ホワイトルームが少子化対策組織だったら   作:二見健

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 オレが部屋で桔梗を可愛がっている時だった。

 

 ドアが開く音は聞こえていたが、オレは気にせず桔梗を責めていた。桔梗はオレにぎゅっと抱き着いて甘い音色を奏でている。

 

「え、ちょ、これ、どう言うこと!?」

 

 部屋に入ってきたのは麻耶だった。

 

 オレは自分の女には合鍵を持たせている。いずれこうなる日が来るのはわかっていた。むしろ遅すぎたぐらいだ。

 

「櫛田さん!? え、何時から!? マジでどうなってるの!?」

 

「やだ……佐藤さん、見ないで……」

 

 桔梗が恥ずかしがって布団を頭から被ってしまう。

 

 オレは行為の邪魔をされたせいで不完全燃焼になっていた。ギンギンになっているそれに麻耶の視線が釘付けになっていたが、とりあえず先に話を聞くことにした。

 

「どうした。連絡もなくオレの部屋に来るなんて珍しいな」

 

「それはごめんなさい……でいいんだよね?」

 

 麻耶は釈然としない様子だった。三股かけているところを見せ付けられた女の反応としてなら間違っていると思うが、オレに倫理観をぶっ壊されたせいで、今の麻耶は何が正しいのかわからなくなっているようだ。

 

「えっと、清隆くんに相談したいことがあったんだけど……」

 

「Cクラスの件か?」

 

「そうなんだけど、よくわかったね」

 

 それ以外にアポなしで突撃してくる理由はないからな。

 

 Cクラスの次のターゲットに麻耶が選ばれたか、あるいは。

 

「相談者は私じゃなくて長谷部さんなんだけど、話を聞いてあげられない?」

 

 どうやらまた獲物が近付いてきてくれたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 淫臭が漂っているオレの部屋に長谷部を招き入れることもできず、場所を変えることにした。

 

 オレは喫茶店に入ったのは初めてだったが、同行している麻耶や桔梗たちは慣れたように席を取っている。

 

「それにしても、びっくりだよ。櫛田さんまで清隆くんの毒牙にかかっちゃったんだね」

 

「う、うん。成り行きでね」

 

「それで、清隆くんに口説かれたの? 清隆くん二股かけてて有名だったのに、よくオッケーしちゃったね」

 

「私も綾小路くんのこと、前からカッコいいと思ってたから」

 

 オレに弱味を握られて股を開いているとは言えず、桔梗は即興でエピソードを作っていた。

 

 時刻はすでに夜の八時を回っている。

 

 喫茶店の中にいる客は数人だけだ。盗み聞きされる心配はないだろう。

 

 待ち合わせの時間はまだ先だったが、喫茶店の扉が開いてドアベルが鳴り、巨乳の美少女が店内に入ってくる。麻耶が手を振ると、こちらに気付いた長谷部が近付いてきた。

 

「ごめんね。待たせちゃった?」

 

「別にいいよ。こっちが早すぎただけだから。あ、飲み物を注文するよね。ここは清隆くんの奢りだから好きなの頼んでいいからね」

 

「それじゃ、アイスコーヒーで」

 

 長谷部が桔梗の隣に座った。クールでありながら、アンニュイな雰囲気もある。高校一年生ではあるが可愛さよりも奇麗さが際立っていて、ある意味でクラスで浮いている美少女だった。

 

「本題は飲み物が来てからにするか」

 

「うん。本当なら相談者の私が払うべきなんだけど、奢って貰っていいの?」

 

「こういう時に女に支払わせるほど甲斐性のない男ではないつもりだ」

 

「ありがと。綾小路くんって二股さえかけてなかったら優良物件なんだけどね」

 

「事故物件で悪かったな」

 

「二股じゃなくて三股なんだけどね。……あ」

 

 口を滑らせてしまった麻耶が慌てて口を手の平で隠していた。

 

 長谷部が隣の席の桔梗を見詰めて「まさか」と呟いていた。

 

 桔梗がこの場にいる理由に思い至ったようだ。麻耶の失言がなければ幾らでも言い逃れはできたが、覆水盆に返らずである。

 

「綾小路くん、流石だね。ここまで節操がないと尊敬しちゃうかも」

 

「まだたったの三人だ。その言葉は後に取っておいた方がいいぞ」

 

「まだ増やすの?」

 

 長谷部が苦笑したタイミングで店員がアイスコーヒーを持ってくる。ミルクとシロップを足しながら、長谷部が「そろそろいい?」と本題に入った。

 

「今日の昼休み、食堂から戻ってくる時にCクラスの女子に声をかけられたの。相手の名前は知らない。放課後に体育倉庫の裏に来いって言われたんだけど」

 

「それって例の?」

 

「多分そうでしょ。三宅くんと山内くんのことがあるから行かなかったけど」

 

 現在の時刻は午後の八時半だ。一応まだ放課後ではあるが、長谷部を呼び出した相手は今頃ぶち切れているかもしれない。

 

「別に放っておいてもいいと思ってたんだけど、Cクラスって荒っぽい男子が多いみたいだし、段々と不安になってきて。それで佐藤さんにチャットで相談してみたの」

 

「相談相手に麻耶を選んだのは、その恋人がオレだったからでいいんだよな?」

 

 もし違ったらオレは今すぐこの場から立ち去るつもりだ。

 

 自惚れではなくオレはクラスにそれなりの貢献をしている。もう一つの選択肢として平田に相談するというのもあったが、平田ではなくオレを選んだ理由があるのだろう。

 

「どうして平田じゃなくて俺なんだ?」

 

「平田くんはいいけど軽井沢さんがね」

 

 桔梗は苦笑していたし、麻耶が「わかる」と頷いていた。三人とも軽井沢への信頼が低すぎる。

 

「軽井沢さんまで話が行けば、面倒なことになりそうだよね」

 

「絶対にクラス中に話が広まっちゃうって。女の子は面白おかしく話を膨らましそうだし、男子は長谷部さんは俺が守るって勘違いした奴が出て来るでしょ」

 

「やめてよ。想像しただけで頭が痛くなってきたんだけど」

 

 長谷部がげんなりしながらストローでコーヒーをすする。横髪を手でかき上げる仕草が色っぽかったが、注視するのはやめておいた。この手の女は自分がどう見られているかわかっていることが多い。

 

「話を戻すぞ。今日の呼び出しを無視して、それで相手が諦めてくれるならそれでいい。だが、そうではなかったら、怒り心頭になった相手が何をしてくるか読めない。不安だから助けて欲しいってことでいいんだよな?」

 

「話をまとめてくれてありがと。綾小路くんはどうしたらいいと思う?」

 

「登下校や買い物などで一人になるのはお勧めできない。監視カメラのないところに連れ込まれたら、酷いことになるだろうからな」

 

「酷いことって、男子に無理矢理……?」

 

 桔梗が顔を青ざめさせている。か弱い女子の演技である。

 

「ちょっと、やめてよ! 想像しないようにしてるのに!」

 

「ご、ごめんね。でも私、怖くて……」

 

「櫛田さんは綾小路くんに守って貰えるからいいじゃない。私の場合は洒落にならないのよ」

 

 長谷部がそのような目に遭う可能性は決して低くはない。孤立している美少女などカモがネギを背負っているようなものだ。

 

「とりあえず長谷部と麻耶が仲良くなったということにするか。麻耶との繋がりがあればオレが一緒に行動していても不自然にはならないはずだ」

 

「でもそれって私まで綾小路くんの女として見られそうじゃない?」

 

「十中八九そうなるだろうな。嫌なら他の男子を頼ってもいい」

 

 流石に麻耶では護衛にはならない。護衛をするなら男子であることが条件になる。長谷部に当てがあるならそれでいいが、友達のいない長谷部に他に頼れる相手がいるとは思えなかった。

 

「それって実質選択肢がないじゃない」

 

「嫌なら別に構わない。こっちもボランティアは気が進まないんだ。正直言って、こっちは早く帰って麻耶や桔梗とイチャイチャしたいぐらいなんだぞ」

 

「……ごめん。綾小路くんに文句を言える立場じゃなかったよね」

 

 長谷部はCクラスに絡まれた被害者だが、だからと言ってオレに無償の奉仕を望める立場ではない。そのことに気付いた長谷部が目を伏せて謝ってくる。

 

「綾小路くん。しばらくの間、迷惑をかけるけど頼んでもいい?」

 

「ああ。頼まれたからには全力を尽くそう」

 

「ありがと。綾小路くんって意外にいい人なんだね」

 

 そうでもないけどな。

 

 長谷部がオレに気を許し始めている手応えを感じながら、オレは長谷部を部屋に連れ込むまでの計画を練り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 長谷部の相談の翌朝。

 

 オレが朝食を用意している時だった。

 

「清隆くん、携帯鳴ってるよ」

 

 シャワーを浴びた後、バスタオルで髪を拭いている愛里が台所にいるオレに声をかけてくる。

 

 オレは後で見ると返事をして、トースターから食パンを取り出した。食パンは無料の商品である。焼いた食パンにマヨネーズをかけてから目玉焼きを乗せる。最近はこの食べ方がオレのお気に入りだ。

 

 食物繊維を取るためにワカメスープを付けて、横に牛乳を置けば、意外に栄養バランスの取れた朝食の完成である。

 

 もちろん愛里の分も用意してある。二人でテーブルを囲んだ。

 

 オレは携帯を眺めてから愛里に告げる。

 

「八時ジャスト、寮の玄関で麻耶と待ち合わせみたいだ」

 

「麻耶ちゃんと? 何時も部屋まで迎えに来てくれるよね?」

 

「訳ありでな」

 

 長谷部と待ち合わせるために、麻耶が先に玄関に下りているという意味だ。

 

 ちなみに愛里には麻耶からオレのハーレムに桔梗が加わったことは伝わっているはずだが、愛里の方からは何も言ってこなかった。不安そうに何度かこちらを見詰めてきたが、それだけだった。いじらしい女である。

 

 身支度を整えて玄関に下りる。愛里が麻耶を見付け、ぱっと明るい顔をして駆け寄ろうとするが、直前でオレは愛里の手を掴んだ。

 

「清隆くん、どうしたの?」

 

「少し待ってくれ」

 

 短く告げる。

 

 麻耶の横にいるのは長谷部だった。朝からアンニュイな雰囲気だが、その傍には見慣れない女子がいる。

 

「ねぇ。どうして昨日来なかったの? 約束したよね。放課後、体育倉庫の裏に来るって。私たちずっと待ってたんだけど」

 

「行くわけないでしょ。約束なんてしたつもりはないし、私とあなたはただの他人だよね。私はあなたの名前すら知らないんだから」

 

「そんな態度でいいの? 私を怒らせたら大変なことになるわよ?」

 

「大変なことって何?」

 

「だから、大変なことよ。うちのクラスには怖い奴が沢山いるんだから」

 

 女子が意地悪な笑みを浮かべる。

 

 獲物を前に舌なめずりするような表情だった。

 

「もういいでしょ。早く消えて。私はあなたの相手をするつもりはないから」

 

「ふん。後悔しないといいけどね」

 

 捨て台詞を吐いて立ち去る女子の後ろ姿を眺め、長谷部が深い溜息を就いた。

 

 そこでオレが姿を現す。

 

「ちょっと、護衛。もっと早く出てきてよ」

 

「悪かった。で、麻耶。相手に心当たりはあるか?」

 

「多分Cクラスの女子だと思うけど、よくわからない。探った方がいい?」

 

「いや、わからないならそれでいい。深入りして麻耶まで目を付けられたら元も子もないからな。あいつはCクラスの女子と決め打ってもいいはずだ」

 

「綾小路くん」

 

 そこで長谷部がオレをムッと睨んでいることに気が付いた。どうやらご立腹のようだ。

 

「私、まだ謝って貰ってないんだけど?」

 

 悪かったと言ったはずだが。いや、それだけでは足りないと言うことか。

 

「甘い物でも奢ればいいのか?」

 

「よろしい。それでチャラにしてあげる」

 

 いい性格をしている。

 

 長谷部もポイントに苦しむDクラスの一人だった。

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