平安に生まれ変わったら九十九さんがいたんだが   作:位相波羅蜜光の柱

2 / 7
チョーシ乗ってる術師の上から最強が

 

 

 禪院真依の人生は諦観に満ちていた。

 己を虐げた者がいた、蔑んだ術師がいた、仲間だと思っていた女中に影で馬鹿にされていたなんてよくある話だ。

 呪力が少ないから、術式が相伝ではないから、術師としての力が足りないから、そんな理由で自分を下に見る者は禪院家には山のようにいた。

 だが、それでも、自己を強者とし真依を嘲笑う彼らですらもそこには到達できなかった。

 呪術の極致、領域展開。

 それが今、目の前で展開された。

 

「ありえない!なんで──」

 

 咄嗟に出たのは拒絶の言葉、目の前の現実で起こった出来事への否定。

 『なんでこんな調子に乗った奴が領域を使えるんだ』という五条悟を初めてみた時と同じ感情が彼女の中で渦巻く。

 仕方がない事だから、言ってもどうにもならないから、長らく抑え込んでいた感情の発露。

 それを見た穂乃果は懐かしそうに微笑んでいた。

 

「似てる、似てるよオマエの目。日月星進隊を抜けるように促した時の亨子にそっくりだ」

 

「……ッ!」

 

 どこまでも上から目線、そこに悪意が含まれていないことくらい真依はとっくにわかっていた。

 だというのに苛立ちは収まることなく膨れあがっていく。

 誰かに見下されるのは日常茶飯事じゃないか、代わりに誰かを見下すのもいつものことじゃないか、そう思えど何故か今だけは。

 原因不明の苛立ち、だが真依がそれに翻弄されることはなかった。

 低級とはいえ彼女も命をかけて呪霊と戦う呪術師、加えて感情のコントロール技術は躯倶留隊で叩き込まれている。

 一つ大きく息を吐いて真依は気持ちを整えた。

 

「アナタが私を誰に重ねてるかは知らないし、そんなことはどうでもいいからさっさとここから出しなさい。余計な時間を使う暇はないの、寝不足は肌に悪いのよ」

 

「いや、オマエ夜食喰いに来てたんじゃないの?」

 

「それはそれ、これはこれよ」

 

「えー」

 

 あまりに流暢な現代語にラフな言葉使い、これが本当に千年前の術師なのかと疑ってしまうが流石に領域まで張られてしまっては疑うことは出来ない。

 逆に領域を使えるほどの術師が成り切りをして遊んでいる方が怖い、呪術的ではなく人間的に怖い話になってしまう。

 なんらかの手段を用いて現代知識を学習したのだろうと結論付け、敵意を向けてこない少女の方へ近づいていく。

 

「ええっと、それで……なんで私を領域の中に?」

 

 先程まで混乱して考えもしなかった質問、目先の最重要事項を問いかける。

 

「まぁ、単純に僕が藤原穂乃果だって証明するの面倒くさかったし……それに何より構築術式だ。真依さん、オマエ三級でしょ?」

 

「そうだけどなんで知ってんのよ」

 

「うーん、勘?」

 

「はぁ……」

 

 呆れつつも真依は目の前の少女に対する分析を進めていった、いくら敵意が感じられないとはいえ価値観も時代も何もかもが違う術師なのだ、警戒するに越したことはない。

 当然のことながら警戒しているのを気取られないように細心の注意を払っていた。

 紺色の着物を着こなし、後ろで束ねた黒髪は艶やか、顔立ちは整っていて肌は綺麗だ。

 針動呪法について伝わっている事は少ない、藤原穂乃果以外の使い手は歴史上一人も観測されていないからだ。

 肝心の術式は『刻』に関するものだと言われているが真偽の程はわからない。

 

「そんな事はどうでもいいんだ。重要なのは構築術式の使い手がどうして三級なんて低位に留まっているのか」

 

「それは」

 

 構築術式は異色の術式だ。

 呪術の発動後も物体が残り続けるという点で見ればあまり他に見ない珍しい術式と言えるだろう。

 だがそれ故に呪力効率があまりに悪いことが欠点である。例に漏れず真依もその弱点に苦労していた。

 日に銃弾を1発、それが限度。

 ただでさえ少ない呪力量を振り絞って構築しても銃弾1発で終わってしまう。しかもその程度ですら体に負担を掛けるというオマケ付きだ。

 

「……アナタには関係ないでしょ」

 

 相手は真依の事情を知らないから仕方がないとはいえ、心の柔いところを撫でられたような不快な気分が真依を襲った。

 

「いやぁ、それが実際無関係ってわけじゃないんだよ。僕の目的からしても君の生死からしてもね。それでなんだけどちょっとこれ見てよ」

 

 穂乃果が手を振ると、領域内に黒い球が生まれた。

 それと同時に、今まであまり気にする余裕もなかった領域の内装が真依の目に入る。

 天井には幾つものランプが浮かんでいて、よく見れば 地面には大きな懐中時計のような模様が描かれている。

 チクタクチクタク、耳を澄ませば時計の針の音が聴こえてくる。

 

「なによこれ」

 

「これは、完全な球体。実現不可能とされている真球、その紛いものだよ。万にこれを教えたのは僕だけど、その僕自身すら最後まで作ることの出来なかった二重の意味でのアンタッチャブル」

 

「ふぅん。それで、ヨロズって誰よ」

 

 あったばかりの人から知らない人の話を聞かされることほど苦痛な事はない。真依はまだ学生だが大人の飲み会とかはこんな感じなのだろうかと思った。

 

「平安の術師さ、五虚将皆殺しって言っても伝わらないだろうけど、オマエと同じ構築術式の使い手だって言ったらわかる?ちなみに現代だと多分特級になれるくらいには強いよ」

 

「……!成る程、それで私に真球とやらを教えようと?アナタになんのメリットがあるのよ。胡散臭い」

 

 何故だかはわからないが、この少女は真依を強くさせようとしているらしい。

 だが、あまりにも胡散臭すぎる。

 無償の善意など、真依の人生に於いて与えられたことはなかった。

 唯一、姉からの優しさを除いては。

 

「メリット?勿論あるさ。正直真球使いが一人くらい欲しいんだよね。一億呪霊を作られるのは困るけど、だからといって死滅回遊の開催を阻止しちゃったら九十九さんと亨子が蘇れない」

 

 シメツカイユウ、一億呪霊、訳の分からない固有名詞を使いながら穂乃果は話を進めていく。

 

「対羂索用の戦力として暗殺に不意打ちになんでも使える真球使いが一人欲しい。万を仲間に誘える自信はないしね」

 

「……つまり、アナタは私を都合のいい戦力として使いたいってこと?それならお断り、なんで私がそんなことをしなくちゃならないのよ。それに、真球?こんな大きい球つくれるわけないじゃない」

 

「そうだね、もっともな疑問だ。一個ずつ答えていこっか。じゃあまず──────なんだ?」

 

 不意に穂乃果は上を向いた。

 同時に、真依もその異質な呪力を感じ取っていた。

 

「なによこれ…!」

 

「領域内にまで通じる呪力⁉︎いや待てこれは、嘘でしょ⁉︎」

 

 一瞬の後、結界が破られた。

 それはあまりにも呆気なく、呪術の極致というには無様で。

 

「幾十もの縛りの上に成り立つ領域、その上から循環定義を用いた空性結界で蓋をしてるんだよ⁉︎それがこんなにも簡単に⁉︎」

 

 現代の呪術界を牽引する男が存在した。

 呪術界に現存する異端児を一手に引き受ける最強が存在した。

 名を五条悟、特級術師が上空からこちらを見ているのを、真依はたしかに目撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 




空性結界については独自設定が入ります
原作で天元が張ってたアレです。
それとこの二次創作の平安勢は揃いも揃って強化されてます。
オリ主のせいです。
領域は外からの攻撃に弱いですがオリ主は縛りと結界術でなんとか補強しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。