ホワイトルームが少子化対策組織だったら   作:二見健

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 放課後。

 

 オレは約束を果たすべく長谷部たちとカフェまで足を運んでいた。ケヤキモールの中にある店の一つで、スイーツが評判らしい。

 

 同行者は麻耶である。愛里は万が一を考えて連れてくるのはやめておいた。

 

 オレは店の前で足を止める。

 

「清隆くん、入らないの?」

 

「あ、もしかしてビビってる? 男子が入るにはキツい雰囲気だよねー」

 

 長谷部が意地の悪い笑みを向けてきた。

 

 店内にいる客は女子ばかりだった。数組のカップルはいるものの、男子はお断りといった雰囲気である。しかしオレが気にしているのは別のことだった。

 

 オレたちには尾行者がいた。

 

 尾けてきているのは他クラスの男子だ。おそらくはCクラス。男一人で店の中まで入ってくることはないだろうが、電話で誰かと連絡を取り合っているのが気になった。

 

 気配に注意を割いていると麻耶がオレの腕を引っ張ってくる。

 

「観念しなよ、清隆くん。何事も経験だよ?」

 

「そうだな。この先デートで使う機会もあるだろうし、今のうちに慣れておくか」

 

「えへへ。また今度二人きりで来ようね」

 

「こらこら。店の前でイチャつかないで」

 

 長谷部に背中を小突かれて店に入る。

 

 今日はオレの奢りである。もちろん麻耶の分も受け持つつもりだ。中間テストで上級生から過去問を買ったせいでポイントにはあまり余裕はないんだけどな。

 

 オレはコーヒーだけで済ませるつもりだったが、それでは楽しめないと苦言を呈され、いい値段がするパフェを注文させられた。今日はもうポイントのことは忘れてしまった方がよさそうだ。

 

 注文は済ませたのにメニューを広げてお喋りしている少女たちを眺めていると、店の中にオレたちを尾行していた男子が入ってきた。その隣には見慣れない女子がいる。

 

 気が強そうな小柄な少女だった。「なぜ私が」と言いたそうに、全身で不満を表している。どうやら尾行者の男子は仲間を動員したようだ。

 

「清隆くん、また女の子を物色しているの?」

 

 麻耶が不満そうにオレを見詰めている。

 

 楽しい雰囲気に水を差すことはないだろう。オレはCクラスの尾行のことは伏せておいた。

 

「誤解だ。今のオレは長谷部を口説くことしか考えていない」

 

「うわ、最低すぎるんだけど。Cクラスの男子より綾小路くんの方が危なくない?」

 

「オレは無理矢理はしないからCクラスの男子よりはマシだと思うぞ」

 

 桔梗は無理矢理だったが、オレはそのことを棚上げして言う。

 

「まぁ、綾小路くんは酷いことはしてこないか。綾小路くんって意外と紳士的で驚いてるんだよね。佐藤さんたちが好きになったのもわかるかも」

 

「そうでしょそうでしょ。清隆くんはクラスで一番カッコいいんだよ」

 

「平田くんの方がよくない?」

 

「平田くんも悪くはないんだけどね。やっぱ私は綾小路くんかな」

 

「愛されてるねー、綾小路くん」

 

 始終オレが弄られている感じだったが、長谷部はトラブルのことを忘れているように明るく笑っていた。

 

 麻耶たちは一時間ほどお喋りに興じていた。そろそろ店を出ようと言うことになって、オレたちは楽しい雰囲気を維持しながら店を後にする。

 

 十七時を回っているが、六月半ばなので外はまだまだ明るかった。

 

「ねぇ、長谷部さん。今日は清隆くんの部屋で一緒に晩御飯を食べるんだけど、よかったら長谷部さんも……」

 

「ごめんね。そこまで深入りするつもりはないんだ」

 

 麻耶が波瑠加を誘っていたが、すべてを言い終える前に長谷部がきっぱりと断っていた。

 

「誘ってくれるのは嬉しいんだけどね。悪いのは私の方。人付き合いが、どうしても駄目なの」

 

「気にしないで。こっちこそごめんなさい」

 

「佐藤さんが謝ることじゃないよ。悪いのは……」

 

「ストップだ」

 

 オレは横から口を挟んだ。

 

 尾行していた気配が一気に距離を詰めてくる。

 

 さらにオレたちの前から二人の男子が現れた。

 

「何の用だ?」

 

 通行人はゼロではない。男子三人と女子一人に取り囲まれているオレたちは多少の注目を浴びていた。さらに近くの街頭には監視カメラが取り付けられている。この場で襲ってくることはないだろうが大胆なことをしてきたものだ。

 

「綾小路だったな。二股をかけてるって噂は聞いているが、あんま強そうじゃねぇな」

 

「ちょっと、あんたたちは何なの! いきなり現れて清隆くんをディスってるんじゃないわよ!」

 

「女は黙ってろ」

 

 ガタイのいい男子だった。こいつが三宅や山内を襲った喧嘩慣れした男子だろう。

 

「ついて来い」

 

「断ったら?」

 

「お前の大事なものをぶっ壊してやるよ」

 

 おそらくは脅しだろうが、聞き逃せる言葉ではなかった。

 

 オレは隣にいる長谷部を見た。気丈に振舞っているが、その表情は曇っている。オレに見捨てられる恐怖と、男子に襲われる恐怖。それが長谷部から厭世的な雰囲気を消し飛ばしていた。

 

「どちらも受け入れられない。話はそれだけか? なら帰ってくれ」

 

 ガタイのいい男子はハッと笑った。

 

「逃げたいなら逃げてもいいぞ。だがその場合、お前の女を一人ずつ襲えって指示されてる」

 

 脅しだとしても無視できない話だった。

 

 ここで立ち去れば、オレはずっとこいつらの脅威に晒され続けることになる。

 

「わかった。どこに行けばいい」

 

「こっちだ」

 

 麻耶が「ちょっと」とオレの袖を引いた。

 

「これ、ヤバいんじゃない?」

 

「多分そうだろうな」

 

 オレのとぼけた返答に、麻耶が「どうしよう、どうしよう」と焦り始める。

 

 案内された先はコンビニの裏手にある雑木林だった。

 

「ここって監視カメラは?」

 

「あるわけねぇだろ。俺たちも馬鹿じゃねぇ。それぐらいの知恵は回る」

 

 麻耶の呟きを拾って、ガタイのいい男子が答える。

 

「さて、始めるか」

 

 その合図に従い、三人の男子が一気に動いた。

 

「きゃぁっ!」

 

「ちょ、やだっ!」

 

 男子二人が麻耶と長谷部に飛び掛かり、二人を地面に倒して背中を押さえ付ける。

 

「……はぁ」

 

 さらに小柄な女子が溜息を吐きながら携帯のカメラをオレに向けてくる。

 

 あらかじめ打ち合わせをしていたような機敏な動きだった。

 

「女を返して欲しければ俺を倒してみろってことだ。簡単だろ?」

 

 やはり性暴力を行うつもりはなさそうだ。

 

 奴らがその気なら最初に潰すのはオレになる。オレを潰した後ならじっくりと好きなように二人を料理することができるからだ。

 

 奴らの目的はオレだ。

 

 おそらくはオレを挑発して殴らせるのが目的なのだろう。小柄な少女が構えているカメラはその証拠を押さえるためだ。

 

 三宅は反撃しなかった。山内は弱すぎた。

 

 特別棟に呼び出す手段はそう何度も使えない。平田の呼びかけでCクラスは警戒されている。だから長谷部に目を付けた。腕っぷしに自信のある男子を引っ張り出すためだ。

 

「ほら、抵抗してみろよ。早くしないとお前の女が大変なことになるぞ?」

 

「すまないが、喧嘩は苦手なんだ。勘弁してくれないか?」

 

「嘘でしょ? 冗談言ってないで早く助けてよ!」

 

 長谷部が必死に叫んでいる。

 

 男子たちはオレに軽蔑の目を向けてきた。

 

「なんだ、こいつも雑魚か? またハズレかよ」

 

 ガタイのいい男子が溜息を吐く。

 

 そしていきなりオレに拳を放ってきた。オレはわざとらしく身体をくの字に折る。

 

「清隆くんっ!?」

 

 麻耶が悲鳴を上げる。

 

「おらよっと!」

 

 さらにガタイのいい男子の拳がオレの背中に叩き込まれていた。

 

「ハッ! 最初の威勢はどこに行った? ほら、反撃してみろよ!」

 

 何度も殴られて蹴られ続ける。

 

 麻耶はもう見ていられないと顔を背けていた。

 

「綾小路くん……」

 

 長谷部は殴られているオレを痛ましそうに眺めていた。

 

 その表情が段々と諦観に染まっていく。そして長谷部は深々と溜息を吐いた。

 

「もう、いい。私のことは好きにしていいから、綾小路くんは許してあげて」

 

「……へぇ」

 

 麻耶たちを押し倒している男子たちが下卑た笑みを浮かべている。

 

 長谷部の方から提案してきたなら強姦にはならないと皮算用をしているのだろう。

 

 オレを殴っていた男子が詰まらなそうに鼻を鳴らす。

 

「お前はそれでいいのかよ。一発ぐらい殴ってこいよ。女が身体を張ってんだぞ。助けたいとは思わねぇのかよ?」

 

「当然のことを聞くな。こっちにも準備があったんだ」

 

「ああん? 何を言ってる?」

 

「そろそろ出てきていいぞ」

 

 オレは明後日の方向を向いて言い放った。

 

 木々の裏から出て来たのは桔梗だった。その手には携帯が握られている。

 

「チッ! おい、携帯を渡せ!」

 

「うわ、こっち来た。綾小路くん。携帯渡していい?」

 

「その必要はない」

 

 撮影に気付いた小柄な女子が苛立ちながら桔梗に手を伸ばす。

 

 その手をパッと掴んだのはオレだった。

 

「え? なんであんたが……」

 

 言葉の途中で少女の身体が宙を舞った。

 

 捻ってから投げる。少女の身体が宙でくるりと回転する。少女は背中を地面に打ち付けられて呻き声を上げていた。

 

「テメェ、何をした!?」

 

「正当防衛の証拠は揃った。反撃させて貰うぞ」

 

 まずは一人。フックで側頭部を刈り取るように殴る。衝撃で脳を揺らされた男子は失神するように倒れた。

 

 流れるように二人目も潰す。

 

 最後に残ったガタイのいい男子が額に汗を浮かべていた。

 

「おいおい。今まで余裕ぶっこいてたのかよ」

 

「お前はオレの女に手を出すと言ったよな」

 

「……ぐっ、おえっ」

 

 顔面にジャブを二回。ガードが上がったところで腹に拳を叩き込む。ガタイのいい男子は蹲ってゲロを吐いていた。

 

「おそらくは脅しなのだろう。だが、あれは聞き捨てならなかった」

 

 胸倉を掴み、反対の手で顔面をぶん殴る。

 

「撤回しろ」

 

 二発目を入れる。男子は何も言わない。

 

 三発目。鼻が折れて男子の顔面が血まみれになる。

 

 四発目。拳を振り上げる。

 

「ま、待ってくれ! て、撤回する! もうお前には手を出さない!」

 

「違うだろう?」

 

 オレはもう一発殴っておいた。男子の股間から液体が溢れ出す。

 

「ゆ、許してくれ……何でもするから……」

 

「オレの女に手を出さない。早く復唱しろ」

 

「て、手を出さない! だから、お願いだから殺さないでくれ!」

 

 オレは男子の胸倉から手を離した。

 

 微妙に言えてないが、心は折ってある。二度とオレの女に手を出そうとは思えないだろう。

 

「きよぽん!」

 

 オレが踵を返して少女たちのところに戻ると、長谷部が正面からオレに抱き着いてきた。

 

「大丈夫だった!? 怪我はない!?」

 

「大した怪我はないが……」

 

 あの程度の攻撃はオレには効かない。

 

 だから長谷部の心配は杞憂なのだが、きよぽんとは何のことだ。

 

「もう、無茶しないでよ……私、マジで怖かったんだから……」

 

「それはすまない。だが、きよぽんとは……」

 

「清隆くんっ!」

 

 麻耶までオレに抱き着いてくる。だから、きよぽんとは何だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 意外にも波瑠加は情熱的な女だった。

 

 きよぽんと離れたくないと言われてしまう。そしてオレは据え膳を食わない男ではないので、波瑠加を部屋に連れ込んで頂くことにした。

 

 麻耶は遠慮してくれた。物わかりのいい女で助かる。

 

「……ケダモノ」

 

 布団で顔を半分隠した波瑠加からジト目を向けられる。

 

 殴り合いの喧嘩をして気が昂っていたのもあるのだろう。さらに愛里に匹敵する巨乳にオレは興奮してしまった。処女が相手なのに加減が効かなかった。もっとも波瑠加の方も痛がっていたのは最初だけで、すぐに順応していたのだが。

 

「きよぽんって喧嘩も強かったんだね」

 

「昔に色々あってな」

 

「ふーん。話してくれないんだ?」

 

「あまり面白い話じゃないからな。聞かないでくれると助かる」

 

「まぁいいけどね。ちゃんと責任を取ってくれるなら」

 

 責任か。

 

 この学校に来る前、オレは特定の女を作れなかった。リピーターもいたが割り切った関係でしかなかった。

 

 しかし彼女たちは違う。

 

 一回だけで終わる関係ではない。彼女たちはオレの女であり所有物でもあった。もはや簡単に手放すことなんて考えられない。

 

「ちょっと。そこで黙らないでよ」

 

「心配するな。責任の取り方を考えていただけだ」

 

「え、それって?」

 

「最後まで面倒を見るつもりだ」

 

 それがハーレムを作った者の責任だろう。

 

 波瑠加が顔を真っ赤にしながらオレに抱き着いてきた。

 

「ね、きよぽん?」

 

 不本意すぎるあだ名で呼ばれてしまう。

 

「もう一回、する?」

 

 断る理由はオレにはなかった。

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