Fate/Imagenary Friend 作:silika
「倒せた、のかな……」
煙でよく見えない中、雨子が呟く。それはフラグじゃ、などと無粋なことを言うものは居ない。何せ、この場にいる全員が気にしていることであるからだ。自分達は皆ボロボロである。見ていることしかできなかった雨子には疲労も傷もないが、他のこの戦場に立った人間は多かれ少なかれ既にボロボロであった。アサシンの宝具の連発によってアサシンとジオは魔力が底を付き、無茶な強化と魔術行使による身体の傷と疲労で榛名は倒れ込み、時間制限付きの強化を与える宝具を使った反動でライダーは装飾を全て失って転がり、その横ではノエルが膝をついていた。百鳥、ターシャ、アナの三人は彼らに比べれば余裕はあるものの、肩で息をしていた。
「逆になんでアイビスは余裕なのよ」
「ま、私の場合は三日三晩飲まず食わずついでに寝ずで戦い続けてこともあるからね、それに比べればマシ」
霧が晴れてくると、あの化け物の巨体の影が残っており、倒れ込む彼等は息を呑む。
「……マジで?」
「そこは死んでてくれよ」
だが動く気配はない。霧がすっかり晴れてしまうと共に、巨体が崩れ落ち、光の粒となって消え去った。
「助かった……」
「あの……アイビスさん、これで終わりなんでしょうか?」
「多分ね。前回のキャスターはどこかに消えてて、聖杯はここにある以上、聖杯戦争はこれで終結でしょう。聖堂教会のノエル・フェルズカオスもそれでいいね?」
「はい、問題ないです。……あの、両親に説明を手伝っていただけたりは……」
「もちろんするさ」
無事倒せたことが確定したため、気が抜けた雰囲気となる。アイビスとアナはまだあるかもしれないと警戒は外さないが、死力を尽くしていた他の面々の疲労は重かった。だが、聖杯戦争の戦争は終わっても、聖杯戦争そのものは終わっていない。
「これどうすれば良い?」
聖杯をあの化け物から強奪した後、そのままキープしていた百鳥が問いかける。要するに、誰が使うの、という意味合いの問いである。前回の聖杯は、前回召喚されたキャスターのあまりにも馬鹿馬鹿しい、それでいて桁の外れた行動によって尋常ではない量の魔力が蓄えられており、その力を借りて現世に居残ったのは百鳥とアナだけではない。
じゃあ今回はどうなのかと言えば、四騎分が蓄えられているに過ぎず、つまるところ全員が願いを叶えるに足りるものではない。
「これ、俺が貰って良い奴か?」
いち早く起き上がり、如何なるカラクリか霊核に入った物を含めた全ての傷を癒していたアサシンが問いかける。それに対していち早く頷いたのはアサシンのマスターのジオであり、それに続くようにライダーとノエルも頷く。
「私は、今打てる最高の刀を打っちゃったからね。壊れたけど」
と榛名。当初の目的を達成できたためにかなり余裕を持っているのである。聖杯に掛ける願い事と言われて本気で思いつかない雨子も当然頷き、次は僕で良いかいと聞くのがキャスターである。
そうして緩く決着すると、先に脱落した——アイビスの手で刑務所に送られた——マスターたちの分も含めて全ての令呪が返還される。
「マスター、あえて聞くぞ。聖杯戦争はどうだった?」
「戦いというのもひどい物ですね。特に雨子が巻き込まれた時には心臓が止まるかと思いました」
ライダーが退去する前にマスターのノエルと言葉を交わす。兄弟の様な関係を築いたアサシン組や姉妹の様な関係性を築いたキャスター組とは違い、あくまでもマスターなノエルと、彼女の願いを聞いて助けにきた協力者のライダーであったため、別れの挨拶はひどくあっさりしたものであった。ライダーが自身で退去して、聖杯へと還る。
そしてアサシンが受肉する。受肉する時には服は別だということを知っているターシャが妹のアガフィヤに適当な服を持って来させたため、アサシンの裸体が開けっぴろげになる事態は避けられた。
「そっちのキャスターも受肉だよね?」
「そうだね、僕も受肉するつもりだよ」
アサシンの受肉によって使われたのは聖杯に満たされた魔力の半分であった。そして残った魔力でキャスターも受肉する。服を受け取り、普通の人間の様な装いになる。
◇
なんか物凄い姿をした怪物を倒した後、アサシンとキャスター……じゃないや、桜ちゃんが受肉した。いまいちピンと来なかったけど、元々は触れる幽霊だったのが生き返ったっていうノエルちゃんの説明は分かりやすかった。アイビスさんたちや榛名さんたち、ジオさんたちと別れてノエルちゃんのお家に帰ってきた。
ノエルちゃんのおかげで、今日の学校はお休みってことになった。徹夜してもう朝になってるからすごく眠い。でも寝る前にちょっとお話しする。
「キャス……じゃなくて、桜ちゃんはこの後どうするの?」
「マスター……じゃなくて雨子。そうだね、僕は旅に出ようかなって思うよ。生きてる時はそういうのはしたことなかったからね」
あれ……桜ちゃんってわたしと同い年じゃなかったっけ?
「前にも言ったけど、今の僕は寿命で死んだ後生き返った様な物だから、学校とかはもう行く必要はないの。アイビスさんがその辺は上手くしておいてくれるらしいし」
そうなんだ。……えっと旅に出るってことはもう会えない?
「いや全然。流石に携帯の契約くらいはするし。それに僕は言っちゃなんだけど強いからね、そうそう死にはしない。ちょっとお別れするだけさ」
「そっか……。じゃあお土産、お土産買ってきて」
「いきなり俗っぽい感じになったね。まあ良いよ、任せておいて」
それで聖杯戦争は終わりだった。いきなり始まった非日常は、こうして終わった。結局わたしは何もしてないし、友達が四人増えた以外は何にも変わってない。
あ、でもノエルちゃんとはもっと仲良くなれた気がする。
これで天野雨子の聖杯戦争はおしまいです。次話はここに入れるとおさまりの悪い榛名、ジオ、アイビスのエピローグになります