『
゙壁越え゙を成してより数日。束の間の休息を謳歌していた621の元にベイラムからの依頼が名指しで飛び込んできた。その内容は戦闘ログの回収。
ベイラムはアーキバスのヴェスパー部隊、その中でも
仕事自体はライセンス取得の時にやった死体漁りと同じものだ。戦場跡に残された鋼鉄の骸を漁り、目的のモノを集めて回る。
ただ、壁には現在アーキバスのMT部隊が調査のために配置されている。作戦は部隊が配置替えを行う僅かな合間に行う必要があり、迅速に行動しなければならない。
『作戦時間は極短いものになる。遊んでいる暇は無いと思え621』
「あい!」
元気のいい返事ではあるが、本当に分かっているのだろうか。今までの作戦中の奇行を思い出しながらも、やる時にはきちんとやり遂げるのも621だと考え直す。
『・・・。何も敵を倒すだけが傭兵の仕事ではない。たまには撃ち合う以外の仕事もしておけ。いい経験になるだろう』
「うぇい」
◇◆◇
ノーネームが壁付近に着陸する。ほんの数日前にはルビコン解放戦線とアーキバスの主力部隊がドンパチ賑やかな戦闘を繰り広げていたそこは、今はMTや調査用機材が稼働する音がする以外は静かなものだった。
『ミッション開始。作戦時間は長くても4分が限度だ。周囲の残骸を探り、戦闘ログを回収しろ』
「あい」
『邪魔になるようならMTも適宜排除していけ』
「りょ」
今回はスピードが重視されるのと、相手はアーキバスのMT部隊であることを鑑み機体フレームをアーキバスの量産型でまとめていた。
武装は両手にオールマインドの傭兵支援プログラムクリア報酬で獲得したレーザーハンドガンを装備。左肩ハンガーには
実弾と違いEN武器に
ブーストを点火。雪上を滑るように移動しながら壁に近づいていくと、お目当ての残骸と哨戒中と思われるMT2機を発見。レーザーハンドガンをいつでも撃てるようトリガーには指を掛けたまま近づく。
『ん? おい、そこのAC止まれ』
MTから通信が入る。言われた通りに停止すると、MT越しに訝しむ様な雰囲気を感じられた。
『見たところアーキバスの機体のようだが・・・』
『交代にはまだ早いぞ。なんだ、待ちきれずに来たのか? せっかちな奴だな』
『ACが来るとは聞いていないが・・・』
『俺らみたいな末端には知らされてないだけじゃあないか?』
『・・・。一度確認を』
言葉は最後まで続くことは無かった。コアに穴の開いた2機のMTがその場に崩れ落ちたからだ。ワンチャンお仲間だと誤認するのを期待してアーキバスの量産ACにして来たのだが、そううまくはいかなかった。
まあいい。仕事だ。そう切り替えて、接触回線で残骸からログを抜き取りウォルターに送信する。
『このログは・・・。コピーを取っておく。企業には必要のないものだろう』
こちらにとっては有用なログだったようだ。ただ、ウォルターの反応からするに依頼内容的にばハズレ゙といったところか。
『621、そのままログの回収を続けろ』
「ん」
システムスキャンモード。周囲に他に敵がいないことを確認し、ブーストを吹かして移動するのだった。
『これで4つ目か』
戦闘ログ集めは順調に進んでいた。スキャンを活用して避けられる戦闘は避けつつ、どうしても無理そうならばプラズマミサイルで先制。撃ち漏らしはブーストで一気に近づいてレーザーハンドガンを見舞う。
そうして、雪原に転がるジャガーノートと思しき残骸の周りをうろついていたMTたちも瞬く間に始末し戦闘ログを抜き取る。この機体のパイロットは、どうやらラスティに通信を試みていたらしい。理由は不明だが、興味深いログなので企業にも高く売れるだろう。
作戦時間はまだ少しある。ここに来る途中に見た深い谷。一度降りれば上がるのに時間が掛かりそうだと思い後回しにしたが、何か残っているかも知れない。アサルトブーストで向かい、行きがけの駄賃に出っ張った崖にいたMTの脳天にレーザーをぶち込む。
谷底に着地すると、まだ調べていない残骸が二つ。片方の残骸からログを回収し、もう一つの方にも近づいたところで・・・敵機接近のアラームが鳴った。
『そこのAC! 私たちの同志じゃないね!』
明るいオレンジのコアに緑色の手足。ずんぐりとした体形のACが崖上から飛び降りながら、両手のグレネードをノーネーム目掛けて放つ。
『解放戦線の生き残りか・・・。621、目標は達成しているが残り時間も少ない。相手をするなら時間は掛けるな』
『お前が・・・お前がみんなをやったのか!? 恥知らずの企業の狗め!』
激情を通信に乗せてぶつける敵ACのパイロット。声からして女だろう。なぜ単機でこんなところをうろついているのかは不明だが・・・降りかかる火の粉は払わねばなるまい。
ブーストを吹かして小刻みに左右へ動くことで狙いをつけさせない。グレネード系の武装は強力ではあるが、反動が強く弾速も遅い。そこらのMT相手ならともかく、素早く動くACに当てるには、それなりの技量が要る。
『こいつ、ちょこまかと・・・!』
プラズマミサイルロックオン。パシュパシュパシュ・・・という軽く空気の抜ける音と共に弾頭が垂直に撃ち出され、敵ACの頭上目掛けて降っていく。
これ自体にACを撃破するほどの威力はない。だが、当たればACS負荷が蓄積され機体にも確実にダメージを受ける。
それは相手も分かっているのか、直前にクイックブーストで強引に回避。発生した小規模なプラズマフィールド圏外へと逃げる。
「もらった」
回避先を読んでいた621はレーザーハンドガンを連射。空気を切り裂く青白い矢がオレンジ色のコアに無数の穴を穿つ・・・その前に、
「む?」
『私だってコーラルの戦士だっ! 負けるわけには・・・負けるわけには、いかないんだよぉ!』
パルスシールド。肩に背負っていたそれが起動し、レーザーの直撃を免れたのである。仕留めたと思った相手に防がれ、ノーネームの動きが一瞬止まった。その隙を好機と見たか、パルスシールドを展開したままアサルトブーストに点火して突っ込んで来る。
『゙灰かぶりて我らあり゙!』
解放戦線のものたちが口にする警句を唱え、速度と重量の乗った蹴りを繰り出す。しかしその一撃は虚しく空を切った。
クイックブーストで回り込んだノーネームは既に装備の換装を終えている。ハンドガンの代わりに構えたパルスブレードにエネルギーが供給され、形成が形成される。緑色に発光するそれは、正しく命を刈り取る死神の鎌に相違ない。
『ごめんよアーシル・・・約束・・・守れな』
こぼれた言葉は、目尻に浮かんだ涙ごと蒸発した。
『・・・敵ACの撃破を確認した。・・・これだけ回収すれば十分だろう。621、仕事は終わりだ。帰投しろ』
To be continued・・・→
【傭兵支援プログラム】
オールマインドが提供している、技能向上などを目的としているプログラム。難易度別に初等、中等、高等と分かれており、これを一通りこなすだけで誰でも立派な駆け出し独立傭兵になれる。オールマインドは全ての傭兵のためにあります。
【パルスシールド】
左肩専用装備。起動するとエネルギーシールドを展開し、敵弾を相殺する。展開直後に最も高く防御効果が発揮されるものや、一定の防御効果がある程度持続するものなど、様々な種類が存在する。
【灰かぶりて我らあり】
ルビコン解放戦線の戦士たちが口にする警句。
・・・その警句の何を知っていると言うのか・・・全ては消えゆく余燼に過ぎないと言うのに・・・。