ホワイトルームが少子化対策組織だったら   作:二見健

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 時刻は深夜。

 

 オレの部屋には櫛田が……桔梗がいた。

 

「この状況、私がレイプされたと通報したら言い逃れできないよね」

 

「そうだな。やってみるか?」

 

「……やめとく。勝てる気しないし」

 

「賢明な判断だな」

 

 オレはテーブルのティッシュの箱に立てかけていた携帯を手に取った。櫛田がそれを見て悔しそうな顔をする。

 

「録画? 二番煎じなのに、どうして気付けなかったの?」

 

「精彩を欠いている自覚はあるみたいだな。クラスのアイドルの演技は見事だとは思うが、そのせいでストレスを溜め込みすぎているんじゃないか?」

 

「……かもね。あーあ、どうしてこうなっちゃうかなー」

 

 桔梗がオレのベッドでぐぐっと背伸びをする。人並み以上の豊満な胸が強調されていた。桔梗が処女でなければ二回戦に突入していたであろう、エロすぎる光景である。

 

「佐藤さんとか佐倉さんも私みたいに脅したの?」

 

「二人はお前と違って普通の女だからな。真正面から口説いている」

 

「は? それじゃなに? 二人はあんたみたいなイカれたやつを普通に好きになったってこと?」

 

「教室での様子を見ていればわかるだろう。二人とも身も心も骨抜きにしてあるからな」

 

 桔梗が記憶を探るように目を細める。そしてゆっくりと溜息を吐いた。

 

「……言っとくけど、私は二人みたいにはならないから」

 

「それはどうだろうな」

 

「はぁ? 一回抱いたからって調子に乗らないで」

 

 桔梗はオレの言い分に苛立ちを見せたが、何度も抱いていれば女というものは情を寄せてくるものだ。オレはそれをホワイトルームで教わった。

 

 だが、それでも。

 

 桔梗がオレに屈服しないというなら、それでもいい。

 

 櫛田桔梗はオレに敗北を教えてくれるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 堀北は相変わらずだった。

 

「勉強会はもう開かないのか?」

 

「必要ないでしょう。やる気のない人に教えるのは時間の無駄よ」

 

 桔梗から聞き出した話によると、堀北と須藤が言い争いになったらしい。勉強なんて役に立たないからバスケだけしていればいいという須藤に、堀北が苦言を呈したとか。

 

 オレから言わせて貰えるなら、どっちもどっちだ。

 

 まぁ、どうでもいい。堀北の孤立が深まる結果はオレの望むところである。

 

「みんな、聞いてくれ!」

 

 朝礼前に堀北と話していると、焦った様子の平田が教室に飛び込んできた。

 

「どうやらテスト範囲が変更になっていたらしい! 茶柱先生が伝え忘れていたんだ!」

 

 ちなみに中間テストまで残り一週間である。

 

 終わったな。オレは教室で騒いでいる三馬鹿に目をやった。

 

「オレたちの退学がかかってるのにこんなのってないぜ!」

 

「学校側の不手際じゃん! こんなテストは無効だ!」

 

「ふざけんな! 今まで勉強してたとこが無駄になったってのかよ!」

 

 どうせロクに勉強していないだろうに、よく吠えるものだ。

 

 堀北は溜息を吐いていた。

 

「クラスの不要な人間を切り捨てるいい機会なのかもしれないわね」

 

「ああん!? なんだ、堀北! 俺たちに文句でもあるのか!」

 

 堀北の声はそこまで大きくはなかったが、須藤には聞こえてしまったようだ。今にも堀北に掴みかかりそうな勢いで須藤が怒鳴り声を上げている。

 

「あなたたちみたいな怠惰な人を残しておいたら、いずれ他の場面でクラスの足を引っ張られると思っただけよ。今のうちに退学になって貰った方がクラスのためになるでしょうね」

 

「堀北ァ! テメェ、言っていいことと悪いことがあるだろうが!」

 

 須藤がぶち切れて椅子を蹴飛ばした。

 

 椅子が猛烈な勢いで堀北目掛けて飛んで行く。

 

 堀北は咄嗟のことで動けず、ぎゅっと目を閉じていた。クラスの女子が悲鳴を上げる。そんな中、オレは堀北の襟首を掴んで身体を引き寄せた。堀北の身体を抱き締めたオレの背中に、須藤が蹴り飛ばした椅子が直撃する。

 

「須藤くん、何をしているんだ! 流石に今のは見過ごせないよ!」

 

「うるせぇ! 先に堀北が喧嘩を売ってきたんだ!」

 

 平田が須藤を叱り付けるが、須藤は説教を聞き入れる奴ではない。むしろ逆効果にしかならないだろう。

 

 一方、堀北はオレの腕の中で固まっていた。

 

 何も言わず、ぼうっとしながらオレの顔を見上げていた。

 

「堀北。どうした。怪我をしたのか?」

 

「え? 怪我は……ない、けど……」

 

「そうか。ならよかった」

 

「……そろそろ離してくれないかしら」

 

 堀北は耳まで真っ赤にしながら席に戻った。

 

 これは、意外と早く堕ちるかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 須藤の椅子キック事件はオレに様々な恩恵をもたらしてくれた。

 

「あの時の綾小路くん、カッコよかったね」

 

 普段のオレは昼休みは教室で麻耶か愛里の手作り弁当を食べている。しかし今日はあえて食堂まで足を運んでいた。カウンターで山菜定食が出て来るのを待っていると、軽井沢グループがオレの隣に並ぶ。

 

「でも綾小路くんって二股かけてるじゃん。それだけで有り得ないんだけど」

 

「そう言うのがいいんだよ。真面目なだけだと詰まらないじゃん」

 

「少女漫画でもちょい悪キャラの方がカッコいいんだよね」

 

「はいはい。ただしイケメンに限るってやつでしょ」

 

 食堂のおばちゃんが山菜定食をカウンターに並べてくれる。オレがそれを受け取っていると、軽井沢がオレに気付いて固まってしまった。

 

「綾小路くん!?」

 

「本人の前で言うことか?」

 

「あ、あはは。ごめんね。でも悪口じゃないからいいじゃない」

 

 悪口も混ざっていただろうと思ったが指摘しないでおいた。軽井沢は女子グループを牛耳る親玉だ。敵に回すと厄介である。

 

「綾小路くんが食堂に来るなんて珍しいよね。何時も佐藤さんたちのお弁当だったじゃない」

 

「たまには山菜定食の味が恋しくなるんだ」

 

「うわ。マジで言ってる? これ不味いよ?」

 

 軽井沢に有り得ないという顔をされる。

 

 オレはお盆を抱きながら食堂を見回した。

 

「誰かと待ち合わせしてるの?」

 

 軽井沢グループの一人、松下がオレの横に並ぶ。松下は軽井沢グループに属しているが、ギャルというよりお嬢さまのような育ちのよさを感じる少女だった。もっとも本人はそれを隠しているつもりらしいが。

 

「いや、待ち合わせではない。探し物があってな」

 

 不思議そうにしている松下を置いて、オレは山菜定食を食べている上級生の席に向かった。

 

 目的は過去問だ。

 

 オレは最初は過去問に頼るつもりはなかった。だが、今回は流石に範囲変更のタイミングが悪すぎた。テストまでもう一週間を切っている。麻耶や愛里が赤点を取る可能性が出てきていた。

 

 三年生に声をかけ、ポイントと引き換えに過去問を貰う契約を結ぶ。同じ取引を二年生にもしておいた。

 

 軽井沢たちはそんなオレをびっくりした目をして眺めていた。

 

「あの、綾小路くん。よかったらなんだけど……」

 

「心配せずとも過去問はクラスで共有するつもりだ」

 

「だ、だよねー。前から思ってたけど綾小路くんって天才じゃない?」

 

 ついでに女子からの点数を稼いでおいて損はないだろうと思っていると、軽井沢がオレを持ち上げてくれた。

 

 軽井沢と別れた後、一人で山菜定食を食べていると、軽井沢たちが当たり前のようにオレのテーブルに座ってくる。

 

「綾小路くんって勉強もスポーツもできるし、結構すごいよね」

 

「佐藤さんたちとはどれぐらいデートしてるの?」

 

 オレは軽井沢たちが望んでいるだろう言葉を返してやる。もはや彼女たちはオレのことを二股野郎に向ける目で見ていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレは上級生から送られてきた過去問をチェックしていた。

 

「ねぇ。堀北を退学にしてくれない?」

 

「藪から棒すぎて意味がわからないんだが」

 

 桔梗がベッドに寝転びながら携帯を触っていた。クラスの女子グループとチャットをしているらしい。その表情は退屈に染まっていたが、クラスカーストを維持するためには必要なのだろう。難儀なやつである。

 

 ちなみに桔梗が脱ぎ散らかした服は辺りに散らばっていた。

 

「あいつ嫌いなのよ。顔も見たくないぐらい」

 

「残念だが堀北はオレのハーレムに加える予定だ。退学にするつもりはない」

 

「チッ」

 

 相性が悪いと言うだけでは説明が付かないほど、桔梗は堀北のことを嫌っていた。

 

 桔梗にとって堀北はオレに弱味を握られることになった原因である。

 

 どうやら二人には過去に因縁があるようだが、オレは堀北ほどの美少女を逃すつもりはない。

 

「その過去問、本当に役に立つんでしょうね?」

 

「役に立たなければ、貴重な一日を無駄にしたことになるな」

 

「あんたのせいでしょうが。テスト範囲が変更されたせいで、こっちも追い詰められてるのよ。あんたの相手をしてる暇なんてなかったのに」

 

「桔梗が赤点を取るとは思えないが」

 

「低すぎる点数を取ったら馬鹿にされるでしょ。わからないの?」

 

 クラスカーストに影響が出るのが嫌らしい。堀北や幸村のような秀才たちには勝てないにしても、他人から見下されるのは嫌なのだろう。つくづく難儀な性格である。

 

 オレは過去問の確認を終える。予想通りの結果だった。前回の小テストも、次の中間テストも、毎年同じ問題が出題されていた。

 

「安心しろ。この過去問、使えるぞ」

 

「助かるけど、それってテストをする意味あるの?」

 

「さぁな。須藤みたいな奴への救済措置なのかもしれないが」

 

 オレは桔梗の身体を抱き寄せる。桔梗は身をよじって抵抗したがオレから逃れられる術はない。身体の力を抜いてオレに身をまかせると、不満げにこちらを見上げてきた。

 

「まだするの?」

 

「桔梗の身体がエッチすぎるのが悪い」

 

「私のせいにするな。あんたの性欲が……あっ、ちょ……」

 

 唇を塞ぎながら押し倒す。

 

 ほどなくして桔梗の喘ぎ声がオレの部屋に響き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレは桔梗に手伝って貰いながら過去問をクラス全員に配布した。

 

「綾小路くんマジありがとう! すごく助かる!」

 

「過去問なんて思い付かなかったよ。すごいね、綾小路くん」

 

「櫛田さんもご苦労さま。綾小路くんを手伝ってたんだよね?」

 

 事前に軽井沢グループからオレが上級生から過去問を買ったことが周知されていたが、改めてオレに称賛の声が集まった。配布を手伝っただけの桔梗にも感謝の言葉がかけられていた。計算づくでやっているのだろう。上手いこと寄生されたものである。

 

「人気者ね」

 

「皮肉か?」

 

 以前、堀北から似たようなセリフを言われた記憶がある。その時とは大分状況が変わっていた。あの時のオレはクラスの敵だったが、今では救世主だ。オレは未だに二股を続けているのだが、もはや誰もそのことを問題にしていない。

 

「正直に言えば、綾小路くんを称賛したい気持ちもあるけど、あなたにしてやられて嫉妬している自分もいるわ」

 

「随分と素直になったものだな」

 

「取り繕っても仕方ないでしょう。今回は敗北を受け入れるわ。でもいずれ私はあなたを追い越してみせる」

 

 気勢を上げているが、孤独のままでは何も変えられないだろう。

 

 堀北はまだ須藤と仲直りしていない。勉強会はまったく開かれておらず、池や山内、須藤たちは危機的状況にある。過去問のおかげで今回の赤点は回避できたとしても、次に続くことはないだろう。

 

 須藤はこの先、Aクラスを目指すなら必ず役に立つ。なのに堀北は何の手も打たなかった。それが今の堀北の限界だ。自分のことしか見えていない。堀北の能力はもう底が見えている。

 

「前回の小テストであなたが満点だった理由もこれではっきりとした。期末テストでは同じ手は使えないはずよ。そこであなたよりも高い点数を取って、私の方が優れていることを証明してみせるわ」

 

「話にならないな」

 

 やはり何も見えていない。今のオレがクラスから称賛されているのは、テストで高得点を取れるからではない。クラスの役に立っているからこそ、二股をかけているクズが称賛されているのだ。

 

 愚かな女だ。だからこそ愛らしいと思えるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 中間テストが終わった。

 

 結果発表はその日のうちに行われた。黒板に張り出された紙を見て、須藤が「やったぜ!」と喜んでいる。

 

 麻耶や愛里も過去問のおかげで八十点以上を取っている。次は自分の実力で同じぐらいの点数を取って貰いたいが、今はオレの女たちが学校に残留できたことを喜んでおこう。

 

「過去問を使っているのに三十五点しか取れないというのは理解に苦しむわね。流石にこの方法はこれきりでしょうし、須藤くんたちは期末テストをどのようにして乗り切るつもりなのかしら」

 

「いや、須藤に次はない」

 

「どう言うこと? 赤点は三十二点のはずでしょう?」

 

「お前は疑問に思わなかったのか。なぜ赤点は三十二点という中途半端な数字になっているのか」

 

「それは……まさか……」

 

 堀北が驚愕していると、茶柱がマジックを取り出して須藤の名前の上に一本の線を引いた。

 

「綾小路の言う通りだ。今回の中間テスト、Dクラスの赤点ラインは四十点。残念ながら須藤は退学だ」

 

 須藤の点数では五点も足りていない。オレの頭の中には点数を買って須藤を救済するというプランもあったが、五点を買うのは難しいだろう。Dクラスのポイントをかき集めてようやくと言ったところか。

 

「ウソだろ……俺が……退学ってことかよ……」

 

 勉強していないのだから退学になるのも致し方ないだろうに、須藤は愕然としていた。

 

「ふざけんな! こんなの無効だ!」

 

 須藤は己の自業自得を棚に上げて、茶柱に食ってかかっていた。

 

 これで須藤のバスケットボール選手になるという夢も一気に遠のいた。

 

 バスケのプロになるなら大学でバスケをすることも考えなければならないのに、なぜ勉強は必要ないという結論になるのか、俺は不思議で仕方がなかった。おそらく須藤は堀北の言う通り、何も考えていなかったのだろう。

 

「退学者を出したクラスからは二百のクラスポイントが引かれることになっている。お前たちの百七クラスポイントはこれでゼロになった。だが安心しろ。クラスポイントの最低値はゼロだ。マイナスになることはない」

 

 茶柱は須藤の退学が確定したと決め付け、退学者を出した時のルールを淡々と説明していた。

 

「そんな! 須藤くんを救済する方法は本当に何もないんですか!?」

 

「諦めろ、平田。赤点は退学。それがこの学校のルールだ」

 

 平田が茶柱に食ってかかっているが、茶柱は冷たく切り捨てるだけだった。

 

「で、でも、学校側にも問題があります! 急なテスト範囲の変更が須藤くんの点数に影響を及ぼしていないとは言えないですよね!? 須藤くんに追試を受けさせるなど、何らかの方法で補填して貰う必要があるはずです!」

 

「そうだな、平田。確かにあれは私のミスだ。だが、なぜ今になってその話を持ち出してきた? あれは一週間前に起こったことだ。今になって蒸し返してくるのは卑怯ではないか?」

 

 よく言うものだ。テスト範囲の変更の伝達ミスはどう考えても茶柱が悪い。だが、時機を逸してしまったのも事実である。

 

「そんな……嫌だ……俺、退学したくねぇよ……寛治、春樹、俺を助けてくれよ……」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

「健……悪い……」

 

 池と山内は後ろめたそうに目を逸らす。

 

「そ、そうだ! 綾小路! 何かいい方法があるんだろ! お前って頭いいから、なんかいい方法を思い付いてるんだろ!?」

 

「須藤。悪いが、流石に五点は無理だ」

 

 須藤の身体能力はこの先必ず役に立つ。

 

 そのことを理解していながらオレは須藤を切り捨てた。

 

 オレの目的、ハーレム計画に須藤はまったく必要ない。

 

「綾小路……平田……櫛田……ホントに何もないのか?」

 

「須藤くん、諦めないでくれ! きっと助かる方法はあるはずだ!」

 

「平田くんの言う通りだよ! みんなで須藤くんを助ける方法を考えよう!」

 

 桔梗が心にもないことを言っているのを眺めていると、茶柱が茶番だと言いたげに鼻で笑い「ホームルームは終わりだ」と言って教室を出て行った。

 

「綾小路くん。本当はあるのでしょう?」

 

「さて、どうだろうな」

 

 惚けるオレを堀北が睨み付けてきた。

 

 こうして須藤は退学になった。須藤は最後まで抵抗を続け、教師たちに取り押さえられていた。




須藤の点数が足りない自業自得だったこと。須藤が堀北に椅子を蹴飛ばしたなどで平田は爆発しなかったという解釈でお送りしています。
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