ルビコンわくわく独立傭兵   作:青いカンテラ

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AC6一周年なので初投稿です。


エア

 惑星封鎖機構の特務無人機体゙バルテウズは油断ならぬ強敵であった。

 

 時間による減退の無いパルスアーマーに、高レートのマシンガン、弾速がやたら速いグレネード、近距離で殺しに来るショットガン、全方位から襲い掛かる高速ミサイルの嵐。そしてダメ押しとばかりにACの耐久値をごっそり削るバ火力な火炎放射器。とりあえずスッラという強敵と戦って消耗した後に連戦していいような強さの相手ではなかったが、621は自らをエアと名乗る姿なきルビコニアンのサポートもあり、なんとかこれを撃退することができたのである。

 

 バルテウスを撃破した621は語る。

 

「しぬかとおもった」

 

 実際は生きてウォルターの元へ帰ることができた。エアど交信゙できたことはこの上ないほどの幸運であった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「―――頭の中から妙な声が聞こえる、ということだったな」

「うい」

 

 ウォッチポイント・デルタでの激戦からしばらく。621は傭兵支援システム゙オールマインド゙から提供されている゙ガレージ゙のメディカルルームで定期検査を受けていた。第四世代型強化人間である621は、旧型故に不安定なところがあり、こうして定期的なメンテナンスは欠かせない。

 

 それにウォッチポイント・デルタのセンシングバルブを破壊した際に致死量を優に超えるコーラルを浴びている。今こうして生きているだけでも奇跡のようなものだ。そのあたりは旧型の強化人間であることが、幸いしたのかもしれない。

 

「そういった幻覚や幻聴といった症状は・・・第四世代型の、旧型の強化人間にはよく見られるものだ。先のコーラル逆流に巻き込まれた影響もあるだろう。仕事に支障があるようなら言え。調整する」

「わかったー」

 

 メンテナンスベッドに横になっている621は、本当に分かっているのかいないのか判断に困るゆるい返事をした。ただそれもいつものこと、としてウォルターはメディカルチェック用の機器に目を向ける。示される数値はどれもやや高いが、許容範囲内。頭の中で声がするというのは気にかかるが、今は調整の必要はないと判断した。何かあれば621の方から言ってくるだろう。

 

「・・・」

「どうした、621」

「ううん。なんでもない」

 

 じっと621からの視線を感じる。なんでもないとは言いつつ、じっと見つめてくる。それも少しずれた位置を見ているのだ。ネコという生き物が虚空を見つめることがあるとどこかの資料で見たような覚えがある。それに似たものを感じる。これもコーラル逆流の影響だろうか。

 

 そうウォルターが考えているのを他所に、621の目には彼には見えない゙モノ゙が見えていた。それは赤い丸のようなものだった。四方に赤い線のようなもの伸ばしている赤い丸のようなもの。ウォッチポイント・デルタのセンシングバルブを破壊してコーラル逆流に飲み込まれてから見えるようになったそれは・・・

 

<ウォルター! 誰が幻覚ですか、私は幻聴の類ではありませんよウォルター! 私はエア! れっきとしたルビコニアンですよ!>

 

 ウォルターをぺしぺしとしている、自分をエアと名乗るルビコニアンだった。621の視線の先で健気に訴えているが、悲しいかな、エアの声はウォルターには届かない。ぺしぺししたところで物理的に干渉できないので何の反応もないのである。エアはしばらくウォルター! 聞いているのですか! ウォルター! とぺしぺししていたが、やがて疲れたのか<今日のところは、これくらいにしておきます>と器用に息を切らせながらぺしぺしするのを止めた。ルビコニアンでも疲れはするらしい。

 

「621、俺はこれからしばらく野暮用で外す。中央氷原に向かう件については・・・企業に情報を売ってパトロンがついてからだ」

「ぱとろん?」

「簡単に言えば、俺たちを支援してくれる者のことだ。・・・戻るまでの指示を出す」

 

 定期メンテナンスを終えて、ウォルターは621を見やる。

 

「しばらく休め。今はそれが、お前の仕事だ」

 

 

 

<レイヴン。あなたのハンドラーは、しばらく不在なのですね>

「うん。うぉるたー、いない。やすみ。いぇい」

 

 翌日。ウォルターは「作り置きを冷蔵庫に入れてある。レンジで温めて食べろ」との書置きを残して朝早くから出かけていった。昼に近いくらいの時間に起きてきた621が食堂で食事をしていると、エアが語りかけてきた。彼女が語り掛けてくるときには耳鳴りのようなものがするのですぐにわかる。

 

<昨日話をしていた中央氷原の件ですが、ベイラムから早速依頼が来ているようです。確認してみてはいかがでしょう>

「・・・うぉるたー、やすめって。はたらきたくないでござる。ぜったいにはたらきたくないでござる!」

<わがままを言わないでくださいレイヴン。少しだけ、少しだけ確認するだけですから。ちょっと見るだけでもいいんですよ>

「やだ。みたら、いらいうけるながれだって、しってる」

 

 強情に抵抗する621。ここまで拒否されると、エアとしてもなんとしても依頼を確認させたくなってくる。はてどうするかと思案すること6秒。ぴこん、と電球マークが真っ赤な丸い点なエアの上に出た。

 

<レイヴン。私ならば、ミールワームアイスの保管されている冷蔵庫の電子ロックを解除することもできるのですが・・・>

「あいす!」

 

 ミールワームアイス。それはアイスにミールワームの肉を混ぜているルビコン3の特産スイーツである。現在は惑星封鎖機構が睨みを利かせているため、表立っての星外との取り引きは無いが、ルビコンへの密航者に土着の民が売りつけている。異常気象で年中寒いルビコンにアイスの需要があるのかと思いきや、暖房を利かせた部屋で食べるのが美味しいとのことで一定の支持層が存在しているのだった。

 

 そして621もまたミールワームに目がない。彼女の部屋にある大小のミールワームぬいや、どこで売っているのか不明なミールワームのプリントされたTシャツにパーカー。そしてウォルターが出がけに、ミールワームアイスは一日一個までと言っていたのをエアは聞いていた。それを言われた621がしょんぼりとしていたのも。

 

<アイスを食べたら、一緒に依頼を確認しましょう。レイヴン>

「わかったー!」

 

 エアがアイスの保管されている゙特注の冷蔵庫゙を操作して一日一個までのミールワームアイスを二個出すと、621はにぱー、と笑顔で答えた。ウォルターが古い友人に頼み製作してもらった、アイスを一日一個ずつ出す冷蔵庫だが、エアの手に掛かれば二個出させるのは造作もないことだ。

 

<・・・レイヴン。食べながらでいいので聞いてください>

「んー?」

<今回のコーラル局所爆発により、ベリウス地方、北西ベイエリアは消滅しました>

 

 食堂に備え付けのモニターに、地形が変わるほどのクレーターが出来ているベリウス地方北西ベイエリアのマップが表示される。エアのハッキングである。

 

<ですがそれすらも、かつての゙アイビスの火゙と比べれば非常に小規模なものにすぎません>

 

 ゙アイビスの火゙。いまから約50年ほど前に起こった、周辺星系まで巻き込み甚大な被害を出した大災害。その火種となったのも、コーラルだった。

 

<レイヴン・・・あなたにお願いがあります。集積コーラルに到達するまで、あなたとの゙交信゙を続けさせて欲しいのです>

「んー」

<コーラルを巡る戦いがどこに向かうのか・・・私は見届けたいのです。・・・一人のルビコニアンとして>




30MMにミルクトゥースがサプライズ内定したようですね。素敵だ・・・
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