平安に生まれ変わったら九十九さんがいたんだが 作:位相波羅蜜光の柱
「あー、あー。撮れてるかな?……じゃあ話始めるよ」
薄汚れたコンクリートに囲まれた地下で、一人の少女が佇んでいた。
三脚の上に乗った撮影機に向かって言葉を吐き出していて、部屋の中には彼女以外存在していなかった。
「さて、これは保険だ。もしも
彼女の名は藤原穂乃果、千年の眠りから覚めし術師。
「自分の記憶が吹っ飛んじゃった時の保険だ、そのために羂索との契約を記していく」
針動呪法は時計の針という概念を動かす力である、水の蒸発を早める事も割た硝子を元通りにする事もできる。
では、それを自らに対して使った場合はどうなるのだろうか。
術式反転により体は少しばかり時を巻き戻る、その時記憶はどうなっているのだろうか。
「どこまで記憶が飛んでるか分からないけど、流石に“百鬼祭”以前は忘れないだろうから、封印直前の羂索の契約だけだ」
答えは当然記憶も消える、それが事実だ。
無論普段は術式対象の選択の拡張による微調整のおかげで記憶を失う事は免れている、だが戦闘の最中加減を忘れてしまうことはあり得ないくはない。
よって、彼女はこのビデオを残すに至ったのだ。
「大雑把に言えば……九十九さんと亨子が死にかけて延命のために呪物になったってのが事の発端」
淡々と、感情を乗せずに彼女は話す。
「あー、うん。言いたいことはわかる。僕の術式反転なら死後直後の死体ですらも生き返らせられる……当人に彼岸の向こうから戻る意思がある場合に限りだけど。そんな僕が何故羂索に頼んだのかでしょ?」
平坦な声の裏側に潜む激情も、瞳に浮かぶ過去への後悔も、単なる機械であるカメラは写し撮らない。
「……天元と天皇が手を組むとは思ってなかった。疑いなく善人の癖に進化を拒むあのババアの行動を読みきれなかった僕のせいだ。詳しくは付属のUSBデータに入っている内容を見てくれ」
手に持ったUSBをカメラに向けながら穂乃果は羂索との契約内容を羅列していった。
・九十九と亨子の復活タイミングは羂索に一任してある事。
・穂乃果の意図的な行動により羂索自身が意思決定能力を失った際、九十九と亨子の呪物はその時点で焼失する事。
・二番目の焼失には両面宿儺の「■」の術式を封じた筒を用いており、呪物の害意性を無効化した事により干渉を可能とした事から、穂乃果がどんな策を弄しても羂索を出し抜けない事。
などなど様々な事柄を語っていった。
「まぁ、ということで僕は死滅回遊まで羂索の敵にはなれない。他の全てを忘れてもこれだけは覚えておいてくれ。あの二人には死んで欲しくないからさ。これで、話は終わりだ」
言いたい事を言い終えた穂乃果、誰もいない部屋。
カメラを止めて記録を辞めた穂乃果には、未だジメジメした場所から出る様子はない。
「……わざわざ
されど、彼女はソレの目から逃れる事はできない。
ソレは日本の全てに目が届く。
史上最上とも謳われる結界術の使い手にして、この国の呪霊発生を抑制する術師。
「その諦観、その傲慢、長らく続いた犠牲の歴史」
穂乃果は敢えてこの部屋の一切の結界を張らなかった、宣戦布告をするために。
「例えオマエがどれほどの人間を救い数多の善行を成し遂げようと、九十九さんを苦しめたオマエを僕は許さない」
ギロりと、彼女は目を動かして上を見た。
「オマエに言ってるんだよ、天元」
★★★★★★★★★★★★★★★★
「で、なんで僕は特別一級なんだ。せめて特級でしょ」
「知らないわよ、人格の問題?」
禪院真依はアイスクリームを食べながら適当に穂乃果の相手をしていた。
いきなり真昼間に訪ねて来たかと思えば、床に寝転がって愚痴っている術師に対してどう対応すればいいのか初めはわからなかったが、まぁコイツの相手は適当でいいだろうという直感の元、真依は一人甘味を味わっていた。
「えー、これでも平安では高潔だとか最優だとか呼ばれてたんだよ?聖人だよ聖人、ヴァチカンのお墨付きこそ無いけどさ」
「それ自分で言うの?……それにしても平安の人間がヴァチカンって言うと凄く違和感があるみたいね。昨日とかスマホにアプリダウンロードしてなかった?」
雅な平安というパブリックイメージしかない真依には、現代に馴染みすぎている穂乃果に違和感を抱いてしまうのだ。
戸籍もないのにどうやって手に入れたのかは分からないが、スマホを自在に操作していた時は思わずツッコミを入れてしまった。
「はっはっは、僕ほどの術師になれば現代に馴染むのなんてチョチョイのチョイさ。ほら見て、もう週刊少年ジャンプの電子版定期購読しちゃった」
「ここまで来ると驚きよりも呆れが勝つのよ。というか、今更だけどなんで私の部屋に来たの?」
自慢げにスマホの画面を見せてくる穂乃果に対して溜息を吐く真依。
アイスのカップをゴミ箱に捨てながら次な何をしようかと考えていると、穂乃果から衝撃的な発言が飛び出した。
「そうそうまだ言ってなかったっけ。僕明日から京都高の実戦専門の教師になるからよろしく」
「…………………は?」
一瞬、思考がフリーズする。
「あ、やっぱり驚いた。僕としても学生生活を満喫したかったんだけどさ、五条悟に教師やってくれって頼まれちゃって。貸し一つで受け入れたんだ。京都高限定って条件はつけたけどね」
「キョウシ……教師……アナタみたいなアホが……?」
真依がこの数日で穂乃果に抱いたイメージは巫山戯た態度のバカとと言った物。
一緒に居て不快ではないし、実家の人間などに比べてば好感が持てる人間性をしているが、それはそれとしてアホ。
そんな人間が教師になるという言葉に真依は心底驚いていた。
「割と酷い事言われた気がするね、けど」
その瞬間、真依の視界から穂乃果が消えた。
次に、首筋を冷んやりとした感覚が襲う。
未だ嘗て味わったことがない、得体の知れない恐怖が真依を襲った。
ナニカが、何かが真依の首に触れていた。
「今、僕は平均的な二級呪霊の動きをトレースして、オマエの背後を奪った。これにすら対応できないんじゃ呪術界で生き残っていこうだなんて夢のまた夢」
「何を……!」
「僕が教えるのは学ではなくあくまで実戦、痛みを伴った訓練。命を繋ぐための勉強だ」
禪院真依は思い出す。
どれだけ巫山戯ようと、どれだけ滑稽な姿を見せようと、藤原穂乃果は偽りなく特級クラスの術師である事を。
「ダメだよ真依、オマエは僕を舐めてたでしょ?見た目、性格、行動、全てに惑わされるな。本質を見抜けなければ狡猾で悪辣な呪詛師に殺されるだけ。僕から出る人殺しの気配に気づかなかったのはオマエと三輪だけだよ」
「手を、離しなさいよ」
「多分オマエは強い呪術師になることなんて望んでないだろうし、こんなやり方じゃ僕は嫌われるかもしれない。だからまぁ、これはオマエに生き残って欲しい僕のエゴだ。たった少し一緒にいただけで情を抱いてしまった故のクソみたいな傲慢だ」
嫌な予感がした。
まだ幼い頃、禪院家次期当主筆頭の関西弁の男に呼び出された時よりも遥かに邪悪な予感が。
「……反転術式は、領域展開や極の番とは違い独立したスキルツリーを持っている。戦闘の才能と反転の才能は一致しない、家入硝子みたいにね。そして、反転に必須な呪力の核心に近づくには黒閃よりも死の淵に堕ちる方が手っ取り早い」
ようやく、真依はこれから自分に何が起こるのかを理解した。
「辞め─────」
「ごめんね」
そして、穂乃果の手刀が、真依の腕を斬り落とした。
Q真依が可哀想
A作者もそう思います、誤解の無いように言っておきますが作者は真依が大好きです。
Q羂索と呪物のあたりの解説
A羂索製の呪物はみんな『俺はこれから目覚めるまで何もできませーん、だから外のみんなも俺に何もできませーん」って縛りをしています。
この前提条件である自分は何もできないし害をなさないという部分を取っ払えば呪物は破壊可能となります。
Qオリ主スパルタ過ぎない?というか傲慢じゃない?
A人の話は聞かないし傲慢なのはオリ主です。普通にカス。仲間への善性だけはあるからタチが悪い。