「来ます……!」って一番に敵の気配を察知する索敵能力最強キャラになりたい!   作:10年前のラノベみたいなのが好き

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草薙一九太は、世界を知る

 

 

「朝早くからすまないな」

 

 入室するなり開口一番、そう告げたのは俺の直属の上司、鷹月恋路(たかつきこいじ)であった。部屋の中央でどっしりと構えた恋路さんは、目を伏せていたが、その貫禄は凄まじい。

 早朝、報せを受けてすぐさま彼女の下に向かった。数分前まで未だ眠気を帯びた身であったのだが、彼女の覇気によって吹き飛ばされたような気さえしたのだった。

 

「やっほー、いっきゅーくん」

 

 部屋の中を見渡せば、俺よりも先に来ていたらしい少女と目線がぶつかった。

 

「今回の任務はカノンと……ってことか」

 

 少女──カノン・弓削(ゆげ)は、透き通るように光り輝くブロンドヘアーを三つ編みにして肩から流している女の子だった。

 朝イチだというのに御苦労な事で、自身のチャームポイントを欠かさない彼女は、溌剌としているが、表情は何処か眠たげな眼をしている。所謂気怠げ系なのか、その目尻はいつも垂れ下がっていたのだ。けれど、それが彼女の魅力で強みで、出来ればカノンの眉が釣り上がる姿など見たくは無いなと思う。

 あとは、ショートパンツとニーソックスの間に聳える、程良く引き締まった筋肉質な肌色が素敵な少女だ。

 

「そうだ。今回の任務は密旨でな。草薙、弓削の二人のみで行ってもらう」

 

 恋路さんから肯定の声が出る。どうやら他のN世代はいないらしい。人は多ければ多いほど戦力となり得るが、その分秘匿性は薄れていくだろう。今回は朝早くから呼び出されて、さらに極秘だという話だ。これまでの任務とは何か違うようだった。

 

「どうも近頃この地下都市に悪い風が吹いているようでな。お前達にはその犯人探しをしてもらいたい」

 

 恋路さんはそういうと、引き出しから袋詰めされた何かを取り出し、俺達二人によく見えるように提示した。

 

「まずは、これを見てくれ」

 

「これ、なんですか〜?」

 

「──薬物だ」

 

 カノンの疑問に即時に答えが返ってきた。途端に場が凍る。

 袋に入っているのは錠剤だった。この研究所で見られる物ではあるが、おそらく“別物”である事が理解出来る。

 

「それって、取り締まり対象の違法薬物ってことですよね?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 地下都市では研究所で調薬された薬品以外は禁止されている。ましてや秩序を乱しかねない危険ドラッグは取り締まり対象であり、厳しく対処してきたはずだった。

 

「あー、あの数年前に話題になった頭がパァーになる方か」

 

「そうだ。だが、あの時の物よりも、より中毒性が強く、一度でも使えば使用者を沼に閉じ込め躰を蝕み続ける効果になっている」

 

 カノンは薬物というワードではピンと来ていなかったらしい。けれど、『違法薬物』という言葉が出てきた事で過去の一件を思い出し、事の重大さを理解する。彼女が具体的に言われないと気付かないほどに、違法薬物はこの地下都市には馴染みが無い物となっていたのだ。

 

「そんな物、どうやって作られたんですか? 民間から出てくるようなクオリティでは無いはずですよね?」

 

「そう、そこだ。今回の任務はそこが重要なんだ」

 

 過去の一件は、民間人が娯楽の延長で作った物だった。それでも刺激の少ない彼等には物珍しく、人々の間で流行するまでに時間はかからなかったそうだ。

 機能しなくなった社会、これを良しと思わなかった地下都市の軍部が検挙、取り締まり。研究施設と協力して治療にあたり、事態は収束。めでたしめでたし、といった流れだった。

 

 それからは地下都市で薬物の取り締まりも強化され、姿かたちも無くなった……はずだったのだ。

 

「今回の任務を遂行するにあたって、お前達に黙っていた事を話さなければいけない」

 

 恋路さんは改まって、俺達に向き直ると「これは此処でも一部の人間しか知り得ない事だが」と前述して話し始める。

 

「まずは、お前達N世代の成り立ちについて話さなければな」

 

 ごほん、と一つ咳払う。すると、彼女は途端に、俺達の教師役だった頃のような雰囲気を見に纏った。

 

「先の大戦で討ち倒した天使と悪魔、そして地上を支配する怪物達の関係。人類は舞い降りた脅威を退け、また平和に暮らしていけるかと思ったのだが……そうはいかなかった」

 

 俺は、ごくりと固唾を飲んだ。

 

 確かに、今まで地上に蔓延る怪物達の出所なんて考えては来なかった。いや、俺にとっては考える必要さえ無かったのかも知れない。敵を敵として、言われた任務を言われたままに達成すれば自分のしたい事に繋がったのだ。だから、この世界の現状など然程重要視もしなかった。今回の任務が無ければ、気にもしなかっただろう。

 

「突如として、何千もの怪物達が現れて、地上は奴等に占拠されてしまったからだ。コイツ等が、今も尚人類を地下空間に閉じ込めている元凶だ」

 

 ──任務で倒す怪物達。基本的にはこの地下都市への接近が推測されるものや、地上調査の範囲内に巣食うものが討伐対象だ。けれど、普段倒しているのなんて、ほんの氷山の一角に過ぎない。それほどまでに、世界は支配されているのだろう。それを全て取り除こうなどというのは出過ぎた考えで、無謀な夢に違いなかった。

 

「地上に巣食う怪物達と、お前達N世代には少なくとも関係性がある。【異能】は()使()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。なら、怪物達はなんなのか……」

 

 恋路さんは勿体ぶった言い方をする。ただでさえ、【異能】が天使によって齎された力だという点にすら驚きを隠せないのに、肝心な部分だけを溜めているようだった。

 

 【異能】については大方予想はついていた。どうして俺達N世代が研究所生まれなのか、どうして御縁司の【異能(それ)】が、まるで天使そのままの姿なのか。考えてみれば有りがちな設定で、司の力には影響が色濃く出たということなのだろう。

 

「──あの怪物達も、天使の一部だ。正確には、天使と悪魔の最後っ屁、最後のあがき。例えるなら、そう。首吊り自殺をした時に残った遺体と垂れ流された糞尿のような関係にある。地下都市(われわれ)がN世代を生み出す際に使ったのが遺体のほうで、怪物達が糞尿の方だ。これが、お前達N世代の成り立ち」

 

 随分と趣味の悪い例え話をされる。けれど、言い表わすなら、これが最も適切なのだろうという事も理解できた。

 つまりは、俺達人類はその糞尿に怯えながら暮らしているというわけか。そう考えると、何だか癪だなと思ってしまう。

 

「我々は、異能開発に使った天使の亡骸を“残滓”、分たれた怪物達を“残穢”と呼んでいる」

 

 残滓と残穢。さすがに遺体とか糞尿とかは使いづらいようだった。

 

「それで、その話と今回の任務、どう関係があるんですかー?」

 

 カノンは急いている。彼女はあまり自分の出自に興味が無いようだった。

 

「あぁ、続けよう。我々は天使の亡骸を使ったが、それならもう一方──悪魔の亡骸はどうなったのか」

 

 恋路さんは話を続ける。さすがにこのポジションに就いてから長いだけあって、N世代の一挙手一投足に気を取られたりはしないようだ。これが他の人間なら取り乱したり、彼女の機嫌取りに専念した事だろう。

 

「これが、いるとされている“悪魔側”のルーツだ」

 

 俺はまたも驚きを隠せない。

 

 悪魔……悪魔側か……。それも、“敵”って事でいいのだろうか。

 この地下都市では犯罪者なんて滅多にいないものだから、長い事、人間には敵がいないという考えがあった。しかし、悪意に満ちた人間がいるのなら、それは敵以外の何者でも無いだろう。また少し、自分のやりたい事に近づいたような気がした。

 

「お前達はあまり馴染みが無いだろうから話しておく。地上調査をすると、奇妙にも人間の集団と出会う事がある。とても生身の人間が生きていられる環境では無い世界で、どうして彼等は地上をほっつき歩いているのか」

 

 何人か地上の人間を受け入れたという話を耳にした事がある。その中に紛れていた危険分子を投獄したというのも有名な話だった。それ以外の受け入れた外の人間達は、今や普通に地下都市に溶け込み生活している事だろう。

 

「彼等は口を揃えて言うのだ。『悪魔の街から逃げて来た』、と」

 

 俺達と同じように、悪魔の亡骸を使って構築された社会があるのだとすれば、悪魔の街があってもおかしい話では無いように思った。

 

「話を訊いてみれば、悪魔の街は無法地帯。弱者は搾取され、強者が虐げる世界。日々飢えに怯え恐怖に怯え、快楽主義に奔る人間も少なくないという」

 

 まるで此処とは別世界だ。話の印象からするに、地下都市がサイバーパンクなら、悪魔街は貧民街のような生きる為に必死な世界なのだろう。やはり人間の営みには格差が付いて回るものなのか、俺は肝を冷やす他無かった。

 

「だから、今回の薬物は“悪魔側”の連中が入り込み、流布したのではないか。突飛だが、そう仮説を立てたわけだ」

 

 恋路さんは深刻な面構えで言い放った。

 

「どうやって入り込んだのか、目的はなんなのか。この際どうでもいい。肝心な事は取っ捕まえて口を割らせればいい」

 

 破竹の勢いだった。それはもう、畳み掛けるように彼女は述べた。

 

「──つまり、お前達の今回の任務は『薬物魔の逮捕』だ!」

 

 鷹月恋路はキメ顔でそう言った。

 

 

 

***

 

 

「内容は理解しました。【異能】の事や、残穢?の事も。ですが……」

 

 俺は言い淀む。一つだけ、不可解な点があるのだ。どうして犯人探しに俺を招集したのか、解らなかったのだ。

 

「薬物を密売している相手を見つけるとなると、俺の【異能】は些かズレているような気がするんですけど」

 

 異議を唱えるように、話を続ける。

 

「俺の【異能】は索敵能力ではありますが、あくまでも()()()()()()()()()()を探知する能力です。薬物は使用して初めて、効果が現れるもの。言い換えれば、使わなければただの白い粉でしかない」

 

 そう、なのだ。俺の【異能】は未だ完全に至らず。これでは『探知に反応して身構えたは良いけれど、なんだ仲間でしたー』というテンプレ展開も訪れない。そんなガバは無くても良いが、敵意だけにしか反応出来ない現状では、索敵能力最強の座は遠く感じた。

 

「だから、この任務は俺には向いていません。司とかに上空から見張らせておく方が、よっぽど有意義に感じますが……」

 

 任務内容からいって、カノンが呼ばれた理由は解った。彼女の【異能】は、この手のミッションの最適解とも言える。彼女以上の適任者はいないだろう。けれど、それだけに、極秘であるだけに自分が必要だっただろうかと疑問に思って止まないのだ。

 

「草薙、私はお前を買っていると言っただろ? 今こそ、お前の異能も“進化”すべき時が来たのだ」

 

 異能の進化。そういう事が稀に起きるというのは、既に観測された事実であった。どのようにそうなるのか、今なお条件、環境等々判明していない事だらけではある。けれど、それは確かに【異能】の力を更に一段進める可能性だったのだ。

 

「何も難しく考える必要は無い。敵意を持ってばら撒いている張本人を探せば良いのだ。そうやって異能の効果範囲を広げていけ」

 

「それくらいなら……」

 

「まぁ、無能力であるマイナス世代の私が知ったような口で言ったところで厚かましいだけかもしれないがな」

 

 恋路さんは、ふっと笑う。まだN世代の抵抗心が残っているようではあったが、それでも以前のものよりは随分と吹っ切れたような笑みだった。

 

 ゆくゆくは、俺も通過しないといけない地点だと考えていたが、まさか早々に求められようとは。ここまで言われたのなら、やらないわけにもいないだろう。この際、場数を踏んで進化に近づくという目的で任務に参加しても良いと思った。悪魔陣営というのは未知数の存在であるが、それが敵だというのなら欲望も発散できる。一石二鳥だ。せいぜい、彼等には試し相手くらいにはなってもらおう。

 

「ん? 決まったの?」

 

 カノンが口を開いた。だいぶ待たせてしまって申し訳無いが、彼女はうつらうつらと過ごしていたようだ。

 

「あぁ、役に立つかは分からないが、よろしく頼む」

 

「うん。それじゃあ、いっきゅーくん、エスコートよろしくね?」

 

 眠たげな瞳で薄目をして笑うカノン。犯人の目星すらついていないが、彼女の力があれば、成し遂げられるかも知れない。

 

 そうして俺達は、違法薬物流布の犯人を探す為に地下都市の影の部分へと繰り出したのだった──。

 

 

 

 





 一ヶ月ぶり!? 待っててくれてた人がいたりしたら……嬉しいなぁ……。

 【余談】
 Twitter(新X)で作品名を検索していただけると作者の垢が見れます。ここに素人が描いたイメージイラストをあげてるので、怖い物が見たい人だけ覗いてみてください。
 面倒臭い手順を踏まなきゃ見られない自己責任システムです。



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