入学式から二週間後。
オレはクラスで最低のクズとして扱われていた。麻耶が友達に愚痴り、それが一瞬で拡散した結果だった。
「おっ、クズの小路の登場だぞ」
「おいクズの小路、俺にも女を分けてくれよ」
池や山内がオレを冷やかしてくる。
クラス中の女子からも軽蔑されており汚物のように見られていた。
「人気者ね」
「羨ましいか?」
隣の堀北から皮肉が飛んでくる。
オレが余裕の態度で答えると、それが気に入らなかったのか睨み付けられた。
「佐藤さんも佐倉さんも可哀想ね。あなたみたいなクズの小路くんに目を付けられるなんて」
「まったくもってその通りだな。悪いのは俺だ」
「言葉こそ殊勝に聞こえるけど、実際のところはどうなの? 私から見ても、今のあなたに反省の色はまったく見られないのだけれど」
「慧眼だな。お前の言う通り、オレは何一つ反省していない」
堀北は付ける薬はないと言うように溜息を吐いた。
この状況はオレの想定通りである。ハーレム計画を進めるにあたって必ず通らなければならない道だ。早いうちに済ませられるならそれに越したことはない。その対策も考えてある。一時的にオレの株は大暴落するだろうが、下がった株はすぐにでも上げられるからだ。
茶柱のホームルームの後。
授業開始まで時間が余っていたため、オレは席を立った。
教卓の前に立つ。
教室を出て行こうとしていた茶柱が立ち止まった。
「綾小路くん? どうしたの?」
男子のリーダー格である平田が訝しげにオレを見詰めていた。
クラスメイトがオレを見る目に好意的なものはほぼ存在しない。麻耶はこちらを睨んでいるし、その友達は言わずもがな。愛里が心配そうにこちらを見ているだけである。
「みんなはSシステム……この学校のポイント制度についてどう思う?」
そしてオレは入学してから二週間で集めたカードを切り始めた。
学生に毎月十万円相当のポイントを支給するなんて有り得ない。
無料の商品の存在がポイントの枯渇を示唆している。
上級生は山菜定食の恩恵を受けている。
教室には複数の監視カメラが仕掛けられている。
明らかに問題のある授業態度に教師がなぜ注意をしないのか。
上級生のほとんどのクラスで四十人の定数が満たされていない。
エトセトラ、エトセトラ。
「結論を述べると、来月は十万ポイントも貰えない。それどころかゼロポイントになっている可能性すらある」
オレが話し終えると教室は静まり返っていた。
「ど、どうすんだよ……俺、ほとんどポイント残ってないんだけど……」
「クズの小路が適当言ってるだけだろ! 二股かけてたクズの言うことなんて信じるなよ!」
「で、でも、説得力はあったよね。あたしも十万ポイントなんておかしいって思ってたし」
教室は阿鼻叫喚になっていた。
なぜか茶柱はそれを嬉しそうに眺めていた。悪趣味な教師である。
「意外ね。あなたみたいな人間の屑にそんな特技があったなんて」
「惚れたか?」
「冗談は休み休み言いなさい。あなたみたいな女の敵に惚れる人はもうこの学校には居ないでしょうから」
それがそうでもないのだが今の堀北には何を言っても理解してくれないだろう。
放課後。
麻耶がオレの部屋までやってきた。
「あ、あの、清隆くん」
「これから部屋に愛里が来る。用件は手短に済ませてくれ」
あえて突き放すように言うと、麻耶は泣きそうな顔になった。
「ご、ごめんなさい。今日は、話があって」
「それで?」
「……私、やっぱり清隆くんのことが好きみたい」
麻耶はミーハーな女だ。もっとわかりやすく言うと惚れっぽい。カッコいい男がいると、あっと言う間に惚れてしまう。
逆に言えばオレよりも魅力的な男がいればそちらに鞍替えされかねないのだが、オレよりも優れた男など早々いない。オレが優れた能力を示し続けている限り麻耶がオレから離れることはないだろう。
「随分と身勝手な言い草だな。オレのことが嫌いになったんだろう?」
「ごめんなさい……私、清隆くんに酷いこと言った。あの時は頭が真っ白になっちゃって、自分でも何を言っているのかわからなかったの……」
冷静に考えれば悪いのはオレなのだが、今の麻耶はオレに許して貰うために必死になっている。むしろ自分が何を言っているのかわかっていないのは今この瞬間である。
「ごめんなさい……清隆くん……お願いだから、許して……」
麻耶がボロボロと泣いている。このぐらいでいいだろう。
オレは麻耶に近付くと、そっと抱き締めた。麻耶の身体がビクリと震え、ゆっくりと弛緩していく。
「オレの方こそごめん。こんな生き方しかできないオレが悪いんだ。こんなオレだけど、それでもいいのか?」
「うん。私は清隆くんがいい。清隆くんしか考えられない」
「麻耶。目を閉じてくれ」
「……清隆くん」
オレは麻耶のおとがいに手を添えた。麻耶が目を閉じる。オレと麻耶の唇が一週間ぶりに重なり合った。
その後、愛里を交えた乱交が始まった。
Dクラスに衝撃が走った。
オレと麻耶が復縁したのである。おまけにオレは愛里と別れていない。公然と二股をかけていた。
「クズの小路。お前、何なんだよ……」
「チクショウ! 羨ましすぎるぜ! 何でお前みたいなクズがモテるんだ!」
池がオレのことを化け物のように見ていた。
山内はオレのことを目を血走らせながら羨ましがっていた。
「本当に大丈夫なの?」
「うん。もういいの。私、もう清隆くんから離れられないみたい」
「言うべきか迷ったけど、今の佐藤さん正気じゃないよ?」
オレと一緒に教室に入ってきた麻耶は友達に心配されていた。と言うか正気を疑われていた。
そして隣の席の堀北からは辛辣な言葉が飛んできた。
「彼女の言う通り、あなたたちは狂っているわね」
「価値観の相違だな。この世には重婚が許されている国もある」
「日本で生まれ育った人間が持つべき価値観ではないと言っているのよ。一般的な価値観から外れてしまったら、正気を疑われても仕方がないでしょう」
「お前が一般的な価値観を語れる立場か」
孤高なのか孤独なのかは知らないが、一人ぼっちの人間が世間一般を語ったところで滑稽なだけである。
「少なくともあなたよりは常識と言うものを弁えているつもりよ」
堀北が反論したところで茶柱が教室に入ってきた。
オレは茶柱の連絡事項を聞きながら、次のターゲットを物色していた。
授業態度は多少マシになっているものの、須藤や軽井沢などは相変わらずだった。ちなみに軽井沢は平田と付き合い始めている。このカップルからは恋愛感情が見られないため訳ありのようだが、ひとまずそれは置いておこう。
Dクラスでルックスの高い女子は堀北と櫛田のツートップ。次いで軽井沢や松下、麻耶、長谷部あたりだろう。愛里は本気を出せば堀北たちに並べるが、本人が内向的すぎて表に出たがらない。
軽井沢は平田のお手付きと言うことになっているし、櫛田はどこか胡散臭い。情報が集まるまで手を出すのはやめておいた方が無難だろう。堀北は放っておけばいずれ折れるだろうから、その時に改めて手を出せばいい。
松下か長谷部あたりが狙い目だが、果たしてどうしたものか。
オレは愛里に負けない大きさの巨乳の持ち主、長谷部のことが気になっていた。だがオレは次のターゲットに行く前に、まずは己の足場を固めることにした。ハーレムは作ったら終わりではない。丁寧にメンテナンスをして維持していかなければならないのだ。オレはそれをホワイトルームで教わっている。
「……今日も清隆くん、すごかったね」
「ほんと、すごいよね……足腰立たないよ……」
オレのベッドの上には二人の美少女がいる。絶景だった。
「正直言うと、私一人だったら清隆くんを受け止めきれなかったかも。清隆くんの、まだおっきいままだし、ちゃんと満足できてるの?」
「ああ。麻耶も愛里も可愛すぎるからな。最高だったぞ」
有閑ババアの接待に比べれば、今のオレは天国だ。
二人ともピチピチのJKである。おまけにオレに開発されたせいでオレ好みの身体に仕上がりつつある。
オレはベッドにぐったりと横たわっていて動けない二人のために冷蔵庫から飲み物を取ってくることにした。
「ね、愛里はポイント、どれぐらい残ってるの?」
「私は七万ポイントぐらいかな。麻耶ちゃんは?」
「私、五万ポイントも使っちゃってるんだよね。清隆くんの話が当たってたら来月からピンチかも」
オレはまだ八万ポイントほど残してある。無料の商品を駆使して、できるだけポイントを使わないように心がけてきた。この学校にはポイントで買えない物はないという謳い文句があるほどだ。ハーレム計画のため、ポイントは少しでも多く保持しておいた方がいいだろう。
「愛里って自炊してたよね? 今度私に料理教えてくれない?」
「私もそんなに上手じゃないけど、それでよかったら」
「謙遜しなくていいのに。愛里のお弁当、すごく綺麗じゃない」
「……そんな。普通だよ」
「あー、もう! 愛里はもっと自分に自信を持たないと! こんなに可愛いんだから!」
「あうぅぅ……麻耶ちゃん、くすぐったいよ……」
麻耶が愛里に抱き着いて頭を撫でまくっていた。
同じ苦労を分かち合った者同士だ。仲良くなるのも必然だろう。これも堀北に言わせれば正気ではないのだろうが、本人が幸せそうなら何の問題もない。むしろ堀北の方が不幸そうである。
「お茶とポカリ、どっちがいい?」
「私はポカリ。愛里は?」
「えっと。私も同じで」
オレはグラスにポカリを注ぐ。多分一杯だけでは足りないだろうから、ペットボトルも持っていくことにした。案の定、二人はポカリを一気飲みしてしまう。オレは苦笑しながら二人のグラスに注いでやった。
オレが足場を固めている間に五月になった。
そして茶柱によって衝撃の真実が明らかになった。クラスポイントという新システムが公開されたのである。
Dクラスのクラスポイントはおよそ百ポイント。
ゼロポイントでなかったことを喜ぶべきか、その少なさに嘆くべきか。高校生の小遣いとしてなら一万は高額だが、生活費を含めるとまったく足りない。オレの忠告を聞かずにポイントを使い切った生徒が悲鳴を上げていた。
「納得いかないけど、あなたの推測が当たっていたわね」
「こんなことになるなら賭けておけばよかったな。オレの予想が当たっていたら、オレの女になれと言っておくべきだった」
「やっぱりあなたは最低ね」
そう言ったもののオレもこの程度で堀北を手に入れられるとは思っていない。堀北はいずれ相応しい舞台で堕とす。
さらに茶柱からテストで赤点を取れば一発で退学になると伝えられた。
堀北は小テストで満点を取ったオレが気に入らないらしく、こちらに疑惑の目を向けてくる。
「あなたみたいな性根の腐った人間が百点を取れるとは思えないわ。どのような不正を行ったのかしら」
「自分の無知を棚に上げて他人を貶めるのはいい趣味ではないな」
「最後の数問は高校一年生に解ける問題ではなかった。不正を疑いたくなるのは当然でしょう」
「本当に不正があったならオレはここにいない。この教室には監視カメラがあるからな。あれは大学レベルの知識があれば解ける問題だ。不正などせずともオレなら解けただけだ」
「……口の減らない人ね」
堀北が悔しそうに歯噛みしていた。
堀北にとっての自信の源泉が学力だったのだろうが、生憎と堀北程度の秀才など世には掃いて捨てるほどいる。自分のことを特別な人間だと思ってしまう時期なのだろうが、さっさと抜け出すことをお勧めしたい。
平田や櫛田が奔走して勉強会を開いていた。
オレはと言えば、麻耶と愛里に勉強を教えていた。残念ながら二人とも学力は平均以下だった。この学校のシステムを考えると、二人には平均以上の学力を身に着けさせておくべきだ。
「うへぇ、もう勉強やだぁ……」
麻耶がぐったりと机に倒れ込む。
「ねぇ、清隆くん。ちょっと息抜きしない?」
「しない」
「あうっ」
オレはしなだれかかってくる麻耶に軽くデコピンをする。オレも本心ではヤリまくりたいが、麻耶たちが退学になってしまえば元も子もない。
「あ、あの、清隆くん。ここ、どうやって解くのかな?」
「ああ、これは……」
愛里は勉強に取り組む姿勢は真面目だが要領が悪いタイプだった。三回以上説明しないと伝わらない。やる気のない麻耶の方は教えるとパッと理解するあたり、才能とは不公平である。
数日後。
どういうわけか堀北が勉強会を開くことになったらしい。
参加者は池と山内と須藤。クラスの三馬鹿と呼ばれる男子だった。
詳しく聞いてみたところ、池と山内が櫛田に泣き付き、櫛田が堀北を頼ったという構図だった。
これはオレの予想だが、堀北はまず間違いなく勉強会を崩壊させる。
そもそも池たちに真面目に勉強に取り組む気概が欠片も存在していない。池も山内も勉強にかこつけて櫛田と距離を縮めることばかり考えており、須藤はそんな池たちに誘われて何となく参加しているだけだった。
やる気ゼロの男子たちだ。堀北はすぐに愛想を尽かすだろう。
オレはそんな堀北に何のアドバイスもせずに放置した。
現在、堀北は孤立を深めている。元々堀北は女子からは鼻に付く態度が嫌われていた。そして今回、男子からも嫌われることになるだろう。堀北は美少女だ。男子から嫌われるのは、余程のことがなければ起こり得ない。その余程のことがこれから起こるわけだ。
オレはコンビニで無料の食材を調達してから寮に戻ろうとしていた。
今日はオフだった。勉強とセックスばかりしていたせいで、麻耶と愛里に疲労の色が見えたからだ。二人とも不満そうだったが、時にはゆっくりと身体を休めることも必要である。
晩飯の献立を考えていると、櫛田の後ろ姿を見付けた。
確か櫛田は堀北の勉強会に参加させられていたはずだ。進捗はどんな感じだろう。櫛田の様子から探ってみるのもいいかもしれない。オレはそう思って櫛田の後を尾けることにした。
「あー、ウザい」
そしてオレは心底から納得した。
「マジでウザい、ムカつく。死ねばいいのに……自分が可愛いと思ってお高く止まりやがって。どうせアバズレに決まってんのよ。あんたみたいな性格の女が、勉強なんて教えられるわけないっつーの。あー最悪。ほんっと、最悪最悪最悪。堀北ウザい堀北ウザい、ほんっとウザいっ」
誰からも好かれるクラスの人気者。
あまりにも出来過ぎたその姿は、やはり偶像でしかなかったらしい。クラスのアイドルとは言い得て妙である。
「随分と荒れているな」
「は? あんた、綾小路? ここで何してるの?」
「クラスのアイドルが何をしているのか気になってな。追いかけてみた」
「ストーカー? キモ」
櫛田がオレを睨みながら近づいてくる。
そしていきなりオレの左手首を掴むと、自分の胸に押し付けた。
「もし言いふらしたら、あんたにレイプされたって言いふらすから」
「それは無理がないか? オレは櫛田に手を掴まれて、強制的に櫛田の胸を触らされているんだが」
「誰があんたの言うことなんか信じるのよ。綾小路って二股をかけている最低のクズの小路でしょ。私とあんた、クラスのみんなはどっちを信じると思う?」
「オレに冤罪をかけるつもりか?」
「この制服にはあんたの指紋がべったりと付いてる。言い逃れできるとは思わないことね」
「わざわざそのために自分の胸を触らせたのか?」
「はぁ。察しが悪いわね。レイプ魔になりたくないなら黙ってろって言ってんの。わかった? さっさと返事をして」
「櫛田。お前はミスをしている」
「はぁ? 往生際が悪いって……」
櫛田がギリッと歯ぎしりをしたタイミングで、オレはポケットから携帯を取り出した。画面に表示されているのは最初からインストールされている録音アプリである。
オレは見せ付けるように停止ボタンを押した。
櫛田の顔がさっと青ざめる。
「あんたまさか!?」
「ちなみに死ねばいいのにあたりから録音させて貰っている」
「ふざけるな! 盗聴じゃない! 消せ! 消しなさいよ!」
櫛田がオレの携帯に飛び掛かってくる。オレに避けられても何度も諦めずに飛び掛かってきた。さながら闘牛のような絵面である。オレは櫛田が疲れてきた頃合いを見計らい足を引っかけて転ばせた。
「クソッ! クソッ、クソッ、クソッ!」
美少女にあるまじき罵声だった。
櫛田は悔しそうに何度も地面を殴り付けていた。そして不意に脱力する。
「あーあ、これで私の高校生活も終わりか。上手く行ってたと思ってたんだけどなぁ」
「もう諦めるのか?」
「その音声をバラまかれたら終わりじゃない。みんなの人気者が失墜するんだよ。女子は喜んで叩きまくってくるだろうし、男子は理想を裏切られたって被害者ぶってくる。もう詰んでるのよ」
針の筵みたいな生活を送るぐらいなら退学した方がマシ……いや、違う、櫛田は人気者でなくなるのが耐えられないのだろう。オレが言うのも何だが歪みまくっている。
「なぁ、櫛田」
オレは地面に倒れた櫛田の前にしゃがみ込む。
土とホコリで汚れた櫛田の頬を拭い、そしてオレは言い放った。
「抱かせろ」