『ウォッチポイントを襲撃するとは・・・。相変わらずだな? ハンドラー・ウォルター』
ウォッチポイント・デルタを守るように降り立ったACからの通信。それは目の前にいる621へと向けられたものではなく、彼女をオペレートしているウォルターへと向けられたものだった。
『また犬を飼ったようだが・・・何度でも殺してやろう』
『貴様は・・・スッラか・・・!』
そのACが何なのか、ウォルターがスッラと呼んだパイロットがどこの誰か、621は知らない。だが明確に分かることがあるとすれば、こいつは敵だということだ。それもウォルターと何か因縁のある敵だ。
水上を疾駆しバーストライフルを発射。続けて連装ミサイルも起動。無数の弾頭が垂直に撃ち出され得物を食い破らんと頭上から殺到する。
『ふん・・・そこの犬。お前には同情するぞ』
それらをスッラは危なげなく回避し、パルスガンを構える。パッと見はパラボラアンテナにトリガーが付いているような見た目の武器だが、パルス弾をシャワーのように連射する特殊武器である。一発の威力はそれほどでもないが、面で制圧し視界も遮る。これは牽制だ。続く攻撃を通すための。水面を蹴り跳躍して回避。狙いすましたようにミサイルが飛んでくる。それをクイックブーストで躱し、ショットガンで反撃しようとして・・・
「うっ!?」
『飼い主が違えば、もう少し長生きできたものを』
爆発の衝撃で動きが止まった隙を見逃すスッラではなく、アサルトブーストで一気に距離を詰めると速度が乗った蹴りを放った。
「うぁっ!」
金属同士のぶつかり合う甲高い音。強い衝撃がコクピットと視界を激しく揺らす。ACの蹴りは、直撃すれば量産型のMT程度ならば破壊できるほどの威力を持つ。耐えられたとしてもACSには相当な負荷が掛かる。揺れる視界の中でなんとか機体を制御し、直感に従い横にブースト。バズーカの砲弾が地面に突き刺さり、炸裂。さらに連続して周囲も小規模な爆発を引き起こす。回避行動を取っていなければ危ないところだった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・!」
『619と620はどうした? 死んだか? はて、私が
『・・・スッラは第一世代型強化人間の生き残りだ。集中しろ、621』
軽口を叩きながらも、鋭い機動で迫りパルスシャワーの雨を降らせるスッラ。ブーストで下がりながら躱し、連装ミサイルと二連グレネードを連続発射するも、右に左にと機体を揺らして狙いを逸らし、時にはクイックブーストも使って回避する。強い。今まで戦ってきた誰よりも、何よりも。
再び飛んでくるミサイル。どういう理屈かは分からないが、通った後の軌跡が爆発する特殊なタイプだ。ショットガンで迎撃。爆炎を切り裂くようにバズーカの砲弾が飛来。直前に構えるのが見えていた621は、下がるのではなくあえて
直後に起こった爆発を背に受けつつ、アサルトブーストで彼我の距離を吹き飛ばす。蹴りを放つと見せかけて、二連グレネードを発射。一発目はかわされるが、二発目はスッラ機の左肩のミサイルに直撃。即座にパージ。
『ほぉ? この感じは・・・第四世代か。うまく育てればいい猟犬になったものを。不憫なことだ、今日ここで死んでしまうとはなあ』
『621、やつの言葉に耳を貸すな』
『ちぃっ』
「ふっ・・・!」
至近距離でのバズーカ。本来なら砲弾が拡散して炸裂するそれも、距離が近すぎて信管が作動せず。続いて放たれたプラズマミサイルも、距離を取って回避する。連装ミサイル起動と同時にアサルトブースト点火。ミサイルの回避行動に移ったところに、蹴りを見舞う。しかし
『これで終いだな、犬』
「あっ!?」
ノーネームの脚が虚空を通り過ぎた。硬直で止まったところに、カウンターとして放たれたスッラの左拳が刺さる。一発、二発、三発・・・。正確にコアの同じ個所を殴りつけられ、コクピット内で激しく揺さぶられ621の意識が一瞬だけノーネームの操作から離れた。時間にして一秒にも満たない。だが、それは高速戦闘を行うAC戦では致命的なまでの隙だ。スッラはダメ押しとばかりに、アサルトブーストを一瞬だけ吹かして強引に速度を乗せるとノーネームを蹴り飛ばす。
「あぐっ!? ・・・あっ、だめ、だめ、うごい、て、うごいてよ・・・!」
追撃が来る。攻撃が来る。頭では分かっていても、機体は動いてくれない。
『621・・・!』
『また一匹、
「うっ・・・?」
憐れむようなスッラの言葉に、621はぴくりと反応する。憐れむ? 誰を憐れんでいる? 私か? いいや、違う。こいつは、目の前の敵は、私を通してウォルターをずっと見ていた。つまりこいつは・・・
「う、うぅ、うあああぁぁぁぁぁ!」
<アサルトアーマー 起動します>
『なにっ!?』
コア背部上面のロックが解放され、その機能を解放する。本来は防御に使用するパルスアーマーを意図的に暴走させ、自機を中心とした範囲に強烈なパルス爆発を引き起こす攻勢システム・・・アサルトアーマー。それが間一髪621の命を救った。発生したパルス爆発はバズーカの砲弾を消滅させ、周囲の水をも蒸発させて視界を遮る。
「ああああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
アサルトブースト点火。スッラ機に体当たりし、勢いのままに近くの防波堤に叩きつける。そのままショットガンを押し付けて接射。スッラ機のコアの装甲が弾け飛ぶ。リロード、接射。
『終いなのは私の方、だったか・・・。ハンドラー・ウォルター・・・ウォッチポイントは、やめ』
三度目の接射。適性距離ならばACの装甲も撃ち抜く散弾がコクピットを抉り取った。
『・・・敵ACの撃破を確認した』
「はぁー! はぁー! はぁー! ・・・ふぅ、ふぅ・・・」
『621、やつのことは気にするな・・・だが、よくやった』
「ん・・・」
いつの間にか降り出していた雨が機体を濡らす。激情に駆られた心も雨で冷えていくように感じられる。
『仕事を続けるぞ。内部に侵入し、センシングバルブを破壊しろ』
ゲートを抜けた先にあったのは、広大な空間だった。地下に向けて円柱状の深い縦穴が続いている。内部は緑色のランプが光源になっており、ライトを付けなくても破壊目標のセンシングバルブを視認できた。
『それだ。中央にあるデバイスを壊せ』
降下していくとその全容が見えてきた。まるで漏斗のような独特な形状の装置だ。それに向かって二連グレネードを撃ち込む。
装甲に覆われているわけでもないセンシングバルブは大爆発を起こした。電源が落ちたのかランプが消える。仕事は終わりだ。あとは輸送ヘリを待って帰るだけ・・・
『これは・・・!?』
完全に気を抜いていた621の耳にウォルターの焦ったような声が聞こえたのと、地面がうっすらと赤みを帯びたのはほぼ同時だった。
『退避しろ621!』
地面から、壁から、破壊したセンシングバルブから、赤い光が漏れ、赤い粒子が噴き出した。何か行動を起こす間もなく、光と粒子の奔流にノーネームと621は飲み込まれた。
真っ暗な空間だった。どこまでも続いているような、漆黒の闇。そこに621はいた。いつからそこにいたのだろう。
分からない。思考がまとまらない。眠い。ただひたすらに眠いのだ。
心地よいものではなく、泥のように重い眠気。それに身を任せれば、もう二度と目覚めることはない。そんな気がする。しかし、その眠気に抗うほどの気力は残されていなかった。
『あなたは・・・』
赤い光が浮かび上がった。とても小さい光だ。とてもではないがこの暗闇を照らすほどの力はないように思えた。光は明滅と共に短く言葉を紡いだ。
『第四世代、旧型の強化人間・・・。あなたには、私の゙交信゙が届いているのですね』
交信とやらが何のことかはわからないが、その赤い光の紡ぎ出す言葉は
『わたしは、ルビコニアンのエア。目覚めてください、あなたの自己意識が・・・コーラルの流れに散逸する・・・その前に』
その言葉と共に、赤い光が広がっていく、それはさながら血管のように、あるいは樹木の伸ばす根のように、張り巡らされて―――
<強化人間C4-621 生体反応を確認>
To be continued・・・→