねぇ?」
「そのアワビは貴重すぎて、漁師の人たちは売ってくれなかったんだ」
「おやおやおやおやおやおやおやおやおやおや。
まさか売ってくれないものをとりに行くと言っているのかい?」
「取りに行くのは、私とスぺだ」
「タキオンさんには、私たちの水着を光るように改造して欲しいんです。
そのアワビは夜行性。タキオンさんの力で明るくしてもらえれば、きっとアワビをとることができると思うんです!」
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。
違法行為の片棒を担げというのかい?私はこれでも、世間ではそれなりに名の知られたウマ娘で、社会的には有名なんだがねぇ!
しかも、アワビは生育に5年はかかると聞いていて、育てている漁師の方々の苦労は想像できない!」
「「密漁をする/します!」」
「だから気に入った!」
「やりましたオグリさん!タキオンさんが協力してくれるなら、鬼に金棒ですよ!」
「ああスぺ!これで夢にまで見たアワビをついに食べることができるぞ!」
「はっはっはっは!私はその時の実証データをもらえればそれでいい。そして、君たちはアワビを手に入れられる。
まさにwinーwinな関係じゃないか!」
「ほう。それはそれは…。
ずいぶんと都合の良いwinーwinのようだね」
背後から聞こえた声に、三人が固まった。
ゆっくりと振り向くと、そこにはいつもより圧力マシマシにほほ笑むシンボリルドルフが、腕を組んで立っていた。
「ところで君たちから、何やらアワビを密漁するとか話しが聞こえた気がしたのだが、よければ私も混ぜてくれないかい?」
がっしりと、スペシャルウィークとオグリキャップの肩に腕が回されて、二人は涙目になりながら、逃げられないと観念した。
自分だけこっそりと逃げようとしていたアグネスタキオンは、万力のようなルドルフの尻尾に締め上げられて、苦悶の声を上げていた。
「うわーん!やっぱり悪いことなんてするんじゃなかったべ!」
「アワビに目が眩んでいけないことをしてしまうところだった…。この罰を、私はちゃんと受けよう」
翌日三人は、海外のゴミ拾いボランティアを強制されていた。
「実験のデータは取れないし、ゴミを拾わなければならないし…、実験に代償はつきものとはいえ、今回は高くついたねぇ」
「悪因悪果。悪いことをすれば、それに対する報いも悪くなるものだ。
今回は悪ふざけや未遂であったことから、ここでこの善行に励むというのであれば、私もそれ相応の対価は払おう」
そう言ってシンボリルドルフは、冷却ボックスにぎっしりと詰まっているアワビを三人に見せた。
「そ、それは!?」
「幻の『クロアワビ』じゃないですか!会長さんはそれをどうやって手に入れたんですか!?」
「ここの組合には、昔から伝手があってね。
もちろんシンボリ家の力をもってしても、手に入れることは容易ではなかった。ゆえに、これはこのボランティアを誠心誠意行った者にのみ」
「スぺ!」
「オグリさん!」
二人はがっしりと腕を組んで気合を入れ直すと、レースでも上げたことがないような気合の声を上げて、浜中のゴミというゴミをカゴに放り込んでいった。
「「はああああああああ!!」」
「やれやれ。二人ともよくもまあ、貝のためにあそこまでの労働をこなせるものだねぇ」
「君はやらないのかい?」
「私はアワビにそこまでの関心はないねぇ。あそこまで真面目にできる気がしないから、アワビはあの二人にあげておくれよ」
「だが、君のトレーナー君は、君がちゃんとやり切ってくることを信じているようだがね」
そう言ってシンボリルドルフは、自分のスマホをアグネスタキオンに見せてきた。
そこには、アグネスタキオンのトレーナーがアワビの炊き込みご飯を作っている写真があった。
「彼が君たちの良くない企みを止めてほしいと、私に伝えてきた。
彼はアグネスタキオンがやろうとしたことの償いとして、昨日の夜から私の雑務を手伝い、その対価に私もアワビを渡した。
さて、献身的なトレーナー君がアワビの炊き込みご飯を炊いて、君の帰りを待っているが、君はどうするのかな?」
それを聞いたアグネスタキオンは、長いため息をついて、シンボリルドルフを恨めしそうに見つめた。
「わかったわかったよ。さっさと終わらせて、私の帰りを待っているモルモット君の元へ帰ってやるとしよう」
「ふふふっ。君は本当に、良いトレーナーと出会えたのだな。アグネスタキオン」
「勘違いしてもらっては困るよ!
彼は実に優秀なモルモットというだけで、別に特別扱いをしているということは全くないからねぇ!
しかし!飼い主の責任として、モルモット君にストレスをかけて体調を崩されるのも困る。彼が私の世話を焼きたいと切望しているから、私も仕方なく彼のしたいようにさせているだけなのだからね!」
そう言い捨てて、アグネスタキオンは先ほどよりも真面目にゴミ拾いに取り組むのだった。
その様子を、シンボリルドルフは微笑まし気に眺めながら、何かを思いついたような顔をしてこう言った。
「アワビが食べられないなんて、あー、わびしい。…だな」