「どうでしたか……トレーナーさん」
「うん。すごいよくなってきてるよ。やったねカフェ!」
VRウマレーターのレース空間で、トレーナーとマンハッタンカフェはトレーニングに励んでいた。
仮想空間を用いたトレーニングで、マンハッタンカフェのタイムはどんどん短くなっていく。そのことが嬉しくて、トレーナーは興奮気味にマンハッタンカフェに話しかけるが、マンハッタンカフェが浮かない顔をしていることに気づいた。
「どうしたんだカフェ?あまりうれしそうじゃないけど、どこか体調でも悪いのかい?」
「いえ……そうではありません……。速くなっている事は……うれしいです。ただ……ここにはお友だちがいないんです……」
「カフェ……」
マンハッタンカフェが辺りを見渡す。青空の下に緑に生い茂った芝があるが、それは現実ではない。どれだけ本物に見えても、この風景はデータの存在で、そこにはマンハッタンカフェだけに見えるお友だちがいないのだろう。
「すみません……。本当はもっと集中しなければ……いけないのに……」
「カフェ……」
めっちゃ見えてるけど。
その言葉を辛うじてトレーナーは飲み込むことができた。
今でもトレーナーには、カフェのアホ毛にジャブを打ち込む、謎の存在が見えていた。
目が合った。
ウェーイ、と中々に挑発的な態度をとられた。
意図は不明だが、いつもの見えない時より、妙にはっちゃけているような気がする。
「……?どうしましたか……、トレーナーさん……?」
「……その、見えてるかい?」
「……?何がですか?」
どうやらマンハッタンカフェは気づいていないらしい。
「……そんなに見つめられると…照れてしまいます…」
「あっ、ああ。ごめっ、ぶほっ!?」
その時、バーチャル空間であることを利用して、どこからともなく引っ張ってこられたビーバーのような出っ歯と、猫のようなひげがマンハッタンカフェの顔に重ねられた。
これはもちろん、実際にそのような姿になったわけではないのだが、普段から表情に乏しいマンハッタンカフェが、そのような冗談みたいな顔をしていることがおかしくて仕方なかった。
「…トレーナーさん?」
「ふっ、ぐほっ…。な、なんでもないから気にしないっ、えひゃっ!?」
今度はマンハッタンカフェの顔が加工されて、目はキラキラパッチリお眼目、分厚いタラコのような唇に、先ほどの出っ歯とひげが合わさってとんでもない顔になっていた。
「…どうかしましたか…?…もしかして…具合でも悪いのでは…」
「な、なんでも、くくくっ…!くっ!はー!はー!」
近づいてきたカフェの顔に、トレーナーの腹筋の限界が近づいていた。
カフェの傍らでは、お友達がこちらを指差しながら大爆笑をしていた。
このままではマンハッタンカフェの顔を笑ってしまうという、トレーナーとして腹でも切りたくなるような最悪の事態が起きてしまう。
追い詰められたトレーナーは、破れかぶれの戦法をとった。
「カフェ!」
「……!?」
トレーナーはマンハッタンカフェを胸の中に抱きすくめた。これでセクハラとしてぶん殴られても、顔を見れないのであれば構わないという考えからとった行動だった。
だが、意外にもマンハッタンカフェはトレーナーを突き飛ばすことはなく、むしろおずおずとその腕をトレーナーの背中に回してきた。
「…突然、どうしたんですか?………トレーナーさん」
「…少しだけ、こうしていてもいいかな?」
「……構いませんよ。…ふふっ。
…トレーナーさんの心臓の鼓動が……、とても…大きいですね…」
顔を見れないようにするためとはいえ、何か致命的な間違いを犯している気がするトレーナー。
少し離れた所で、笑顔でぐっと親指を立てているお友達に、トレーナーも引きつった笑顔でぐっと親指を下に向けた。