Fate/Imagenary Friend   作:silika

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第八話 刀使の鍛冶師

 「セイバー、それ面白いか?」

 「ああ、勿論。そうじゃなきゃこんなに積まねえよ」

 ボロいアパートの一室、男二人が画面の前に張り付いている。片方はコントローラーを握り、もう片方はそれを眺めている。ノエルと雨子の寝泊まりする屋敷をセイバーを名乗って襲った陣営である。

 「プレイヤーが徹頭徹尾モブA、ってのがどうしようもなく新鮮だからな」

 そうセイバーが言う。基本的な家財が全て古臭く、動いてこそいるがガタが出始めているような家電ばかりの部屋にあって、その手に握られた最新鋭のゲーム機はある種異様でさえあった。

 「ふーん、俺にゃ良く分からん感覚だな。全部が思い通りになった方が良いだろ」

 「……そうだな。……ああ、そうだろうな。安心しろよマスター、少なくとも今回の戦いだけは、俺はお前のために働くからよ」

 セイバーは彼のマスターに語り掛ける。毅然とした表情に見えるセイバーのマスター、ジオ・ミラダンテ。だが、セイバーの目には、諦観の中で泣いている少年が見えていたためである。

 「……本当に、頼む」

 

 「ま、とりあえずは、だ。マスター、手伝ってくれるか?」

 「……?」

 疑問符を浮かべたマスターに、セイバーはもう一本のコントローラーを押し付ける。二人での協力プレイのようだ。

 「マスター……アクションゲー下手くそか?」

 「うっさいな。俺はターン制のRPGとパズルしかやらないんだよ」

 「そりゃ驚いた。高層ビルや梯子を登ったこともないのか」

 少々びっくりしたような声を出すセイバー。セイバーのイメージにおいては、D&D的ダンジョン探索ゲームは新しい側なのである。だが、それならそれで、と嬉々として幾つものゲームを勧め出した。

 「ならこれが初挑戦だ。都合の良い世界は居心地が良い。だが、都合の悪い世界が居心地が悪いと決まってるかって言うと、これは違うんだな」

 

 ◇

 

 「うーん……これもイマイチ……」

 「マスター、どうしたのですか?」

 鍛冶場の中に、槌を握った少女が一人、浪人風の優男が一人。少女が炉に向き合って刀を打ち、優男が本を片手にそれを眺める。

 「どうしても良い刀が打てなくて……」

 「そうですか……? 充分出来の良い刀だと思いますけど」

 部屋の片隅に無造作に積み上げられた刀身の一本を手に取りじっくりと眺めながら優男がいう。だが、少女はそうじゃないよと首を横に振る。

 

 「たとえば、アーチャーの持ってる刀は殺意に合わせて水が流れるでしょ? 私の打った刀じゃ普通に切るだけだもの……」

 「そもそも、妖刀と比較すること自体が間違ってると思いますけど。この刀が打たれたのは六百年は前ですから、神秘のレベルが違いますので」

 アーチャーはそう説明する。その刀が打たれたのは室町期であり、日本において妖怪変化の類が跳梁跋扈できた最後の時代である。現代の神秘とは比べ物にならないほど濃い神秘は刀の出来栄えにさえ影響を及ぼす。現代であればただのよく切れる刃物に過ぎない物が、内包する神秘の多寡によって、鬼切になる。

 「そう言うことじゃないんだってば!」

 カリカリしながら、少女は滔々(とうとう)と自身の夢を語り始める。いつの時代にあったどんな刀よりも優れた、最高の刀を打つ、と言う夢だ。

 「究極の一、ですか」

 「そ。本当は自力でできれば良いんだけどね」

 

 「そういえば、まだ聞いていませんでしたね、マスター。マスターは何を求めて聖杯戦争に参加したのですか?」

 マスターの少女がまさに喋ろうとしていた内容に則した質問を投げかけるアーチャー。順序が完全にひっくり返った会話だが、アーチャーの改まって質問をする様子に少しだけ気を良くした少女は、気分良さげに話す。

 「本当は自力で完成させるのが鍛冶師としても魔術師としても正しいんだけどねー」

 

 「普通に作った、現代美術品としては上等な刀しか作れない、それが私。人を二、三人切るには充分だけど、それ以上じゃない。それ以上の物を想像もできない。だから本物を見るための聖杯戦争よ」

 「では、聖杯に賭ける願いはないのですか?」

 「まさか。第一の目的は本物を見ることでも、聖杯を使えるなら使うわ、使えるなら、ね」

 「そうですか。では、私は出来るだけ他のサーヴァントと戦うときに手の内を明かさせた方が良いでしょうか?」

 目的を聞いたアーチャーは、それをより忠実に達成するために行動すべきかを問う。彼自身の自認としては、自身は弱い英霊であって、相手が手札を切るよりも先に潰す方がまだ勝率が高い。だが仮にもサーヴァントである以上、マスターの意向は確認しておきたいのだ。

 

 「……? ああ、そんなの気にしなくて良いよ。わざわざ見るために元々低い勝率をさらに下げるような真似はする必要ないから」

 その答えに安堵するアーチャー。普通に、いつも通りに、気負わず戦えばいい。言葉にすればただそれだけの事実だが、どうすればマスターの望みを叶えられるか分からず、どう戦えば良いか困っていた彼にはとても良い朗報だった。

 「というわけで、気分転換がてらに聖杯戦争を進めましょう?」

 

 彼女は自身の作った刀達を()に収めると立ち上がり、アーチャーを連れて表へ向かう。聖杯戦争と称されるものが、バトルロワイヤルである以上は誰かが動かなければ始まらない。勝つにせよ負けるにせよ、彼女の願いは戦いの中でしか叶えられない。

 

 表に出て歩くことしばし。サーヴァントの気配を追ってうろついていると、適当な空き地へと行き当たる。そこに屹立するのは大男が二人ばかし。ランサー陣営である。そもそもが開けた地域の、それも特段開けた空き地に佇む相手に奇襲を仕掛ける方法など存在しない。

 「あらら、見つかっちまったか」

 「そもそも隠れてないでしょう」

 「ま、そりゃそうなんだがな……。少しくらい乗ってくれたって良いだろ?」

 おちゃらけた態度の中に一抹の寂しさのような物を潜ませるランサーのマスター。だがそれを一顧だにせずアーチャーのマスターは話を進める。

 「ここで何をしてるんですか」

 「ま、待ってるというのが一番適切な物言いだろうな、なあアーチャーのマスターさんよ」

 

 臨戦体制を取るランサー。即座にアーチャーは霊体化を解いて臨戦体制に移行する。

 「んじゃま、ランサー」

 「———————!」

 戦場に言葉は不要、と言わんばかりの雄叫びと共にランサーが襲い掛かる。方天戟を持って襲い掛かるランサーに対し、アーチャー陣営は真っ直ぐ後ろに下がることで対処する。走ることによって間合いを詰めてきたわけではなく、あくまでもランサーは一足で飛び掛かっていることによって成立する対処である。

 「ちょ、ちょっと! いきなり攻撃するのはどうなのよ!」

 「ここでお前を消せば知る奴は居なくなる、ほら簡単だろ?」

 

 「はぁ? 何が知られたくないのよ」

 あんまりに意味のわからないセリフに思わず素の返事が出てしまうアーチャーのマスター。説明を要求しているのか単なる抗議なのかは本人にすら分かっていない。

 「もちろん決まってるだろ、ちとトボけてみたのに滑っちまったことさ」

 「お生憎様、私はそう言う軽妙なお喋りとか、小粋なジョークみたいなのは苦手なのよ。他の人にお願いして頂戴」

 横目にアーチャーの劣勢を見ながら、ランサーのマスター、カントとの会話を続行するアーチャーのマスター、犬塚(いぬづか)榛名(はるな)。彼女の理性は剣を構えろと囁くが、直感はまだ納めていた方がいいと囁いている。

 

 「それなら練習の一つもした方がいいぜ。停滞を良しとするのは人じゃねえよ」

 「そもそもそっちには興味ないもの。ウィットに富んだ会話ができて、何か得る物があるのかしら?」

 カントはまだ戦闘体勢に入らない。余裕なのかやる気がないのか、それは本人にしかわからないことだが、その無防備さが榛名の戦闘体勢への移行を許さない。

 「改めて言葉にするのも難しいが……。強いて言うなら小さいながらも腐りにくい信頼だな。あるとないとじゃ大違いだよ」

 榛名は気づかぬままに雑談に興じる。誰とでも雑談をやってのけるのはカントの人柄に依るものであり、彼自身には何を伝える意思もないが、榛名の思考ラインには間違いなく新たな要素が付け足された。

 

 「と。ところで良いのか、アーチャーのマスター。このままだとすぐにでもお前は脱落だが」

 「ちょ、あ、まずっ!」

 カントが不意に話を切って榛名に注意を促す。会話をすっかり楽しんでしまった結果、アーチャーの様子に気を配るのを忘れていた榛名が慌てて目を向けてみれば、すっかり嬲られているアーチャーがいた。

 「——『断斬』!」

 それを認識した瞬間、ランサーへとほぼ背後から高速で切り掛かった。勝つのは無理でも一発程度なら入れられるだろうと言う判断である。

 「筋は悪くないな」

 だが、ランサーは特に驚くこともなく、振り向き様に大上段から振り下ろされる太刀を弾いた。弾かれた次の瞬間にはその太刀は砕けており、距離を取った榛名が息を切らせつつ立っていた。

 「一応私の中では最速だったんだけど?」

 「筋は悪くない。後10年も修めれば一角には成れよう」

 

 最速での不意打ちが弾かれた時点で既に選択は逃げ一択となっていた。固く強く、アーチャー相手なら確実に三発入れられる不意打ちを軽くすかし、アーチャーを手玉に取れる技量がある。彼女がアーチャーに剣で挑んでも常に軽く転がされてばかりであるために、そのアーチャーを転がすランサーの技量は想像すらつかないのだ。

 「——『積霰』!」

 だから、虚数ポケットから新たに取り出した剣を握ると即座に魔術を発動し、砕いて大地へとばら撒く。

 「逃げるよ、アーチャー!」

 ばら撒いた剣の破片が一気に育ち荊の壁を形成する中、榛名は脱兎の如く逃げ出す。みっともなくも、あまりにも丁寧かつ正しい逃げ方に、カントは追う気を失っていた。

 「ま、待ってりゃまた来るだろ。なかなかに面白い技を使うようだしな」

 

 「……よし、追ってきてないね。ごめんアーチャー」

 「いえ、お気になさらず」

 激走すること1キロ、ようやく一心地つけた榛名とアーチャー。だがその顔は暗い。前回の交戦では一応均衡っぽくなっていたものが、今回は惨敗であったためである。そのあまりの戦闘力に、自分達だけでランサーを打ち抜ける未来は描けなくなっていた。

 「……同盟、か」

 「同盟、ですね……」

 

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