「ふぅ…そろそろ休むか」
たった数日のライダー生活はホシノによって終わらせられ、いつも通りの日々が戻ってきた。今思い返せば、ライダーに変身してからの数日間はとても濃かった。
(それにしても、ホシノが仮面ライダーを見た事があるとはな…)
(いや、待てよ?この世界で〝デザイアグランプリ〟だと?あれはテレビだけの話で現実にそんなものは存在しないはずだ…)
ホシノの話を聞いて以降、ずっと胸に引っかかっていたものの正体に気づいた。仮面ライダーは創作物。本当は仮面ライダーなんて存在しないし、物語に登場するようなゲームなんてあるはずがない。
(この世界は…一体…?)
色々な仮説が頭に浮かんだが、自分の性に合わないのであまり深く考えることはしなかった。
「先生!次はどのライダーに変身しますか?!」
「う〜ん、悩むなぁ」
ぶっちゃけ仮面ライダーに変身できるのならなんでもいいのだが、なんでも変身できるとなると流石に悩んでしまう。
自分の机に並んでいる変身ベルトコレクションを眺めながら考える。
(デザイアグランプリの1件もだが、この世界にはライダー世界と同じものがあるのか?)
少し気になった疑問を解消するついでに、次に変身するライダーを決める。
「よし、次はこれだ!」
♢
やって来ました、クラフトチェンバー!
「今回はこれだ!」
「先生、それはなんのライダーのベルトですか?」
「ああ、これはアロナが産まれる前のライダーだから知らないのか。これはゼロワンドライバーだよ」
「ゼロワン…検索してみます。……ラーニング完了です!」
「おぉ…」
ゼロワンドライバーとライジングホッパープログライズキーをクラフトチェンバーに入れ、数分アロナと話して時間を潰した。
「おっ…出来たか」
(次はどの学園に行こうかな…ぶっちゃけどこいっても事件には遭遇できる気がするんだよな)
「次はどの学園に事件を探しに行くんですか?」
アロナは心でも読めるのか?
「いや、ちょっと試してみたいことがあるからここで1回変身してみようかな。」
「え!?珍しいですね先生…」
広いスペースに出て、ゼロワンドライバーを取り出し、装着する。ライジングホッパープログライズキーを右手に持ち、側面のボタンを押す。
《JUMP!》
(よし、ここまではいいな…)
プログライズキーをゼロワンドライバーの認証装置、オーソライザーにかざす。
………………
「あれ?」
「何も起きないですね…」
本当はこの世界にライダー世界と同じもの…今回は通信衛星ゼアが存在するかを知りたかったのだが、それ以前にオーソライズする事ができない。
「何でだ?」
「先生、もしかして先生は先生であって社長ではないからでは?」
「社長…かぁ」
そういえば仮面ライダーゼロワンには飛電インテリジェンスの社長しかなれないとかなんとかっていう感じだったなあ。そうなるとかなり参った。社長と言う肩書きはそんな簡単に手に入るものでもない。そもそも飛電インテリジェンスなんていう会社この世界に無いだろ…
「…もしかして変身できない?」
「そういうこともあるんですね…」
ギーツのライダーは変身するのに特に資格などは要らなかったため何も困らなかったが、そういうこともあることがわかった。
「社長って肩書きだったら何でも良かったりしないかな…?一応番組本編でも違う会社設立して変身できてたし」
「出来るかもしれないですね。でも先生、会社なんて立ち上げられるんですか?それに先生と社長を兼任だなんて…」
「いや、社長になる方法には宛がある。」
「社長になる宛って…どこに行くつもりですか?」
「キヴォトスで随一の手腕を持つ社長のいる会社だよ」
「キヴォトス1……ッ先生!まさかカイザーコーポレーションに行くんですか!?絶対にやめておいた方がいいです!」
「カイザーコーポレーション?まさかぁ、誰があんなところ…」
「じゃあどこに?」
「それは着いてからのお楽しみかな!」
♢
「なんか前見た時より高そうな場所になってるな」
「ここは…便利屋68?」
「当たり!じゃあちょっと社長とお話して来るよ」
そう言ってシッテムの箱の電源を落とす。
♢
「カヨコ〜、この前の依頼の報酬を…って先生?珍しいわね」
「やあ、アル」
夏だと言うのに暑そうなコートを羽織っている角の生えたクールビューティー、陸八魔アル。今回は彼女に用がある。
「今回はどういった要件かしら?」
「まあ、依頼っちゃ依頼になるのかな?」
「先生が私たちに依頼?本当に珍しい…先生の依頼なら特別料金で承ってあげるわ!」
「じゃあ…俺に社長をやらせてくれないか?」
「…………………え?」
「俺に社長をやらせて欲しい」
「いや、聞こえなかったわけじゃないんだけど…いくら先生でもその依頼は受けられないわ。便利屋68は私の1部なのよ。それを先生に明け渡すなんて…」
「…?あぁ、言い方が良くなかったな。別に便利屋68をどうこうしようって気はないよ。ただ1日でいい!1日でいいから社長の肩書きを貸してくれないか?」
「1日社長をやりたいって事ね…それもダメよ」
「なんで?」
「社長っていうのはそんな簡単なものじゃないの、社長になるには相応の責任が伴うし、覚悟が必要なの。」
ぶっちゃけアルのことを舐めていた。まさかそんな信念を持ってアウトローをやっていたとは…
とはいえゼロワンに変身するためには社長にならなければ行けないので、奥の手を使う覚悟を決め、アルの目をじっと見る
「わかった?せんせ「お願いしますぅぅぅぅぅぅ!」」
奥の手とはそう、土下座だ。誠心誠意頼めば意外となんとかなったりする事が結構ある。根がめちゃくちゃに優しいアル相手なら尚更だろう
「せ、先生!頭を上げて!そんなことをしても社長にはさせられないわよ!」
「どうしても社長にならなきゃダメなんですぅぅぅぅぅぅ!」
「そんなこと言われてもダメなものは…」
「お願いしますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「うぐっ…本当に1日だけよ?」
「いいのか!?本当にありがとうアル!!愛してる!」
「愛して…って先生!そんなこと軽率に言うものじゃないわよ、それにもっと言うべき人が居るんじゃない?」
「…?とにかくありがとう!」
「はぁ…鈍感って罪ね」
今まで見た事ないようなアルの大人っぽい1面を見れたし1日社長の肩書きを貰うことも出来たので結果は上々だろう。
「それで先生、なんで急に社長、しかも肩書きだけなんて欲しがったの?」
「ああ、それは…ふごぉ!」
ドアの近くで会話していたせいで、急に勢いよく開かれたドアが頭にぶつかり、変な声が出てしまった
「アル様〜!助けてくださ…せ、先生!?ごめんなさいごめんなさい……」
「ハルカ、何があったの?」
「便利屋68に恨みを持った暴力団の集団が事務所の前に大量に…」
「ふっここは社長の出番ね。便利屋68、出動よ!」
アルとハルカの会話を痛む頭を抑えながら聞いている感じ、あまり良くない状況の様だ。
「よし、ここは俺の出番だ!」
「せ、先生…!?」
「ハルカ、今日の社長は俺なんだ。ここは俺に任せてくれないか?」
「せせせ、先生が社長ぅ!?」
「そう、1日社長」
「なるほど…では先生…いや、社長の邪魔を邪魔する奴は全員消します!!」
「有難いんだけど…事務所は壊さないようにね?」
とりあえず急いで3人で外に出ると、既にムツキとカヨコが応戦していた。
「あっ丁度いい所に!先生、指揮してよ!」
「先生…なんでここに?」
「ふっふっふ…君たちよ…今日の私は社長なんだ。先生ではなく社長と呼びなさい!」
ちょっと調子に乗って見るが、軽口を叩いてる余裕はあまり無さそうだ
「くふふ、先生おもしろい!あっ社長か!」
「社長…またよく分からないことを…」
「よし、社長としてみんなと一緒に戦うよ!」
「じゃあ指揮を…」
「いや、私が直接戦う」
『はぁ!?』
(前も同じような下りやった気がするな)
ゼロワンドライバーを取り出し、装着する
「あれは…ベルト?」
アルを筆頭に便利屋68の4人や、相手の暴力団たちですらもこちらに目を向け様子を伺っている。とても気持ちが良い
ライジングホッパープログライズキーを右手に持ち、ボタンを押す
《JUMP!》
(よし、頼むぞ…)
祈りながらプログライズキーをゼロワンドライバーのオーソライザーにかざす
(どうだ…?)
《authorize》
(きたっ!)
待機音が鳴り出すと遥か上空から黄緑色の光が降り注ぎ………
巨大なメカメカしいバッタのライダモデルが現れる
(まじか…)
しっかりと変身バンクが再現されている今の状況は、この世界に衛生ゼアが存在することを裏付けていた。
(本当にこの世界は…いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃないな)
「巨大な…バッタ?」
「くふ、先生、本当におもしろい!」
バッタが跳躍し、着地する度に地面が大きく揺れ、自分の足元近くにあるアスファルトがどんどんと削れていく
(これ市街地で使うもんじゃなかったかも)
両手を大きく上から回し、手をクロスさせる。右手を顔の横に持ってきて、オーソライズによってロックが解除されたプログライズキーを展開し、ややお馴染みの言葉になりつつあるあの言葉を言う
「変身!」
プログライズキーをゼロワンドライバーに差し込み、変身待機のポーズを取る。
《プログライズ!》
自分の前に表示されていた、近未来的なホログラムがこちらを通過すると共に体が光に包まれる。ギーツとは違い、アーマーというよりはアンダースーツという言葉の方が近いであろうものに身を包まれ、 轟音と共に跳び回っていたバッタのライダモデルが空中で分解されるとともに含まれているバッタの遺伝子データが私の体の頭や手足にロードされていく。
《飛び上がライズ!》
《ライジングホッパー!》
《A jump to the sky turns to a rider kick.》
かっこいい英文の読み上げと共に変身シークエンスが終わり、仮面ライダーゼロワンへの変身が完了した。
『えぇぇぇぇぇぇ?!』
「やっぱりこのくだり前もやったよな?」
「なんかいつにも増して体が軽いな…これがバッタの力って事か?」
「せせせ、先生…?その姿は…」
「ああ、アル。社長になりたかった理由、これで分かってくれた?」
「これが社長の力…」
(厳密には違うと思うけど…まあいいか)
「ああ、そうだよ。よし!」
カッコをつけるべく、敵の方を向き直す
「お前たちを止められるのはただ1人…」
親指を立て、指先を自分の顔に向ける
「俺だ!」
(くぅぅぅぅぅ!やっぱり気持ちいい!あそこのポニテの子とか口開けてポカンとしてるもん!)
「あはは、先生かっこいい〜!」
「なんなのあの姿…」
「あわわわわわ、せ、先生が変な姿に…」
「おいハルカァ!変じゃなくてかっこいいだろ?」
「すっすすすすすすいません…」
最初に動き出したのは暴力団側だった。リーダーの発砲をきっかけに暴力団らが次々と銃を構え始める。
「便利屋68、仕事の時間よ!」
アルの言葉と共にこちら側も動き出す。
爆弾を投げて敵の軍団を散らしたり、前衛の敵を1発1発正確に撃ち抜き、着実に軍勢を減らしたり戦い方はバラバラだったが、個々の実力が存分に発揮されていた。
「出遅れちゃったな…よし、いくぞ!」
思いっきり足に力をいれ、踏み込む。敵陣に飛び込むだけの十分な力が込められた足を思いっきり伸ばし、跳ぶ。
「あばばばばばばばば」
少なく見積っても想像の数倍は脚力が強化されていたらしく、勢い余って敵陣を通り越し、ビルにぶつかってしまう。
「いてて…あれ?ここどこ?」
自分の位置が分からなくなり、辺りをキョロキョロしている間に敵が続々と集まって来て、一瞬にして囲まれてしまう。
(どうしてこんなにカッコがつかないんだ!)
スタイリッシュな振る舞いが思うように出来ないことに苛立ちを覚えつつも、冷静を振る舞い、なんとかリカバリーに勤しむ。
「ざっと…100人くらいか、まあウォーミングアップには十分だな」
「いや、誤魔化せないけど!?」
無理だった。
「それに100人を1人でって…便利屋の奴らだったらできかねないけどあんたは普通の人間だろ?姿が変わったところでそんなこと無理に決まってる」
「どうやら見くびられているようだな…っと!」
今度はしっかりと相手の目の前に飛び込み、軽く蹴りあげる。敵の体は宙を舞い、ヘイローが消えた事で気絶したことがわかる。
「まあ、まずは1人か」
「ッ全員構えろ!」
さっきまで自分のことを舐めてかかっていた敵のリーダー格が今の一撃で力量に気づいたのか、警戒を強める。
「撃て!」
暴力団なんて暴れたいだけの奴らの集団だと思っていたが思ったより統率が取れていて感心する。
(すげえ、これが衛生の演算能力か…?敵の動きが手に取るようにわかる)
「無駄だ!」
「くっ…早くて照準が…」
ある程度この姿の体の使い方に慣れてきたので、脚力を活かし敵を翻弄する。走るというよりは跳びまわるという表現の方が近いか。ぶっちゃけ弾は結構当たってるがアーマーが頑丈で何とかなってるし、きっと全部避けられてるように見えてる…だろう
(今までは相手がオートマタだったり機械だったから心置きなく戦えたけど…生身の人間、しかも女性を攻撃するのはなぁ…)
明らかに力量はこちらの方が上なのだが、なかなか手を出せずに困っていた。
(とはいえ、便利屋のみんなの前でカッコつけた手前何も手を出せませんでしたって訳にはいかないしなぁ)
「どうした!なぜ反撃しない!」
「ああ、君たちが弱すぎて簡単に倒しちゃうかもしれないと思ってね」
「舐めた口を…!」
(くそ…しょうがないか…)
ぐっと足に力をこめ、全速力で敵陣に突っ込む。速さ故なのか、稲妻が走ったかのようなエフェクトも同時に発生する。
(うおぉ、なんかかっけぇ!)
「悪いがここで寝ててくれ!」
圧倒的な脚力から繰り出されるキックは次々と敵をなぎ倒していく。片っ端から気絶させていくようなことはあまりしたくないので、基本的には手首を狙い、武器を叩き落とす。武器は多分もう使い物にならないだろう。
「ライダーキックは…生身の人間に使うわけには行かないよなぁ…なんか都合のいい的とか来ないかな」
「早く来い!いくら強くても早いだけだ、戦車の砲撃を1発でも食らったらひとたまりもないだろ!」
あまりの都合の良い展開に笑ってしまいそうになる。ライダーに変身し始めてからというもの、こういうことが多い。
「せっかく戦車まで用意してもらったところ悪いが、ここで終わらせる」
砲撃が打ち込まれようとするすんの所でドライバーに差し込まれているブログライズキーをさらに奥に押し込む。
そうすると足に力がこもり、今まで以上のスピードで戦車に近づき、すんの所で戦車による砲弾を避け、戦車を蹴りあげる。
宙に打ち上げられた戦車を逃すまいと、先程と同じスピードで跳躍し、戦車を再び蹴る。空中で制御が効かなくなった戦車に向かってさらに加速し、右足を戦車に向け、ライダーキックを放つ。
《ライジング インパクト!!》
「まあ、こんなもんかな」
「お…覚えてろぉ〜!」
暴力団が逃げていくのを見送り、戦車の方に目を向ける
「もしかしてまた…」
案の定戦車は煙を上げ、爆発した。
「どういう仕様なんだよ…」
役目を終え、プログライズキーをドライバーから抜き、便利屋達の様子を見に行くと、とっくのとうに片付いていたらしく、4人で雑談でもしているようだった。
「あっ先生!見させてもらったわよ、社長の力」
「そうそう、社長の渾身の壁への攻撃」
「ムツキィ…そういうのは忘れるに限るんだぞ」
「せ、先生、かっこよかったです!!」
「まあ…スタイリッシュ…ではあったよ」
「2人とも…その気遣いが逆につらい…」
そんなこんなで話していると、アルが真剣な眼差しをこちらに向けてくる
「先生、さっきの力、私たちにとっても有効活用出来そうだったわ。もし宜しければ私たちと一緒にまた戦ってくれない?」
「あっごめん無理」
「な…なんでよ!」
「だって俺が社長なのは今日だけだし…」
「先生が望むならいつだって社長の肩書きくらい…」
「あれ、社長には責任や覚悟が伴うんじゃなかったっけ?」
「あっ…うぅぅ〜」
アルは少し顔を赤くして黙りこんでしまった。本当に可愛い。
その後は、便利屋68のメンバーと解散し、シャーレに向かって歩き出す。
戦いのほとぼりが冷め、ふと思考を巡らせる
(デザイアグランプリの開催に通信衛星ゼア…この世界はどうなってるんだ?)
「まあ、特にこの世界に影響がないならいいか!次はなんのライダーに変身しようかなぁ〜」
その後、電源を落としたシッテム箱…放置していたアロナのことを思い出したのは数日後の話だった