Fate/Imagenary Friend 作:silika
夜、月の綺麗に光る頃、少女が一人、川縁の道を歩く。
「さて、さて」
既に夜も遅く、うら若き乙女が活動すべき時間では本来はない。例え塾を勘定に入れたとしても、流石に遅い時間である。じゃあ何をするのかといえば、その手についた令呪の通り、聖杯戦争しかない。
「釣れるかしら?」
ライダーのマスター、ノエルは聖杯戦争を進めるため、親友にしてキャスターのマスターである雨子を、彼女が知る中で最も安全な場所である自分の部屋に待たせて、一人で他のマスターを釣り上げに来ているのである。
「やぁ、お嬢さん。こんな夜更けに何をしてるんだい?」
そう尋ねるのは、若い男である。ノエルと同じように、その体には令呪が付いている。お互いにそれに気づいた上で、白々しく会話を続ける。
「夜の散歩、でしょうか? 今夜は星が綺麗ですから」
「なるほど、確かに違いない。今晩はいい夜空だ。裏を返せば、月がないと言うことでもあるけど」
「あら? 私は闇討ちされるような
あまりにも白々しいノエルの物言いである。令呪だけでも、殺すには十分過ぎるほどに十分な謂れなのであるから。
「謂れがなくても気をつけた方がいいぞ、通り魔とかな」
そうしてお互いに嘘八百と知りつつも、すれ違った瞬間、二人の中間で甲高い金属音が鳴り響く。
「……おいおい、マジかよ」
「ええ、びっくりですね」
腕三本余りの間合いで向き合う二人。その間には、人を殺すことに特化した武器が二つ、落ちている。かたや真っ黒に塗られた投擲用短剣、かたや黒い材質不明の柄に、鈍色の刃のついた刺突剣。どちらも投げることを前提にした武器である。
「まさか、空中でぶつかるとはな」
「ええ、本当に。お互いに通り魔にすらなれなかったところだし、名乗りの一つでも、どうかしら?」
敵のマスターなど一刀にて始末するのが最上。だが、そう上手く行かなければ、次善の策である、再戦へ向けての情報収集が大事となる。
「そいつは良いな。俺はフリーの魔術使い、カント。ランサーのマスターだ」
「これはご丁寧に。ドーモ、カント=サン。聖堂教会第八秘蹟会所属のノエルです。ライダーのマスターですよ」
そうお互いに名乗り合う。そして、流れで握手まで済ませる。
「で、聖堂教会でノエルっつうと——」
「多分それは違う人でしょう。私は代行者ではありませんよ。ノエル自体ありふれた名前ですしね」
「ああ、我らが主なる神に感謝を、だな」
お互いに名乗りながらも、相手から目を離さないままに距離を取っていた。その間合い、10m。上位層の代行者と言った人外染みた人物ならまだしも、彼らはどちらも普通の人間に毛が生えた程度であり、お互いそう手が出せる距離ではない。
「んじゃそろそろやるか、ランサー」
「来なさないな、ライダー」
お互いのサーヴァントの霊体化を解く。
「「いざ尋常に、勝負!」」
勝負、の声と共に、メカメカしい鎧を纏った巨漢のランサーがライダーへと襲い掛かる。手に握られた巨大な方天戟でライダーへと殴り掛かると、ライダーも負けじと剣で受ける。その直後、ランサーの持つ|方天戟の刃先が変形すると同時に、ライダーを射撃が襲う。
「変形武器⁉︎」
「俺のランサー、凄いだろ?」
ランサーのマスターは偉そうに胸を張る。九割まで彼自身の力ではないに、ものすごい自信である。だが、そうなるのも当然の帰結である。何故ならば。
「ラ、ライダー⁉︎」
明らかに雑な射撃、ただそれだけでライダーの外装が砕け、ライダー自身も吹き飛ばされているのである。とは言え、サーヴァント同士の戦闘である以上、概念的に封じられでもしない限りは、あらゆる物は魔力の供給によって修復されるので、それ単体では大した傷にはならない。だが、相手の攻撃力が高いために、ライダーが攻撃をほぼ受けられない状態なのである。
「流石に、そのバ火力で受けまで固いとか言わないですよね?」
「さぁ、やってみれば良いんじゃねえの?」
「道理ですね、ライダー! そっちのも一発くらい素受けしてくれませんか?」
「やだね!」
餓鬼みたいな言い合いをしながらサーヴァント戦を続行する二人。状況はランサー優位で進む。それも当然だ。装甲と火力においてランサーが上回る上に、技量においてもランサーの方が上なのである。
「流石にここで宝具発動は嫌なのですけど……」
「ほら、さっさと切れよ? 抱え落ちは嫌だろ」
「じゃあ、貴方が死んでくださいませ」
サーヴァント同士で戦闘を行う横では、マスター同士が戦闘を行う。ノエルは、自身のサーヴァントで優位を取れないために、少しでも状況をマシにするためにマスターを仕留めに掛かっていた。
ランサーのマスター、カントが
「
一小節の詠唱によって生み出された炎が、同じく一小節の詠唱によって生み出された氷によって打ち消される。それと同時に、ノエルはカントの左脛を蹴り飛ばす。
ルーンは、特許と共に公開された技術であり、つまるところ時計塔を覗ける立場であるなら、誰が修めていても不思議のない技術ではある。それを、教会所属の人間が使用するのは珍しいが。
「ヲイヲイ、尼さんが魔術なんぞ使っていいのかよ?」
「第八ですので。敵の技を真似るのは基本技術ですよ。貴方も黒鍵一本、如何ですか?」
「誰がそんな面倒なもん使うかよ。投げるにゃ長過ぎるし殴るにゃ軽過ぎるんだ、もっとマシなモン持ってこいよ」
「じゃあ、こういうのはどうですか?」
ノエルはそう尋ねながら、辞書のような紙束、すなわち聖書で殴りかかる。前面と背面に金属板が仕込まれており、完全に鈍器仕様だ。軽く当たっただけでも骨の一本は楽に折れる一品である。
「おいてめー、神さんの記録だろうが武器に使うのはどうなんだよ」
「私そんなに信心深くないですし……それに、黒鍵の時点で今更でしょう?」
前提をひっくり返すようなことを宣うノエル。聖堂教会、それも、異端と接するが故に、最も信仰心を必要とする第八秘蹟会所属の戦闘員にはあるまじき発言である。もはや罰当たりですらある。
「同性愛を禁止する神なんて、チェンソーでバラバラになって仕舞えばいいと思います」
「シスター風罰当たりガチ百合レトロゲーマー? 属性盛りすぎだろ」
「喧しいですよ!」
お互いに益体もつかぬことを言い合いながら、不毛な戦闘を続ける。サーヴァント同士の戦闘は、ライダーが逃げに回ることでギリギリの均衡状態が発生し、マスター同士の戦闘は千日手と化している。
「やめだやめ、めんどくせー。ランサー、退くぞ」
カントは唐突に距離を取ると撤退を始める。それまでよりかなり速い動きで飛び退っていくのを、ノエルは止めることなく見送る。
「……幸運でした。サーヴァントという意味では同格でも、サーヴァント内での格差は大きいですね……」
しみじみとノエルは思う。彼女のライダーと比較した時、相手のランサーの方が基本的に全ての面で優っていたためである。力、技量、装甲といった、近接戦を行う上で重要なファクターは全て上回っており、智力においても相当な物があった。いわゆる一つの、完全上位互換と言う奴である。今生き残れたのは、ひたすらにランサー組があまり真面目に戦っていなかった、の一点に尽きているのである。
そこへ、一人の人間が通り掛かる。
「やぁ、お嬢さん。こんな夜更けに何をしてるんだい?」
黒い髪に狐面を被った人物は、ノエルへと話しかける。既にライダーは霊体化しており、黒鍵聖書ともども仕舞い込んでいるため、物騒さを咎められることはないが、既に夜は更け、日付は既に変わっている。
「えーと、夜の散歩、ですね」
「そっか。最近の夜は物騒だからね、気をつけなよ」
適当に誤魔化すノエルを、狐面の人物は特に追求することなく去って行った。