ホワイトルームの最高傑作。オレはそう呼ばれていた。
少子高齢化を解決するため、種として優れたオスを人工的に作り出すことを目的とした施設、ホワイトルーム。そこでオレは最高の頭脳、最高の肉体、最高の生殖能力を手に入れるため、地獄のような毎日を送っていた。
同じ境遇の者が一人また一人と脱落していく中、オレは最高のスコアを叩き出し続け、実験は次の段階へと進んでいた。
父親が出資金を集めるために、金と時間を持て余している有閑マダム、あるいは有閑ババアの相手をさせたり、最高の遺伝子を残すためにオリンピック選手(ゴリラ)と交尾させられた。
もう、うんざりだった。
オレは若い女を抱きたかった。美少女とヤリたかった。できれば処女がよかった。
「松雄。そこを退いてくれ」
「なりません、清隆様。どうかお戻り下さい。今ならまだ間に合います」
「悪いがそれは聞けない。オレはもう嫌になったんだ」
「清隆様。本気なのですね?」
「ああ」
綾小路家の執事、松雄が懐から拳銃のようなものを取り出す。見た目はプラスチックの玩具のようだが、実際はもっと物騒なものだ。針を射出し、命中した相手を感電させる武器、テーザーガンである。
しかしオレは松雄が引き金を引く直前に懐に入り込み、掌底をその腹部に叩き込んでいた。
「ぐっ……清隆様……」
「すまんな、松雄。だがオレは抱く女は自分で決めたい」
「……ここから出たところで、篤臣様からは決して逃れられませんよ」
「それでも構わない。この施設に連れ戻される前に、オレは自分で選んだ女を好きなだけ抱きまくる」
「……高度育成高校。そこならば、あるいは」
松雄の身体が崩れ落ちる。
高度育成高校か。罠の可能性もあるが、覚えておくことにしよう。
オレは教室を見回した。平田という好青年によって自己紹介が行われている。池という少年が「彼女欲しいです!」と全力でアピールしていた。気持ちはよくわかるが、あれでは女子に避けられるだろう。
それにしても、この学校に入ってよかった。
周りにいるのは華の女子高生である。若いというのは一種のステータスだ。少なくとも年増やゴリラではない。それだけでオレにとっては楽園にいるような気分になる。
「下らないわね、自己紹介なんて」
「お前はそう思うのか」
「当然でしょう。私はここに友達を作りに来たわけではないわ。あなたとは違ってね」
別にオレも友達を作りに来たわけではないのだが、隣の席の少女にはそう見えてしまったようだ。特に否定する意味はなかったので訂正はしないでおいた。誤解されていた方が都合がいいと思ったのもある。
しかし、堀北と言ったか。黒髪ロングの落ち着きのある美少女だった。クラスの女子よりも頭一つ抜けているといった印象だ。どうやら堀北は孤高を気取っているようだが、果たして孤高を貫くに値する能力を持っているのか、見物だなとオレは思った。
須藤が何やら喚きながら教室を去り、堀北もついでに教室から居なくなった後、自己紹介がオレの番まで回ってきた。
「綾小路清隆です。中学時代は陸上をやっていました。どうぞよろしく」
オレは無難な自己紹介を済ますと、爽やかな笑みを振りまいておいた。数人の女子がオレのことをぼうっと見ていることを確認しながら椅子に座る。簡単にヤレそうな女は三人ほど。その中でオレが抱くに値するのは佐藤と名乗っていた女子ぐらいだ。
善は急げと言う。オレは早速動くことにした。
「佐藤だったよな。ちょっといいか?」
「あ、綾小路くん!? ど、どうしたの?」
佐藤は頬を染めながらチラチラとオレに視線を送ってくる。
周囲にいた女子たちは急に声をかけてきた男子にびっくりしていたが、池とは違って真面目なキャラ作りをしていたから問題はなさそうだ。
「自己紹介の時に目が合っただろ。どこかで会ったような気がするんだが、もしかしてオレの気のせいだったか?」
「え、えっと、多分だけど、初対面だと思うけど……?」
「オレの気のせいだったか。悪いな。驚かせてしまったみたいで」
「う、ううん。別にいいんだけど、綾小路くんは陸上やってたんだよね? 高校でも陸上部に入るの?」
「まだ決めてない。面白そうな部活があればそっちに入るかもしれないが」
周りにいる女子たちも会話に入ってきた。オレの想定通りだ。男子からやっかみの視線が飛んでくるが気にすることはない。男子と仲良くなったところで、どうせすぐに嫌われるだろう。
「それにしても太っ腹だよね。毎月十万ポイントもくれるなんて」
「流石は国立のエリート高校だよねー」
佐藤たちが楽しそうに話している。
オレはSシステムの違和感について教えるべきか考え、今はまだ言わないでおいた。情報の裏取りをする必要がある。それに女子たちの財布が軽くなってくれた方が色々とやり易い。
「あ、綾小路くん。よかったら今日の放課後、一緒に買い物に行かない? 生活に必要なものとか色々買わないといけないし」
「佐藤さん、綾小路くんに荷物持ちさせようとしてるんじゃない?」
「え、えっと、そうかも?」
「綾小路くんかわいそー。断ってもいいんだよ?」
「荷物持ちぐらいなら別にいいぞ。男手が必要なら頼ってくれ」
オレがそう言うと佐藤が嬉しそうな顔をした。
見た目は男慣れしてそうな佐藤だが、態度を見ればわかる。あまりにも初心すぎる。これは間違いなく処女だろう。
入学式から三日が過ぎていた。
四月の初旬ではあるが、部屋の中は熱気が籠っていた。
オレは少しだけ窓を開ける。隙間から入ってきた夜風が火照った身体を冷ましてくれた。
「……はぁ……はぁ」
ベッドの上には生まれたままの姿になっている佐藤麻耶がいた。シーツには赤い染みがあり、枕元には使用済みのコンドームが落ちていた。
処女を抱くのは初めてではないが、自分で選んだ女を抱くのはこれが初めてだった。オレは久しく感じていなかった達成感に包まれていた。
「清隆くん……好き……」
「オレもだよ、麻耶」
オレは心にもないことを言う。
恋愛感情はなかった。ただ肉欲だけで抱いた。しかしそれを彼女に言うのは無粋である。女に夢を見させてやるのがいい男の条件なのだとオレはホワイトルームで教えられていた。
「身体は大丈夫か?」
「うん。清隆くんが優しくしてくれたから」
「麻耶は可愛いな」
「きゅ、急にどうしたの。恥ずかしいよ」
オレは麻耶の横髪を指ですくう。麻耶はくすぐったそうに身をよじった。
麻耶のいじらしさにオレは愛しさを覚えていた。人並外れた巨根を受け入れたのである。その苦痛は如何ばかりか。そして同時に哀れに思った。麻耶はもう他の男では満足できないだろう。
初体験でガバガバにされてしまった麻耶は、そうとは気付かずにオレの身体に身を寄せると物欲しそうな顔をした。二回戦ではない。どうやらキスをご所望のようだ。
「ん、ちゅ……えへへ。清隆くん、優しい」
オレが優しく見えるらしい。節穴だな。
世間知らずの小娘を篭絡するぐらい、オレにとっては赤子の手をひねるに等しい。とはいえ麻耶がチョロすぎて、彼女の将来が心配になった。オレみたいな悪い男に騙されるのは一度だけにしておくべきだろう。
Dクラスに衝撃が走った。
入学式から四日目にしてカップルが成立したのである。
オレと麻耶が付き合い始めたことで池や山内が「抜け駆けするなよ!」と意味不明な言いがかりを付けてきたが、他のクラスメイトからは概ね好意的に受け入れられていた。
「清隆くん、一緒に帰ろっ」
「悪い。ちょっと用事がある。後で部屋に行くから許してくれ」
「え、用事?」
「折角だから友達と遊びに行ったらどうだ? 積もる話もあるだろう」
麻耶が彼氏に現を抜かしすぎると女子のコミュニティから爪弾きにされる怖れもある。麻耶が女子グループから虐められて、メンヘラ化したら後々面倒だ。女子の付き合いも大事にしておくべきだろう。
と言うわけで、放課後。
オレは一人の女生徒を尾けていた。
名前は佐倉愛里。クラスでも一二を争う巨乳の持ち主である。ただし本人は極度の内向的。伊達眼鏡をかけており、前髪は長めであり、猫背である。友人は一人も居ないようだ。
巨乳なだけの陰キャなら、オレは気にしていない。
オレは佐倉の姿が擬態であると看破していた。佐倉のポテンシャルは堀北や櫛田に匹敵する。いや、もしかするとそれ以上かもしれない。ぜひともオレのハーレムに加えたい女子である。
佐倉を観察しながら歩いていると、違和感に気付いた。
どうやら周りを気にしているようだ。寮に戻るだけなのに何を警戒しているのだろう。オレの尾行が発覚したわけではないだろうが、佐倉の怯えている様子が気になった。
そして発見した。
物陰に隠れて佐倉のことを凝視している男がいた。
どうやらオレと似たようなことを考えている輩がいたらしい。しかもその男はどう見ても学生ではなかった。俗に言うストーカーなのだろう。
オレは少し考え、計画を練り上げると佐倉に声をかけた。
「佐倉。少しいいか?」
「え、同じクラスの……?」
オレはわざと男の隠れている方向に視線を向ける。瞬間、男が焦ったように身を翻した。
「そんな……やっぱり見られて……」
ストーカーの後ろ姿を見てしまった佐倉が膝から崩れ落ちる。
オレは地面に屈みこむと佐倉の両肩に手を置いた。
「あれはストーカーでいいんだよな?」
「は、はい……私、もう、どうしたらいいのか……」
佐倉が泣き始める。
「話を聞かせてくれないか。もしかしたら力になれるかもしれない」
「い、いいんですか?」
「クラスメイトだろ。オレは佐倉の助けになりたいんだ」
目を合わせて言うと、佐倉の頬が朱色に染まる。
ストーカーもいい仕事をしてくれる。誰かにお膳立てされているかのような都合のいいシチュエーションだった。
眼鏡を外して髪型を変えた愛里はオレの予想を超えた巨乳美少女だった。
しかもグラビアアイドルである。
「大丈夫だ。愛里はオレが守るから」
「……清隆くん」
愛里がオレの胸の中で涙ぐんでいた。
オレと愛里はベッドの中で抱き合っていた。
愛里はグラビアアイドルでありながら処女だった。世の中には枕営業というものがあるらしいが、愛里はそう言うのとは無縁だったようだ。
「でもいいの? 清隆くん、佐藤さんと付き合ってるのに」
「ごめん。愛里が魅力的すぎて、我慢できなかった」
「そんな……私なんて……」
「愛里。可愛いよ。好きだ。愛里」
「……清隆くん」
愛里の承認欲求をくすぐる言葉を選んで耳元で囁きかける。
コミュ障のぼっちを手玉に取るぐらいオレには容易い。その手法はホワイトルームで仕込まれている。
愛里はすぐにでもオレが居ないと生きていけなくなるだろう。
そしてオレは麻耶に詰め寄られていた。
場所はオレの部屋だ。
ベッドにはシーツを抱いた愛里が、怯えた目を麻耶に向けている。
「どう言うこと!?」
「すまない、麻耶。オレはハーレムを目指す。嫌なら別れてくれ」
麻耶が絶句していた。
その瞬間、麻耶はオレが最低の男だったことに気付いたのだろう。じわりと瞳に涙が浮かんでくる。
「最低。私のことは遊びだったんだ」
「違う。オレは麻耶のことを愛している」
「適当なこと言わないでよ! ならこれは何なのよ!」
麻耶がベッドを指さし、愛里が後ろめたそうに目を逸らす。
事後であることを示すように、ベッドの上には大量のゴムが散乱している。愛里の頬には濡れた髪が張り付いていて、まだ十五歳とは思えないほどの色気が醸し出されていた。
そしてオレも全裸だった。
「麻耶。悪いがオレはこう言う男だ。オレはお前を愛しているし、同時に愛里も愛している」
「あんた何言ってるかわかってるの!? 二股かけてるのがバレたんだよ!? もっとマシな言い訳はできないの!?」
「すまないが二股で終わらせるつもりはない」
「意味わかんない! 死ね!」
麻耶が持っていた携帯をオレに投げ付け、怒り心頭といった様子で部屋から飛び出して行った。後で携帯を返さなければならないが、ポストにでも入れておけばいいか。
「佐藤さん、大丈夫なのでしょうか……?」
「気にするな。愛里は何も心配しなくていい」
どうせすぐに戻ってくる。
愛里はオレの言葉の意味が理解できず困惑していたが、オレは構わずそんな愛里をベッドに押し倒した。
ちなみにストーカーは学校に報告して追放して貰った。