ウマ話短編集   作:cheese3

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ヒシミラクルと回生の滝

「待つんだヒシミラクル」

「プールトレーニングはいやです~!」

 水着を着たヒシミラクルを、学園の中でトレーナーは必死に追いかけ回っていた。

「わたしたちはウマ娘なんですよ!

 ウマは陸を走るもので、水の中を泳ぐようにはできてないんですー!」

「菊花賞も近いのに何言ってんだ!そのズブい、スタミナと根性で走りきれると本気で思ってんか!」

「大丈夫ですよ!信じて走ればなんとかなります!

 だから、今日はもう帰ってレースまで英気を養いましょうよ~!」

「なるわけないだろ!」

 その時、進行方向にサトノダイヤモンドが現れた。

「あっ!ダイヤちゃん、助けて!」

「わっ!ヒシミラクルさんじゃないですか。

 どうかしたんですか?」

 ヒシミラクルは素早くサトノダイヤモンドの背中に隠れた。

「こらヒシミラクル!プールトレーニングが嫌で、後輩の背中に隠れるなんて恥ずかしいと思わないのか!」

「泳がないためなら、そんなプライドなんて関係ありません!

 ダイヤちゃん、助けてー!熱血、鬼トレーナーさんが私をいじめるよ~ぉ…!」

「まぁそれは良くありませんね!だめですよ、ヒシミラクルのトレーナーさん。

 いくらトレーニングのためとはいえ、嫌がっている人に強制するのは、めっです!」

「む、むぅ」

 サトノダイヤモンドに言われて、トレーナーは気勢の削がれた顔をした。

「まぁ、確かにこんなに嫌がってるヒシミラクルを無理矢理プールに連れて行っても効果はでないか…」

「そうですよ!

 トレーナーさんはわたしを蝶よりも花よりも丁重に扱うべきなんですよー」

「……後輩にかばわれて、本当にそれでいいのか、ヒシミラクル……」

「ヒシミラクルさんはプールが嫌いなんですか?」

 サトノダイヤモンドの問いかけに、ヒシミラクルは勢い良くうなずいた。

「そうなの!泳ぐの苦手だし、鼻から水が入ってきてツーンとして、嫌なのに、トレーナーさんが、無理矢理わたしをプールに入れてこようとするんだよ!」

「まあ!それは大変です!

 …でしたら!サトノ家のプール施設を使いませんか?そこでしたら溺れる事はありませんし、鼻に水も入ってくることのない安心安全な施設がありますよ!」

「そ、そんな夢みたいな場所があるの!?」

「はい私もよく行くんですが、楽しくてスタミナもつけられて一石二鳥です!」

「はい行きたい!そんな施設なら、わたしだってちょ~っとはがんばってトレーニングやっちゃうかも」

 俄然やる気を出すヒシミラクルに、トレーナーが不思議そうな顔をする。

「そんな施設があるのなら確かに助かるが…、使わせてもらってもいいのかい、サトノダイヤモンド?」

「はい!キタちゃんとも一緒に行ったんですけど、一回行っただけでもういいって言われてしまって、ちょうど一緒にトレーニングできる人を探していたんです!」

「ん?あのストイックな性格のキタサンブラックが一回でいいって言ったのか…?」

「さあ行きますよダイヤちゃん!

 トレーナーさんも、わたしだってこれぐらいお膳立てしてもらえばちゃんとやるんですから、見ててくださいよー」

「お、おう…」

 首をひねるトレーナーをよそに、ヒシミラクルは足取りも軽くサトノダイヤモンドと一緒に歩いていった。

 

「頑張ってくださいヒシミラクルさん!早く泳がないと滝に落ちちゃいますよ!」

「あーもう無理ー!トレーナーさーん、助けてー!」

「大丈夫ですヒシミラクルさん!ここはVRの世界!水で苦しくなることもなければ、溺れることもない、理想のトレーニング環境ですよ!」

 サトノダイヤモンドが、川の急流にバタフライ泳法で逆らっている横で、ヒシミラクルはへたくそな泳ぎをしながら、背後に流れる落差数十メートルはありそうな滝へと徐々に流されていった。

 トレーナーは、その川の岸辺でヒシミラクルに声援を送っていた。

「ヒシミラクルがんばれー!頑張らないと、あともうちょっとで滝に落ちてしてしまうぞ!」

「川はまだしも、なんで滝まであるんですかー!落ちたら死ぬー、死んじゃいますよー!」

「あ、それは大丈夫です」

 そうこう言っているうちに、ヒシミラクルは滝からあっさりと落ちていった

「あああああああーーー!!」

「ヒシミラクルー!」

 尾を引く絶叫の後、しばらくすると、川の真ん中あたりにヒシミラクルが落ちてきた。

「うわっぷ!?また川の中!?」

「はい!これぞサトノ家が作ったVRトレーニング、回生の滝です!」

「なにその嫌な予感しかしない名前は?!」

「泳ぎ続けなければ滝に流され、落下と死の恐怖を味わった後、再び川の中へと戻される強制トレーニングマシンです!」

「うそー!?そんな拷問みたいなトレーニング聞いてないよー!」

「大丈夫です!しょせんこの水も滝も仮想の出来事なので、実際に死ぬ事は絶対にありません!

 ……まぁでも、キタちゃんは終わった後、青ざめた顔でブルブル震えてましたけど…」

「怖いことぼそっとつぶやくないでダイヤちゃん!」

 滝に落下する恐怖からか、ヒシミラクルはいつも以上に必死の形相で、川の流れに逆らって泳いでいた。

「あ、あんなに泳ぐのを嫌がっていたヒシミラクルの、生き生きと泳ぐ姿を見られるなんて…」

 トレーナーが感極まったように目元を抑えて行った。

「生き生きとしてるんじゃなくって、死にたくないから泳いでるんですよ!もう無理です!トレーナーさん!ギブアップしますから助けてください!」

「あっ。このトレーニングは10キロ泳ぎきるまで終了する事はありません。

 滝に落ちたら距離もリセットされて、ゼロからのスタートになりますから、落ちないように頑張ってくださいねヒシミラクルさん!」

「あああああーーーー!!

 もう無理ー!やだー!!」

 ヒシミラクルはそう絶叫しながら、滝へと落ちていった。

 




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