Fate/Imagenary Friend 作:silika
「……ないか。聖杯がないな」
「予想済みではあったんでしょ、ないこと」
「そら勿論だな。むしろあったら怖い。何せ6年前に聖杯を破壊したのは私なんだから」
探偵アイビスと魔術師ターシャは会話を続ける。彼女たちにとってはこれは二度目の聖杯戦争である。彼女たちに脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。
「やっぱりキャスターか?」
「倒したはずじゃなかった……?」
「取り敢えず出てこなかったから倒したって思っただけじゃん。逆にあの性質の悪い奴がそうあっさりくたばるとも思えんわ」
そのままターシャは、街外れの山の中、かつて聖杯があった空洞を魔術的見知から調べる。この場にいる人間は三人。探偵のアイビスは魔術を使えず、その娘
「ターシャ、この傷跡って何か魔術的意味はある?」
アイビスが指差したのは五芒星。空洞の五箇所、五芒星のそれぞれ五つの頂点となりうる場所に配置された五芒星は、魔術を少々知ってる程度の彼女にとってさえ感じさせるほどにわかりやすく魔術的だった。
「正直に言うと、私あんまり東洋の呪術は詳しくないんだよね……」
「役に立たないね……まあ、良いか」
魔術師としての知識を期待されて連れてこられたにも関わらず、役に立たないターシャを放置してアイビスは思索に沈み込む。頭の中にさまざまな情報を並べながら、聖杯戦争の仕掛け人の目的を考える。冬木の聖杯戦争は根源の追求、それをコピーした衣川の聖杯戦争は名目の目的として万能の願望機聖杯を、疑り深い魔術師相手用の裏向きの目的として第三魔法の成就を置きながら、実際の目的はそこにはない物だった。
「さーて、聖杯探索から入るかあのキャスターの捜索をするか。それともバーサーカーとランサーを仕留めるところから入るか」
悩み始めた瞬間、アイビスは百鳥とターシャを抱えて飛び退いた。それと交差するように三人が元々いた場所に雷が落ちる。移動した先で更に働いた直感に従って更に飛び退く。飛び退いた所を氷塊が襲う。避けていたために負傷などはないが、彼女からは舌打ちの一つも漏れる。
「取り敢えず、逃げるか」
空洞の外まで来ると、遠隔砲撃の類は無くなったために一つ息をつく。
「さて……あの攻撃手段はキャスターの奴だが」
「罠だったね。うん、私たちのことが想定されてる?」
「だろうね。まあ当然か。キャスターも私たちのことは知ってるしな。悪巧みしたら介入されるのは分かってるんでしょ」
そう言いながら埃を払う。直撃を排除しても塵の一つ程度は舞い、故に払うべき物の一つも生まれる。そうして彼女たちは改めて協議をする。今後の方針を決めるための会議を。彼女達の前にある進むべき道は三つ。明確に犯罪を引き起こすランサーの調査と排除、疫病をばら撒いている様に見受けられるバーサーカーの調査と排除、そして黒幕として振る舞っているであろう前回のキャスターの調査と排除の三つだ。
「バーサーカーの疫病は基本的に何も分かっていない。症状は風邪に近く、治ってこそいないがそう重い物でもないから一旦ステイ。ランサーはやばいけど、幸いにしてと言うか。聖杯戦争の展開として対ランサー包囲網が組まれつつある以上一旦はそっちに任せられる。翻ってあのキャスターはそもそも私たちしか存在を知らない」
主導はアイビス。彼女は既に出ている結論を宣言する。協議は本当に形だけであるが、その形を作ることも大事だと認識している以上、それは必要な儀式である。
「やるべきことは、前回の聖杯戦争と同じ、だね」
「そ。はあ……面倒だな、ほんとに」
「ごめん……。私たちの管理不行届の責任を押し付けて」
面倒と言うアイビスの呟きにかつての聖杯戦争主催者、ターシャが反応してしまう。面倒ごとの原因をばら撒いたのがターシャであることにあまり否定の余地はない。彼女たちが聖杯戦争を起こしたがために、あのキャスターが召喚されてしまったのは事実である。
「いや。お前たちの悪行の禊は前回済ませた。今回の件は仕掛けたやつの責任なんだわ。さっさと片づけるよ」
自罰傾向を見せ始めたターシャを適当に慰める。妙に自分を責められたら面倒、と言う以上の意図はない行為だ。前回聖杯戦争以降幾度となく繰り返されたやり取りである。
「分かってるよ、うん。……それと、フィヤから連絡。私たちのメイン邸宅が何らかの魔術で燃やされたってさ」
家が燃える。それはかなりのレベルの重大事である。その割にはあっけからんとした態度のターシャである。
「なるほど、アガフィヤはもう対処はしてあったわけだ。……怨恨の炎って大体連鎖的に燃える物だけど大丈夫?」
「流石に、魔術的な切断は施してるから大丈夫」
「呪い返し、とかできない?」
「あれ神代レベルだから流石に無理。私たちは二人がかりでしかも本拠地だったとして、ロード相手じゃ絶対勝負もできない、その程度の魔術師だから」
ロード———現代の西洋魔術の総本山、時計塔にいる十二人のトップ———は現代の魔術師に於いてはほぼ最強であり、それに対して勝負ができないというのは別に不思議な発言でも何でもない。だが、そのロードをしてほぼ勝負にならない存在、それが神代の魔術師である。いくらサーヴァント規格に格下げされようと、足下に手を届かせるのが精々でしかない。ロードにすら勝てないのなら、神代のキャスター相手には何をか言わんや、と言う話である。
「じゃ、キャスターが陣地にしてそうな場所を順番に当たるか……」
前回のキャスターの陣地候補として大穴であった元々の聖杯の在り処に、前回のキャスターの仕掛けた罠と思しき術。彼女たちの知る前回キャスターの性格からして、彼女たちが来そうな場所に罠を仕掛けた、という以上の意図がないことは承知している。故に、他の候補を当たることにする。
「次の候補はこっちよ。一応言っておくと、私に神代のキャスターと戦うのは無理だからね」
「知ってる知ってる」
次の前回のキャスターの陣地の場所候補へ向かう少女三人。調査と会議に手間取ったこともあって、既に日は暮れ、星が瞬き始めていた。黄昏刻は魔の時間。だが悪意を持った人間にとっては、むしろ夜遅くこそが活動するのに最適の時間である。
「らぁっ!」
掛け声と共に道を歩く彼女たちの背後から甲冑姿の大男が襲い掛かる。それが彼女たちに当たる直前、察知したアイビスはターシャを抱えて前へ跳び、その隙間に百鳥はナイフを差し込んで、甲冑の大男の攻撃を捌く。甲冑姿の大男——ランサー——-の攻撃をモロに受けた衝撃で、百鳥のナイフは破壊される。
「おっ? この攻撃を受けるのか……」
「……どちら様……いや、何用ですか?」
厳しい目で甲冑の大男とその後方の大男を睨め付ける。既に彼女たちは彼らがランサーとそのマスターであることを確信している。それ故に、可能であればここで仕留める心算である。アイビスが棒をどこからともなく取り出し、百鳥は大型ナイフを2本構える。二人は戦闘体勢を構える一方、ターシャはいつでも逃げ出せるような距離を取る。
「何ってこともないが……死んでくれないか?」
「やなこった! 他人に死を強要するのは最悪だよ」
「元気がいいのは良いことだ。殺し甲斐があるってもんよ」
マスターのセリフに賛同するかのようにランサーが再び、サーヴァントとしての脚力を活かして襲い掛かる。一番前に立っていたアイビスへと、方天画戟で殴り掛かる。サーヴァントの膂力を存分に活かした上からの一撃をアイビスは刃の側面に棒を当てて軌道を逸らす。返す刃で襲ってくる下からの横薙ぎをさらに側面から弾いて上へと跳ね上げるさせる。そうして開いた胴体へと蹴りが突き刺さる。それは神秘の篭っていない、言い換えればダメージのない攻撃ではあるが、それでもたたらを踏ませるには充分であった。
「おっもいな……そしてやっぱり無傷。サーヴァントってのはなんでそうも無法なのさ」
「ほう……」
「おいおい、どうなってんだ? 俺のランサーは近接戦じゃ無敵だと思ってたんだがな」
三者三様の反応をするアイビス、ランサー、カント。アイビスはサーヴァントという存在の理不尽さに悪態をつく一方、ランサーは純粋にアイビスの武芸に感心し、ランサーのマスター・カントは、アイビスの出鱈目な身体能力に驚愕の声を漏らす。
幾らか言葉を零しつつも、向かい合う二人の攻防は止まらない。ランサーが攻め手、アイビスが受け手の状態のまま、合数のみが積み重なっていく。ランサーの横方向の切り払いをアイビスがしゃがみで躱し、追撃が来る前に足払いを掛けて体勢を崩させる。ランサーの体勢が僅かに揺れた隙に自然体へと立ち戻り、足払いで崩れた体勢から復帰したランサーの次の攻撃を棒で捌く。
夜はさらに更けて、月がその姿を表す頃。未だに戦闘は続いていた。闇の寒さに触発されたのか、街を霧が覆い始める。割と濃い霧であり、視界が十数メートルしか効かない状態となっている。
「まだ死なないのか?」
「やだって言ってんじゃん、いい加減諦めてくれないかなー!」
「目撃者を消さないと捕まるじゃねえか」
最悪な発言を繰り返すカント。対するアイビスは少々疲れてきたためにヤケっぽい返しをする。延々30分以上もランサーとアイビスの間で打ち合いが続いている。カントは度々ランサーに援護を入れようとしたが、目まぐるしい近接戦はいかな熟練の魔術使いと言えど容易に介入できるものでもなく、その上常にターシャによって狙われ続けているため、満足に動けない状況になっていた。
カントとターシャが睨み合い、その間で互角の戦闘をランサーとアイビスが繰り広げる。その均衡が破られたのは数瞬後であった。
久々に大きな隙をアイビスが晒したので、機を得たりとばかりにランサーが大振りな攻撃を仕掛ける。その瞬間、ランサーの首筋に裂傷が生まれる。霊核には僅かしか傷をつけられていない以上致命傷には程遠いが、それでも重症には違いない。
「あれ……外した?」
「……っ! なんだと……?」
仕立て人は百鳥。アイビスが正面に立ってランサーと対峙し、その後ろでターシャがカントを牽制する。その構図には、百鳥の存在が欠落していた。群を抜いた技量によってランサーと互角に張り合うアイビスがランサーとそのマスターの注意を大きく引き付け、それ以外への注意を、ちくちくと牽制を飛ばすターシャへと払っていたために、いつのまにか姿を消していた百鳥の存在を両者が忘れた状態となっていたのである。
仕留め切れていないのを見た百鳥は即座に手に持ったナイフを背面から心臓部へと突き刺す。どれだけ強壮なランサーといえど、首への大きな傷は隙を作るのに十分であり、結果として躱すことすらできずに霊核へと傷が付いた。
「ランサー! 令呪を持って命ずる。撤退せよ!」
一気に窮地に陥ったことを理解したカントは、令呪を用いてランサーを拠点へと送還し、自身も速攻で逃げ始める。だが、今まで散々に暴れてきたカントを探偵と管理人のコンビが易々と逃すはずもない。
「
ターシャの蒔いた種が一瞬で芽吹き、蔦が伸びてカントを拘束しに行く。カントは即座に火を付けることで蔦による拘束を回避するが、走って逃げようとするところへのそのワンアクションはあまりにも大きい時間のロスだった。
「どっせい!」
再び走って逃げ出そうとしていたカントの頭に蹴りが突き刺さる。走って逃げるカントを同様に走って追っていたアイビスによる物だ。アイビスはそこからさらに二発三発と打撃を打ち込んで気絶させると、両手両足を動かせないように紐で縛り上げ、更に口に布を噛ませて喋れないように抑え込んだ。
「……よし、なんとか片付いたかな」
「お疲れ様、お母さん」
「ちなみに、アイビスはそれどうする予定?」
「もちろん
アイビスの答えに、なるほどと返すターシャ。魔術はアンダーグラウンドな事象ではあっても、世界に一定数は使う人間が存在する以上、当然ながら国にも担当部署が存在している。本来は警察に突き出すべき物だが、普通の警察には突き出せない以上、そっちに突き出すのは当然の帰結と言えよう。
◇
「倒したぞ、倒した」
「ああ、変わらぬようですね」
「忌々しき探偵とアサシン」
「だが計画に支障は」
「ない。ランサーの生死はどうでも良い」
「だが梃入れがいるか」
「戯画化された聖杯戦争。座の改竄」
「戦争は戦争らしく泥沼に」
ステゴロ大魔神、それがアイビス、前回聖杯戦争もそれで勝ち残ったとかいうバグ枠。過去作主人公枠なのでね。魔術は理解しているけど使えない、みたいな感じです
Q:どうして人間の百鳥がサーヴァントを傷付けられるのか?
A:類似例ギルガメッシュ、天草。百鳥は偽名です